会誌-「第10回会誌別冊 ナーラダ戦記」

■ ナーラダ・エリア 東邑シナリオ『諸雄乱立』

〜独立暦402年火の月〜


 1:竜爪関にて

 竜爪関という砦がある。ミュール川、ヤーダカ川、ターヌ川の結節点の北岸に位置することからもわかるように、スィスニア方面最前線であり、もちろんこんな物騒な所の守備を任されているのは奴等しかいなかった。
「カイル殿、なんで俺達までこんなことせにゃあならんのよ」
「仕方ありませんアーヴィング殿。一刻もはやく城壁を修復せねば、折角与えられた城が泣くというもの」
 廃城だった竜爪関の修復は急ピッチで行われていた。アークライト・アーヴィングやディグ・カイルは、その指揮をとっている。というか、自ら肉体労働に勤しんでいた。
「訓練と思えばいい」
「……カイル殿、アンタいい奴だよ」
 その向こうでは、赤頭のナーズ・ハクユウがとてつもなくデカイ石を一人で運んでいる。FI79を誇る彼は黒竜旗軍の中に於いても随一の怪力であり、軍内腕相撲選手権で全焼、いや全勝したバケモノであった。
「おらおらおらーっ!!軽いぜこんなもんはよーっ!!」
「……………………カイル殿」
「何か?」
「アレは人間すか?」
「……確かメール族だったと思います」
「…………メール族でもないと思うのですが」
 呆気にとられるアーヴィングとカイル。
 一方、ハクユウは益々絶好調で働きまくっていた。そんな彼がふと振り返り、後ろの優男にいちゃもんをつける。
「おいハデン、楽してないで働け」
「あいにく、頭脳労働者なもんで」
「おめぇ力無ぇからなあ」
 苦笑する二人の所に長官ヴァシュナ・シリルがやってきた。この修復作業の中心に居るのは三人。シリル、ハデン、そしてライル・カミナである。カミナはスウィズの城壁建設にも携わっており、その時の最新築城技術やノウハウを役立てているのだ。
「ハデン殿、順調なようですね」
「まだ戦闘には使えませんがね。ところで長官」
「なにか?」
「私は今日の夕刻から数日留守にします」
「随分急ですな!?何かあったのですか?」
「エイゲンからいろいろ面白い報告を受けているので」
「こいつ、昔から行動は急なんすよ」
 横からハクユウが口を挟む。
「わかりました……しかし、貴方が居なくなるとまた私の仕事が増えます」
 笑いながらシリルが言う。黒竜旗軍に軍事頭脳派はシリルとハデンの二人しか居ない。早急な人材発掘の重要性は二人が一番痛感していた。
「その人材も探してくるつもりです」


 2:凸凹コンビ

「来たぞ!あれがシオンとジュノか!」
「あのシオンという男、とんでもない槍の使い手だそうだぞ!」
「シオンだけではない!ジュノも見た目はパッとしないが、あの頭には万物諸事が詰まっていると聞くぞ!!」
 ターヌ邑の邑宰邸の前に、人だかりができていた。一般庶民にまじって身なりの整った紳士、体格のいい男達が沢山居る。彼らは東邑最大のターヌに仕官するためガルボアに自らを売り込みにきたのだが、ある二人組のために果たせずにいた。
 その二人が姿を見せる。一人はテール・シオン。21歳のトゥー族で短髪だが秀麗。武芸に通じ鋭い眼光を放っている。
 もう一人はグード・ジュノ。24歳のメール族だが貧弱で肌の色も淡い褐色。髪は丁寧に三つ編みされており、やや童顔。臆病で体も弱いが頭と運は非常によいらしい。
「貴殿等の話にはまとこに感服するところが多い。だが、わからぬのは貴殿ほどの名が何故今までこのガルボアの元に届かなかったのかということだ」
 ガルボアは面接でそう言った。
(己の判断を識者の評に委ねる人か)
 ジュノとシオン(特にシオン)は心中でそう思った。口に出してはこう言う。
「我等は今までどこにも仕えずただ諸邑を巡っておりました故。いずれ我等の噂はガルボア殿の元にも届いてまいりましょう」
「……というと、儂の元には仕えぬと言うのか?」
「天命を託す相手を簡単に決めるワケにはまいりませぬ」
「このガルボアを三日にわたって煩わせておきながら、なお儂を品定めするか!首を刎ねるぞ!!」
 ジュノが思わず目を瞑る。シオンは彼をかばい、ガルボアを冷ややかに見据えた。
「邑宰ともあろう方が感情のままに人を殺めたとあっては、門前の士は皆、四散するでしょうな」
 その物言いは完全に人の神経を逆撫でするものであった。シオンは、希にみる毒舌家なのだ。うしろでジュノが冷や冷やしている。
「何だと……!!」
「東邑の主と聞いてどんな方かと来てみれば、この程度ですか」
「この者の首を……」
 ガルボアが言いかけたその刹那、シオンは石火のはやさで抜剣していた。一瞬でガルボアの胸に切っ先を突きつける、かに見えた。
「……………………!!」
 衛兵は動いていない。シオンは、ただ右手を出しただけだった。ただ一瞬だけ凄まじい殺気をガルボアにのみ放ったので、彼には抜剣したように見えたのだ。
「……名をリューンの下に残しますぞ」
 ドスの効いた声でシオンが言う。
「このジュノとシオンを殺した無知なる者として、後世に悪名のみを残しますぞ」
 一言も発することのできないガルボアを後目に、シオンはジュノを促し退出した。

「シオン!これで相手を怒らせたの何度目!?その毒舌はなおせって、いつも言ってるじゃないか!!」
「っせーよ。俺は悪くない。あいつが馬鹿なだけだ」
「ああ〜〜〜〜〜どうしよう〜〜〜〜〜〜、また就職できないよう…………」
「あんなとこ行ったって、意味ねえ。俺達の才は発揮できんぜ?」
「じゃあ、どこならいいんだよう」
「ターヌはああだ。ナヴァルはターヌの腰巾着だし、ミュールは人材がいるらしいがトップは無能。リュシーはまだ門閥の力が強いし、ヤーダカは何も聞こえん」
「やっぱり、黒竜旗軍がいいんじゃない?弱小だけど、それだけに変なプライドがないし、大化けする可能性はあると思うんだけど」
「……ま、お前がそう言うのなら、そこに行ってみるか」
「ありがとう、シオン」
「気にするなよ、ジュノ。俺達の為だ」


 3:若き虎達

 ハデンはファン・エイゲンとミュール邑で落ち合っていた。エイゲンは黒竜旗軍の幕僚であるが、クラウ・ハデンの個人的な部下でもあった。そして、本人は今でもハデンの役に立ちたいと思っている。
「……それで、近いウチにスィスニアが出兵するのはほぼ確実というわけだね」
「はい。大規模な動員令がかかっております。一万は下らないでしょう。標的は、おそらくライアード邑かと」
 ライアード邑とはスィスニア王国と東邑同盟との境界線に位置する中邑である。その位置関係から双方の誘いを受けていたが、ウルクの戦いで東邑同盟が勝利したことによって同盟への帰属を決定した。もちろん、これはリューンを怒らせた。
「ふむ……エイゲン、この度の軍事行動はかなり“派手”なものになるだろう」
「と、おっしゃいますと?」
「たかがライアード一つを落とすのに一万を超える軍は必要ない」
「東邑連合軍とのいくさを想定しているのでは?」
「いや、おそらく東邑は動かないとの確信があるはず。もし東邑とのいくさを想定しているなら、出兵するのは今ではないと思う。にもかかわらず、これだけの兵力……何か、とてつもないことをやるのでは……」 
 それっきり、二人は黙り込んでしまう。リューンがいかに常識外れで破天荒か、彼らは身を以て体験していた。
「それはそうと」
 思い出したようにエイゲンが口を開いた。
「クルーゲ・ハインツとクライスト・クナフの話はご存じですか?」
「邑宰の嫡男とその親友。若く気概に溢れ聡明だと。実際に会ったことがないので何とも言えない」
「どう思われますか?老臣達からのウケはよくないそうですが」
「エイゲン、古くからよく言うだろ、猫と虎の子はよく似ている。しかしそれを混同してはならないと……」
「では、彼らは猫か虎か……」
「会ってみたいな」
「お会いになりますか?」
 ハデンは少し驚いたような顔をする。
「できる?」
「旧ライル社のケルビムという方を覚えてますか?あの方が今、ミュールを中心に活動してまして、クルーゲ家にも出入りしているそうです」
「成る程」
 ハデンは満足そうに頷いた。正直、エイゲンがここまで思考を巡らせ調べているとは思ってなかったのだ。

「ハインツ!ハインツ、居るか!?」
 ミュール練兵場に張りのある声が響く。長身、銀髪の若者が剣を持ち律動的な歩調で闊歩している。
 彼の名は、クライスト・クナフ。トゥー族でありながら若くしてミュール募兵尉になった男である。冷静な判断をする男で文武の均衡が非常に高いレベルでとれている。
「ここだ、クナフ!」
 一人の兵士と剣の稽古をしていたナーラダの青年が手を振った。非常に整った顔立ち、かなりの美形である。美形といっても、決して女々しい容姿をしているワケではない。目元は鋭く、気性は闊達で覇気を感じさせる。ミュール邑宰であるクルーゲ・ウィリバルトの嫡男、名をハインツ。現在ミュール兵吏丞。
「ハインツ、また訓練か!落ち着きのない奴だ!」
「ハハ、この乱世だ!体がうずうずしてしょうがないのよ!」
 そう言ってまた剣を振るハインツをクナフは目を細めて見た。
 この二人、種族こそ違えど10年来の親友である。ハインツはミュール邑宰家の嫡男、クナフは商人の子だった。知り合ったきっかけは目が合った合わないの喧嘩。結果は痛み分け。以来、まったく身分の違う二人だったが妙に気が合い10年以上ものつき合いを続けている。
(体がうずくか……このクナフも同じよ)
 彼も剣を取りハインツの前に立つ。
「おおっ!クナフ!」
 真剣で本気で斬り合う。一歩間違えれば大事だが、その緊張感が心地よい。
(ハインツよ、東邑は今膠着している。だがこれは過程にすぎん。変化は一瞬にして顕れよう!)
(クナフ、お前は私の友であり、師であり、右腕であり、そして軍師になる男だ!しかとその変化を見極めよ!!)
 クナフもハインツ程の美形ではないが、シャープで秀麗な容姿である。この二人が並んで歩き、語り合い、剣を振るい、騎乗する姿は兵達の羨望の的となっている。そして、彼らの人気は確実に兵吏長を上回っているのだ。
「せいっ!!」
「かああっ!!」
 鋭い気合いと共に金属音が響く。二人の剣は交差した状態で止まっていた。
「……ここまでにするか」
「ああ。いい汗がかけた」
 火の月の日差しは暑い。全身汗で濡れている。しかし、彼らにとってそれは心地よかった。
「そういえばハインツ、君にまた恋文が来たそうだが」
 手ぬぐいで汗を拭き、クナフが笑いながら切り出した。ハインツは肩を竦める。
「私はまだ誰かと付き合うつもりはないよ。クナフ、お前に譲ろうか?」
「遠慮する。充分間に合ってるからな」
 ハインツは苦笑いした。クナフは、よくいえば恋愛経験豊富、悪く言えばナンパヤローとして有名だからだ。
「そのうち女に刺されるぞ」
「いや、いい死に方ではないか」
 ハインツ、クナフ、彼らを取り巻く兵達が一斉にどっと笑った。クナフの奇妙なポリシーとして、「他人の女には手を出さない」というのがある。その為比較的トラブルが少なく(無論皆無ではない)、またこの堂々とした(しすぎた)性格のため若者からは好意的に見られているのだ。年寄りには嫌われているが。
「しかしハインツ、君も奇妙な男だ。その才幹と容姿をもってすれば、女などよりどりみどりだろうに」
「いや、女性は嫌いではない……が、今は、な」
「もっと妹君の側にいてやりたい、だろう」
「クナフ!」
「このシスコンめ。ま、妹を大事に思うのはいいがな」
「当たり前だ。兄として、妹を気にかけるのは当然のこと。元宵もそう言っているではないか。……元宵?」
「ハインツ、どうした?……っと、そうこう言ってるウチにソナタ殿が来たぞ」
 クナフが指さした先にバスケットを両手で抱えた少女が姿を見せた。
 クルーゲ・ソナタ、年齢18。本来活発な少女だったが、体が弱いためあまり外を出歩くことが出来ないらしい。
「果物と飲み物をお持ちしました。皆様、どうぞ召し上がってください」
 ぺこりとおじぎする姿がかわいらしい。兵達が一斉に萌えーっとしている。彼女はミュール邑でも相当な美少女、しかも邑宰家でありながら特権意識が無く素直なため皆に可愛がられており、特に兵達の間ではほとんどアイドルと化している。
「さ、クナフ様、どうぞ」
 ソナタがクナフにリンゴを差し出す。
「これはかたじけない」
「ところでソナタ、体の調子はいいのか?」(←注:ハインツお兄ちゃん)
「クナフ様、お茶もありますよ」
「いやー、悪いっす」
「……ねえ、キミタチ、ボクの話きいてる?」(←注:ハインツお兄ちゃん)
「あれ、お兄ちゃん、いたの?」
「……ソナタ、ワザとだな?ワザとだろ?」
「ハインツ、ソナタ殿はいい娘だな。もらっていいか?」
 途端にハインツの顔色が変わる。
「クナフ、きさまぁ……」
「じょ、冗談だよ、お兄ちゃん……」(←注:声色を変えたクナフ)
「お兄ちゃんって言うな、気持ち悪い!」 
「もう、お兄ちゃん、クナフ様と喧嘩しないでよ。みっともない」
「そうだ、ハインツ。モタモタしてるとお前の食べるモノが無くなるぞ」
 見ると若い兵達はムチャクチャ遠慮なくソナタが持ってきたものを食べている。
「あ、お前等、私も分も残せぇっ!!」


 4:狂と凶

「遅いじゃないか……カッシュくん。待ち合わせに遅れるなよ」
 草むらの中、夕日を背負い、眠そうな表情のナルスの青年がやや不満そうに言った。とは言え、口調はおっとりしている。
「済まないね、仕事をしていたら遅くなってしまった」
 黒服のナルスはそう言うと、ゆっくり辺りを見回す。数名のバラバラ死体が転がっている。
「……相変わらずの切り口だね。とても綺麗で……容赦ない」
 カッシュは、視線を逸らし、少し遠い目をした。
「……シザもそうだった……だね?」
 カッシュが口を開きかけると同時に、彼と対峙しているナルスが言った。一瞬、カッシュの表情に陰がさしかかったが、それはほんの刹那の間のみであった。
「トリック、要件を聞いてなかったね」
 トリックと呼ばれたナルスは、やや眠そうに小さな欠伸をすると、軽くカッシュの肩を叩いて言った。
「友達として、君の力になりたいと思ってさ」
「友達、か……」
 低い声で呟いた。彼は、友人を何人か亡くし、或いは、自らの裏切りという形で失っている。
(ハデン君、ハクユウ君、カイル君、カミナ君、ルヴァログさん、ナタケ様、そしてレガルト、シザ……)
「私に友は必要ない」
「さみしいことを言う」
「トリック」
 狙いは何だ、と言いかけてやめた。聞いて答える相手でもない。そんな意味のない質問は彼はやろうとは思わない。代わりにこう言う。
「君には私の直接指揮下になってもらう」
「そうこなくっちゃ」
 二人がそこで踵を返そうとした時、抜剣した数人が物陰から飛び出して二人に斬り掛かった。
「裏切り者め、死ね!!」
「まだ居たのか。カッシュくん、譲る」
 トリックはつまらなそうに欠伸をした。
「やれやれ。標的は君じゃないのか」
 右腕が動いた。
「冥土の土産にアドバイスだ。殺すときは、声も発さずに殺すべし」
 半瞬の後、血煙の中、カッシュとトリックのみが地に立っていた。
「技の名前は闇殺(やみごろし)だったっけ?相変わらず冴えのある技だなあ」
 通称『弟切』のトリックと呼ばれる、カッシュと同じ『三振り太刀』を抜けた男がターヌ特務部隊『刃黒(はぐろ)』に属することになったのはこの時であった。正史には決して記されることのない、闇の動きである。


 5:ノン・ストップな男達

 今、ハデンとエイゲンの前にヒゲの似合うナイスミドルなおやじがいる。旧ライル社商局所属、ゼブル・ケルビム。ライル社崩壊後は、このミュールを拠点に活動、現在上り調子な男である。
「や、久しぶりだな、お二方」
 まずは軽く挨拶。旧知の間柄であり、ケルビムが気さくな性格をしているだけに、場によそよそしさはない。
「……ハデン君、少し疲れてないかな?」
 ふと、ケルビムが少し首を傾げていった。
「特に、変調は感じないけど?」
「ふむ……ちょっと顔色が悪いような気がしたんだが……まあいい。で、ご用の向きは?」
「貴方から見てミュールの情勢はどうだろう?」
 ハデンが問いかける。ケルビムは、見事な顎髭(口髭も見事だが)をなでながら言った。
「察するに、兵吏丞と募兵尉の評判を確かめに来たようだな」
「然り」
「……知っての通り、おれはクルーゲ家を顧客としている。それはあの二人に期待しているからだ」
「会ったことは?」
「もちろんある。ハインツ殿は、生まれながらに人の使い方を知り、若く気概に溢れた方だ。挫折することを知らない。それだけに、微塵の危うさをも持っているな」
「クナフ殿は?」
「活動的なところはハインツ殿に似ているが、沈着さも併せ持っている。知と勇の均衡が取れ、ミュールで彼を上回る人物は居ない。そして、この二人の絆は非常に強い」
 ケルビムの口から紡ぎ出される人物評をハデンとエイゲンは興味深く聞いていた。そして、一旦途切れたときに本来の目的を言う。
「会ってみたい」
 ケルビムとしても予想していた発言のようである。すぐさま返答が返ってきた。
「おれが仲介しよう。ただし、条件がある」
「何か?」
「黒竜旗軍にもおれの“商品”を卸させてもらいたい」
「商品……とは何か、聞いておく」
「今は情報がよく売れる」
 ハデンの目が油断無く光ったのはこの時だった。
「品質にもよる」
「今は買い手にも鑑識眼が求められている」
「成る程、それは正しい認識だな。で、ついでに聞くが、情報の次に売れるのは何だ?」
 若干の沈黙。しかし、ケルビムは躊躇無く答えた。
「武器だ。もう少しで、武器が大量に必要になってくる。いや、武器だけじゃない。糧秣、資材、それに……」
 ケルビムは対面する青年道士が軽く右手を挙げて制したので口を閉ざした。
「わかった。すぐに長官の承認を取り付ける。三日待て」
「は、早いな」
「行動は早いにこしたことはない」
 その時、ケルビムの執事が部屋に入ってきて、何事か耳打ちし始めた。
「………………そうか、動いたか」
「もしや」
「ハデン殿、スィスニアが動いたらしい。ライアードだ」
 聞くや否や、彼らは一斉に立ち上がった。
「奴の行動は迅速を極める。エイゲン、竜爪関に戻るぞ!」
「はいっ!」
「ケルビムさん、会見の話はまた後だ。だが、商談の件は承認を取っておく」
「かたじけない」
 それだけ言うと、二人はケルビムを残し、退出していった。
「……ふう、どいつもこいつも行動が急な連中だな。それはそうと、ハデン君、途中からなんか変わったような気がしたが……まあいいか。おれも動かねばならないんだ」

「あの……ハデン様、ですか?」
 帰途の途上、エイゲンが遠慮がちに訊ねた。
「む……いや、いつの間にか人格が変わっていたようだ……」
「シュミット様ですか。口調が変わったので驚きました」
「うむ、次からはあまり急に変わってしまわないように心掛ける」
「それにしても、あのケルビムという方、かなりの知恵者のようですね」
「ああ。ああいう男は敵に回すべきではないぞ」


 6:小細工T

 ナグモ・リューンが一万二千の軍を率いてスィスニアを発ったのは火の月16日のことである。目標はライアード邑。この邑の動員兵力は500。どう見ても敵うはずはない。ライアードは東邑同盟へ援軍派遣を要請した。だが……。
「それでは、ガルボア殿はライアードを見捨てるというのか!!」
 ここは黒竜旗軍の会議室。アーヴィングが怒声をあげている。
「何のための同盟か!運命共同体という演説を舌の根も乾かぬウチに裏切るのが奴のやり方か!」
「ガルボア殿は、スィスニアの注意がライアードにある隙を衝いて竜角関を陥れるおつもりらしい」
 ため息をつきながらシリルが言う。
「無謀です。その程度で落ちるなら誰も苦労はしませんね」
 シェル・ラティアの言に一同頷く。
「で、ターヌは我等に何を言ってきたのです?」
 ハデンが議論の方向を本来の向きに戻した。
「この度の出兵に五百の兵で協力せよ、だそうです」
「五百?少ないですな」
「今回の主力はターヌ軍とナヴァル軍。自分達が主役になりたいようです」
「成る程。ナヴァル邑宰カカヌはガルボアと仲がいい。そういうことですか」
「で、問題は誰を派遣するか、ですが……」
 シリルは一同を見回す。すぐに、カイルが手を挙げた。
「私が行きます」
「カイル殿であれば」
 と、異論は特に出なかった。
「私も同行しましょう」
 ハデンが言う。これにも異論は無い。
「オレも行きたいっす」
 これはハクユウの言。
「でもハクユウ、兵持ってないだろ」
 ハデンが指摘する。
「ま、まあ、そうだがよ……」
 厳密に言うと、ハクユウに自分の兵はある。ただそれは在野の賊であって、召集をかけて集まるのを待たなければならない。
「だったらハクユウ、俺の兵を貸すぜ。好きなだけ連れていきな」
 アーヴィングが言った。驚くハクユウ。
「アーヴィングのダンナ、いいんすか!?」
「かまわんさ。お前さんなら安心して貸せる」
「ありがてえ!ダンナぁああああ!!」
 どうも、アーヴィングとハクユウはいつの間にか意気投合していたらしい。竜爪関修復作業を共に進めるウチに友情が芽生えたようである。
 この後、会議は細部を詰めて終了、散会した。シリルとハデンのみがその場に残った。
「ハデン殿、この戦い、どう見ます?」
 ハデンは、手で口元を覆いながら思考する。
「さて…………東邑全体に関わる事態になるかもしれませんな」

 一方、同様の要請はミュール邑にも来ていた。
「クナフ、くれぐれも気を付けろよ」
「心配するな、ハインツ。ターヌやナヴァルの方が戦いたがっている。俺の出番はないさ」
 募兵尉クライスト・クナフ率いる五百の兵が東邑軍に合流すべく出陣する。
「すまんな。お前にばかり面倒なことを押しつけてしまっている」
「かまわんさ」
 クナフの元に一人の少女が近付いてくる。誰であろう、クルーゲ・ソナタ。
「クナフ様、どうかご無事で」
「ソナタ殿、わざわざお見送りいただきありがとうございます。このクナフ、必ず無事に戻って参りましょう」
 そう言うと、颯爽と身を翻し、クナフは出立した。
 ハインツは、クナフをいつまでも見送るソナタを見てやや複雑な顔をした。
 彼女の視線は、真剣で、僅かに熱が感じられた。

 東邑同盟軍が集結したのは20日である。総勢五千の軍勢が竜角関を目指した。
「ガルボア殿、待ちかねましたぞ」
 ナヴァル邑宰ナヴァル・カカヌは満面の笑顔でガルボアを出迎えた。
「カカヌ殿、此度の戦、儂は貴殿の力を頼りにしておる。我等で竜角関を落とそうぞ」
 固く手を握り言う。カカヌは、東邑同盟の盟主が自分を頼りにしていることを単純に嬉しく思っていた。ガルボアに裏表があるなどとは夢にも思っていない。
 今回の軍編成は、ターヌ軍二千、ナヴァル軍二千、ミュール軍五百、黒竜旗軍五百、計五千である。スィスニア主力がライアードに展開している今なら竜角関を落とせるとガルボアは見ていた。
 だが…………。


 7:小細工U

「……今、何と申されたかな、クナフ殿」
 東邑軍の軍議は険悪なムードに包まれていた。
「勝てるはずのない戦を行うのは無謀と申したまで」
 ナヴァル・カカヌとクライスト・クナフが激論を戦わせている。発端は、クナフが撤退を主張したことにある。彼は言う、救いを求めたライアードを見捨ててスィスニアの拠点を攻撃することに、何ら大義はなく、さらに竜角関自体が五千程度の兵で落とせるほど脆弱ではない。このままでは同盟は大義を無視したばかりか敗北という恥の上塗りまでやってしまうことになる。
「青二才が、臆したか!」
「……青二才ですと?」
 クナフは、努めて冷静に相手を説得するつもりでいた。しかしカカヌは勇ましい主戦論を唱えるのみで耳を貸そうとしない。いい加減、クナフもエキサイトしてきた。
 さらに気にくわないこともある。ガルボアとカカヌは、軍議に出ているものの、実際に戦場に出るわけではない。彼らは後方の本陣にとどまり、実際に軍を指揮するのは兵吏長なのだ。
「そこまでおっしゃるなら、ご自身が陣頭に立ちなされ」
「いや、それは……」
「臆されたかな?」
「きっ……」
 赤くなったり青くなったり忙しいカカヌは、勢いよく椅子を蹴って立ち上がった。クナフもそれに応じる。あわや、二人の殴り合いになろうかというその瞬間。
「やめぬか、お主等!!!!」
 場がし……んと、静まる。声の主は、ガルボアであった。
「カカヌ殿、貴殿は邑宰の身。軽々しく怒りをあらわにしてはならぬ」
「はい……」
 ガルボアに諭されては、カカヌは逆らえない。
「ミュール募兵尉殿、敵を警戒するお気持ちは儂にもようわかる。しかし、一度軍を出しておいて、あっさり退いては天下の笑い者になるというもの」
「いや、私が言いたいのは……」
「攻撃は決定したこと。異論を差し挟む余地はござらん。よろしいな?」
 クナフは何も言わなかった。あきらめたのだ。
 軍議は、ターヌとナヴァルの将達が中心になって進められ、夜半には散会した。

 同時刻。
「シオン……あの軍勢はなんだろね?」
「……五千はいるな。東邑同盟軍か?」
 凸凹コンビこと、グード・ジュノとテール・シオンは何故かまだ竜爪関に辿り着いてなかった。
「せっかくだから、見ていこうよ」
「……それでまた予定が狂うんだよな、ジュノ」
 苦笑いしながらもジュノの言うとおりにしてやるシオン。この二人、本当にいいコンビ。
 彼らは闇の中、東邑軍の陣に近付いた。どう見てもアヤしかった。案の定、見張りの兵に呼び止められる。
「おい、お前等、ここで何してる!」
 槍に取り囲まれるジュノとシオン。
「……なあ、ジュノ」
「なに、シオン」
「俺達って……けっこうマヌケだよなあ」
「……それは言わないお約束だよ……」
 彼らは、そのまま取り調べを受けるためハクユウの元に連行されてしまった。黒竜を模した軍旗が彼らを見下ろしている。
「じゃ、何でここらをウロついてたか聞こーか」
 まさか、「単に軍勢を近くで見たかったんですぅ」などと言えるわけがない。さて、どうしたものかとシオンが思案したその瞬間。
「あの……ボク達、この軍勢を近くで見たくて……」

―――――――アホォォォォォーーーーーーーッッッッ!!!!!!

 シオンの心の叫び。
 こんなフザケタ理由で納得してもらえるワケがない。これなら何も言わない方がよかった。シオンは頭を抱えてそう思った。だが……。
「ぷっ……クフフ……」
 ハクユウが俯いて、震えている。
「ギャーハッハッハッハッハッハ!!!!何だよ、もっとマシなこと言うと思ったら、こうか!バカ正直もいいとこだぜ!!」
「……おい、ホントに信じてるのかよ」
 思わずシオンが言ってしまう。
「邪気は感じなかったからなあ」
 ハクユウは、また豪快に笑った。
「ま、間者じゃねえならいい。解放してやろう」
「あの……」 
 縄を解かれたジュノが、遠慮がちに口を開いた。
「戦、始まるんですか?」
「ん、らしいぜ。ま、オレたちゃオテツダイだから軍の方針にはあまり口出しできないんだがよ」
「……この時期にここで集結……ライアードを救うのではないのですね」
「ああ…………」
 ハクユウは、苦い顔をした。彼としてもガルボアの判断には納得がいかないのだ。しかし、一介の漢である彼にどうこうする力はない。
「……気を付けて下さい……この戦、敗ぼ……」
「待った」
 陣幕の向こうから若い男の声がする。幕を払って姿を見せた。
「ハデンか」
(この人が……)
 ジュノとシオンが同時に視線を固定させる。
「君、名は?」
 ハデンがジュノに問うた。
「あ、あの、ジュノ……グード・ジュノです」
「ああ、君がそうか。ターヌの誘いを蹴ったそうだね」
「いや、あれは……」
「別に隠すこともない。それより、賢才のジュノ君、従軍してみないか?」
 この言にはハクユウも驚いた。
「おい!いいのかよ!第一危険だぜ!」
「そこの彼がジュノ君を護ってくれるんじゃない?」
 ハデンはシオンに微笑みかけていた。


 8:小細工V

 竜角関の戦い(“第一次”を冠することもある)が行われたのは火の月22日のことである。
「リューンの目はライアードに向いている!竜角関には僅かな兵しかいない!遮二無二攻めかかり、一気に陥れろ!!」
 東邑軍五千は竜角関の前面に展開している二千の守備軍に襲いかかった。多勢に無勢、守備軍はたちまち押されて後退する。兵を収容するためか、城門が開けられた。勝った、そう判断したナヴァルの兵吏長は突入を指示する。
 刹那。
「……ばっ馬鹿な!!!」
 城内から雪崩をうって大軍が姿を現した。
「愚かな東邑軍は罠にかかったぞ!」
「一万の軍で踏みつぶせ!!」
 口々に叫びながら、スィスニア軍は猛攻撃を始めた。実際は城内の兵力は五千なのだが、完全に浮き足立った東邑軍にそれを看破する余裕はない。
「カイルのダンナ!」
 敵兵を蹴散らしながら、ハクユウが馬を走らせてきた。
「ターヌ軍とナヴァル軍は早々に撤退しやがった!オレ達も退くぜ!」
「ハクユウ殿、黒竜旗軍はミュール軍と協力して敵を防げとの伝令が届いている」
「んだとぉ!?しんがりかよ!!」
「ハデン殿、策は?」
 傍らで冷めた表情をしている青年に声をかける。いつの間にか、鋭利な目つきに変わっていた。
(シュミットが、出てきやがったな……)
 ハクユウには、わかった。
「まずは、カイル殿の指揮能力で一時敵を足止めしよう。それと、ミュールの指揮官に伝令を」
 突然ミュール軍が後退を始めた。それを援護しようと黒竜旗軍がスィスニア軍の前に立ちはだかる。黒竜旗軍は、一瞬足止めに成功した。しかし勢いが、違いすぎる。たちまち押されそうになる。
「ハデン殿!」
「よし、もういいだろう。後退だ、カイル殿!」
 黒竜旗軍が退き始めた。スィスニアがかさに掛かって攻めかかる。しかし、突然それが鈍った。
「……狙い通りだ。クナフという男、さすがだな」
 一旦後方にさがったミュール軍が信じられない速度で反転してスィスニア軍の左側面に襲いかかったのだ。
「ハクユウ、行け!!」
「よっしゃあ!!!」
 ナーズ・ハクユウ率いる皆騎兵三百が黒竜旗軍から離れてスィスニア軍に突撃を始めた。この中にはカイルが麾下から割いた兵も含まれている。
「おめぇら!オレの背中を見て戦え!!」
 ハクユウは、とんでもなく強い。勇将の下に弱卒なし。鬼神のようなこの漢に率いられて彼の三百は凄まじい衝撃力を発揮している。
「オラオラオラオラオラーーーーーッッ!!!!」
 火の出るような突撃に、スィスニア軍の鋭鋒が鈍くなる。その隙に、まずミュール軍が全速で離脱を始めた。
「次、ハクユウ!!」
 ハクユウの兵は速度を落とさずに、スィスニア軍の真っ直中を突進、左側面から外に突き抜ける。
「てめぇら、逃げるぜ!!死にたくなかったら振り返えんなよ!!!」
 さんざん暴れまくった挙げ句、一目散に逃げ出した黒竜旗軍とミュール軍。スィスニア側の指揮官エルファ・ザドゥはそれ以上の追撃を禁じた。東邑軍を追い払うという目的を達したためと、主力を取り逃がしたからである。呆れるほど早い撤退と、しんがりの奮戦により、潰乱した割には東邑軍主力の死傷者は多くはなかった。もっとも、軍としての形は崩れかけてはいたが。
「ふう、これで何とかなったかな?」
 後方を振り返ったハデンは文字通り一息入れた。実のところ、いかに彼らが奮戦しようとスィスニア軍があくまで追撃を続けていれば、逃げ切ることはできなかったろう。しかしハデンは、敢えて必要以上に激しく戦うことで深追いすれば多大な出血を強いることを強調してみせた。結果、余計な追撃をさせないように仕向けたのだ。
「こういう小細工は、緊張する。あまりやりたくはないな」
 ともあれ、無事に離脱できた黒竜旗軍。しかし、竜爪関に帰陣した彼らを待っていたのは凄惨な報告だった。


 9:跡に…………

「…………エイゲン、そりゃ、間違いねえのかよ…………」
 ハクユウは、信じられないといった表情で問い返していた。
 ここは黒竜旗軍の会議室。敗戦よりも、もっと重い報告が空気を沈痛なものにしている。
「……僕もこの目で確かめてきました。間違いありません。……ライアードは、文字通り全滅しました」
「全ての邑民を撫で斬りにしたというのか、あの男は…………」
 うめくようにウィルフ・マイヤーが言った。 
「まさか、ここまでするとは」
 この場に居る者全員に共通した思いである。彼らの殆どはリューンに苦渋を飲まされている。それだけに、彼を推し量るにあたって充分すぎるほど考察を及ぼしているつもりであった。しかし、これはどういうことか。誰一人としてリューンのこの行動を予測できなかったではないか。
「……ところで、そちらの御仁は?」
 シリルは末席にさりげなく居るグード・ジュノとテール・シオンに目をやった。
「ああ、ハデンの奴が連れてきたんすよ。なんでもガルボアからの仕官話を蹴った程の賢才らしいですぜ」
「そいつはいい」
 アーヴィングが膝を叩いた。
「どうだい?しばらくここに居ないか?」
「仕官しろと?」
 ジュノよりも早くシオンが言った。長官のシリルは首を振る。
「たやすく仕官先を決めるワケにもいかんでしょう。気の済むまで黒竜旗軍をゆっくり見ていってください。その上で、何かお気づきの点があればお教え願いたい」
「食客というわけですな」
「はい。ところで、さっそくひとつ伺いたいのですが、何故ガルボア殿は破れたのだと思いますか?」
 全員の視線がジュノに集中した。
「あ、いえ、ボクに人を評する才は……」
「言ってしまえ。遠慮することはない」
 シオンが言い放つ。ジュノは、まだ少しアタフタしていたが、やがて軽く深呼吸すると語りだした。
「ガルボアさんは、リューン本人よりも、その部下を推し量ることに失敗していました」
「ほう」
 シリルは興味深そうに頷く。
「リューンが希代の人であることは、誰しも知っています。もちろんガルボアさんも。しかし、彼はリューンの放つあまりに強い光彩に目を奪われ、その周囲に意識を及ぼすことを怠りました。スィスニアという国は、ナグモ・リューン一人ではないのに」
 ジュノは自分でも驚くほどにすらすらと語っていた。さらに言葉を紡ぐ。
「竜角関の守将エルファ・ザドゥは見事な武将でした。ボクは実際にこの目で見たのですが、あの部隊運動は凡将ではとても真似できません」
 カイルとハクユウが大きく頷く。
「ガルボアさんは敵を知らなかったのです。もちろん他にも敗因はありますが、敵を知っていればこういった形の敗戦にはならなかった」
 ジュノはここでさらに言葉を続けようとしてやめた。彼が言おうとしたことは、東邑同盟にとって非常に不吉なものだったからだ。

「我々は、誰一人としてあの男に勝てない」
 クラウ・ハデンは一人、ライアードがあった所に佇んでいた。エイゲンの報告を聞いた後、すぐさまここへ急行したのだ。
「ヴィレクは優れた大器だが、己の殻を打ち破ってはいない。リューンにはまだ勝てないだろう」
 焼け跡の中、苦悶の表情を残し、或いは人か動物かの区別も付かぬ程切り刻まれた肉塊が転がっている。
「……恐らく、今はこの軍が地上最強だ。では、五年後はどうか……?」
 踵を返した。
「一方ガルボアは致命的なミスを犯した。助けを求めた同胞を見捨てたのだ。信用は地に落ち、『同盟』の意味すら危うくなる…………」
 ライアードの跡を胸に刻み、ハデンは去った。

 ターヌの裏を掌握し、東邑全体の闇に影響を及ぼす特務部隊『刃黒』。元はガルボアがハウザー・カッシュに与えたものであり、現在もガルボアの手先である、ということになっている。しかし、カッシュの組織力はガルボアの想像を遙かに上回っている。
「東邑同盟はいずれ崩壊するだろうね」
 腹心のエヌト・ジエフオとラズド・ヌゥーリを振り返り、そう語るカッシュ。因みに、背後でトリックが熟睡している。
「ガルボア殿は盟主としての責務を果たさなかった。相互の安全を保障してこその同盟。それを、わきまえない」
 トリックの目が薄く開く。カッシュは、ちらりと視線を遣った。
「この同盟、暫くは表面上このままだろう。だが、時が来れば一瞬で……」 
 カッシュは確信をもってそれを語る。なぜなら、彼の言は『予言』ではなく『予定』なのだから……………………。

――続――   



  〜予告〜

 水面下で確実に動揺を始めた東邑同盟。そんな中、ささいなことが原因で中邑ウルクにてミュール商人とナヴァル商人が対立、事態は自邑の権益を保護するためと称し両大邑が軍の出動を検討するまでになる。これは、同盟の崩壊につながるのか、それとも……。

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