会誌-「第10回会誌別冊 ナーラダ戦記」

■ ナーラダシナリオ#3「エピソード集・ナーラダ伝奇」


「ヴィレク君とゆかいな仲間たち」の巻【TSN】

・時代:独立暦402年火の月19日午後
・勢力:ウォウル王国
・舞台:ウォウル王廷
・人物:以下参照

【ヴィレク君とゆかいな仲間たち】
○ナーラダ・ヴィレク   (ナーラダ/男/16):ウォウル王
○レザー・ウェル     (ナーラダ/男/17):ウォウル衛兵、剣士
○ファイ・エルナット   (ナーラダ/女/15):ウォウル間諜、使鬼
○ナーラダ・エルマク   (ナーラダ/男/15):ウォウル外吏丞
○ウィーラ=アプシーズ  (エルフ/男/271):ウォウル王廷付き医薬師
○アルニカ・アシュヴィー (ナーラダ/女/秘密):ウォウル王廷付き秘書官
○キルア            (鳥/謎/不詳):ウォウル王廷付き鳥
【ルーシ将軍と最強ウォウル軍部】
○ナーラダ・ルーシ    (ナーラダ/女/33):ウォウル兵吏長
○セルビオ・パズー    (ナーラダ/男/31):ウォウル兵吏丞
○ハフィフ        (ナーラダ/男/65):ウォウル大将軍
○カガト・デュオ     (ナーラダ/男/26):ウォウル客将、ライラの護衛
【ジグトさんとダンディな中年組】
○ミナリア・ジグト    (ナーラダ/男/37):ウォウル諫議
○クルー・マツヤ     (ナーラダ/男/中年):ウォウル外吏長
○ヴィドゥエ・ターラ   (ナーラダ/女/中年):ウォウル王廷付き教導役、マツヤの妻
○ナーラダ・クルード   (ナーラダ/男/中年):ウォウル王廷付き相談役、ヴィレクの叔父
○ネイディ・アーシア   (ナーラダ/女/中年):ウォウル王廷付き相談役、クルードの妻
○アーニク・ガルディ   (ナーラダ/男/中年):ウォウル参邑会議世話役、中邑アーニク邑宰


▼ウォウル王廷・喫茶室―――――――――――――――――――――──

ヴィレク:よし、そろそろお茶の時間にしよう。
ウェル:わーい!
エルナット:やった〜☆
キルア:クックゥ〜♪
エルマク:僕、準備してきます。
ウィーラ:ああ、私も手伝いましょう。
アシュヴィー:ウォウル王! 休憩は空の刻までですよ!
エルナット:えェ〜?!
キルア:クェ〜?!
ウェル:アッシュさ〜ん、そりゃ労働基準法違反っすよ〜!
アシュヴィー:そんな法律はありませんっ!
エルマク:ならば法を整備してはいかがでしょう、ヴィレク様?(←ティーカップを並べながら)
ヴィレク:そうだね。まあ、急ぐことはないだろうが、社会が発展するにつれ、ゆくゆくは必要となってくるものだ。エルマク、君に研究を任せるよ。
エルマク:はい!
ウィーラ:お茶がはいりましたよ。王もどうぞ。
ヴィレク:ありがとう、先生。……うん、この香りはカノール産だね。それにこの茶菓子も。
アシュヴィー:へー、ずいぶんとお詳しいんですね。(←お茶を味わう)
ウィーラ:お茶に関しては一家言あるお人なんですよ。たしかこの前は……
エルマク:「このお茶は熱すぎる」……でしたね。
ヴィレク:あの茶葉の場合、湯の温度は60℃以下でなければならない。湯が熱すぎると、まろやかな味が出ないんだ。
アシュヴィー:…………(↑アンタは年寄りかっ!!)
エルナット:ど、どうしちゃったんですかアッシュさん?! 顔色わるいですよ?
アシュヴィー:えっ?……う、ううん、なんでもないの。オホホホホ〜。
ウェル:あれ〜、アッシュさん、食べないの? だったら俺もらっちゃお〜っと(ひょいパク)
アシュヴィー:―――!!
エルナット:この、おバカッ!!―――ドゲシッ!!(裏拳>ウェル)
ウェル:ひでぶッ!!
エルナット:ごめんなさいアッシュさん。ほら、アンタも謝んなさいよ。
ウェル:イテテ……。いやー、ごめんよ。もう食べないのかと思ったんだよ〜。
アシュヴィー:……い、いいのよウェル君、遠慮しなくて。私いまダイエット中だから……(うぅ〜、せっかく最後にとっておいたのにぃ〜(泣))
ウェル:ほんと?! そいじゃ遠慮なく♪(ひょいひょいパクパク)
エルナット:あー、手で食べないでよ。下品なんだから、もう。
ウェル:こうやって食うのが美味いんだよ。わかってないなー。
ヴィレク:……ところで秘書官、もう少し休憩時間を増やすのは無理かな? 今のままだと、皆、かなりのオーバーワークだと思うのだが。
アシュヴィー:うーん、難しいですね。今日もこの後まだまだスケジュールが詰まってますし……
エルマク:僕なら平気ですよ。いろいろな仕事に触れられてむしろ勉強になりますから。
ウェル:あっ、俺も大丈夫っすよ。これくらい余裕、余裕♪
エルナット:私、ヴィレク様と一緒にお仕事できて、毎日とても楽しいです〜☆
キルア:クックゥ〜♪
ウィーラ:皆、ほんと元気ですねえ……(お茶を味わう)
アシュヴィー:どうやら問題はないようですね、ウォウル王?
ヴィレク:うむ……
アシュヴィー:それでは次のスケジュールの準備に向かいますので……(席を立とうとする)
ヴィレク:いやまて、それよりも……
アシュヴィー:―――!!(←立ち眩み&よろけて転ぶ)
エルナット:きゃあ大丈夫ですか?! アッシュさん!
アシュヴィー:うぅ、大丈夫…………じゃないかも……(パタッ)
ヴィレク:……それよりも、貴女が一番心配だったのだ。……先生、診てあげてください。
ウィーラ:あきらかに過労ですよ。それに過度の緊張からくるストレスと無理なダイエットが重なり、一種の貧血状態に陥ったようだ。すぐに水とタオルを用意してください。
エルマク:は、はい。今すぐ。
ウェル:まったくアッシュさんは気張り過ぎだよ。もっとお気楽にいかなきゃ。
エルナット:お気楽なのはアンタの頭で十分よ。それよりウィーラさん、アッシュさんは……
ウィーラ:大丈夫ですよエルナ。少し休ませておけば直に回復するでしょうから。
エルマク:……考えてみれば、秘書官に就任して以来ずっと働きづめでしたからね。
ウィーラ:ええ、本人も気付かぬうちに疲労が蓄積していたのでしょう。
ウェル:そーいや毎朝「遅刻ぅ〜」って、パンくわえてクツ持ちながら走ってたもんなー(笑)
エルマク:く、詳しいですね……僕は見たことないです。
エルナット:エルマク君はいつも朝早いもんね。それに比べ、いつも遅刻ギリギリな人もいるしねー。
ウェル:あっはっは(爆)
ヴィレク:ちょうどいい機会だ。しばらくの間、秘書官には休養をとらせることにしよう。
ウェル:やったー!! オニの居ぬ間になんとやらっ♪
ウィーラ:ウェル、笑い事ではありませんよ。まったく。
ヴィレク:そして秘書官代行として、そうだな、エルマクは外吏の仕事があるから……エルナ、君が担当してくれ。
エルナット:はいっ☆
ウェル:がんばれよ〜。俺はラクでいいや。
ヴィレク:……で、エルナットの残りの仕事をウェルが引き継ぐこと。
ウェル:げっ?!
エルナット:あはは、がんばってねー、ウェル♪
キルア:クックゥ〜♪
ヴィレク:さて、そろそろ空の刻かな。次の仕事に移るとしよう。
エルマク:予定では、兵吏長ルーシ様より北蛮関攻略作戦の説明を受けることになっております。
ヴィレク:わかってる。……先生、秘書官のこと頼みます。後で様子を見に来ますので。
ウィーラ:わかりました。医務室にてお待ちしてますよ。
ヴィレク:うん。よし行こう、ウェル、エルナット、エルマク―――
三人:はい、ヴィレク様っ!!

▼ウォウル王廷・兵吏作戦会議室―――――――――――――――――――

 ルーシ:よし、それでは作戦を確認する。―――ルドルフ特務募兵尉!
ルドルフ:はっ。
 ルーシ:卿は特務募兵部隊を率いて西の砦に駐留し、西方国境の守備に就け。姉妹王国はおそら
     く動かぬだろうが、その動向には十分注意せよ。
ルドルフ:御意。
 ルーシ:次に、パズー兵吏丞。
 パズー:はっ。
 ルーシ:卿はこの男とともに兵を率いて北蛮関へ向かえ。内部にいるライラ将軍と呼応し、北蛮
     関を攻略ないし無力化するのだ。
 パズー:はっ。
 デュオ:ま、一つよろしく頼むぜ、パズーさんよ。
 ルーシ:フッ……兵吏丞、その男、何か怪しげな振る舞いを見せた時は即刻首を刎ねよ。よいな。
 パズー:はっ。
 デュオ:ちょ、ちょっと待ってくれよ(汗)。俺ってそんなに信用されてないの?
 ルーシ:いや、信用はしている。それがこの作戦の大前提だからな。……だが、我がウォウル兵
     の命を賭ける以上、おぬしにも覚悟を決めてもらわねばならん。そういうことさ。
 デュオ:ちっ……わかったよ。しゃーねえっ、俺も漢だ!! この命、アンタに預けるぜっ!!
 ルーシ:フッ、よいだろう。これで我が王も安心なされるというものだ。
 デュオ:げっ?!……もしかしてウォウル王のご命令だったんですか?
 ルーシ:そういうことだ。ライラ将軍にもよく伝えておくのだな。
 デュオ:ははーっ、黒竜ナンダに誓って、誠心誠意、王のために働きまする!(ったく、可愛い
     顔して、おっかねえガキだぜっ!!)
 ルーシ:よろしい。私は後詰めとして即応できるよう待機しておく。……卿らの武運を祈る!!
 パズー:はっ!
 デュオ:お任せあれ!!
 ルーシ:以上だ。他に何か質問はあるか? 無ければこれにて散会ということに―――
ハフィフ:―――あいや待たれい、ルーシお嬢!
 ルーシ:その呼び方は止めてください、ハフィフ殿っ!! いつも言ってるでしょう!!(←赤面)
ハフィフ:いや、済まなんだ。慣れとは恐ろしいものぢゃな。
 ルーシ:コホン!……で、なんです? 大将軍?
ハフィフ:うむ、そうぢゃった。先の兵吏長の話ではワシの出陣が無いようぢゃが、これは一体ど
     ういうことでござる? ワシの聞き違いでござるかな?
 ルーシ:大将軍はご高齢の身。戦場のことは我々に任せ、後方にて勝利の報をお待ちに……
ハフィフ:なんと! 人を年寄り扱いする気でござるか、ルーシお嬢?!
 ルーシ:いや、そうではなくてだな……
ハフィフ:このハフィフ、初陣にて勝利をおさめてより早50年。この間、先先代邑宰様、先代ジ
     ャーク様、そして現ヴィレク王と、三代に渡ってこのウォウルにお仕えし……(長いの
     で中略)……このワシをないがしろにするおつもりかっ?!
 ルーシ:だれもそんなことを言ってはおらぬ! だいたい、そこいらの賊ならいざ知らず、戦う
     相手はあのナグモ・リューン! 大将軍のお身体では到底その身が保ちますまいっ!!
ハフィフ:なにをッ!! たかだかナグモ・ハズラットの小せがれ如き、恐るるに足りず! あんな
     ヒヨッコ、このワシが叩きのめしてくれるわッ!!
 ルーシ:くっ、この……
 パズー:まあまあ、お二人とも、少し落ち着いてください。
ハフィフ:若造は引っ込んどれ!
 パズー:大将軍。兵吏長はなにも貴方に楽をしていただこうと考えているわけではないのですよ。
ハフィフ:なんぢゃと?
 パズー:大将軍には今回の作戦で最も重要な任務―――つまり、このウォウルとヴィレク王をお
     護りするという大任をお引き受け願いたいのです。そういうことですね、兵吏長?
 ルーシ:う、うむ。
 パズー:そしてこの大任をお任せできるのは、経験も実績も豊富でしかも人望の篤い人物、すな
     わち大将軍、貴方しかいないのです!
ハフィフ:う、うむ。……なるほど、そういうことならば致し方ない。その大任、謹んでお引き受
     けいたそう。
ルドルフ:これで問題はありませぬな。さっそく部下と作戦の打ち合わせを行いたいのですが。
 デュオ:そうそう、早くしねえと日が暮れちまうぜ。
 パズー:兵吏長。
 ルーシ:うむ。……では、以上で散会とする。各自、己の部署にて準備を整えよ!
  一同:はっ!
 デュオ:(……にしてもパズーさんよ、アンタも大した役者だなー)
 パズー:(これも仕事ですから)
 ルーシ:我らに黒竜ナンダの加護のあらんことをっ!!
  一同:―――黒竜ナンダの加護のあらんことをっ!!

▼ウォウル王廷・廊下――――――――――――――――――――――――

   マツヤ:……外吏丞、それでターヌの出方はどうかね?
  エルマク:おそらく中邑ライアードは見殺しにするつもりでしょう。そしてスィスニア軍の目をそ
       ちらに引き付けておいて竜角関を攻略する腹かと。
   マツヤ:なるほど、ガルボアの考えそうなことだな。……で、それに対してリューンは何か手を
       打っているのかな?
  エルマク:間者エルナットからの報告によりますと、リューンは軍を二手に分け、一方を竜角関へ
       援軍として差し向けたようです。将はエルファ・ザドゥ将軍と思われます。
   マツヤ:ふーむ。それでは竜角関は落ちぬなあ。東邑軍と呼応してスィスニア軍を挟撃すること
       も考えたのだが……こりゃダメか。
  エルマク:そうですね。この場合、むしろ東邑軍の動きを利用してスィスニア軍を引き付けておき、
       その間に我が軍の北蛮関攻略を確実なものとしておくのがよいと思うのですが……
   マツヤ:そう、その通り。……それにしても大したもんだ。
  エルマク:ええ、さすがはリューンです。用兵に隙がありません。
   マツヤ:いや、それもそうだが……エルマク君、私が言っているのは君たちのことだよ。
  エルマク:僕たち……ですか?
   マツヤ:そう、君とウェル、それにエルナット。君たち3人の成長は本当に目覚ましい。ウチの
       カミさんも言ってたよ。もちろん、まだまだ修行は足りんがね。ま、今後ともヴィレク
       王をよく補佐してやってくれよ。
  エルマク:は、はい! ありがとうございます! これからも頑張ります!
   マツヤ:うむ、よろしい。……ところで、外吏丞、王はどちらへ向かわれたのかな?
  エルマク:えーと、たぶん医務室だと思いますよ。アシュヴィー秘書官が過労で倒れまして。
   マツヤ:ほう、秘書官が?(そうか、王もいよいよ手を打ったか……)
  エルマク:?……王がどうかしたんですか? 手を打ったとは?
   マツヤ:おや聞こえてしまったか。まあちょうどいい。君には話しておこうか……(ひそひそ)
  エルマク:ええっ?! そ、そうだったんですか? 知らなかった……
   マツヤ:そりゃそうだ。このことを知っていたのは、王とジグト諫議と私、それにエルナットと
       ウィーラ医師だけだからな。まあ、そのうち王から説明があるはずだ。
  エルマク:わかりました。それまでは黙っています。
   マツヤ:うむ。……おや、あれはジグト殿かな?
  エルマク:そうみたいですね。……あっ、父上と母上もいる!
   マツヤ:何か話してるみたいだな。まあ、挨拶していくか。

▼ウォウル王廷・広間――――――――――――――――――――――――

  クルード:……やはり、息子の行方はわかりませんか……
   ジグト:ええ、方々に手を尽くして探してはいるのですが……
  アーシア:ああ、チード……
  クルード:……息子がいなくなってからもうすぐ一年。心配ばかりお掛けして大変申し訳なく思っ
       ております。乱を起こした罪を許されたばかりか、相談役などという過分な役職までい
       ただいておるというのに……
   ジグト:何をおっしゃいます。チード公はヴィレク王の大切な従兄殿。王が心配なされるのも当
       然のことですよ。
  クルード:そう言っていただけると助かります。最近ではこの通り、妻もすっかり元気を無くして
       しまいまして……
  アーシア:ああ、チード……いま何処にいるの……
   ジグト:……わかりました。何か情報が入りしだい直ちにお伝えします。それまでは、なにとぞ
       ご辛抱のほどを。
  クルード:ええ、よろしくお願いします。……おいアーシア、そろそろ帰るぞ。
  アーシア:……チード……私のチード……
  クルード:ふぅ……それではジグト殿、私どもはこのへんで。
   ジグト:クルード殿、あまり気を落とされぬように。
  クルード:ありがとうございます。では。

▼ナーラダ・クルード、ネイディ・アーシア、退場―――――――――――

   ジグト:ふぅ……やれやれ、こっちまで気が重くなってしまうな。
   マツヤ:―――ジグト諫議!
   ジグト:おや、これは外吏長。もう外吏の打ち合わせは終わったのですか?
   マツヤ:ええ、滞りなく。……ところで、いまのは相談役夫妻ですね。
   ジグト:ええ。チード公の消息について聞かれましてね。
   マツヤ:そうですか。いや、いまエルマク君と話して歩いていたところなんですよ。
   ジグト:ほう。で、彼は?
   マツヤ:両親に会いに行ってますよ。エルマクも最近は忙しくて全然家に帰ってないから、会っ
       て話すのも久しぶりでしょう。
   ジグト:そいつは結構なことだ。あの夫妻もすっかり元気を無くしてるからなー。
   マツヤ:でも、いつぞやの如く妙な動きをされるよりはマシですよ。今は大事な時期ですからね。
   ジグト:そうだな。……それにしてもチード公だ。一体どこへ行ってしまわれたのやら。
   マツヤ:そのことなんですがね、もしや他勢力に潜んでおるのではと、スィスニア王国や姉妹王
       国にも間を放って調べさせたのですが、結局それらしき人物は見当らなかった。
   ジグト:うむ、それは知っている。
   マツヤ:ところが先月、不可侵条約締結のため外吏丞をターヌへ派遣した際、随員たちの一人が
       チード公らしき人物を見かけたと言うのです。
   ジグト:ほう、それで?
   マツヤ:詳しく調査させたところ、そんな人物はいなかった、と。
   ジグト:……ふむ。
   マツヤ:ただ、少なくともわかったことは、そうとう胡散臭い連中が多数、ターヌに流れ込んで
       いるということです。何を考えているのかはわかりませんが、あの老人には気をつけた
       方がよろしいですぞ。
   ジグト:うむ、わかった。外吏には引き続き調査を頼む。
   マツヤ:了解。……ところでジグト殿、話はかわりますが貴方はあの子たちをどう思われます?
   ジグト:あの子たち……というと、ウェルやエルナットのことですな?
   マツヤ:そうです。私が見るに、あの子たちの成長には実に目を見張るものがある。
   ジグト:それは同感だ。さらに言えば、エルマク、あの子も着々と成長していってる。……だい
       ぶ鍛え上げているようだな?
   マツヤ:それはもう。前途有望な若者を徹底して鍛え上げるのが、我が外吏の伝統ですから。私
       もラヴェラン先輩には鬼のようなシゴキを受けましたからねえ。
   ジグト:クラウ・ラヴェランか……懐かしいな、あの頃を思い出すよ。
   マツヤ:ええ、あの頃は無茶なことばかりしてましたからねえ。憶えてますか? 私とジグトさ
       ん、ラヴェラン先輩にデュアス君、それと飛び入り参加の商人を加えた5人で賊の一団
       と戦ったことを。
   ジグト:ああ、憶えてるとも。まったく無茶なことをしたもんだ。あの頃は皆、血気盛んだった
       からなあ。
   マツヤ:デュアス君は一人でスカしてましたけどね。
   ジグト:あれは血筋だな、すでに。
   マツヤ:ははは。……でも、もしあの時ハフィフ将軍の援軍があと少し遅れていたら、危うく全
       滅するところでしたからねえ。笑い事じゃありませんよ(笑)
   ジグト:おまえ、そう言いつつ笑うなよ(笑)。だが、笑うといえば、その後ウォウルに戻って
       からルーシ殿には思いきり笑われたよ。皆、ボロボロの格好だったからな。
   マツヤ:ははは、ルーシ殿のほうが我々よりも剣の腕が立つんですからね。そりゃ当然ですな。
   ジグト:だいたい我々は一応は文官のはずなのに、なんだって白兵戦を演じたりしなくてはなら
       なかったんだ?
   マツヤ:あれはラヴェラン先輩が考えた作戦ですよ。「これからの時代は文官も戦えなくてはい
       かん!」とか言って。
   ジグト:そういやそうだ。うーむ、あいつも変わり者だったなあ。
   マツヤ:「既成の概念にとらわれるな!」が口癖でしたからね。我が外吏では今でもそれが合い
       言葉になってますよ。……さて、かなり話が脱線しましたが、私が言いたかったのは実
       はこのことなのです。
   ジグト:あの子たち―――ヴィレク王、ウェル、エルナット、エルマクたちのことだな?
   マツヤ:はい。私はあの頃の自分を思い出しました。そして考えたのです。このままあの子たち
       を既成の枠内に留めておいてよいのだろうか、と。……いや、むしろ私たち大人の側が
       実は逆にあの子たちを束縛しているのではないか、と。
   ジグト:ほう。
   マツヤ:我が王は既成の概念を克服することで変革者としての大道を歩まれようとしている。そ
       してその力量を十二分に備えておられる。しかし……
   ジグト:貴方の言いたいことはよくわかる。つまりは、このままでは我々大人の側があの子たち
       の足を引っ張るようになってしまう……と、そういうことですな?
   マツヤ:ご明察のとおりです。
   ジグト:それは私も考えていた。……マツヤ殿、貴方には何か腹案があるのではないですか? 
       よろしければお聞かせください。
   マツヤ:持つべきものは話のわかる上司ですな。長い話になりますが、よろしいですか?
   ジグト:ええ、続けてください。
   マツヤ:ありがとうございます。まず最初に確認しておくことがあります。我がウォウル王国は
       この3年間、実に富国強兵に努めてまいりました。世間一般には最弱勢力などと呼ばれ
       ておりますが、そうでないことはジグト殿、貴方が一番よくご存じでしょう。
   ジグト:うむ。行政の改革、軍政の改革、民政の改革、貨幣の改革、国勢調査、インフラの整備、
       社会資本の整備、産業基盤の整備……どれも目立たない作業だったが、すべて《国》と
       いう新秩序の基礎を固めるためには避けては通れぬ課題だった。
   マツヤ:そうです。しかも私が驚いたのは、これらの作業がすべてヴィレク王の手によって成さ
       れたということです。それも綿密な実地調査に基づいて。……ジグト殿、貴方が口出し
       なされたわけではないのでしょう?
   ジグト:ええ。すべてあの子たちが影ながら働いて得た成果ですよ。私は少しばかり助言したく
       らいです。
   マツヤ:やはり。……以上からもわかるように、ウォウル王国にとってこの3年はまさに雌伏の
       時期だった。あたかも深い淵に潜んで時を待つ竜の如く。おそらく潜在的な国力に関し
       ていえば、他のどの勢力も及ばぬでしょうな。
   ジグト:同感です。さらにシルキーヌ会長による民間からの援助もありましたからな。実質的な
       国力は見かけよりも大きく上回りますよ。
   マツヤ:逆にスィスニア王国の場合、見かけよりも実はかなり財政に不安があることが、外吏の
       調査でわかっています。
   ジグト:それはそうだろう。度重なる外征に加え、北蛮関・南蛮関・竜角関、さらには後宮と、
       建築ラッシュだ。財政に負担がかからないわけがない。旧ライル社資金も底をついただ
       ろうしな。
   マツヤ:そこに先月のウルクにおける敗戦です。リューンもこれはマズイと感じたのでしょう。
       王国を称することで勢力圏を確実なものとした。さらに今月のライアード侵攻。これは
       東邑同盟への牽制と、同時にスィスニア国内の引き締めを狙ったものです。
   ジグト:なるほど。そうせねばならぬほどに実は不安定だということか。見た目の華やかさとは
       裏腹に。
   マツヤ:……さて、ここからが本題です。この状況下で北蛮関が陥落すれば一体どうなるか?
   ジグト:リューンも、もはや簡単には攻めてこれなくなるな。
   マツヤ:そうです。この度の北蛮関攻略作戦、これが成功を収めれば、暫くの間はスィスニア王
       国がウォウル王国に対して積極的な攻勢を仕掛けてくるのは不可能となります。いわば
       《戦略的対峙》の状況となるわけです。
   ジグト:今回の北蛮関攻略作戦の目的は「《戦略的対峙》の状況を創り出すこと」にある、と?
   マツヤ:はい。……ここから先は北蛮関の攻略に成功したと仮定した上での話になります。
   ジグト:うむ。
   マツヤ:ここでナーラダ情勢を俯瞰して見ますと、南のスィスニア王国とは《戦略的対峙》の状
       況、東の東邑同盟とは《相互不可侵》の状況となります。すると……
   ジグト:……必然的に、西の姉妹王国とは《対決》ということになるな。
   マツヤ:そう、我がウォウル王国にとってみれば将来的にスィスニア王国との決戦が避けられな
       い以上、まずは後背の憂を断っておく必要があります。逆に、姉妹王―――イー・リミ
       イ、ウェス・ユミイたちにしてみれば、我が王と決着をつけることを望んでいるはず。
       どちらにしても《対決》せざるを得んでしょう。
   ジグト:つまり、先に姉妹王国を攻略、しかる後にスィスニア王国との決戦、ということか。
   マツヤ:そういうことです。……ヴィレク王が即位なされてから、あと半年で3年が経ちます。
       この3年間で我がウォウル王国は飛躍的に国力が増大しました。そして、ヴィレク王の
       卓越した政治指導力も充分に見せていただきました。しかし……もはや雌伏の時期(と
       き)は終わった。年明けと同時にいよいよ飛翔の時期(とき)が始まります。ヴィレク
       王には、今度は軍事面での指導力を発揮していただかねばならなくなる……
   ジグト:何が言いたいのだ? もったいぶらずに言え。
   マツヤ:はっ。それでは単刀直入に申し上げましょう。つまり、軍を二手に分ける必要がある、
       ということです。対スィスニア王国の防衛軍と、対姉妹王国の遠征軍とに。
   ジグト:たしかにそのとおりだ。……で、誰がそれを指揮する?
   マツヤ:防衛軍の司令官に、ナーラダ・ルーシ将軍―――
   ジグト:だろうな。
   マツヤ:遠征軍の司令官に、ナーラダ・ヴィレク王―――
   ジグト:やはりな。
   マツヤ:……最初からおわかりだったのでしょう、ジグト殿?
   ジグト:まあな……というよりも、王が私に語ってくれた内容とほぼ同じだよ。
   マツヤ:王が? そうですか、王もそこまで考えておられましたか……
   ジグト:だが、問題は幕僚の人選だ。軍を二手に分けるとは、結局、兵力の分散ということだ。
       その危険を冒してまでやる以上、慎重に考慮せねばならん。
   マツヤ:そのことですが、私に考えがあります。
   ジグト:ほう、言ってみてくれ。
   マツヤ:先程の話に戻りますが、これ以上あの子たちを既成の枠組に縛りつけておくべきではな
       い。あの子たちには未来がある。可能性がある。だからこそ……(かくかくしかじか)
   ジグト:……なるほどな。つまり、遠征軍の指揮をすべてあの子たちに一任せよ、と?
   マツヤ:そうです。ヴィレク王の名の下、独立した権限を与えてしまうのです。そうすれば、あ
       の子たちもフリーハンドでその才能を振るうことができる。もはや、われわれ年長者に
       気兼ねすることもなく。
   ジグト:ふむ……おもしろいな。だが、例えばレザー・ウェルなどは本格的に兵を指揮した経験
       はないが、そのへんはどうなっている?
   マツヤ:ご安心を。兵吏長のお墨付きがございます。たしか……

   ルーシ:……態度はともかく、用兵の才は軽く私を越える。あたかも己が剣を振るうが如く兵を
       動かしてみせるだろう。知勇兼備、間違いなく名将の器だ。……態度はともかくな。

   マツヤ:……とのことです。
   ジグト:はは、ナーラダ最高の名将のお墨付きとあらば、信用せざるを得んな。うむ。ならば、
       ヴィレク王を総大将として、幕僚にレザー・ウェル、ファイ・エルナット、ナーラダ・
       エルマク。それにウィーラ医師も同行するだろう。だが、これだけではちと心許ないな。
       だれか戦場の経験豊富な将を一人付けたいが……
   マツヤ:それならば、カルブネース・ルドルフ特務募兵尉が適任でしょう。イリス建国戦争にお
       ける経験は、必ずやあの子たちの助けとなるはずです。
   ジグト:それは名案だ。……となると、形だけでもあの子たちを昇進させねばならぬな。人吏長
       とも相談して……さしずめ、レザー・ウェル特務邑兵尉、ファイ・エルナット特務参謀、
       ナーラダ・エルマク外交特使、といったところか。ふむ……わかりました。マツヤ殿
       貴方のご意見、よく検討させていただきますよ。
   マツヤ:ありがとうございます。それと防衛軍の方ですが、こちらはルーシ兵吏長を筆頭として、
       パズー兵吏丞、ハフィフ大将軍、それにライラ将軍を加えた布陣で問題ないでしょう。
   ジグト:……もし、ライラ将軍が残留しなかったら?
   マツヤ:殺す―――べきでしょうな。しかし、なるべくそのような選択はしたくないものです。
       彼女は知勇のバランスのとれた良将。ちょうど一年前、セルファニア湖の戦でも、実に
       我が軍を苦しめましたからね。それだけに残ってほしい。だが、それだけに残らぬ時は
       処断せねばならぬ。……苦渋の選択ですよ。
   ジグト:まあ、仕方ない。決めるのは彼女自身ですからな。……それよりも、ランギヴァラーハ
       といえば、彼女の兄、ライル将軍を思い出しますよ。リューン以前、旧スィスニアにお
       ける最年少の八武衆。知勇兼備、高潔な人格。多くの兵たちに尊敬されていた、まさに
       武人の鑑。彼がリューンに反対してウォウルに来てくれた時は、大変に心強かったので
       すがね。……なんでもセルファニア湖の戦中、ライラ将軍をかばって亡くなったとか。
   マツヤ:戦場にてライラ将軍を説得している最中、流れ矢に当たったそうです。妹の身代わりと
       なって。この度ライラ将軍がリューンに反旗を翻したのも、おそらくその時の兄の言葉
       がきっかけなのでしょう。
   ジグト:ふむ。……ま、少なくともライラ将軍が再びリューンの下へ戻ることだけはもはやある
       まい。それだけでも良しとするべきだな。……ところで外吏長。
   マツヤ:なんでしょう?
   ジグト:対姉妹王国の戦略はよくわかった。対スィスニア王国の戦略もよくわかった。とくれば、
       対東邑同盟の戦略も考えているのだろう?
   マツヤ:ええ、いま言おうと思ってました。対東邑同盟……というよりも対ターヌの戦略ですな。
       ターヌ邑宰にして東邑同盟盟主、ゼス・ガルボア。あの狸ジジイとの知恵比べが、専ら
       我々の仕事ですよ。
   ジグト:なるほど。ヴィレク王率いる若い世代が対姉妹王国を担当、ルーシ兵吏長率いる軍部が
       対スィスニア王国を担当、そして我ら中年世代が対東邑同盟を担当……というわけか。
       見事な役割分担だ。
   マツヤ:ええ。……おそらくガルボアは、我がウォウル王国とスィスニア王国が、互いに相争う
       ように仕向けてくるでしょう。それはリューンの矛先を東邑から逸らす目的ばかりか、
       ウォウル・スィスニア両者に消耗戦を演じさせることで共倒れを狙い、ひとり漁夫の利
       を得るつもりです。おまけに盟主という立場を利用して東邑同盟の私物化も企んでおり、
       気が付いたらターヌの一人勝ちだった、なんてことにもなりかねません。……まったく、
       老獪というべきか……とんだ狸ジジイですよ。
   ジグト:それを阻止するのが、我々ダンディな中年世代の仕事、というわけだな。……しかし、
       この仕事、思った以上に難しいぞ。まさかリューンに向かって「これはガルボアの策だ
       から攻めてくるな」とは言えんだろう?(苦笑)
   マツヤ:ははは、おそらくリューンも気付いてるはずですよ。ま、そうそうガルボアの思い通り
       には行かんでしょう。
   ジグト:思い通りにさせるつもりもないがな。……だが、同盟内部のことまでは手の打ちようが
       ない。もしガルボアの思惑通り、東邑がすべて奴の手に落ちでもすれば、それはそれで
       また問題だぞ。
   マツヤ:それは大丈夫でしょう。同盟には黒竜旗軍がいます。簡単に膝を屈したりはしませんよ。
   ジグト:ふむ……知将ヴァシュナ・シリル、か。あの知恵者がいればたしかに心配はいらんな。
       ついでに言うなら、黒竜旗軍とはいわば竜老会の理念を受け継いだ軍隊だ。ガルボアの
       やり方とは相容れんだろう。
   マツヤ:ええ。それに、なんといってもハデン君がいますしね(笑)
   ジグト:フッ、そうだったな。
   マツヤ:……あんなことになってしまいましたが、私は実は彼を高く評価してるんですよ。あの
       ラヴェラン先輩の秘蔵っ子でもありましたし、私がジグト殿に推薦したのも、彼の才能
       を見抜いたゆえですしね。
   ジグト:それはわかっている。あの男の才には実は私も末恐ろしさすら感じていたのだ。まさに
       異才というべきか。……だが、もし背任の罪がなかったとしても、あの男がクビになる
       のは免れなかっただろうな。なぜなら―――
   マツヤ:―――王と“ソリ”が合わなかったから、でしょう? なんといっても“似た者同士”
       ですからねえ、実はあの二人(笑)
   ジグト:ふぅ……まったく困ったものだ、こればっかりはな。やれやれ。
   マツヤ:でも、私などは思うんですがね―――ヴィレク王とハデン君、あの二人がもし再び力を
       合わせるようなことがあれば、こんどは間違いなく最強の……いや“最凶”のコンビに
       なる! ……そんな気がするんですよ(笑)。これ、私のドリームでしょうかね?
   ジグト:さあな(苦笑)。俺には先のことはわからんよ。イシャーナの未来視じゃないからな。
   マツヤ:はは、冗談はこのくらいにしておきましょうか。……さて、以上で私の言いたいことは
       終わりです。長い“よた話”にお付き合いいただき、誠にありがとうございます。
   ジグト:いえ、大変に有意義なお話でした。貴殿のような臣を得たことは、我が国にとって真に
       幸運です。きっと王もお喜びになるでしょう。私からも心からお礼申し上げます。
   マツヤ:いや、礼ならウチのカミさんに言っといてください。……実は今日こんな話をしようと
       思ったのも、あれの言葉がきっかけなんですわ。
   ジグト:ほう、ターラ殿の? そういえば暫くお会いしておりませんが、お元気ですか?
   マツヤ:ええ、それだけが取り柄ですから。毎日うるさく小言を聞かされますよ。ただ、教導役
       の仕事がなくなってから、ずいぶんヒマを持て余してるみたいです。皆、成人を迎えて
       しまいましたからね。
   ジグト:そうですか。……ならば昔のように吏の仕事に復帰なさってはいかがでしょう。現在、
       各部署とも人手が不足しておりますし。猫の手を借りたいほどの所もありますからね。
   マツヤ:ええ、伝えておきますよ。お気遣いありがとうございます。さて、そろそろ……おや?
  エルマク:外吏長! 遅くなってすみません。つい長話してしまって。あ、こんにちはジグト様。
   ジグト:うむ。がんばってるな、エルマク。
   マツヤ:外吏丞、ご両親とはもういいのかね?
  エルマク:はい。充分話してきました。……それとちょっと疲れているようでしたので。しばらく
       のんびり過ごすと言ってました。僕もしばらく家に帰れそうにないと伝えてきました。
   マツヤ:そうか。……まあ、なんだ、仕事に熱心なのは結構だが、孝行したいときに親はなし。
       お父さん、お母さんを大切にしようっ!
  エルマク:はあ……それはそうしますけど……外吏長、ご機嫌ですね。なにかあったんですか?
   マツヤ:い、いや……気にしなくていい。……ところで次の仕事は何だったかな、外吏丞?
  エルマク:あっ、言い忘れてました。今、そこで使いの人に会って聞いたんですが、中邑アーニク
       邑宰殿がお見えになっているそうです。ジグト諫議にお会いしたい、と。
   ジグト:なに、また来たのか? ……やれやれ面倒なことだ。
   マツヤ:はは、大変ですな。しかし、アーニク邑宰殿は、我がウォウル王国内の中小邑世話役と
       して、何かと熱心に働いてくれているお方。邪険に扱ってはなりませぬぞ。
   ジグト:わかってますよ。……熱心すぎるのも考えものですがね。それでは―――

▼ミナリア・ジグト、退場――――――――――――――――――――――

  エルマク:……行っちゃいましたね。いったい何を話していたんですか、外吏長?
   マツヤ:ん?……まあ、いろいろとな。……それよりもエルマク君、今日はもう仕事を上がって
       いいぞ。後は私がやる。君は王のところへ行ってあげなさい。
  エルマク:え、いいんですか? まだかなり残ってますよ。
   マツヤ:ああ、遠慮するな。一人のほうがはかどる時もあるのだよ。
  エルマク:そうですか。では、お言葉に甘えて。がんばってくださいね、外吏長。

▼ナーラダ・エルマク、退場―――――――――――――――――――――

   マツヤ:……………………ふぅ。

▼クルー・マツヤ&ヴィドゥエ・ターラ夫妻の会話(回想シーン)――――

   マツヤ:……おい、おまえ、どう思う?
   ターラ:どう思うって、あなた、何がです?
   マツヤ:決まってるだろう、このウォウルだよ。ヴィレク様が王となって以来、ウォウルも随分
       と変わった。いや、ナーラダ全土がまさに変革の時代を迎えたと言えるだろう。
   ターラ:それを言うなら「セルフィアー全土」でしょう? キーサの王宰をはじめ、レディア王
       にイリス王。バルスの建邑に蜘蛛会・星薬会の暗躍。これこそまさに諸々英雄の時代。
       こういうのって、後世、伝説として語り継がれたりするんでしょうねえ。名付けて「諸
       英伝」なんて。うふふ、楽しみだとは思いませんか、あなた?
   マツヤ:まったく、おまえは呑気でいいよ。俺は後世のことなんぞ知らんが現在のことはわかる
       ね。見てみろ。我がウォウルは、西に姉妹王国、東に東邑同盟、そして南にスィスニア
       王国と、三方を敵に囲まれているんだぞ!
   ターラ:あら、あなたはヴィレク王が負けると思ってらっしゃるの?
   マツヤ:そんなことはない!……だが、圧倒的不利な状況にあることは確かだろう?
   ターラ:そうかしら? 私はそうは思わないけどね。
   マツヤ:おいおい何を言い出すかと思えば……おまえ何を考えてるんだ?
   ターラ:私がはっきり言えることはただ一つ。20年後にこのナーラダの地を治めているのは間
       違いなく「あの子たち」ということよ。
   マツヤ:「あの子たち」って……ヴィレク王とその近侍たちのことか? ウェル、エルナット、
       エルマク……?
   ターラ:ええ。
   マツヤ:おまえなぁ、そんな自信たっぷりに言うけど、どこにそんな根拠があるんだ? ただの
       身内びいきじゃないのか? そりゃ、あの子たちが優秀なのは認めるが……
   ターラ:あら、あなたにはわからないかしら? 私には“わかる”んですよ。うふふ。
   マツヤ:(ゾクッ)……おい、俺は予言者と結婚したつもりはないぞ。グーラじゃあるまいし。
   ターラ:じゃあ逆にお訊ねしますけど、あなたはいつもあの子たちと一緒にいて何も感じないん
       ですか? あの子たちの目が何を見つめているか、あなたにはわからない?
   マツヤ:わからんわからん。俺にはさーっぱりわからんよ。おまえの言ってることは。……だが、
       これだけは言えるな。あの子たちの目……ありゃ15やそこらのガキの目じゃない。俺
       が15の頃とは大違いだ。
   ターラ:そう。人は誰でも現実のすべてが見えるわけではない。多くの人は自分が見たいと思っ
       た現実しか見ないわ。でも、あの子たちは違う。見たくもない現実までいつでも直視し
       てきた。甘い理想に浸ることもなく、暗い絶望に沈むこともなく。怖ろしいほどに醒め
       た目をもってね。
   マツヤ:おい、そりゃ幾ら何でも誉めすぎだ。連中、いつも遊んでばかりだぞ。自覚があるかど
       うかすらわからん。
   ターラ:それはあなたが見えてないからよ。私に言わせればね。あの子たちの生い立ちを考えれ
       ば、今ごろ自暴自棄になっていてもおかしくはないはず。そうでしょう?
   マツヤ:う、うむ、それはそうだが……
   ターラ:でも、あの子たちはそれをおくびにも出さない。それどころか、常に冷徹に現実を見据
       えながら、しかも軽やかに困難を切り抜けてみせる。果敢に時代に立ち向かって行く。
   マツヤ:ふーむ……よくわかってるんだな。さすがだ。
   ターラ:そりゃわかりますよ。なんといっても私が育てた子たちですもの。…………。
   マツヤ:なるほど。ヴィレク王は俺にとっては主君だが、おまえにとっては息子だってことか。
       …………?! おまえ……泣いてるのか? いや、そうだな……俺たちの間には―――
   ターラ:言わないで! …………いいえ、たしかに私たちの間に子は産まれなかったけど、私は
       自分を不幸だと思ったことは一度としてありません。だってあの子たちは立派に育って
       くれたのですもの。…………。
   マツヤ:…………そうだな。うん、そうだ。俺にも今わかったよ。ナーラダの未来はあの子たち
       と共にある。何故だか知らんがそういう気がするんだ。
   ターラ:…………。
   マツヤ:だから、ここは一つ俺たちの世代が踏ん張って、あの子たちの未来のために何か残して
       やらんとな。せめて人生の先輩として。俺はそう思うよ…………

▼ウォウル王廷・医務室―――――――――――――――――――――――

アシュヴィー:……うーん……うーん…………はっ……ここはどこ?(きょろきょろ)
  ウィーラ:医務室ですよ。気が付かれたようですね。如何ですか、具合の方は?
アシュヴィー:え? 私どうしてここに? お茶を飲んで立ち上がろうとしたら、急に目眩がして……
  ウィーラ:ええ。過労からくる貧血ですよ。喫茶室で倒れてここに運ばれてきたのです……
アシュヴィー:そ、そうだったんですか。疲れが溜まっていたのかしら?(ダメね。ちゃんと自己管理
       しないと。こんなことではロアン様もお嘆きになるわ。ファイトよ、アッシュ!!)
  ウィーラ:…………と、言いたいところなんですがね。
アシュヴィー:えっ?
  少年の声:―――先生、あとは私が説明しましょう。
アシュヴィー:こ、この声は……?
  ヴィレク:―――秘書官、具合はどうかな?
アシュヴィー:あ……あなたは!……ど、どうして?……いいえ、どういうこと?!
  ヴィレク:…………(←あえて表現するなら“無限の静けさと晴れやかさを湛えた眼差し”)
アシュヴィー:(ゾクッ)な……なんなの?……わ、私に一体なにをしたっていうの?!
  ヴィレク:ちょっと眠ってもらっただけだよ。ウィーラ先生には私が指示した。
アシュヴィー:ま、まさかっ?! あのお茶に?!
  ヴィレク:安心したまえ。副作用も無いし、中毒性も無い。それに……
アシュヴィー:な、なによ?!
  ヴィレク:……それに、貴女にもしものことでもあれば「ロアン先生」に申し訳が立たないからね。
アシュヴィー:っ!!(驚)…………な、なぜ、それを知ってるのっ?!
  ヴィレク:…………(←無言で一片の書類を取り出して見せる)
アシュヴィー:これは……履歴書?…………名前は…………………………アルニカ・アシュヴィー?!
  ヴィレク:貴女が秘書官試験を受ける際に提出したものだ。よく見てみたまえ。「職歴」の箇所だ。
アシュヴィー:も、もしかして……(汗)(←恐る恐る覗き込む、するとそこにははっきりと―――)

履歴書/職歴:「黒竜書房シーラン編集局勤務。カレリア・ロアン大先生担当」

アシュヴィー:(し、し……しまったぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっっっっっっっ!!!!!!!)
  ヴィレク:よほど急いで書いたのだろうね。見にくい字だったので少々読む気が失せたが、偶然、
       その箇所に目が留まったのだ。
アシュヴィー:(くぅ〜、願書提出期限ギリギリだったからって、こんな馬鹿げたミスをするなんて!
       アシュヴィー、あなたって人はなんてバカなのっ?! バカバカおバカっ!!)
  ヴィレク:カレリア・ロアンといえば、ウェルもよく知っているほどの有名な小説家だ。しかし、
       何故かは知らないが、先月、突如スィスニアに後宮入りした。その後リューンに近づき、
       嬪妃の位を得たこともわかっている。
アシュヴィー:(―――はっ……ダ、ダメよアシュヴィー、焦っちゃダメ! ……そう、落ち着いて)
  ヴィレク:そして今月、その履歴書とともに貴女がウォウルへとやって来た。私は秘書官の選考を
       しながら、これはどういうことか?と考えた。あまりにもタイミングが良すぎるからだ。
アシュヴィー:(ふぅー。……落ち着くのよ、アシュヴィー。さあもう一度、大きく息を吸って……)
  ヴィレク:そこで、あえて貴女を秘書官に採用することにした。貴女やロアン氏が一体何を考えて
       いるのか興味が湧いたのでね。……貴女の試験の成績は3位だったから1位と2位の人
       には済まないことをしたが。
アシュヴィー:(ムキーッ! 倍率52000%の壁を突破したのは実力じゃなかったというのね?!
       キィー、口惜しいっ!! ……はっ、ダメ!落ち着いて。落ち着くのよアッシュ!!)
  ヴィレク:……だが、その後の面接で初めて貴女の目を見たとき、私は考えを改めることにした。
       筆記試験の結果だけで人の才能すべてを見極めることはできない。ゆえに最終的に面接
       を課しているわけだが……そのときの貴女の様子は、その場にいた誰よりも異才と異彩
       を放っていた。特にその目がね。実に“気合”に満ち溢れていたよ。……他国のことは
       知らないが、我がウォウル王国の官吏の仕事は“気合”無き者には務まらない。その点、
       貴女なら間違いなくやれる。私にそう確信させるだけの“気合”が貴女の目にはあった。
アシュヴィー:……えっ?(……や、やだ、もしかして私、口説かれてるの? そ、そんな……ダメよ、
       私にはロアン様という人が……い、いや、そんな目で見つめないで! ……でも、年下
       の男の子ってのも、ちょっといいかも……って、私ったら何考えてるの?! 私は一生
       ロアン様一筋よっ!! ……でも、王と結婚するってことは私が王妃様ってことよね?
       そんな!王妃だなんて私、務まるわけがないわ! ……でも、どうしてもって言うなら、
       考えなくてもなくてよ。そうね……まずは……(長いので中略)……どう? 私の美貌
       に敵う女なんてもはや存在しない! そう、私こそが真の“ハーレム・クイーン”よ!
       すべての男どもは私の前にひざまづくのっ!! オ〜ッホッホッホッホッホ〜〜〜!!)
  ヴィレク:……妄想中のところ申し訳ないが、それは無い。少し落ち着きたまえ、秘書官。
アシュヴィー:へっ?
  ヴィレク:貴女の思考パターンは既によくわかっている。悪いがこの一週間、じっくり観察させて
       もらった。
アシュヴィー:―――!(な、なんですってっ?! こ、このクソガキ………………殺すッッッ!!)
  ヴィレク:そんなに怒らないでくれ。もちろん、秘書官としての働きぶりもよく見せてもらった。
       貴女の事務処理能力は実に大したものだよ。私の目に狂いはなかったようだ。
アシュヴィー:えっ? そ、それほどでも……オホホホホ〜(そりゃそうよ、私を誰だと思ってるの?
       アシュヴィーよ、アシュヴィー! ブルース・リーじゃないわよ! ……え、全然似て
       ないって? そうね私もそう思うわ……でも、私の中のナーラダの血が燃えてるのよ!
       猛き竜の血が! 燃えよドラゴン! そう私が真の“ドラゴン・アッシュ”なのよ!)
  ヴィレク:……どうやらまだ薬の効果が残っているようだな。……まあいい。そうやって一週間、
       働いてもらっている間に、貴女とロアン氏の関係を調べさせてもらった。エルナット。
 エルナット:(登場)―――はい、ヴィレク様。
アシュヴィー:ええーっ?!
 エルナット:―――ごめんなさい、アッシュさん。騙すつもりはなかったんです。でも、内密の仕事
       だったから……。本当にごめんなさいっ!
  ヴィレク:エルナ、君が謝らなくてもいい。すべて私の指示だ。謝る必要があれば、私が謝ろう。
       その必要があれば、だがね。秘書官。
アシュヴィー:…………
  ヴィレク:では、エルナット、聞かせてもらおうか。スィスニアの後宮では一体どんな面白い話が
       聞けたのかな?
 エルナット:はい!……えーと、なんていうか私、後宮って初めて見たんで、すごくドキドキして。
       みんな綺麗な格好をしていて思わず見とれちゃいました☆……あ、でも、私も変装用に
       衣装を貸してもらっていたので、それを着ていったら、通りすがりの綺麗なお姉さんに
       声をかけられて、可愛い☆とか言われちゃって♪ え〜っと、それからそれから……
  ヴィレク:―――コホン……エルナット、後宮の感想についてはまた今度の機会に聞かせてくれ。
       今はまず、ロアン氏の話を先に……
 エルナット:あ、そうでした!、ごめんなさい。えっと、簡潔に言うとですね(かくかくしかじか)
       ……というわけなんです。
  ヴィレク:なるほど。つまりは秘書官、貴女はロアン氏が我がウォウルに送り込んだ間者、という
       ことになるのかな?
アシュヴィー:…………
  ヴィレク:貴女がやろうとしたことは、我がウォウル王国の法で「背任罪」という罪に該当する。
       そうだな、エルマク?
  エルマク:(登場)―――はい。王国に対して背任の罪を犯した者は、懲戒免職の上、5万粒以上
       の償金を払うことになっております。
アシュヴィー:…………
  ヴィレク:たしか以前にもこの罪でクビになった人物がいたが……まあ、それはさておくとして、
       秘書官、何か申し開きすることはあるかな?
アシュヴィー:…………
  ヴィレク:……何も無い、か。どうやら覚悟はできているようだな。エルマク―――
  エルマク:はっ、これを。(←書簡を手渡す)
  ヴィレク:秘書官、わかるかな? これが貴女の解雇状だ。
アシュヴィー:…………
  ヴィレク:今、ここで貴女にこれを手渡すのは簡単なことだ。……だが、その前に一つ聞きたい。
アシュヴィー:…………?
  ヴィレク:貴女は……いや、貴女とロアン氏は、いったい何を考えている? リューンに近づき、
       さらに私に近づいた、その目的はいったい何だ? ……貴女は優秀な実務家、ロアン氏
       はベストセラー作家だ。生きるに困るわけではあるまい。にもかかわらず、ウォウル・
       スィスニア双方の中枢に敢えて関わろうとする、その魂胆は何だ? 野心か? 大作家
       特有の道楽ということか? それとも、現在のナーラダ地域で起こっている戦乱を題材
       に歴史小説を書く、そのための資料を集めるのが目的……とでも言うつもりなのかな?
アシュヴィー:ふっ―――笑止! そんなくだらないことをあのロアン先生がお考えになると思って?
       まさに、燕雀いづくんぞ鴻鵠の志を知らんや! あの方のお考えになることは、常人の
       考え得る領域の遙か上空に存在するのよ! あなた如きでは一生かかっても決して到達
       することのない、遙か高みにね!!
  ヴィレク:ほう、私如きでは決してわからぬと? 成程……ならばもうよい。スラリ!(←抜剣)
アシュヴィー:な……なに? 私を殺すつもり? 無駄よ! 私を殺したからってロアン先生を止める
       ことはできないわ! 何人たりともあの方の野望の火種を消すことは決してできない!
       なぜなら、その炎……激しく燃え盛る灼熱の炎こそが、あの方の生きる証なのだから!
  ヴィレク:―――もはや何も聞く必要は無いな。
アシュヴィー:嗚呼ロアン様! 先立つ不幸をどうかお許しください。しかし、アシュヴィー死すとも
       その志までは死なず! 貴女の目的の成就を固く信じております。お達者でロアン様。
       私、逝きます。―――――――――――――アルニカ・アシュヴィー、享年……秘密。

   効果音:―――スパッ!

アシュヴィー:……………………………………………………………………………………………あれっ?
  ヴィレク:まったく、何を勘違いしているのだ、秘書官。
アシュヴィー:へっ?……で、でも私、いま……あれっ、なんで?……おやー???
  ヴィレク:私がいま斬ったのはこれだ。よく見てみるのだな。
アシュヴィー:えっ? 解雇状? まっぷたつ? どういうこと???
  ヴィレク:やれやれ……エルマク、説明してやってくれ。
  エルマク:要するにですねアッシュさん、ヴィレク王は今後とも貴女に秘書官を続けてもらいたい、
       と、そう言っておられるのですよ。……わかりました?
アシュヴィー:えっ? 続ける? 秘書官を? なんで???
  ヴィレク:理由? 貴女もさっき言っただろう。私如きには貴女達の目的は決してわからぬ、と。
       目的が決してわからぬのなら、背任かどうかも決してわからぬのではないか?
アシュヴィー:そ、それって……かなり屁理屈なんじゃ……
  ヴィレク:不満かな? ならば即刻クビにするが?
アシュヴィー:い、いえ、やります! やらせていただきます!!
  ヴィレク:よろしい。……それと、ロアン氏の野望とやらは私には決してわからぬが、出来る限り
       協力して差し上げよう。何か知りたいことがあれば聞いてくれ。蜘蛛会に金を払うより
       はマシだろう?
アシュヴィー:よ、よろしいのですか?
  ヴィレク:うむ。その代わりと言っては何だが、貴女にはたびたびロアン氏のもとへ行ってもらう
       ことになる。
アシュヴィー:えっ? もしかして私に二重スパイをやれ、と?
  ヴィレク:そんな器用なマネはできぬだろう? 私が君に期待することは、いわば“裏の外交官”
       としての役割だよ。現在、我がウォウル王国とスィスニア王国は互いに敵対しているが、
       だからと言って没交渉というわけではない。現在の外吏が多忙なのは実にそのためだ。
       で、ちょうど裏ルートの外交チャンネルが必要だと考えていたところに、貴女が現れて
       くれた、と。……ま、要するに、貴女には“パイプ役”をお願いしたいのだ。
アシュヴィー:はぁ……私はパイプですか。わかりました、そんなことでよろしければ。
  ヴィレク:うむ。……というわけで、これにて一件落着だな。皆、ご苦労だった。
   皆さん:―――ぱちぱちぱちぱち(拍手)
アシュヴィー:(はー。興奮しすぎて疲れた…………でもウェル君に見られなくてよかったわ)
  ヴィレク:―――おーい、ウェル。もう終わりにしていいぞ。
   ウェル:(登場)―――はいよ、ヴィレク様。
アシュヴィー:―――?! ウェル君、い、いたの?
   ウェル:そりゃいたさ。だって、ずっと今までのやり取りを記録してたんだもん。
アシュヴィー:げげっ?!(↑そ、そんなんありかーっ?!)
 エルナット:あのー、アッシュさん……顔、真っ青ですよ。大丈夫ですか?
アシュヴィー:ちょ、ちょっと目眩が……
  エルマク:だいぶお疲れのようですね。
   ウェル:あっ、俺いいもん持ってるよ。じゃーん、栄養ドリンク! これさえ飲んどけば、あっ
       という間に疲労回復っすよ!
アシュヴィー:あら、ありがとうウェル君、気が利くわね。頂くわ。
   ウェル:そのかわり、ロアンせんせのサインよろしくっ♪
アシュヴィー:んもうっ!ちゃっかりしてるわね。いいわ、ロアン先生には私から頼んどいてあげる。
   ウェル:ほんとっ?! やったぁー\(^^)/!! んじゃアッシュさん、これどうぞ。
  ウィーラ:―――?!
アシュヴィー:くんくん、なんか如何にも効きそうね……ゴクッゴクッゴクッ……くぅ〜、効くぅ!!
  ウィーラ:ウェル、お待ちなさい!―――それは!!(……………………………………遅かった)
   ウェル:どう、アッシュさん? もう、みるみるHP回復って感じでしょ?
アシュヴィー:うーん、なんだか体に力がみなぎってきたって感じ……ところでウェル君、これはどこ
       のメーカーのドリンクかしら? この「ω」マークが目印みたいね?
   ウェル:あ、これ? 通販で買ったんだけど、たしかライザー製薬(株)かなんかだったような。
       新開発のドリンクらしいんだ。えーっと……あった、これがそのチラシだよ。
アシュヴィー:へー、ちょっと見せて。えーと、なになに……「新製品!! 遂にセルフィアー上陸!
       その名もズバリ『メールビタンω』☆ 飲めば飲むほど丈夫な体を作ります」……?
   ウェル:スゴイでしょ? なんとドコデヒロッタノヘキサンが30%も含まれてるんだってさ!
  ウィーラ:……ウェル、あなたはドコデヒロッタノヘキサンが何なのか知ってるんですか?
   ウェル:詳しいことは知らんけど、なんか健康に良さそうなネーミングだよね。
  ウィーラ:…………
アシュヴィー:ええーっ?! ちょっと、なによこれっ?! 一体どういうこと?!
  エルマク:ど、どうしたんですか?!
アシュヴィー:これよこれ! ちょっと読んでみてよっ!!
  エルマク:は、はぁ。えーと……「当社独自の開発により、30%の含有に成功しました。これは
       飲むしかありません」……
アシュヴィー:その下よ! その下っ!!
  エルマク:はっ、はい、えーと……「飲んだ日から、メール族の様なムキムキ体型へ大変身です。
       貴方はモテモテですよ」……?
アシュヴィー:い、い……嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっっっっっ!!!(パタッ)
   ウェル:ありゃりゃ?
 エルナット:このおバカっ!!―――ドゲシッ!!(正拳突き>ウェル)
   ウェル:ひでぶッ!!(バタッ)
  ウィーラ:ふぅ……やれやれ、また私の仕事が増えましたか……
 エルナット:あら、これはウェルの持ち物? 「手乗りライザー人形」だって、あはは、可愛い〜☆
  エルマク:……なんか収拾つかなくなってきたなー。このままだとエンドレスに続きそうですよ。
  ヴィレク:わかっている。無理矢理にでも終わらせよう。……というわけで、これにて一件落着。
  エルマク:めでたしめでたし―――って、こんなんでほんとにいいんですかぁ?

▼スィスニア後宮・嬪妃(ロアン)の部屋―――――――――――――――

ロアン:……ははは、アッシュもなかなか苦労しているようですね。
ディル:はぁ、しかしどうやらウォウル王はすべてお見通しのようですが……
ロアン:まったく、年に似合わず老成しすぎですよ。若さが足りませんね。
ディル:(それはロアン様にも言えるんじゃ……)
ロアン:何か言いましたか、ディル?
ディル:いえ、何も。
ロアン:ならいいのです。ふふっ、それではウェル君へのサインでも書くとしましょうかね……

―END―   




《あとがき》
 今回はザラス諸英伝の主人公的存在(の割に影の薄い)ヴィレク君(ウォウル王国)に焦点を当てて描いてみました(前回、ナーラダ戦記ではあまり活躍させられなかったんで)。キャラを貸していただいた皆様(玉英様、神風疾風様、袖岡愛里様、下馬将軍・村田忠信様、おてうちにして様、三純るく様、andダンディ中年)、本当にありがとうございます。まったくこんなアホな話でスイマセン(^^;うーむ、なんでこんな話になっちゃったんだろ? おかしいなー(笑)。締め切りオーバーで徹夜して書いたせいでしょうか。……あ、毎度遅れてごめんなさい、玉英様(笑……ごとじゃないって)。

 さて、今回の話は如何だったでしょうか? ウォウル王国・オールキャスト登場で、予想以上に話が膨らんでしまいました。ほんとは3ページくらいのはずだったんですけどね。かなり多い情報量だったので、全部盛り込むのに結構考えました。ダイアログ形式にしたのもそのためなんですが、もしかしてわかりにくい点も結構あったかもしれません。質問などあれば気軽に送ってください。……とりあえず、ウォウル王国にはどんな人物達がいて、何を考えているのかは、わかるようにしたつもりです。今後のウォウル王国の「戦略」も明示しておきました。皆様のアイディアもどんどん取り入れたいと思うので、よろしければ送ってください。

 さてさて、今回は「ウォウル王国・独立暦402年火の月」の話でしたが、次回は「イレーヌ=リビュニア姉妹王国・独立暦402年風の月」の話を書こうと思っています。
 姉妹王国正王イー・リミイ&副王ウェス・ユミイらの率いる竜骨棍オヤジ軍団に対して、革命の旗を掲げる山賊「爆裂団」顧問ファーカル・ナヴィスは果たしてどう動くのか? それを見守るさすらいのカウボーイ歴史学者ピアザ・ド・ジャッサは何を思うのか? 姉妹王国の動きに目を光らせるウォウル特務募兵尉、カルブネース・ルドルフは一体どう出るか?……などなど、見どころを用意しております。
 ……でも、あまり期待しないでね(笑)。皆様からのキャラクター・アクション・ネタ等の提供をお待ちしております。あと、小山健様にはナヴィスのアクションを、砂の山様にはピアザのアクションを、それぞれお願いしたいと思います。ノーアクションの場合、サブマス側で勝手に動かしちゃいますが、ご了承ください。えーと、締め切りは「この会誌が届いてから1ヶ月以内」ということで。

 さてさてさて、独立暦402年火の月末現在、ナーラダエリアは大きく5つの勢力に分かれています。「ウォウル王国」「スィスニア王国」「東邑同盟」「姉妹王国」「昇竜会・在野・賊」の5つです。
 ――このうち「スィスニア王国」を舞台としているのが、ダンディ中年サブマスターの描くナーラダシナリオ#1「乱」。
 ――「東邑同盟」を舞台としているのが、元宵サブマスター描くナーラダシナリオ#2「諸雄乱立」。
 ――そして「ウォウル王国」「姉妹王国」「昇竜会・在野・賊」を舞台としているのが、私TSN&とむサブマスター描くナーラダシナリオ#3「エピソード集・ナーラダ伝奇」。どこが「伝奇」だ?、というツッコミは無しね(笑)
 (ちなみに「ウォウル王国」は、シナリオ#1およびシナリオ#2にも大きく関わってきますので、全ナーラダサブマスターの共通管理になっています)
 そこで皆様がナーラダシナリオへキャラクター・アクション・ネタ等を送る際には、そのシナリオに対応したサブマスターに宛てて送るよう注意してください。よろしくお願いします。

 ちなみにナーラダエリアの今後の展開については、ダンディ中年やとむ、元宵さんとも話してますが、《20年後にはヴィレク君(ウォウル王国)が半分くらいナーラダを統一。リューンは既に滅んでいて、黒竜旗軍はヴィレク“王”に対していわば“元老院”的存在になっている。シルキーヌは昇竜会を率い、民間レベルにおいてナーラダを統一している。》…………てな感じ。特にリューンの最期は、ダンディ中年も、すでに何パターンか考えてあるようです(笑)。さてどうなることやら。
 主人公のヴィレク君ですが、私的にモデルがいます。それは古代ローマ帝国初代皇帝アウグストゥスです。いや、むしろ皇帝になる以前、オクタヴィアヌスと言った方がよいでしょうか。養父カエサルがブルータスらによって暗殺されたため、若干18歳で後継者としてその理想を引き継ぐことになるオクタヴィアヌス。しかし強大な軍事力を持ったライバル、アントニウスの前に劣勢に立たされてしまう。だが、オクタヴィアヌスには信頼のおける仲間がいた。彼は、右腕アグリッパ(軍事の才能の持ち主)&左腕マエケナス(外交の才能の持ち主)らと共に着実に勢力を拡大して行く。一方、アントニウスはクレオパトラと共に贅沢三昧、徐々にその支持を失っていた。……なんとかローマ世界の西半分を平定したオクタヴィアヌスは、いよいよアントニウスとの決戦に臨む。紀元前31年、アクティウムの海戦。オクタヴィアヌス(31)、アントニウスを滅ぼす。
 …………以上14年間の流れが、ナーラダシナリオの元ネタに結構なってます。オクタヴィアヌスがヴィレク君だとすると、アグリッパ=ウェル、マエケナス=エルナットまたはエルマク、アントニウス=リューン、クレオパトラ=宮女の誰か、……ってところでしょうか。ヴィレク君の場合、若干14歳にして父ジャークの理想を受け継いで王となった。独立暦400〜402年の3年間は、内乱を抑えて外敵に対抗しつつ、内政に専念して基盤を固めた。そして独立暦403年からはウォウル王国VS姉妹王国の戦役が始まる、というわけです。その後、ヴィレク君は姉妹王国を平定し、いよいよリューンとの決戦に臨むことになる……はずですが、その前に東邑同盟で一波乱あるかもしれません。最終的には「セルファニア湖の戦」再び……てな感じですかね。詳しいことはまだ全然決まってません(笑)
 とりあえず次次回の会誌あたりには「イレーヌ=リビュニア戦役(ウォウル王国VS姉妹王国)」の話を考えておきたいと思います。ノリとしては「孔明の南蛮平定」とか「カエサルのガリア戦役」とかいった「蛮族との戦い」的な展開に「ファイアーエンブレム」をプラスしたような話になる(笑)……ような気がします。キャラクター・アクション・ネタ等があれば是非とも送ってください。それを元に考えますんで。
 ところで、先程ヴィレク君のモデルがアウグストゥスだと書きましたが、私が思うに性格もそっくりです。常に慎重かつ冷静、さらに陰険。稀なるほどに整った美貌と、冷徹なまでに醒めた眼を併せ持つ、若き天才。……詳しくは「ローマ人の物語・第5巻(最終章)・第6巻(全部)」(著:塩野七生)をご覧ください。
 ではこのへんで。

「SWORD」の巻  【元宵】


・時代:独立暦393年
・舞台:リュシー邑
・人物:ディグ・カイル、リュシア・バルサス、リュシア・ガトフ、リュシア・ガイウス、モルジバ・マッコイ、ゼス・ガルボア、ウェルキン・トリクス、サヴィヌス・ルキウス、アウルス、ハリー、デキムス、グレッグ、エチゼー、ミラン

 大将戦を迎えたとき、観衆のボルテージはいやがうえにも高まっていた。
 リュシー邑御流儀であるサヴィヌス流疾剣術とリュシーの有力なもう一つの流派、ウェルキン流疾剣術の交流試合。互いに譲らぬ熱戦は、二対二のまま大将戦となった。
「サヴィヌス流大将リュシア・バルサス、ウェルキン流大将ディグ・カイル、両者前へ!」
 練習用の防具に引き締まった肉体を包み、木剣を手にした若者二人が闘技場の中央に進み出る。
「……カイル、今日こそはお前に勝ってみせる。手加減なんかするなよ」
「当たり前だ、バルサス。お前の剣、しかと受け止めてやる」
 すぅ……と、息を吸い込み、構える二人。
 審判が片手を掲げ……。
「――始めっ!!」
 勢いよく振り下ろされた。
「はああッッ!!」
「ぬおおッッ!!」
 両者同時に突撃し、互いの力と技が衝突する……。

「――それまで!」
 ガキッという音が響き、勝敗がついた。
「…………」
「……際どかった」
 兜を二つに叩き割られたバルサス。カイルの方もいくつかの小さな傷を負っているが、明らかに彼の方に分がある。
「勝者、ディグ・カイル!!」
 わっと歓声。うなだれるサヴィヌス流に沸き上がるウェルキン流。そんな中、カイルはバルサスの手を取った。
「……バルサス、いい勝負だった。また腕を上げたな」
「いや、お前には敵わないよ。今日こそ勝つつもりだったのにな」
「次はどうかわからんさ」
「さぁな……確かなのは、俺はこれでまた師にどやされるということだ」
 そう言う二人は、同時にどっと笑った。

 リュシア・バルサス、年齢16。先邑宰ガトフの孫にして、剣に類い希な才能を見せる麒麟児である。そして彼と同い年のディグ・カイル。どこかの邑臣家の出らしいが詳しいことは記録に残っていない。バルサス程の天性は無いが着実な努力を旨としており比類無い実力を備えるまでになっていた。そんな彼らが知り合ったのは4年前。交流試合の場で好勝負を演じ、そこから交友が生まれたのである。

「若、また負けましたな」
 サヴィヌス流疾剣術の道場。バルサスは苦虫を噛み潰したような顔をしている師範に説教をくらっていた。
「カイルは強いよ、実際。今まで闘ってみて、1勝3敗。本物だって」
「そんな事を言っているからだめなのです!相手は敵、誉める対象じゃありません。こんなことでは若の指南を仰せつかった私の立場が……」
(うっせー、ハゲ。そんなこと気にしてるから“はげちゃびん”なんだ)
 決して口には出さず、ひどいことを考えているバルサスであった。
 サヴィヌス流師範のサヴィヌス・ルキウスはリュシー邑重臣家の出身であり、多分に出世欲がある。剣の腕は確か(それでもバルサスの方が強かったりするが)なのだがバルサスは彼をあまり好いてはいなかった。また、この流派は上級武官の子弟が多く入門しており、庶民や一般兵士が多数を占めるウェルキン流とは一線を画している。

 その日の夜、リュシア家にて。
「バルサス、先程の試合、わしも見ておった。よい試合じゃったぞ」
「負けちゃったけどね。じっちゃん、次は勝ってみせるよ」
「勝ち負けも結構じゃが、あの友人も大事にせいよ」
「カイルのこと?」
「実にいい若者じゃ。剣によどみがない。バルサス、若い頃からの友人という物は大事にするものじゃぞ」
 バルサスは笑って大きく頷いた。
「わかってるよ、じっちゃん。カイルは俺の親友だから!」
「さて、バルサス、ガイウスとマッコイは明後日にはターヌから帰ってくるそうじゃぞ」
 ガイウスというのは現リュシー邑宰でバルサスの父、マッコイは兵吏長である。
 それを聞いたバルサスはほっとした表情を浮かべた。
「よかった、何もなかったみたいだね」
「はは、いくらガルボア殿が裏表のある男だからといってそうそう何かするわけでもあるまい」
「でも、あいつだけはどうも好きになれない」
「……バルサス、そういうことは口にするものではない」
 ガトフの表情に厳しさが見える。バルサスは黙り込んだ。彼は、好青年だがやや直情すぎるきらいがある。彼がカイルに勝てない理由は実はここにあり、ガトフとしては、この可愛い孫のその一点が心配だった。

「先生、ウェルキン流との交流試合は昨年に続き敗北、これで三連敗です」
「わかっておる!……このままでは、ウェルキン流に御流儀の座を奪われるやもしれん」
 サヴィヌス流の師弟が会合を開いているようだ。ただしバルサスの姿はない。
「ですが師範、向こうのカイルの実力は本物です。我等は正当な勝負で負けたのです」
「うるさいアウルス!貴様まで若と同じ事を言うのか!」
「……は、はあ……」
「元々は土臭い下民剣術を公の場で辱めてやるつもりで始めた交流試合なのに……このままでは済まさぬ……」
 徐々に眼光が妖しくなってきた。
「お前ら、耳を貸せ」
 何かを耳打ちしている。それを聞く弟子達の顔が青ざめていく。
「……し、師範……それは……」
「案ずるな……必ずうまくいくさ……」
「バルサス殿はどうします。邑宰を迎えるため出払っておりますが」
「あいつは融通が効かぬしウェルキン流に友人もいる。奴にはしらせるな」
 危険な高ぶりを見せてくる師弟。その中で、アウルスと呼ばれた男だけは冷静な目をしていた。

「サヴィヌス流から招待状?」
 師からその話を聞いたカイルは首を傾げた。
「先生、どういうことでしょうか」
「これには両流派の交友を深めるため、師範同士で交歓したいとあるが……」
「しかし師範、こういう言い方はしたくないのですが、サヴィヌス殿はこういったことを考える方ではありません」
「私もそう思う。何か裏がありそうだ。……だが、断れば波風が立とう……」
 二人は黙り込んだ。サヴィヌス流とウェルキン流とでは、サヴィヌス流の方が立場は上なのだ。
「……私は、行って来るよ」
「しかし!」
「どちらにせよ断れない。もちろん用心はする。それでも何かあったときはカイル、お前に任せる」
「師匠、私も行きます!」
「いや、招待状には私の名しか無い。一人で行くよ」
 トリクスはそう言って微笑んで見せた。

 その夜、ウェルキン流師範トリクスは単身サヴィヌス流の邸宅兼道場に出かけていった。
「いやあ、よく来られた、ウェルキン殿」
「日頃お世話になっております」
 トリクスは腰が低い。相手が御流儀の師範だからというのもあるが、本来人格者であるのだ。
「先日の交流試合ではすっかりやられてしまったわ。はっはっはっは、見事見事」
「恐縮です」
 サヴィヌス・ルキウスはトリクスの肩を叩きながら招き入れた。
「ウェルキン殿、我らは剣術家。ここは剣でとくと語り合おうではないか」
(いきなりだな。何か仕掛けてくるか)
 内心はおくびにも出さず、穏やかに応じる。
「私のような未熟者ではお相手として不足でしょう」
「何の、本気の真剣勝負をしようというのではない。ただ、剣を合わせてみるだけよ」
 強引に道場へ連れていく。
「それでは、僭越ながら……」
 結局、押し切られた。道場に入ったトリクスはルキウスから木剣を受け取る。
「では、参るぞ」
 にこにこしていたルキウスの表情が豹変する。
「キエエエエエエッッ!!!!」
 鋭く振り下ろす木剣――いや、木の刃の部分が抜け、その下から銀色に光る刃が!
「やはり…………小癪なりっっ!!」
 トリクスはかっと目を見開く。木剣を逆袈裟に振り上げた。
 ガンッという音。続いて、床に響く金属音。見ると、真っ二つに叩き割られた真剣が転がっている。
「くっ……!お、お前ら、出てこい!!」
 ガラッと戸を開け真剣を持ったサヴィヌスの弟子達が現れた。ただ一人、関わりたくないのか離れたところで見ている男がいるが、頭に血が上っているサヴィヌス流の師弟は気付かないようだ。
「……サヴィヌス殿、正気ですか。貴方も破滅しますぞ」
「ふん、証拠なぞ残すか。弟子達の顔ぶれをよく見ろ」
「……成る程、そういうことですか」
 サヴィヌスの弟子達には上級の官吏や武官の師弟が多くいる。彼らが事件を起こしても、それを揉み消すのは可能なのだ。
「ウェルキン・トリクスは真剣の試合で敗れ死んだ、よくあることだ」
「そうはいくか」
 そう言うや否やトリクスは脱兎の如く駆けだした。
「逃すな!追え!!」
 弟子達が囲む。しかしトリクスの木剣が一閃、数人をはじき飛ばす。そして阿修羅のように奮戦した後、そのまま囲みを破り脱出に成功した。
「逃したか……だが、構わん!奴は正当な試合を放棄し、このルキウスにおそれをなして逃げ出したのだ!喧伝しろ!!」

 翌日、ウェルキン邸に殺気立った弟子達が集まり大騒ぎとなった。
「先生が謀殺されかけただと!?」
「世間ではサヴィヌス・ルキウスとの真剣勝負で逃げ出したということになっているぞ!」
「馬鹿な!先生がそんな怯懦であるはずがない!謀られていたのだ!」
「二重に張り巡らされたこの謀略!卑劣なりサヴィヌス!!」
 普段から両者の仲はよかったとは言い難かった。何より、「下民剣術」とサヴィヌス流に陰口を叩かれてきたウェルキン流の弟子達の我慢はかなりのところまできていた。今までは弟子達に慕われていた師範がそれを抑えていたのだが、その敬愛する師匠が侮辱されたのだ。弟子達は今まさに爆発寸前の状態にある。
 因みに、その師匠は脱出の際に重傷を負っており、「今は自重しろ」との言葉を残したまま床にふせっている。
「もう我慢ならぬ!今から殴り込んでやる」
「待たぬか卿ら!」
 あわててカイルがそれを止める。
「ここでそんなことをしては我が流派まで取り潰される!」
「しかし、このままでは我等の流派は……!当局に訴え出ても恐らく取り合ってはくれぬ!サヴィヌス流には上流階級の子弟が入門しているのは君も知っているだろう!いざこざを恐れて誰も手出しできんのだ!……下民剣術と蔑まれながら、せっかく、せっかくここまで頑張ってきたのに……!!」
「ではこのまま暴発して流派を潰すのか!?やればタダの私闘では済まされぬ!!」
 しん……と、静まり返った。カイルの言うことは正しい。しかし、感情では納得がいかない。
 その時であった。
「ごめん下さい」
 入り口に人。
「誰だ!?」
 全員の視線が集中する。
「お、お前は……」
 怒気をはらんだ声が投げられた。
「サヴィヌスの師範代、アウルス!!貴様どの面下げて……」
 しかしその怒りは不完全な形で行き場を失った。丁重に頭を下げるアウルスの口から驚愕すべき事実が放たれたからだ。
「……な、何……ルキウスが詫びている……?」
「はい。我等が師範は試合の結果このような風評が立ったことをお悔やみになり、トリクス殿に詫びたいとおっしゃっていました…………」
「ば、馬鹿な……あのルキウスが詫びるなど……」
「それともう一つ……」
「なんだ!」
「沙汰が下るまで、両流派の接触を禁じるとの当局のお達しがありましたことを伝えておきます。それと、ウェルキン殿は現在負傷しておられるご様子。回復次第我等から正式に詫びの使者が来るでしょう」
 それだけ言うと、アウルスは洗練された物腰で丁寧に会釈をすると帰っていった。
「……一体どうなっているんだ」
 あとに残された弟子達は当惑している。
「いっそ、サヴィヌスの道場に行って真相を確かめようぜ!」
「やめておけ。当局の言いつけは守らねばならん」
 カイルが押しとどめる。
 結局、怒りが中途半端なままになってしまった彼らはサヴィヌス道場に行くこともなくそのままここにたむろすることになった。

 カイルは、一人、自室に閉じこもっていた。
(……やはり……納得がいかない)
 何時の間に降り出していたのか、静かな部屋に雨音だけが響く。
(……俺一人でいい。師の言いつけに背いても、確かめに行くか……)
 意を決し、立ち上がる。音を立てずに、玄関へ向かいこっそりと出ようとした。
 その時。
「一人でか?つれないな」
 後ろから声。振り返ると、数人の男達が居る。
「ハリー、デキムス、グレッグ、エチゼー、ミラン、みんな……」
 いずれも、ウェルキン流の高弟達である。
「サヴィヌスんトコへ行くんだろ?」
「オレ達も連れてけよ」
「しかし、迷惑が……」
「水くさいぜカイル」
「せっかくだから、オレ達も連れてけよ」
「オレ達も、真相が知りたいんだよ」
「止めても行くぜ」
「みんな……」
 声を詰まらせるカイルに、兄弟弟子達は力強く頷いた。
「行くぞ、カイル」

 雨はいつしか雷雨となり、カイル達に降り注ぐ。彼らはサヴィヌスの道場の玄関で待たされていた。
「……君たちは互いの接触を禁ずるという命令を聞いてないのですか」
 応対に出たアウルスの言葉に、カイルが反論する。
「我々は真実を確かめに来た。そのためならお咎めも覚悟している」
「真実も何も、私が先刻君たちに話したことが全てなのですが」
 だが、カイル達は引き下がらない。
「先刻の試合にはそちらの流派の方しか立ち合っていなかった」
「仕方のないことです」
「せめて、どういった状況で試合があったのか、現場を見せてもらえないだろうか」
 食い下がるカイル達を前にアウルスは考え込む仕草を見せた。
「……どうなっても、知りませんぞ」
「先刻承知!」
 ついに、アウルスは重々しく頷いた。
「わかりました……君たちの真心に敬意を表し、全てをお話しします」
 カイル達は、応接間に通された。そこでテーブルを挟み椅子に腰掛ける。
 アウルスは、俯いたまま顔の前で両手を組んでいたが、やがておもむろに語りだした。
「……全ては、交流試合から始まりました。元々あの試合は我々が君たちの流派を圧倒し公衆の面前で辱めるために計画されたもの。しかし結果は逆で我々が負けていました」
 頷くウェルキン流の高弟達。
「師範は考えました。ウェルキン流を退けるには、正当な手段では叶わない。ならば謀略に訴えるしかないと。そこでウェルキン殿を謀殺、或いは貶める策を試みたのです。無駄にプライドが高く乗せられやすい弟子達も賛同しました」
 やはりか、という呟きが漏れた。
「しかし私はこの思考に疑問を感じていました。決着は、あくまで対等な条件の勝負で着けなければならない。それが剣術家である我々が共有する“正義”であると」
「正義……」
 少なからず驚いた表情を見せる。まさか、サヴィヌス流からこのような言葉が聞かれるとは思わなかったのだ。しかし、彼らとしても共感できる思考なのでまともに頷いた。
「私は、師を説得しようとしました。結局はかりごとを止めることはできませんでしたが、そのあとで一応改心させることに成功しました。……尤も、本心で改心したかどうかは疑わしいのですが、今後も私が目を光らせていきます」
「成る程……」
 エチゼーが低く言った。
(確かに、話の筋は通っているな)
 カイルも心中で頷く。
「しかし、師範殿はなぜ姿をお見せにならぬので?」
 グレッグが疑問をぶつけてみた。
「自主的に謹慎しておられるからです」
(筋は通っている……が、妙だ。どうも話ができすぎているような……気のせいか?)
 カイルは一応納得しつつも一抹の疑念を抱いている。
(……本当にサヴィヌスが謹慎しているとは思えない……調べてみるか)
 決心した彼は椅子から立ち上がった。
「ちょっと、厠をお借りしたいのですが……」
「ああ、そこを出て突き当たりの角を左に曲がったところです」
 言われたとおりに部屋から出るカイル。そして、戸を閉めた後。
(……よし、探索開始)
 彼は、まず師範の私室を目指した。バルサスの招きで一度だけ来たことがあるから、場所は知っている。
(部屋を替えたなどということがないように……)
 祈りながら歩く。
(むっ)
 角を曲がろうとして足を止める。ある部屋の前に二人ほど見張りが居たのだ。
(あそこは……師範の部屋)
 物陰に潜み様子をうかがう。あまり緊張感の無い見張りの話し声が聞こえてきた。
「……本当に…………マズイ…………バレたら…………」
「アウルス様……従…………しかない……」
「でも…………師しょ……殺した……自害……見せか…………幽閉……」
(……………………!!??)
 会話の断片からただならぬ事態が容易に推測できる。
(サヴィヌスは謹慎していると聞いていたが……まさか――!)
 その時、彼は迂闊にもゴトッという音を出してしまった。当然見張りにも聞こえた。
「誰かいるのか?」
 恐る恐る確認のために近寄ってくる。カイルは音を立てずに抜剣すると、息を殺して待ち構えた。
 そして、一人が角に来たとき。
「えっ……」
 素早く当て身で黙らせると、石火の動きでもう一人の首に切っ先を突きつけた。
「……死にたくなければ声を立てるな」
 見張りはガタガタ震えながら頷く。
(やはり良家の坊やはいざというときの心構えがなってないな)
 そんなことを思いつつ、師範の部屋の戸を開けるように指示する。見張りは僅かに拒絶の意思を見せた。カイルは剣をカチャリと言わせて脅す。今度は、戸が開けられた。
 ……カイルは、目の前の光景を見て驚きの声を辛うじて抑えた。
(……死んでいる……だと!?)
 血溜まりの中に倒れているサヴィヌス・ルキウス。
「おい、これは一体どういうことだ…………!?」
「……せ、先生は……ウェルキン流に詫びる……ために……自害……」
「嘘をつくな……!」
 首筋に軽く刃の峰を当てる。
「ひいっ……しゃべります……しゃべります……!」
 半泣きになりながら言う。
「……殺し……て………アウルス様…が……自害に…見せかけ……て…………」
 断片的な単語だけで充分だった。
「そういうからくりだったかッ……!」
 カイルは、かわいそうな見張りの顔面をブン殴って気絶させると全力で駆け戻った。
(くそッ……奴の“正義”という言葉を……信じたかったのに……!!)

「……子細、納得いただけたでしょうか?」
 アウルスは、ウェルキン流の高弟達を説得しつつあった。
「……まあ、言いたいことは大体わかったがな」
 互いに顔を見合わせる。何か煮え切らないが、一見話に筋が通っており、疑念を差し挟むのも困難なように思えた。
「わかっていただけましたか。よかったよかった」
 パンパンと手を叩いて談判をまとめようとする。
 血相を変えたカイルが戻ってきたのは、まさにその瞬間だった。
「みんなっ、騙されるな!その男はとんでもない大悪党だぞ!!」
「……オイ、何を言ってるんだ?」
 仲間達は何の事やらわからない。
「……サヴィヌスが死んでいた。いや、殺されたんだ、そこの男にな!!」
「何だってえ!?」
「アウルスさんよ、アンタが裏でやってたことは弟子が全部吐いたぜ。……何が“剣術家の正義”だ!さては貴様、サヴィヌスは責任を取って自害したことにして自分はこの流派を乗っ取るつもりだったんだろう!!」
「カイル、それは本当なのか!?」
 全員の視線がアウルスに集中する。彼は、ヤレヤレという表情で深いため息をついた。
「……全くアナタ達は仕方のない人達ですねぇ」
 その顔つきが、凶暴なモノに変わっていく。
「事ここに至っては、実力に訴えるほか方法が無いようですね!!」
「やはり騙そうとしてたのかッ!!」
 総員椅子を蹴って立ち上がる。
「殺れっ!!」
 アウルスが合図して多数の弟子達を呼び寄せ、自らも抜剣して斬り掛かってきた。
「ぐっ……」
 目の前に居たミランが剣を抜ききる直前に斬り伏せられる。
 カイルはすぐ下知をして、ハリー、デキムス、グレッグ、エチゼーをそれぞれ四方の敵に当たらせたが、すぐ乱戦になって、各自散り散りになった。
 デキムスは取り囲まれ、全身ずたずたにされて斬り死にした。
 ハリーとグレッグは、互いに背中合わせで奮戦中。
 カイル、エチゼーはそれぞれ壁を背にして正面の敵と闘っている。
「ハリー、グレッグ、生きてるかぁ!!」
 エチゼーは大声で呼ばわる。
「ああ!」
「なんとかなぁぁ!!」
 この瞬間、エチゼーの視界の端に、天井の板を向こう側から外し、上から急襲をかけようとしている敵の姿が映った。
「上から来るぞ!気をつけろぉ!!」
 しかし、一瞬遅かった。不意を衝かれたハリーがやられた。
 一方カイルは血路を開こうと、扉めがけて奮戦している。近くにいたグレッグも、連携して同じ戦術をとった。
「こっちだ、エチゼー!!」
 しかし、エチゼーは部屋の反対側。とてもここまで来れそうにない。
「へっ……お前ら、俺のことはいい!早く行け!」
「エチゼー!!」
 カイルとグレッグはエチゼーを救おうと、再び突撃した。疲労の極みにある二人だったが、鬼神のような闘いぶりを見せ、次々敵を斬っていく。サヴィヌス流には良家のボンボンが多く、今ひとつ踏ん張りがきかない。徐々に崩れつつある。
 ウェルキン流の奮闘に、サヴィヌス流はその数を減らしつつあった。だが、突然グレッグが倒れる。
「どうした!?」
 その後ろに、剣を持ったアウルスの姿。
 彼は師範代であり、先日の交流試合では副将を努めた実力者なのだ。その時は、ウェルキン流の副将エチゼーに辛勝している。
「せっかくだから、俺は相手にこいつを選ぶぜ!!」
 再び、アウルスとエチゼーが闘う。カイルは雑魚を次々倒していく。
 再現された副将戦は、熾烈を極めた。しかし疲れのあるエチゼーが僅かに押されている。
「……ちっ……体力さえ万全なら……」
 結果、五分と保たなかった。エチゼーは、カイルが雑魚をあらかた倒した頃に、斬死した。
「……残るは君一人です……」
 アウルスはカイルに剣を向ける。
「……チッ……」
 カイルは既に疲労困憊、幾多の手傷を負っていた。それでも抗戦の意思を捨てず、剣を構える。
「無駄なあがきを……」
 カイルの、切っ先が徐々に下がっていく。
「やはり、もう力が残っていないようですね。さっさと止めといきましょうか」
 アウルスは、じりじりとカイルに近付いた。そして、剣を振り上げ、叩き斬ろうとしたその時。
「……貴様だけは許さん!!!!」
 カイルの眼光が鋭く光り、アウルスを一瞬怯ませた。
「喰らえッッ……!!」
 激しく一歩踏み込み、持っていた剣を凄まじい勢いで突き出す。
 刹那だった。
 アウルスに反応する余裕を全く与えなかった。
「……なっ…………」
 切っ先から血がしたたり落ちる。カイルの剣は、アウルスの胸を深く貫き通していた。
「そんな……力が……」
「俺は貴様のような奴とは違うんだ!この外道め……!」
 剣を引き抜く。どう、という音と共にアウルスが倒れた。
 剣の血糊を拭き取ったカイルは、辺りを見回す。累々たる死骸。血溜りの中に、同門が倒れている。
「…………残っているのは俺だけか…………」
 彼は、重い足取りで門を出た。
「これからどうするか……」
 仲間の暴発を抑えておきながら自分が率先して私闘を起こしてしまったのだ。師に会わせる顔がないし、流派自体もただでは済むまい。
「自害するか……」
 人一倍責任感と正義感の強い彼は自分が犠牲になることで事態をできるだけ収めることを考えた。元々武人の家の生まれでもある。良くも悪くも武人らしい責任の取り方である。
 しかし、そんな彼を止める男がいた。
「カイル、死ぬつもりか?」
 振り返る。降りしきる雨の中、馬上に見知った友の姿があった。
「バルサス……」
 呻くように呟いたきり、次の言葉が出てこない。
「急報を受けて急いできたんだが…………こんなことになっていたとはな……」
「…………」
 無言で視線を返す。
「とんでもないことをしてくれたな」
「……バルサス……」
「何だ」
「俺を斬れ」
 静かに、抑揚の無い声で言った。
 沈黙が流れる。静寂が二人を支配し、降りしきる雨がただ彼らを濡らしていた。
 バルサスは僅かに眉を動かす。
「……それが、お前の身の処し方か」
 無言で、肯定の意を示すカイル。
 だがバルサスは、ゆっくりと首を振った。
「お前はこんな所では死なない。いや、死んではならないんだ」
「……何故……」
 問い返すカイルにバルサスは答えなかった。馬首をめぐらせ背を向ける。
「カイル、今すぐここを立ち去れ。もうリュシ−にお前の居場所はない」
「バルサス……俺を、見逃すというのか?ゆう宰家であるお前が」
「言うなカイル!」
 思わず、バルサスは叫んでいた。
「……俺には、確かにこのリュシ−を統治する家としての責務がある。しかし……」
 ゆっくりと馬を進めながら、振り返らずに言う。
「お前は、俺の友人なんだ、何があっても。俺に友は殺せない」
「……バルサス……」
「行け、カイル!!」
 雨の中、バルサスの叫びが響いた。カイルは唇を噛み締め、そして。
「済まないバルサス!さらばだ!!」
 駆け出した。バルサスも馬に鞭を入れ走りだす。
 それっきりだった。これが、二人の別れだった。

 この一件の後、サヴィヌス、ウェルキン両流派ともに取り潰しが決定された。ウェルキン・トリクスは追放され、その後の行方は判らない。
 ディグ・カイルは、傭兵軍団『長戟隊』に入団し、急速に頭角を現す。数年後、団長になった彼にかつての血の気の多さは影を潜め、思慮深く沈着な良将の姿がそこにはあった。
 そして独立暦402年、長じたカイルとバルサスは再び出会うのである。

―終―   


《解説:TSN》
 元宵様。ナーラダシナリオ#3への寄稿、誠にありがとうございます。
 このエピソードは、独立暦393年という過去の出来事を描いたものです。9年後の独立暦402年、再び出会うことになるカイルとバルサス(第7回会誌「黒竜旗軍誕生!」参照)ですが、二人の若き頃の友情と青春群像が、生き生きと、爽やかに、そしてほろ苦く描かれてますね。思わず心打たれてしまいました。このようなエピソードの積み重ねが、キャラに深みを与えていくのだと思います。
 ディグ・カイルは第1部からナーラダシナリオに登場していますが、冷静沈着な武人であったためか、一見目立たないキャラでした。ところが、彼にはこのような過去があって、現在(独立暦402年)の彼があるわけですね。冷静沈着で思慮深い性格となった理由がよくわかりました。
 おそらくディグ・カイルは、ナーラダにおいて、ヴィレク、リューン、ルーシ、シュラ、ルドルフらに匹敵するだけの力量を持った将でしょう。今後の活躍が楽しみです。
 元宵様、本当にありがとうございました。

「それゆけ猛虎三将軍!」の巻  【TSN】


・時代:独立暦402年火の月末
・勢力:イレーヌ=リビュニア姉妹王国
・舞台:姉妹王国王廷
・人物:イー・リミイ、ウェス・ユミイ、ランディ、ブランケット、ヒルズ


   リミイ:やあ、元気かな、諸君? 私が姉妹王国正王イー・リミイだ。一つよろしく。
   ユミイ:お姉様、いったい誰に向かって挨拶していらっしゃるのです?
   リミイ:さあ。ザラスの外宇宙に向けて霊波を送っている……ということにでもしとくさ。
   ユミイ:そうですか。では、私も。…………皆さんこんにちは、私が副王のウェス・ユミイです。
       どうぞよろしく〜。…………誰かに聞いてもらえるといいですね、お姉様。
   リミイ:ああ、そうだな。……それよりもユミイ、例の件はどうなっている?
   ユミイ:ええ、もう既に準備万端。あとは発動命令を下すだけですわ。
   リミイ:スィスニアの方もすっかり信じ込んでいるようだな。来月が楽しみだ。……ところで、
       あの連中はどうしてる?
   ユミイ:ええ、バルシール氏が上手くやってくれました。見事にこちらの策にかかりましたね。
   リミイ:はっ、何も知らないとは連中も哀れなもんだ。
   ユミイ:そういえばお姉様。近頃、ウォウル王国との境界付近で山賊が横行しているそうですよ。
   リミイ:ほう。ならばちょうどいい。そいつらもまとめて一掃してしまおう。
   ユミイ:どなたを派遣しましょうか? ソーサ&マグワイア将軍は現在ウォウル潜入中ですし。
   リミイ:そうだな……アイツらにやらせよう。
   ユミイ:なるほど……あの3人ですね。
   リミイ:そうだ。……出でよ!――――――ランディ! ブランケット! ヒルズ!

  ランディ:―――我が名はランディ!
ブランケット:―――我が名はブランケット!
   ヒルズ:―――我が名はヒルズ!

   リミイ:……来たか。
   ユミイ:……始まりますわ。

  ランディ:―――我らの力!
ブランケット:―――三つで一つ!
   ヒルズ:―――その名もズバリ!

(三人):―――――“猛虎三将軍”!!!

  ランディ:―――お呼びで?
ブランケット:―――ございますか?
   ヒルズ:―――姫様?

   リミイ:うむ。例の件、おまえたちに任せる。三位一体竜骨棍打法の恐ろしさを教えてやれ!

  ランディ:―――はっ!
ブランケット:―――我らに!
   ヒルズ:―――お任せあれ!

   リミイ:よし、行けっ! 猛虎三将軍!!
   ユミイ:ふふ、まさに猛虎打線爆発ですわ〜☆

―続く?―


《あとがき》
 ……何も言うこと無いです(笑)

「クロネコ」の巻  【砂の山】


・時代:独立暦402年火の月上旬
・勢力:昇竜会・在野・賊
・舞台:ウォウル/ティフォート武具店、居酒屋どん兵衛
・人物:ピアザ・ド・ジャッサ、ラファエロ・ティフォート、ファーカル・ナヴィス、ロレイ・イシス、ロレイ・ティム、ジジ


 ピアザはとある武器屋の軒先の片隅にくくりつけられた風鈴の短冊に、こう書いてあるのをぼそりと読み上げた。
 「使鬼承ります、か……」
 耳元を通り抜けた風に金魚が揺られ、涼音が耳に心地よい。
 「はい、そうですよ」
 武器屋の青年店主、ラファエロ・ティフォートは澄んだ声で、まるでそこいらへんに駄賃稼ぎに使いに行く子供のような気軽さと、久しぶりに腕をふるうことになるかもしれない期待を込めて応えた。
 「それよりもあなた、しゃべれるんですね。この前は一言も話さなかったのに」
 「……よくまあ、一見サンを覚えているものですね」
 「今日でもう常連です」
 「……買い物くらい、無言でもできますよ」
 「それもそうですね」
 ピアザは不逞な店主の瞳を覗こうとしたが、にこやかな笑顔に跳ね返された。

 「ネコはできますかね……そう、クロネコがいいな、子猫の」
 「なんに使うつもりですか?」
 「偵察といえば聞こえは、うーん、良くないな。つまり、ノ・ゾ・キ」
 「悪趣味ですね」
 使鬼使いは即答した。
 ヒゲ面の客はラダを上乗せしたが、店主には受け取る気配がなかった。
 「そういうものの考え方、好きではありません」
 「あなた、商売人でこれでは苦労しますよ、これからも」
 「友を紹介する先は慎重に選びたいものですから。おあいにくさま」
 「暗殺なんてもってのほかですね、そうすると」
 「それでもぼくは武器屋です」
 その言葉を聞いて、ピアザは思わず店内を見渡した。
 しばし、刀の曇りなき刃に映る自分の顔を見ながら、意味もなくヒゲをしごく。
 懐に納めてある鉄の冷たい感触を改めて思い出す。
 「…………」
 軒先の風鈴が鳴っている。
 その日は風が熱く、けだるい午後だった。

 ピアザが帰ろうとして通りに出ると、道にちょこんと黒いシミが一点ある。
 「その子はお話ができるので、あとは何でもお願いするといいでしょう。7日で土に戻りますからね」
 店主の声を背中に聞いて、ピアザは子猫を抱きかかえて目を合わせる。
 「…………だってさ?」
 「ニャン」
 「…………」
 「冗談ですよ、ご主人様」
 「…………(しゃべったよ!)」


 居酒屋どん兵衛の屋根にクロネコが心地よく居眠りしている。
 それを見上げる姉弟が話をしている。
 「ほら、姉貴、あんなにかわいいじゃん? エサをあげてもいいだろう?」
 「まだあげてなかったの?」
 「な、なんだよ、昨日はあれだけ反対してたのに!」
 「だってかわいいんだもん」
 「ああ、もう! おーい、クロ、おいしい残飯やるからおりといで〜」
 大きく手を振って、いそいでエサを用意して。
 クロネコは退屈そうにあくびをしただけだ。
 「ちぇっ、なんだよ、あのネコ」
 「それより、クロじゃないぞ、ジジだぞ、ティム」
 「なにそれーっ」
 「クロよりはいいんじゃないの、ク・ロよりは」
 「あぅー」

 そのジジがいなくなった。
 せっかく屋根から降りて、お店の中の座布団で寝るようになったのに。
 「ほら、ネコは気まぐれなんですよ。きっと、もうそろそろ、何事もなかったかのように戻ってきますよ」
 ナヴィスは落ち込むティムを元気づけようとしたが、もう帰らずの3日目だ。
 「アンタはほっといてくれよ。アイツのことなんか気にしちゃいないんだ」
 翌日、店頭に張り紙が出された。

 「捜しネコ:特徴、クロネコ。お心当たりの方は店員まで」

 ピアザはお心当たりがあった。
 ウォウル留守中のうわさ話のことをネコにあれこれ聞いたあと、それっきりだ。
 あいつは、あいつはたしか……今頃はもう……。
 大股で再びティフォートのところを訪れたピアザは、もう一度あのネコを頼んだ。
 「ひとたび土に返してしまえば、同じ魂は二度と召喚することは出来ません」
 「…………」
 使鬼使いは軽く咳き払いをしてからつけ加えた。
 「こういう場合、ふつうのネコを探してあげるのが正しいことなんですが……ジジからあの姉弟の話を自分も聞きましてね、じつはまだいるんですよ、ほら」
 ラファエロ・ティフォートは刀の手入れを楽しそうに続けていた。

―END―


《解説:TSN》
 砂の山様。ナーラダシナリオ#3への寄稿、誠にありがとうございます。ウォウルの町の人々の日常(?)が良く表れてますね。ほのぼのとしてるんだけど、どこか無常観も漂うような雰囲気が出ていて、味わい深いです。風鈴の音が聞こえてきそうですね。
 この話は独立暦402年火の月上旬に発生したエピソードですが、この時はまだナヴィス君は居酒屋どん兵衛にいるわけです。彼がどん兵衛を飛び出して行ってしまうのは火の月12日。もしかすると、この「クロネコ」を見たことが、飛び出すきっかけの一つになったのかもしれませんね(笑)
 砂の山様、小山健様、キャラを貸していただいた皆様、本当にありがとうございます。

「昇竜」の巻  【TSN】


・時代:独立暦402年火の月末
・勢力:昇竜会・在野・賊
・舞台:昇竜会ウォウル本部・会長室
・人物:ルシャナ・シルキーヌ、ケトゥ・タスタント、キュアティ・テス、ミスキワ・カフレイ、キュアティ・イクシオ


▼昇竜会ウォウル本部・会長室――――――――――――――――――――

 タスタント:……お嬢様、昇竜会幹部からの活動報告が届いております。
 シルキーヌ:わかりました。すぐに目を通しますので、そこに置いていてください。
 タスタント:はっ。(置く) ……それでは失礼いたします。(退室)

▼昇竜会幹部・活動報告―――――――――――――――――――――――

○ハルナ・コウ(ナーラダ/男/52)
:昇竜会幹部長。昇竜会ウォウル本部長。昇竜会立ウォウル学問所所長。ハルナ財閥総帥。
▽今月の活動
:ウォウル王との官民共同懇談会に出席。1000000粒の政治献金をおこなう。各種経済上の便宜、及びウォウル学問所拡充計画の認可を得る。

○ラファエロ・ティフォート(ナーラダ/男/21)
:昇竜会幹部。対「東邑同盟」経済戦略部長。武器屋「ティフォート武具店」店主。使鬼。
▽今月の活動
:東邑同盟への昇竜会影響力拡大。また、ティアレ・ラコルル氏より委任されている“バーミヤ文書”及び“闇のオーバーテクノロジー勢力”の調査をおこなう。

○リレイル・リレイア(ナーラダ/女/29)
:昇竜会幹部。対「スィスニア王国」経済戦略部長。化粧品&装飾品「リレイル商会」代表。
▽今月の活動
:蜘蛛会「フェルノ商会」と協力し、姉妹王国への経済攻勢を仕掛ける。その後、任務をガワ・ツロウ氏に移譲し、スィスニア後宮への販売ルート拡大を図る。

○ガワ・ツロウ(ナーラダ/男/35)
:昇竜会幹部。対「姉妹王国」経済戦略部長。米問屋「ナーラダ米流通協会」代表。
▽今月の活動
:前半は、先月に姉妹王国から受けた“米封鎖政策”によるダメージ回復のため、米の確保に務める。後半は、リレイル・リレイア女史より任務を引き継ぎ、姉妹王国への経済攻勢を続ける。

○ティエス・エーヌ(ナーラダ/男/37)
:昇竜会幹部。昇竜会文化部長。ウォウル中央報道局局長。KKK代表。
▽今月の活動
:「バルス」との文化交流活動。全国各地のお茶の間に、ニュース&娯楽をお届けする。

○ゲーマル・リング(ナーラダ/男/不詳)
:昇竜会幹部。昇竜会学術部長。ウォウル中央図書館館長。レギュラー出演番組あり。
▽今月の活動
:「キーサ王国・イリス王国」との学術交流活動。人気番組「あなたの知らないセルフィア〜」に出演。

○ラージャ・サリア(ナーラダ/女/29)
:昇竜会幹部。昇竜会情報部長。昇竜会旅人案内所所長。ウォウル学問所冒険科術士系主任。使鬼。
▽今月の活動
:ナーラダ全土の情報収集・事件調査活動。冒険実習生の監督。「蜘蛛会・東精会」との情報交換協力。

○ナディル・シャア(ナーラダ/男/31)
:昇竜会幹部。昇竜会保安部長。昇竜会旅人護衛隊隊長。冒険科戦士系主任。ウォウル=ナーガ司祭。
▽今月の活動
:ナーラダ全土の治安維持・安全保障活動。冒険実習生の監督。「アシュラ・ガルーダ神殿」との協力。

○ミスキワ・カフレイ(ナーラダ/男/31)
:昇竜会レスフィーナ支部長。昇竜会レスフィーナ駐留艦隊提督。レスフィーナ=ナーガ司祭。
▽今月の活動
:北セルファニア湖の治安維持・安全保障活動。「セルファニア湖湖賊組合」の監視。

○ゼブル・ケルビム(ナーラダ/男/38)
:昇竜会ミュール支部長。元ライル社商人。
▽今月の活動
:ミュール=ナーガ神殿と協力し、中邑ライアードの被害調査・周辺難民の世話・建設資材の調達。

○ラル・ランヴァ(ナーラダ/男/42)
:昇竜会ヴェルーダ落人邑支部長。仁義に熱い漢。
▽今月の活動
:ヴェルーダ=ナーガ神殿と協力し、旧ヴェルーダ邑廃墟の地気調査。また、現地で「帰らずの森」と呼ばれる樹海(地気の乱れにより発生)に大規模な野盗・怪物の集団が潜伏・生息しているとの噂あり。

▼昇竜会会長・活動報告―――――――――――――――――――――――

○ルシャナ・シルキーヌ(ナーラダ/女/21)
:昇竜会会長。昇竜会立ウォウル学問所理事長。ナーガ大司祭。
▽今月の活動
 1日:レスフィーナにて「セルファニア湖の戦・一周忌慰霊祭(一般人自由参加形式)」を執り行う。
 上旬:ウォウル王の求めに応じて、ウォウルにて同慰霊祭を執り行う。
 上旬:カガト・デュオとナーラダ・ヴィレクの会談を仲介。
 上旬:ナーラダ各地の視察行。
 中旬:「北蛮関攻防戦」「ライアードの虐殺」が勃発。すぐさま「戦争被害対策本部」を設置すると、各地のナーガ神官を召集、戦争被害者の救済に当たらせる。また、星薬会・ディリーパ神殿・    ソーマ神殿に協力を要請、人道上の見地から「国境なき医師団」を組織し、自ら被害者の治療    に当たる。その理念―――天災、人災、戦争など、あらゆる災害に苦しむ人々に、種族、宗教、思想、政治のすべてを越えて、差別することなく援助を提供する―――を全土に宣言する。
 下旬:被害者救済が一段落つくのを見届けると、再びナーラダ各地の視察に出発。
 末日:ウォウル到着。今月の会長業務をまとめてこなす。

▼昇竜会ウォウル本部・会長室の外――――――――――――――――――

 タスタント:…………
    テス:……あ、タスタント様、おはようございます。  タスタント:うむ。テス、ひとつ聞くが、シルキーヌお嬢様はきちんとお休みになられておるかな?     テス:……いいえ、毎晩徹夜をなさっています。おそらく仮眠以外はとられていないはず……  タスタント:ばかもん! まったくおまえは何をやっているのだ。健康状態に気遣うのも侍女として        の務めであろう! 何のためにわざわざお側に置いてると思っているのだ?!     テス:も、申し訳ありません。……しかし、シルキーヌ様が自分は大丈夫だから、今日中には        全ての仕事を片づけたいから……と、そうおっしゃいましたので……  タスタント:馬鹿者っ!! そのように言われても敢えてお止めするのが、おまえの役目なのだ!!     テス:は、はいっ! 申し訳ありませんでした!  タスタント:……それで何日くらい、あのような状態なのだ?     テス:は、はぁ……今日でかれこれ4日がたちますけど……  タスタント:なに、4日だとっ?! 4日間もあのように不眠不休で仕事を続けておられるのか?!     テス:は、はい……  タスタント:この、大馬鹿者っ!!!     テス:ううっ、申し訳ございません……  シルキーヌ:(登場)―――タスタント!……もうそのへんにしてあげてください。悪いのはむしろ        私の方です。彼女は何度も止めようとしました。しかし、私が無理を言ってわがままを        押し通したのです。だから彼女を責めないでください。よろしいですね?  タスタント:はっ。     テス:い……いいえ、悪いのは私の方です! シルキーヌ様は……  シルキーヌ:テス、もういいのよ。……いいえ、むしろあなたには謝らないといけないわね。     テス:……えっ?  シルキーヌ:この4日間、あなたもほとんど眠っていないのでしょう?……心配かけちゃって本当に        ごめんなさい。     テス:そ、そんな……私が勝手にしたことです。……でも、どうしてそれを?  シルキーヌ:ふふっ、あなたの顔を見ればわかるわ。……ほら、目の下に隈ができてる。     テス:ええっ?! や、やだ……私……  シルキーヌ:ふふふっ……ごめんなさい、からかったりなんかして。でも、それを言ったら私の顔の        方がもっとひどいわね(笑)。肌はカサカサだし、髪はボサボサ。……さすがにこんな        格好じゃ皆の前には出られないわ(笑)     テス:そ、そんなことないです! シルキーヌ様はとても素敵です! その……なんていうか、        見ただけでとてもお美しいのに、内側にも真の強さを感じるっていうか……すごく格好        いいです! 私、憧れちゃいます!  シルキーヌ:ふふ、ありがとう。でも、あなたもとても魅力的よ、テス。もっと自信を持って、ね?     テス:は、はい! ありがとうございます!!  シルキーヌ:……とはいえ、やっぱりこんな格好、皆に見せちゃまずいわね。―――タスタント!  タスタント:はっ。何でございましょう、お嬢様?  シルキーヌ:残っていた仕事は全て片付きました。それと今後予想されうる事態、及びそれへの対処        の仕方についても指示しておきました。ハルナ・コウ本部長に渡しておいてください。  タスタント:はっ。  シルキーヌ:私はこれから休息をとります。その後、ナーガ神殿にて祭務を執り行います。  タスタント:はっ。  シルキーヌ:それが終わったら、ナーラダ各地の視察に出発します。旅の準備を整えていてください。  タスタント:はっ? また旅立つのですか? 前回の視察を終えて帰ってきてから、まだ5日間しか        たってないというのに?  シルキーヌ:べつに帰ってきたというつもりはありませんよ。ただ溜まっていた仕事を片づけるため、        ウォウルに立ち寄っただけです。私たちナーラダ族はいわば家族のようなもの。そして        このナーラダの地こそが私たちの家なのですから。少なくとも私はそう考えています。  タスタント:はぁ……わかりました。しかし、このタスタント、ルシャナ家の執事としてこれだけは        言わせていただきますぞ。……お嬢様、くれぐれも自身のお身体にだけは、お気をつけ        くださいませ。あなた様の身に何事かありましたら、わたくし、亡きヴィヴェイス殿に        申し訳が立ちませぬ。  シルキーヌ:大丈夫。こう見えても体力には自信があります。いつも鍛えてますからね。……それに、        それほど無茶なことはしてませんし。  タスタント:―――1ヶ月分の仕事を4日間で片づけること、それを無茶と呼ぶのです! まったく。  シルキーヌ:ふふっ、ごめんなさい。今後は気をつけます。心配してくれてありがとう、タスタント。  タスタント:……いえ、わたくしめは執事として当然のことを申し上げたまでにございます。  シルキーヌ:テス、あなたも準備してて頂戴ね。休む時間もなくて本当に申し訳ないのだけど。     テス:い、いえ、私は全然大丈夫です。……それよりも、シルキーヌ様の方こそ本当に大丈夫        なのですか?  シルキーヌ:ええ。さっきも言ったように、体力には自信がありますから。……ね?(←力こぶ)         それに各地には災害や戦争で傷つき苦しんでいる人々が大勢います。今この瞬間にも。        それを考えれば、ゆっくり休んでいる暇はないわ。…………って、張り切り過ぎるのも        よくないんだけどね、ふふっ。(←穏やかだが強い意志を感じさせる眼差しで微笑む)

▼モノローグ――――――――――――――――――――――――――――

テス:(……そのとき私は、シルキーヌ様の背後に“竜”が立ち昇るのをたしかに見ました。そして思いました。―――ああ、この人の魂は、やはり“戦士”なのだ―――と。……私は暫しの間、時が経つのも忘れて、その神々しい光景に見つめ入っていました……)

▼昇竜会レスフィーナ支部――――――――――――――――――――――

イクシオ:…………
カフレイ:おや、書記官、何を読んでいるのかね?
イクシオ:あ、これは提督。ああ、これですか? 妹からの手紙ですよ。……どうやらあいつ今、シルキーヌ様にゾッコンのようでして。間違った道に進まぬかと、兄として要らぬ心配をしているのです。
カフレイ:……心配なのは君の方だよ、書記官。

―END―   


《あとがき》
 昇竜会について。
 とむサブマスターとも話してますが、組織としての昇竜会の方針は、ナーラダ経済制覇!!(笑)
 いわば、ナーラダにおける「蜘蛛会」を創り上げること。だから真の敵は「蜘蛛会」なんです。
 20年後、ヴィレク君がナーラダの覇権を握るころには、昇竜会はナーラダ地域においては蜘蛛会に凌駕するほどの勢力となってるはず。この昇竜会の存在が、五王国時代におけるウォウル王国の隆盛につながる、と。
 ちなみに、ウォウル王国、スィスニア王国、東邑同盟、姉妹王国といった「政府系勢力」に対しては「中立」の立場をとります。よーするに、「昇竜会・在野・賊」勢力は「アンダーグランド」な勢力である、と。だから基本的に「政府系勢力」とは話が交わらないわけです。その点、自由にいろんなことができますね。
 そんなアングラな存在である「昇竜会・在野・賊」勢力ですが、それぞれ「ロウ・ニュートラル・カオス」に対応します(笑)。……ってことは、「テンプル@イト」ならぬ「ナーガ神官戦士団」率いるシルキーヌは“メシア”?(←メガテンネタ(笑))……いや、私の個人的な見解では、シルキーヌのモデルは某「聖闘士☆矢」に登場する“アテナ”城戸沙織です(笑)。そのうちシルキーヌを守護する「聖闘士」ならぬ「竜戦士」が現れるかもしれません。……ごめん、ウソです(笑)。古いネタでした。

(……勝手なことばっか言ってゴメン(笑)>とむ)



《全然関係ない話だけど》
 ここからは余談ですが、皆様は「20年後の諸英伝(独立暦420年のセルフィアー)」は一体どうなっていると思いますか? 私のPC、ファン・フェイロンさん(55)の場合、おそらく現役で交易商人を続けていると思いますが、世界情勢は果たしてどうなってんだろ? キーサ王国やイリス王国の場合、このままいくと部族統一を成し遂げてそうですよね。レディアVSウィルドの戦いは決着がついてるかな?(個人的には“天才軍師”ヴァル=ヴァロヌの活躍が気になる)。バルスは芸術の邑としてちゃんと軌道に乗ってるでしょうか? 星薬会はあまり変わってなさそうだ。20年て言っても妖人にとっては「一瞬」だしね。蜘蛛会……そういや独立暦425年には会長交代だっけ?エイラ会長は何を思っているかな? …………などなど、勝手に妄想しておりますが、考えてるだけで楽しいですね。
 今回こんなことを思いついた理由は、サガ・フロンティア2というゲームをやったせいです。ご存じスクウェアのRPGですが、100年間の戦乱の歴史を、表側と裏側、両者の視点から読み解いて行く、というシステムがとても斬新に感じました(あるキャラが20年後にはああなって登場したりして)。
 そこでふと考えたんですが、ザラスの企画として「諸英伝100年間の年表」を創るというのはどうでしょうか? 第9回会誌のクラウ・ハデンの個人年表もとても面白かったですが、大きな歴史の流れを「年表」という形で考えてみるのも面白そうです。玉英さん、一つどうでしょうかね?

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