会誌-「第10回会誌別冊 ナーラダ戦記」
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■ 覇伝 独立暦400年以前 『二人の休日』 【作者:元宵】 〜独立暦398年風の月〜 激甘です。蜂蜜練乳ワッフルより甘いです。砂吐きたくない人は読まない方が賢明です。 ―プロローグ(いきなりジェノサイド)― リューナ山脈山中。 「ぐっっ……くそぉ!!」 数人の山賊が一人の少年を取り巻き襲いかかっている。だが、戦局は少年の方にあるようだった。彼らの周りに数体の山賊の死骸が転がっている。 「破ッ!」 少年は彼の身長ほどもある杖を構え気弾を連射した。立て続けに敵が倒れていく。 「このクソガキがあっ!!」 首領と見られる柄のいい大男が蛮刀をかざす。と、同時に少年の背後から二人の子分が斬り掛かる。 「死ねえっ!!」 だが、少年の口元に淡い笑み。 「六星光弾!!」 六発の光弾が高速で虚空を駆け巡る。一瞬あっけに取られた賊達を正確な射撃で一掃。 「これで依頼達成。報酬1000粒か。まあまあだな」 戦いに勝利した彼の元に、やや年下と思われる少年が駆け寄ってきた。 「見届けご苦労。……ファン・エイゲンだったかな?」 「は、はいっ!ありがとうございました!これで賊に交易路を塞がれることも無くなります!」 「お前の協力があったからな。複数の情報から賊の正確な位置と状況を割り出す。大した分析力だった」 「は、はいっっ!!」 頬を紅潮させながらエイゲンは頷いた。この時から彼の中でこの術師の圧倒的な強さは強い憧憬として残るのである。 クラウ・ハデン、16歳。新興の賞金稼ぎ。ライル・ナタケの腹心でもある彼は情報収集と人材発掘を目的として、よく各地を旅していた。 「あ、あのっ、僕の邑でもう少しゆっくりしていきませんか?山中のド田舎ですけど風光明媚なところですし……」 「いや、そうもいかぬのでなあ。またの機会にしよう」 と断っておいて、ハデンは思い直しこう付け加えた。 「案外その機会というのは早く来るかもしれん」 1:駆け落ち(爆) 「ナタケ様とハデン君が居なくなった?」 ハウザー・カッシュは言葉とは裏腹にあまり驚いた表情をしなかった(というかこいつはいつもそうだ)。 事の発端はナタケの私室にあった置き手紙。爆弾のような内容だった。 「探さないで下さい。 ライル・ナタケあーんどクラウ・ハデン」 「駆け落ち!?あの二人、やるじゃない!!」 と言ったのはライル・カミナ。それをサイク・ルヴァログがたしなめる。 「これ、笑い事ではないぞ」 と言いつつそれほど真剣な顔をしていない。そのへんをカッシュが突っ込んでみる。 「あまり驚いてませんね」 「ガズカの遊びに比べれば、カワイイものよ」 深いため息。前社長の頃にはそうとう苦労してたらしい。 「で、どうします?」 「数日で戻ってくるじゃろう。放っておいてよいわ」 かくして、ハデンとナタケはいとも簡単に二人だけの時間を手に入れたかに見えた。 …………………………………………………甘かった。 「クラド様、耳寄りな情報がございますのヨ」 そう、奴らが居るのだ。ノーツライン・クラドとヴァイクス・ナクラ。人呼んで、お代官サマとエチゴ屋コンビ。 「ナタケがハデンと連れだってどこぞに遊びに出かけたようですワ」 「ふむ……」 「千載一遇の好機です。相手はたったの二人。しかも標的の社長は戦闘力ゼロ。レッツ暗殺ですワ」 まくしたてるナクラ(オカマ)。しかしクラドは首を縦に振らなかった。 「……流石に、放っておいたれとも思うが……」 「何を申されます、今更手段を選ばぬワケにもいきますまい!」 「うむ……わかった」 承諾を得たナクラは部屋を辞し、早速謀に取りかかった。 こちらは、問題のオフタリサン。一頭の馬に仲良く二人で乗っている。 「いやー、まさか本当に君が来るとは思わなかったぞ。誘ってよかった」 「私だって驚きましたよ。深夜にいきなり遊びに行かないかって来るんですもの」 昨晩、湯上がりで髪を乾かしているナタケの元に、突然の訪問者。しかも窓から入室。ナタケも慣れたもので、「あら今晩は。お茶でも飲んでいきますか?」とのたまった。 「うーん、湯上がりか。濡れ髪が、いいな。なんか、こう、君でも色気がある。これで浴衣とか着てたら最高だろうな」 好きだね、君。 「ありがとうございます、と言いたいところですが、君でもってどーゆ−意味ですか?」「でな、これから二人でどこかに遊びに行かないか?泊まりがけで」 ナタケの質問を無視して言う。 「えっ?えっ?嬉しいですけど、いいんですかねえ。そうだ、ルヴァログさんに相談した方がいいですよね」 「阿呆。こういうのは黙ってやるから面白いんだ」 ニッと笑う。つられてナタケもクスクスと笑った。 「確かにそうですねえ……」 「で、どうする?無理に来いとは言わんが」 「貴方と一緒ならどこへでも行きますよ。でも、ホントにいいのかなあ」 「数日で帰ってこれるはずだから、いいんじゃないのか?」 「そうですね」 アバウトな奴ら。 ナタケはさっさと身支度を済ませると、筆をとり何かを書き始めた。気になってそれをのぞき込むハデン。見て吹き出す。 「おい、これはマズイんじゃあないか?」 それが件の置き手紙だった。 にっこりと微笑むナタケ。やっぱり別にいいかと思うハデン。彼らはその晩はハデンの家に泊まって翌朝の早朝に出立したという。 さて、ハデンとナタケが出立した翌日の夕刻には、ナクラの手の者が追跡を開始していた。 「ナクラ様、標的は南の方へ向かったようです」 「ちゃんと追跡してる?」 「抜かりはありませありません」 「……よし、じゃあリャムハ、任せたわよ」 リャムハと呼ばれた男は頷いた。 2:カイル登場(ここだけ真面目) その頃、ライル社に一人の訪問者がいた。……いや、一人ではない。 「来たか。『長戟隊(ハルベルト)』……」 兵局長クラドは兵を集め、念のため臨戦態勢をとった。 傭兵軍団『長戟隊』。 知らぬ者は無い。総勢500の兵力を有し無類の強さを誇る戦請負人である。今の所、彼らの働き所は賊軍討伐に限られているが、戦乱の様相がより激しくなるなら邑同士の戦にも活躍の場があるだろう。その軍団が今、スウィズ近郊に出現している。 「妙な気を起こすまいな」 クラドは甲冑に身を固め軍勢を凝視していた。こちらの兵力は1000。万が一戦闘になって負けるとは思わぬが、相当の被害は覚悟せねばなるまい。 「いやいや、心配には及ばぬよ」 いかつい顔のクラドの元に陽気な声が届いた。 「ルヴァログ殿」 「彼らは、ナタケ様が呼んだ客人なのですからな」 「……むう」 クラドはあまりいい顔はしない。『長戟隊』が仮にライル社の配下に入るとしたら、当然兵局長であるクラドの麾下になるだろう。しかし、呼んだのが社長という事実がある。事実上ナタケの兵力となるだろうか。 この時はまだ、ライル社の軍は有力者の私兵の連合体で構成されていた。その中で最大の私兵団を有するのがクラド。前社長であるガズカが遂にクラドを除けなかった最大の理由はここにある。この状況を完全に改善できたのは400年のクラドの乱を経てからであった。 「ではクラド殿、ワシは団長に会ってくる」 そう言ってルヴァログは去った。 (社長が連中を呼んだのは俺の力に対抗するためだろうな。ナクラはこの事態を避けるため、いろいろ策動していたようだが無駄だったか。どうやら社長と『長戟隊』の間を繋ぐ有能な人物がいるらしい……) この時クラドの脳裏に二人の姿が浮かび上がった。黒服のナルスに無愛想なナーラダの道士。 (ハウザー・カッシュか、社長の寵愛を受けているハデンとか言うガキか。或いはその両方……) 「初めまして、団長のディグ・カイルと申します。以後お見知り置きを」 『長戟隊』の団長に対面したルヴァログは驚きを隠せなかった。若く礼儀正しいとは聞いていたが、傭兵軍団という特性から彼はもっと無骨な男を想像していたのだ。実際にルヴァログの前にいるのは、長身で整った顔立ちの好青年だった。均整が取れ、引き締まった体を鎧の下に包み、凛とした印象を受ける。 「ようこそスウィズへ。貴殿らを心から歓迎いたしますぞ」 カイルら『長戟隊』はスウィズに入り、宿舎を割り当てられた。この傭兵集団は非常に統制が取れており、カイルの将としての力量を図らずも示すこととなった。 「ところでカイル殿、申し訳ないのですが、社長は……」 「ハデン殿と旅行、でしょう?ハデン殿から聞いております」 笑いながら言うカイル。驚くルヴァログ。 「少し前ハデン殿には賊軍討伐で知恵をお借りしたことがありましてな、その時以来の付き合いです」 「そうでしたか……そういえば、貴殿をお呼びするようナタケ様に提案したのもハデン殿だったが……」 「彼は貴方が思うより多くの知己がいるかもしれません。それはそうと、我々は社長がお戻りになられるまでの間、客人気分を味わわせてもらいますがよろしいですな?」 3:らぶらぶげっちゅう(意味不明) 「何か、すごい山の中ですね。山賊とか出てきそう」 「怖いか?」 「いいえ、貴方と一緒ですから♥」 人気がないのをいいことに、二人だけの世界にどっぷり浸かっている二人。 「おっ、見えたぞ。あの邑だ」 「やっと着きましたね」 山奥にある人口200の小邑ノウエ。温泉がある。全くの無名だが。 「温泉付きの宿に泊まりたいです」 「知り合いの家がそういう宿をやっている。そこに行こう」 程なくして彼らは「元宵亭(←発案は篁真菰様です)」という小綺麗な宿屋に入った。 「いらっしゃい……おや、あんたは、ウチの邑の恩人じゃないかい!?」 「先日はどうも。エイゲンはいるか?」 「今呼ぶよ。あの子、きっと喜ぶよ、あんたに憧れてるみたいだからねえ!」 おかみさん、軽く息を吸い込み。 「エイゲンッ!ハデンさんが来てるぞおっ!」 キーンキーンキーン……………………。 (声、でかすぎ) 思わずハデンとナタケは耳を塞ぐ。 間もなく、階段を転げ落ちるようにエイゲンが二階から降りてきた。 「は、ハデンさん、お久しぶりです!」 「別れてからまだ一週間しか経ってないぞ」 「そ、そうですね。あの、そちらの方は?」 「ライル・ナタケと申します。初めまして」 「ど、どうも……。綺麗な人ですね」 「まあ、ありがとうございます」 にっこりと微笑む。本当に綺麗だな、とハデンは思ったらしい。 「ところでおかみ、二泊したいのだが」 「あいよ、部屋はあいてるよ。……そうだねえ、あんたたちなら203号室がいいかな?はい、これは鍵」 「……む、同じ部屋か」 「ハデンさん、どうしたのですか?」 「さあ、ごゆっくり!」 強引にハデンの背中を押すおかみさん。そのまま二階へ。 「……かあさん、203号室って、確か……」 「あら何言ってるんだい?最近の子は進んでるんだよ。あの二人にはちょうどいいじゃないか。それにしても、あの女の子、どこかの社長みたいな名前だったねえ」 おかみ、アンタって……。 「ナタケ、同じ部屋に寝泊まりって君はマズいと思わないのか?」 「どうしてですか?何か問題でもあるの?」 「……いや」 ぶつぶつ口の中で言いながら部屋の扉を開けるハデン。中を見て凍り付く。 「…………………………オイ」 「まあ、広いベッドですこと」 ダブルベッドが鎮座ましましていた。 「部屋、かえてもらうぞ」 「どうしたのですか?さっきから変ですよ?」 (変なのは君の方だろ。天然か?) 「それにしても広いベッドですね。二人で寝られるぐらいのスペースはありますね」 「ナタケ、それはな、ダブルベッドと言って……」 「子供の頃を思い出しませんか?よく一緒に寝ましたよね」 「あ、ああ。というか人の話を……」 「たまにはこういうのもいいですよね」 「よくない!!」 「どうして?…………私の事、嫌いですか?」 「そうじゃなくてえええっっ!!!!…………ぜーはー……ぜーはー…………」 「なんか疲れてるみたいですね。温泉にでも入りますか」 「……そうだな」 部屋の中の浴衣を取り、下駄に履き替えて二人は露天風呂に向かった。スタスタ歩くハデンに、とてとてと後ろに着いていくナタケ。にこにこしててとっても幸せそう。 やがて到着。 「じゃあな」 男湯の扉を開けようと手を伸ばす。 刹那。 「あー、いい湯だったぜえ」 いきなりがらりと戸を開けメール族の大男が出現、避け損ねたハデンにぶつかる。 「お、ワリィ」 「いや」 そのまますれ違った。 「おっきい人でしたね。身長は何糎ぐらいあるのかなあ」 「さあ……な」 二人は入り口で別れ、それぞれ温泉に入った。 4:湯煙殺人未遂事件 さて、こちらは半分忘れられかけているリャムハさん。ナクラの命を受けてナタケ暗殺を狙うヒト。どうやらノウエ邑に着いたみたい。 「やっと見つけたぞ。ナタケは今、入浴中で油断している。少々アレなやり方だが、ここで確実に決める!」 物陰に隠れて数人の部下と協議中。 「リャムハ様、ナタケといえば、大層な美少女ときいてますが……」 ちょっと、お兄さん、鼻の下伸びてるで。 「ロリコンか貴様ァァッッ!!相手は十五歳(数え年だから十四だ!)だぞ!今貴様が考えていることは立派な犯罪だ!」 「十五だろうが、六十三だろうが、どっちにせよ我らがやろうとしてることは全部犯罪だと思いますがね」 「この際何でもいい!行くぜ!!」 男らしいかけ声と共に男らしくない作戦を試みる。 さてさて、彼らは密かに露天風呂に急速接近した。目指せ女湯。だが、その動きが止まるのにそれほど時間はかからなかった。 「……なあ、目の前に温泉は二つあるんだが、女湯ってどっちだったっけ」 「……さあ」 「誰も知らないのか?」 「右じゃないですか」 「左だろ?」 「いや、オレは右のような気がするが」 「左っすよ」 「リャムハ様、どうします?」 「……せっかくだから、俺はこの左側を選ぶぜ!こっそり入って確認すりゃいいんだ」 密かに突撃する彼ら。湯煙の向こうに、人影を認めた。 (リャムハ様) (よく見ろ。見るのだ。情報によればナタケは背中に傷痕があるそうだ) 艶やかな漆黒の黒髪。華奢な体。向こうを向いているため顔は見えない。だが、こちらに向けている背中におぼろげながら確認できた。傷の痕を。 (間違いない!ゆけっっ!!) いやに気合いの入った屈強な男達が襲いかかる!だが……。 「……何だ貴様らは」 振り返ったのは、どこから見ても男だった。傷は背中のみならず、全身にある。 「何かよくわからんが、殺気を感じたのでせっかくだから死ねぃっ!」 どっかあああああん。 気弾で吹き飛ばされる男達。リャムハは残った部下を連れて退散した。 「ハデンさーん」 仕切の向こうからのんきなナタケの声。 「何かあったんですかあ?音がしましたけど」 「いや、何でもない」 「そうですか。それにしてもいい湯ですねえ」 「そうだなあ。たまにはこういうのもいいなあ」 「ほんとですねー。あはははーっ」 自分たちに迫る危機(?)に全く気付かない脳天気な二人であった。 5:すごいよナタケさん 「先、上がるぞ」 「あ、私も」 二人は浴衣を着て温泉の入り口で落ち合った。 「ハデンさーん、お待たせしましたーっ」 浴衣姿でにこにこしながらハデンの前に出てきたナタケ。 「ああ……………………」 それを見たハデンは短く言ったきり何故か絶句してしまった。 「……………………」 「……あのー……この格好、変じゃないですよね」 「いい…………」 「はい?」 「濡れ髪に浴衣……」 おぼつかない足取りで一歩踏み出すハデン。思わず後ずさってしまうナタケ。 「ブラボーだっっっっ!!!!!」 そしてナタケに飛びかかる! 「キャーッッ!?」 ばちん!! カウンターでナタケのビンタがハデンに炸裂!こうかはばつぐんだ! 「……はっ!オレは今、何を!?…………何故頬が痛いのだ?」 「はあ、はあ、はあ……………………正気に戻ったようですね」 「ん?」 「いえ、何でもありません。それじゃ、行きますか」 「? ああ…………それよりその浴衣、似合ってるぞ」 「……ありがとうございます」 嬉しいことは嬉しいのだが、ちょっとフクザツなナタケであった。 まだ「?」という表情を浮かべているハデンを促し彼女は部屋に向かう。 「……なあ、どうしても同じ部屋じゃないとだめか?」 「だめ」 「どうしても?」 「……そんなに言うのでしたら、おかみさんに頼んで明日の貴方の朝ご飯は紅しょうが」「…………はい?」 「お茶碗山盛りの紅しょうがに、紅しょうがをかけて食べるんです」 「…………あの…………ちょっと…………」 「飲み物はしょうがの絞り汁」 「分かりました、何でも言うことを聞きます」 ハデンは屈服した。 (これは、脅迫という犯罪ではないだろうか。というか、こだわるな……) ハデン、無理矢理な展開は気にするな。 「ふう……いい風だな」 ハデンは窓枠に座り夜空を眺めた。そよ風が頬を撫で、束ねられていない漆黒の髪が静かに揺れる。 「明日はどうします?」 「……そうだな。もう少し山奥に入ってみよう。ちょっと、見せたい物があるんだ」 「見せたい物?何ですか?」 「今言ったら面白くないだろ。秘密だ」 そうですね、とナタケはにこっと笑った。その仕草がかわいいなとハデンは思った。 「ナタケ、ちょっとこっちに来てくれ」 「はい」 とてとてと小走り。そんなナタケをじーっと見つめる。 「……て、照れます」 「うーむ」 「どうなさったの」 「やはりまだまだ胸は小さ……」 ごんっ。 「……舐めるな」 「いやすまん、今のは冗談だ」 「ええたしかに今はまだこんなんですよ!でも、数年後にはきっと……!」 しかしナタケの願いもむなしく「数年後」になっても状況は相変わらずだったらしい。もっとも、ハデンはそんなことは気にしない。いや別にそういう方が却って好みだったとかそういうことを言うつもりはないのだが。 「貴様、何の話をしている!」 「きゃっ、いきなり何を怒っているのですか?」 「……いや、オレにもわからん」 「毒電波ですか?疲れてません?」 「いや。……だが、することも無いしそろそろ寝るか。君は、普段仕事仕事で寝るのは遅いだろ?」 「ええ」 「だったら、こういう時はちゃんと寝ておかないとな」 ポンとナタケの頭を軽くたたいてハデンは微笑んだ。 ナタケは肯き、そそくさとベッドに向かう。ハデンは毛布を取ってソファーで横になった。 「何してらっしゃるの?」 来た、とハデンは思った。 「何って……寝るのさ」 「昔みたいに一緒に寝ましょうよ」 「嫌だ。ガキじゃあるまいし」 「紅しょうが」 「…………私が悪うございました」 ぶつぶつ呟きながらハデンは渋々ナタケの元へ。 (オレをからかっているのか誘っているのか天然なのか……恐らく一番最後だろーな) 一方件のリャムハさんたちは。 「さっきは見事に失敗したな……だが、今度はそうはいかんぞ!」 気合いだけは充分やね。 「今連中はぐっすり眠っているはずだ。どんな奴でも寝込みは最大の弱点。そこを衝く!」 物陰に隠れこっそり叫ぶ。 「そして、ナタケが宿泊している部屋は……あぁそこだぁああああ〜〜〜〜!!!!」 陶酔しきった表情で天を仰ぎ、気取って指さすリャムハ。だが、この時とても不幸なミスがあった。なんと、気合いの入りすぎで力んでいた彼の指はうっかり隣の部屋を指していたのだ。上を見ているリャムハはそのことに気づかない。 「ラジャーーッッ!!」 部下達は勇んで作戦開始。あっと気付いたリャムハが止める間もなく窓を破って突入する。 「さぁ覚悟何だとへぶぅ!!」 いきなり一人がぶん殴られる。見ると、赤い髪の大男がクマさん模様のパジャマを着て立ちはだかっていた。標的である美少女の姿などどこにもない。 「てめぇら……ヒトが折角寝ようって時に……光になりやがれえええええっっ!!」 「……ん、気のせいか」 隣の部屋でハデンが半身を起こし寝ぼけ眼をこすっていた。 「殺気を感じたのように思えたのだが」 壁を見やる。ドッタンバッタンなどの音や、悲鳴、呻き、断末魔の叫びが聞こえる。 「……ずいぶん過激な枕投げだな。いくら旅先で開放感に浸りたいとはいえ、もう少し静かにしてほしいものだ」 そして今度はすやすやと寝息を立てているナタケに視線を移す。 彼女は、ハデンの隣で、安心しきった表情で眠っている。 「寝顔も、かわいいな……」 うかつに呟いた自分に気付き、顔を真っ赤にして首を振った。そこへ、さらにハデンの心を乱すナタケの寝言。 枕を抱き締めながら、呟く。 「……んん……ハデンさん……」 自分の名を呼びながら、枕を抱きしめるナタケ。 (夢でも見ているのか?……………………なら、どんな…………) ナタケをまじまじと見つめる。気が付いた時、息がかかるくらいまで接近してしまっていた。 (うわー、何てお約束なオレ!) さらに追い打ち。 「……キス……」 ハデンの心臓はまさに停止寸前の状況にあった。この時の彼に事態があまりにお約束すぎることに気付く余裕などあろう筈もない。 (うろたえるな!心を静めろ!思い出せ、明鏡止水を!そうだ、師匠との特訓という名の地獄で掴んだ明鏡止水の心境を思い出すのだ!) しかし、目の前にはナタケの顔が、唇がある。 (何をうろたえる!オレとナタケとの仲を考えろ!口づけぐらい何ともないではないか!そうだ、その意気だ!現にこれが初めてというワケではない!) 思考が右に3メートルぐらいずれてきた。 息を飲み、ナタケの顔を見つめたまま固まる。額に脂汗。呼吸が荒い。あやしすぎ。 (……いいのか?) 恐る恐る顔を近づける。 刹那! 「いやん♥」 「……………………………………………………………………………いやん?」 目の前に、にこにこしているナタケ。もちろん目は開いている。ハデンは状況を理解するのにかなりの時間を要した。 そして、理解した時。 「…………おわあああああああああっっっっ!!!!!」 どったーんっ!! ベッドの上からブザマに転落。 「危うく襲われるところでしたよ」 「……ナ……ナ……ナタケェッ……」 「全部、聞いちゃいました。私のことかわいいって言ってくれたのも」 (もう最悪) 穴があったら入りたいとはまさにこのことだろう。ハデンは今、己の阿呆さを猛烈に悔やんでいた。ああ、これでまた頭が上がらなくなる……。 「ハデンさん、照れてます?」 ナタケはとても嬉しそうで面白そうな顔をしている。 「寝ろ!」 「私のこと、かわいいって思っててくれたんですね」 「寝る!オレは寝るぞ!」 頭から毛布をかぶりナタケに背を向けるハデン。 「嬉しいです」 そんなハデンの背中に張り付いて寝るナタケ。隣の部屋ではメール族の大男にボッコボコにされてるマヌケな暗殺者。そうして夜は更けていく…………。 6:無敵のナタケ 翌朝。 「朝〜、朝ですよ〜。朝ご飯たべて出かけますよ〜」 ちょっと間延びした声にハデンは起こされる。 「……む…………ああ、朝か」 「おはようございまーすっ」 ナタケの笑顔を見ながらハデンは起きあがった。 「…………ふーう…………」 「眠そうですね」 「……オレは朝は弱いんだ」 「ホラ、さっさと着替えて。おかみさんが朝ご飯つくってくれてますよ」 「……まるで世話焼き女房だな」 「馬鹿なこと言ってないで早くしなさい。結婚なんて、まだ早すぎますよ」 何故か頬を朱く染めるナタケ。寝ぼけているハデンは気付かない。 「……くー……」 気付かないどころか、寝ている。 「……ふう」 ため息。少し思案する。 「起きないと、紅しょうが」 「おはようございます」 効果てきめんだった。 しかしこの時彼は見逃さなかった。ナタケの口の端に僅かに浮かんだサディスティックな笑みを……。 朝食を済ませたハデンとナタケは馬に乗り、更に山奥へと向かった。食卓にもう一人泊まっているメール族の大男の姿が見えなかったらしいが、おかみが確認しに彼の部屋に行ったところ、大いびきをかきながら爆睡していたという。 「じゃ、行くか」 馬の背に揺られながら、邑人が使う山奥への道をのんびりと進む。二人は、世間話をしながら行き先を目指した。 昨日の温泉のこと、今朝の朝ご飯のこと、ハデンが旅先で見た珍しい物のこと、そこの歴史や民間伝承について、などなど……。 「さて、ここだな」 石段の前に来た。先は木々に隠れてよく見えない。 「こんな山奥に、石段……」 「昔、物見台があったらしい。ここを登るんだ」 彼は先に馬から下りる。 「さ、少し歩くぞ」 ハデンの腕に抱きかかえられるようにしてナタケも馬から下りる。そして、歩き出した。 紅葉が石段を彩り、穏やかな日差しが差し込む。二人以外の誰も存在しない、二人の世界。 ナタケは、隙を見て手を繋いでみた。 「わっ」 「あ、あのっ」 彼女はさりげなくやったつもりらしいが、全然失敗している。 「どうしたんだ」 「いえ……」 深みにハマり、赤くなって俯いてしまう。昨晩はかなり暴れていたが、いざとなるとこうだ。あれは一種の照れ隠しだったのかもしれない。 「……このままでいいぞ」 優しく微笑みかけ、努めて冷静を装うハデン。顔は赤いが。 結局、二人とも何も喋らずに黙々と歩くことになった。 そんなことでも、二人は幸せを感じていたが。 歩くこと10分。 「この先だ」 ハデンの指さす先は、石段が途切れ木々の間に青い空が見える。 「走りましょう」 ハデンの腕を引っ張って駆け出すナタケ。 「お、おい」 とまどいつつも、笑っている。 (無邪気なものだ) その表情が、嬉しかった。ライル社の中ではあまり見られないからだ。 「わぁ…………」 石段の先に開けた光景を見たとき、ナタケは思わず声をあげていた。 そこは、崖のような地形でスウィズ地方を一望に見渡せた。 「今日は天気がいいからスウィズ川の向こうも見えるな」 ナタケの隣に来る。 「左に見えるのがシーラン、あっちがスウィズだな。右の遠くに見えるのがミュールだ」「こんな所があったんですね……スウィズの中に居ただけではわからないことです」 「そう思って、是非見せたいと思ってた。……よろこんでもらえて、嬉しいよ」 「貴方のなさることでしたら、私はなんでも好きですから……」 ここでゆっくりしていこうという話になって、ナタケは、近くの木の下に腰を下ろした。ハデンはその膝に頭を乗せて横になる。 大好きなナタケの膝でのんびり。ハデンは、安心しきった表情でいた。 ナタケは、そんなハデンの髪を優しく撫でる。 「ねえ、ハデンさん」 「ん……」 ついうとうとしながらハデンは目を開けた。 「今日は本当にありがとうございますね」 「……礼なんていい。オレが来たかったのだから」 「でも、私は嬉しいです」 「……来てよかったよ」 「私、貴方にはすごく感謝してるんです。いつも私のことを考えてくれて、一生懸命に頑張っている。私がもっとしっかりしていれば苦労をかけることも無いのに……」 「いや、君はよくやっていると思う。……まあ、頼られた方がこちらとしても張り合いがあるな」 「なら、ずっと、私の側に居て下さいね」 「当たり前だ」 「貴方は、私だけのものです……」 幸せそうだが、表情が少し恍惚としてきた。 「だから、あまり無理をしないで下さいね」 「心配するな」 「貴方一人の体じゃないんですから……」 「…………はい…………?」 「もう、貴方は公認の婚約者みたいなものなのですよ」 「ちょっと…………」 ひきつるハデンに、とどめ。 「浮気なんかしたら、貴方を殺して私も死にます…………ねっ♥」 「わ、わかった……」 眠気なぞ一気に吹き飛ぶ。ナタケは相変わらず穏やかに微笑んでいたが、穏やかに微笑んで言うセリフではなかった。そしてハデンはこの時確信した。この女からは一生逃れられないと……。 さてさて、こちらはしつこく暗殺を狙うリャムハさん達。達っつっても主従あわせて二人しか残ってはおらぬがな! 「……コロス……コロス……」 呪文のようにぶつぶつ呟いているリャムハ。そうとう(自分で勝手に)追いつめられているのが分かる。 「あいつらは今こそ油断している!今度は間違えようがない!行くぞ!!」 と、飛び出そうとした瞬間。 「ひ、ひーん!!」 いななきと共に鈍い音。残った部下が天高く舞い上がる。 「あべしっ……」 「トニーッッ!!またかよおおおおッッ!!!」 車田正美ばりに吹っ飛び、ドシャアアアという骨が砕けるような音と共に頭から地面に激突する。 トニー、頭蓋骨陥没で即死。 振り返ると、一頭の馬に黒服のナルスが居た。 「ヒトの恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られて地獄へ落ちるのさ」 キザに言う。 「さ、覚悟するんだ」 「……うっ……ぐすっ…………ちきしょおおおおおおおおおっっ!!」 涙ぐみヤケクソになって叫びながらナタケ達の元へ走るリャムハ。 「ハデン君、行ったぞ!」 (見せ場はつくった。いい所をナタケ様に見せるんだ) しかし、その心遣いは意外にも裏目に出た。 「キャアア!ハデンさんが落ちかけてる!!」 「何っ!」 急いでカッシュが駆けつける。 「どうなさいました!」 見ると、崖から落ちかけたハデンがナタケに手を繋がれて辛うじて転落を免れていた。 「こ、これは意外な展開!」 どうも、二人だけの世界に浸りきっていたところへ、突然馬に蹴られた奴や涙を垂らしながら激走してくる奴が出てきたもんだから、ナタケは驚きまくって思わずハデンを突き飛ばしてしまい、彼は崖までゴロゴロ転がっていってこうなったらしい。 そこへ、リャムハが襲いかかろうとする。 「ハデンさん……ぐぐ……頑張って!」 「ぐ……ナタケ、オレのことはいい!早くこの手を放して逃げろ!」 「分かりました!今、放します!」 ぱっ。 「え?」 「こ、これも意外な展開!」 何のためらいもなく、あっさり放す。もちろんハデンはまっさかさま。 (いや、別にいいよ、放せって言ったのオレだし……いいって。でも、でもなあ、少しは躊躇してくれてもよかったんじゃないか?所詮、オレとナタケとの愛はこの程度だったのか。…………愛など無い。全ては幻。そう、オレは一人だ。クラウ・ハデンはこのまま死ぬだろう。だが、肉体は失われても魂は消滅しない。肉体という現世での足枷を手放すことで、私の精神はより高みへと導かれるのだ。そして、私は神に近付くことが出来、高尚な精神は神と一体化することになる。いや私は神を……私は、神?フフフ、そうだ、私は神となるのだ!) などとぶつぶつ呟いていると、突然彼の体に衝撃が走り、視界が上下した。 「さらばだ諸君!って、あれ?」 よく見ると、ハデンは中空に居る。……と言うか、崖の途中の枝に引っ掛かってぶら下がっていた。 「やあ、大丈夫みたいだねえ。安心したよ」 「……………………それは何よりだ」 上を見上げる。すかさず何か黒い物体がハデンのすぐ横をかすめて落ちていった。 「何だ今のは?」 「ああ、気にしないでくれたまえ。リャムハとかいう刺客だよ」 「あ、ハデンさーん、やっぱり、無事だったんですねーっ」 「……あのなあ。オレは危うくイキかけたぞ」 「貴方なら必ず何か考えがあるって信じてましたけど」 「だからアッサリ手を放したのか」 「はいっ。それに、手を放せって言ったのは貴方ですよ」 「…………」 何も言い返せないハデン。 「……まあいい。それより、早く引き上げてくれないか」 「了解」 カッシュは、用意がいいと言うべきか、ロープを使ってハデンを引き上げた。 「ふう、助かった」 「よかったよかった」 「ホントですねえ」 「あははは」 「ははは」 「くすくす」 「……で、カッシュ、何でお前がここに居るんだ」 「そういえば、そうでしたね。どうしてですか?」 「…………じゃ、私はこれで。商局の仕事が残って……」 「まてぃ」 むんず(←ハデンがカッシュの襟首を掴む)。 「もしかしなくても、今までオレ達の様子をこっそり見てただろう」 「ははははは……怒る?」 「当たり前だ!」 「当たり前です!」 「私は、君たちを影から見守っていただけさ!」 「それがイカンというのだ」 至近距離で気弾。が、カッシュは変わり身で回避。 「では、私は失礼するよ。ハハハハハ!!」 声だけを残し姿を消す。 「しょうのない奴だな」 「そうですね」 相づちを打つナタケ。相変わらずにこにこしているが。 「……そろそろ、私たちの休暇も終わりですね」 「ああ。だが、もうそろそろ夕刻だ。もう一泊して帰ろう」 「はいっ」 嬉しそうにハデンの腕に抱きつく。 こういう休暇があってもいい、ハデンはそう思った。 こうやって、幸せを感じることができるのなら……。 そう、ナタケが居れば彼は幸せを感じることができたのだ。 ――終―― 急成長を遂げるスウィズに警戒心を抱く諸邑。 避けられぬ戦い……。 ナクラの暗躍、クラドの野望。 カイルの将才、マキスの奮戦。 ハデンの死闘、ナタケの苦悩……。 今、スウィズ・ライル社と反スウィズ連合が激突する! 次回、『ユトランデル戦役』 ……次回はシリアスです。いや、ホントだって。 |
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☆今回の登場人物☆ ○クラウ・ハデン(ナーラダ/男/16) ウォウル出身の道士。ナタケ命の16歳。賞金稼ぎとしてあちこち動いてるらしい。 逆玉ほぼ確定の幸運男。……が。 ○ライル・ナタケ(ナーラダ/女/15) スウィズ・ライル社社長。ろくろく他の男を見ることもなくこーなってしまった。 本人は気にしちゃいないが。 ○サイク・ルヴァログ(ナーラダ/男/33) ライル社外局長。地味とは言いながらも出番は多い。 ○ハウザー・カッシュ(ナルス/男/22) ライル社商局長と見せて実は隠密担当。相変わらずタイミングを見計らっての 登場。甘いマスクのスカシ野郎。 ○ライル・カミナ(ナーラダ/女/20) 若くしてライル社治局長になった人。高い行政処理能力を有す。酒豪。カイルと大し て劇的でもない出会いを果たしたのはこの頃。。 ○ディグ・カイル(ナーラダ/男/21) 傭兵軍団『長戟隊(ハルベルト)』の若き団長。類い希な統率力を有し、高い作戦能 力を誇る男。 兵局長クラドの強大な武力に対抗するためナタケによって招聘される。 …………何てマジメな人物紹介なんだ…………。 ○ノーツライン・クラド(ナーラダ/男/29) ライル社兵局長。多くの私兵を有する。 …………あまり出番が無いような…………。 ○ヴァイクス・ナクラ(ナーラダ/体は男、心は女/27) 色々と策動するオカマ策士。ご苦労様です。 ○シギ・リャムハ(ナーラダ/男/31) 一発キャラでギャグキャラ。 ○ファン・エイゲン(ナーラダ/男/15) 普通の少年に見せて実は秘めたる才能を……。 |
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