会誌-「第9回会誌別冊 ナーラダ戦記」
|
|
■ ナーラダ戦記・リアクション・下巻・独立暦402年人の月 ○「南蛮関」の巻 【天:独立暦402年人の月1日〜2日】 【地:スィスニア勢力圏>南蛮関】 【人:クラウ・ハデン、ナーズ・ハクユウ、ルシャナ・シルキーヌ、キュアティ・テス、ケトゥ・タスタント、イグルド・ヴァル、ビュア・オイゲン】 ……スウィズ地方とヴェルーダ地方の境には巨大な関所が存在する。その名を「南蛮関」という。地図を見ればよく分かるが、この場所はリューナ山脈が海の近くまで迫り出し、スウィズ地方とヴェルーダ地方を結ぶ街道で最も狭くなっているところである。南蛮関は高さ5米ほどの石造りの壁でできており、それが東西に1000米は続いている。関壁の東端は海、西端はリューナ山脈まで達している。 南蛮関は独立暦401年空の月、スィスニア北方の「北蛮関」、スウィズ北方の「竜角関」と共にナグモ・リューンによって建設された。その経緯は次のようなものである。 401年火の月「セルファニア湖の戦い」以後、ナーラダ族居住地域全土において流民と匪賊が急増する。それはリューン=スィスニア勢力圏においても例外ではなかった。風の月、リューンは大々的な賊掃討作戦を指示、配下「八武衆」の活躍によって賊の大半を壊滅させる。賊の残党は統治者不在のヴェルーダ地方へ流入するが、リューンはそれ以上は兵を進めなかった。空の月、この地に関所の建設を開始。地の月、南蛮関が完成した。 リューンがヴェルーダ地方にまでその勢力を拡大しなかった理由は大きく二つある。一つは「大いなる災い」後の荒廃した土地を抱え込むことのリスクを考慮したためであり、もう一つはメール族居住地域と接することで、勢いを増しているイリス王国との衝突を恐れたためである。「緩衝地帯」といえば聞こえはいいが、要するに捨てたのであった。 リューンは南蛮関に押し寄せる賊軍に対しては一切容赦しなかったが、それ以外は全く干渉しなかった。その結果、スィスニア勢力圏の治安は回復し、ヴェルーダ地方は無法地帯と化す。南蛮関はまさに「秩序」と「混沌」の境界線となったのである。 「混沌」のヴェルーダ地方とはいえ、人が生活する以上、そこにはある程度の「秩序」が必要となってくる。地の月、南蛮関完成後、スィスニア勢力圏への移動を諦めた流民や匪賊たちはこの地に住み着き始める。――そのような人々は「落人」と呼ばれた。こうして402年水の月、旧ヴェルーダ邑の北方に、落人達の建てた邑「ヴェルーダ落人邑」が確認されるようになる。 ヴェルーダ落人邑は、この地方のあちこちに点在する落人たちの中心となる邑で、人口約1000、小邑にしては結構な規模である。産業は、落人同士の商取引、リューナ山脈での狩猟・採集、セルフィアー外海での漁業、といったまともなものから、ヤバイ品物の流通する闇市場、スィスニア勢力圏への出稼ぎ(密入国・不法就労)、旧ヴェルーダ邑廃墟の発掘、さらにリスクは大きいが、スィスニア勢力圏に侵入しての賊行為(盗賊・山賊・海賊)といったものまである。土地が荒廃しているため農業は極小規模。気候は寒冷。生活環境は劣悪。ガラクタを組み立てたような住居が長屋のように連なっている。 この邑をまとめていたのは旧ヴェルーダ邑出身の「ラル家」と「サグ家」であったが、水の月に起こった抗争でラル家が勝利、家主ラル・ランヴァ(ナーラダ/男/42)が今後指導力を発揮していくものと思われる…… ■『諸英伝』ナーラダ族居住地域地理解説(独立暦402年水の月)より■ ――1日 ヴェルーダ落人邑を後にしたクラウ・ハデンとナーズ・ハクユウの二人は、北上すること二日、圏境の関所「南蛮関」へとやって来た。 【ハクユウ】 「おっ、見えてきたぜえ」 【ハデン】 「あれが南蛮関か……」 【ハクユウ】 「そういやおめぇ、見んの初めてだっけ?」 【ハデン】 「記憶を失っている間はずっと落人邑にいたからね。……で、どうやって抜けるもりなんだい?」 【ハクユウ】 「おう、いい作戦があるぜ。このオレサマに任しとけいッ!」 【ハデン】 (心配だなぁ……) ――1日 同刻 南蛮関内―― 一方そのころ、リューン配下「八武衆」の一人、反乱分子討伐軍司令イグルド・ヴァルは、ルシャナ・シルキーヌの行方を追って南蛮関へやって来ていた。 【ヴァル】 「おいオイゲン、本当に来るんだろうな?」 【オイゲン】 「隠密衆からの情報ですので間違いはないと思いますが…… 現在、兵を20隊に分け、周辺を捜索させておりますので、まもなく網に引っかかると思われます」 【ヴァル】 「そうか!……フッフッフッ、今度という今度こそ捕まえてみせるぞ、ルシャナ・シルキーヌっ! そしてこの私の女となるのだッ! ワーハッハッハッハッハ……」 ビシッとポーズを決めて高笑いするヴァル。今日もオイゲンは頭を抱えるのだった…… ――1日 同刻 南蛮関北方約10km(スウィズ地方側)―― 噂のシルキーヌ一行は南蛮関北方約10kmのところまで来ていた。 【テス】 「シルキーヌ様、あとは南蛮関を越えればいよいよヴェルーダですねっ」 【シルキーヌ】 「ええ、ここまで問題なく来られて本当によかったわ」 【タスタント】 「これもひとえにお嬢様の人徳のなせる技」 【シルキーヌ】 「もう、タスタントったら冗談が下手ね」 【テス】 「……でも、どうしてシルキーヌ様はヴェルーダを訪ねようとお思いになったのですか?」 テスの問いに、シルキーヌは暫し遠くを見るような目をした。そして口を開く。 【シルキーヌ】 「……自分自身に決着をつけるために、ね」 穏やかに言うと、シルキーヌは歩き出した。 ……独立暦400年地の月、ヴェルーダの大いなる災い。 当時スィスニア邑宰だったシルキーヌは、その前節から事件の推移に注意を払っていた。だが、事件は最悪の事態を迎えてしまう。シルキーヌはナーガ大司祭として直ちに救援を開始しようとしたが、スィスニア邑宰という立場がそれを許さなかった。当時のスィスニアは北にウォウル、東にスウィズ=ライル社を迎え、単独で目立った行動をとれば両者を刺激する恐れがあったためである。そこで邑宰丞ヴァシュナ・シリルの献策、および竜老会議長リュシア・ガトフからの要請も受けて、まず諸邑の話し合いの場を設けること、そしてその席でヴェルーダへの救援を話し合うことをシルキーヌは計画した。しかし地の月末、計画の準備に忙しいシルキーヌの一瞬の隙を突くかたちで、兵吏長ナグモ・リューンによるクーデターが発生する。結果、計画は水泡に帰し、シルキーヌはウォウルへ亡命することになる。 シルキーヌにとっては苦い経験であった。と同時に、自分に存在する矛盾を強く意識することにもなった。すなわちスィスニア邑宰とナーガ大司祭を同時に兼ねるということの矛盾である。 シルキーヌはまだ幼い頃、父ルシャナ・ヴィヴェイスの命によりナーガ神殿に入門、その力量が認められ、独立暦396年、15歳の成人を迎えると同時に全神殿一致で大司祭に推挙された。そして独立暦398年、父ヴィヴェイスが死去し、17歳にして大邑スィスニアの邑宰となるのだが、そのときはまだ矛盾が顕在化することはなかった。というのも、邑宰としての政務は邑宰丞ヴァシュナ・シリルに任せることで、自らはナーガ大司祭としての祭務に専念することができたからである。 だが、独立暦400年、ナーラダ地域が戦乱の時代に突入すると状況は一変した。セルフィアーに6つしかない10万都市の一つ、スィスニアを統治する者――スィスニア邑宰ルシャナ・シルキーヌ。誰もが彼女の言動に注意を払うようになり、シルキーヌとしても各邑との関係に気を配らねばならなくなった。ナーガ大司祭として迂闊に神殿に命を下せば、各邑の要らぬ誤解を招くことにつながる。スィスニア邑宰とナーガ大司祭、二つの立場に身を置く者としての矛盾。その最たるものが上に挙げたヴェルーダ救援の問題であったのだ。 ウォウルに亡命したシルキーヌは以上の矛盾を解決する必要性を強く感じた。それは二者択一の道である。スィスニア邑宰か、ナーガ大司祭か。彼女は後者の道を選んだ。邑という「枠」を越えて広く物事を扱うこと――それが今の時代に求められている変革であり、そしてそれは彼女自身が身をもって痛感したことである。だが、邑という「枠」を必要とする人々は確かに存在する。スィスニアを追われた人々は何処へ行けばよいのか。シルキーヌにとって幸いだったのは、ヴァシュナ・シリルという存在があったということである。シルキーヌが歩むことのできなかった道、その極めて困難な道をシリルが引き受けてくれたのだ。 ちょうどその時期、シルキーヌが強く共感を抱いていた人物にライル・ナタケがいる。彼女もまた「邑」という「枠」の長でありながら広い視野と志を持つ人物であり、そしてそれゆえに矛盾を抱えていた。ナタケが志半ばにして夭折した時、彼女に対して冷淡な態度をとったヴィレクを、シルキーヌは次のような言葉で評したことがある。 ――この時代の転換期にあって、誰もが“己の内外に抱える矛盾”と戦っている。それを理解できない者にどうして“時代が抱える矛盾”を解決することができようか―― シルキーヌが選んだ道はヴィレクともリューンとも異なる道であった。広くナーラダ全体を見据えて活動すること、そして人々を、社会を、大地を、常に活力溢れる状態に充たしておくこと。シルキーヌは、邑や国という「枠」ではなく、このナーラダの大地を充たす「水」であることを選んだのである。 独立暦401年 人の月:スィスニア邑宰位をヴァシュナ・シリルへ譲る。 ナーガ大司祭としてウォウルにて「人の月演説」を行う。 スィスニア・スウィズ・シーラン難民の救済活動。 ナーラダ・ヴィレクとライル・ナタケの会談を仲介。 諸勢力円卓会議を主催。 ライル社解散後の失業者を昇竜会に雇用。 火の月:セルファニア湖の戦いにおいて、ナーガ神殿艦隊を自ら率い、中立的立場から両軍の負傷者を救助。 風の月:再びナーガ神殿艦隊を率い、戦後悪化したセルファニア湖上の治安を回復。 各地のナーガ神殿に命を発し、戦後悪化したナーラダ全土の治安を回復。 戦後増加した流民、投降した賊たちを職業訓練の後、昇竜会に雇用。 アプシーズへ向かい、星薬会と昇竜会の通商協力を締結。 アヴィーナへ向かい、蜘蛛会と昇竜会の通商協力を締結。 レダへ向かい、東精会と昇竜会の通商協力を締結。 空の月:北セルファニア湖の中立・安全を確保するため、蜘蛛会・東精会の協力も得て、レスフィーナを建設。 疫病の流行に対処するため、星薬会の協力も得て、各地に医療所を建設。 バルスへ向かい、昇竜会との友好関係(通商協力・文化交流)の樹立、ヴェルーダ難民援助。 地の月:カノールへ向かい、キーサ王国と昇竜会の通商協力を締結。 イリスへ向かい、イリス王国と昇竜会の通商協力を締結。 セルファニア湖上にて勃発したウォウル軍とリューン軍の紛争に、艦隊を率いて介入、これを収束させる。 レスフィーナにて、「セルファニア湖の戦い」戦没者慰霊式を主催する。 独立暦402年 水の月:全会一致で昇竜会会長に就任。昇竜会立ウォウル学問所を創立。 ■『諸英伝』ルシャナ・シルキーヌ年表より■ ……そして水の月末、すべての仕事が落ち着くのを見て、遂に因縁の地ヴェルーダへと旅立ったのである。 ――1日 【ハクユウ】 「どうにか追っ手を撒いたようだな。これもひとえにオレサマの手際のよさか」 【ハデン】 「手抜かりだらけだ! ホントに強行突破する奴があるか!?」 【ハクユウ】 「強行突破ったってモロ突っ込んだわけじゃねぇぜ。ちゃんと迂回した」 【ハデン】 「人が分け入らないような山中をね…… おかげで狼の群には追い回されるし、逃げ切ったと思ったらスィスニア兵に見つかるし、最悪だよ」 【ハクユウ】 「そうそう、おめぇったら狼を見るや否や『犬ぅぅぅぅ』とか言って慌てて逃げ出すもんなぁ…… 面白すぎて笑い死にするかと思ったぜ」 【ハデン】 「笑い事じゃないだろう! その後、君が道を間違えて、下りて出たところが南蛮関の真ん前だったじゃないか!」 【ハクユウ】 「いいじゃねぇか、通り抜けたことにはかわりねぇだろ」 【ハデン】 「……まったく、作戦も何もあったもんじゃない」 【ハクユウ】 「それにしてもよぉ、なんだってこんなに次から次へとスィスニア兵が現れるんだ? オレがこの前通った時なんか、ちっとも見かけなかったぜ。戦でもあんのか?」 【ハデン】 「今この時期にリューンが南方に兵を向ける理由がない。 ……おそらく何者かを捕らえるための網を張ってる、てなところだろうね」 【ハクユウ】 「まさかオレ達じゃ……」 【ハデン】 「……ないことは確かだよ。一応世間では僕は死んでることになってるからね。 リューンの諜報部隊――隠密衆と言ったっけ?――も、僕の動きはまだ掴んでないはずさ」 (「ラルグ」絡みでカッシュあたりは気づいてるかもしれないけどね……) 【ハクユウ】 「じゃあ誰なんだ?」 【ハデン】 「さあ、そこまではわからない。僕は万能じゃないからね。 言えることは、僕達がその網の中に真っ正面から突っ込んだってことだけだ。 ……誰かさんのおかげで(笑)」 【ハクユウ】 「ったくしつこいヤローだな(笑)」 【ハデン】 「ほら、言ってるそばからまたまたスィスニア兵だ。30人はいるね」 【ハクユウ】 「ふん、スィスニア兵だろうが何だろうが、とにかくブッ飛ばしゃあいいんだよ! 行くぜッ!」 【シュミット】 「……やれやれ」 ……その後、ハクユウの「東雲」14連コンボ&シュミットの「光嵐(レイストーム)」16発で、スィスニア兵は全滅した。 ――1日 同刻 南蛮関内―― 【オイゲン】 「ヴァル将軍! 捜索隊が山中にて怪しい者と接触、現在交戦中の模様!」 【ヴァル】 「よーし、ついに網に引っかかったな。私自ら出る。全軍集めよ!」 【オイゲン】 「はっ」 ――1日 【テス】 「?……誰もいないみたいですよ」 【シルキーヌ】 「これもナーガ神王のお導きね」 こうしてシルキーヌ一行は誰にも邪魔されることなく南蛮関を抜けたのであった。 ――1日 同刻 南蛮関北西―― 【ハクユウ】 「ここまで来りゃあ完全に振り切ったな。 さあ、これからどうする? さっそく黒竜旗軍の所へ行くか?」 【ハデン】 「いや、その前にウォウルへ行こうと思う」 【ハクユウ】 「何しに行くんだよ」 【ハデン】 「……墓参り。ナタケのね」 【ハクユウ】 「……そっか。そいつは気が付かなかったな、すまねぇ」 【ハデン】 「いいよ。僕は、ナタケに自分が一応立ち直ったこと、そしてもう死のうなどと思わなくなったことを 伝えておきたい。……まだ完全に立ち直ったわけじゃないけどね」 【ハクユウ】 「……」 【ハデン】 「あ、そうそう。君は時々エイゲンに接触してるって言ってたよね。 彼に伝言があるんだけどどこに行けば会えるんだ?」 【ハクユウ】 「ああ、スィスニアのエルヴァ通りにある酒場へ、人の月4日暁の刻に行けば会えるぜ。 で、何を伝えるんだ?」 【ハデン】 「いくつか策を、ね」 【ハクユウ】 「ふーん、何か考えてやがるな。……んで、ウォウルで墓参りした後に黒竜旗軍に行くってわけだ」 【ハデン】 「そういうこと」 【ハクユウ】 「でもよ、ウォウルに行くのって結構危険じゃねぇか? おめぇは背任でクビになった男だぜ」 【ハデン】 「潜入は君も僕も得意だろ。以前よくやったじゃないか。 ……それに、実は僕はナタケが死んだ後一度だけウォウルに行ったことがある。無意識の内にね。 ただ、ナタケの墓にはどうしても行く気がしなかった」 【ハクユウ】 「……そんなことが」 【ハデン】 「あと、ウェル君に見つかってね。ちょっと一悶着あったけど大したことにはならなかった。 どうやらウォウルではクラウ・ハデンは過去の人物になってるみたい」 【ハクユウ】 「そうか、じゃあ、別に問題はねぇってことだな!」 【ハデン】 「……君が居ると起こさなくてもいい問題が起きそうな気がするよ……」 【ハクユウ】 「気にするな! なんとかなる! 行くぜえッッ!!」 ――2日 南蛮関―― 翌日、イグルド・ヴァルが地団駄を踏んだことは想像に難くない……。 ○「悲しき中間管理職」の巻 【天:独立暦402年人の月2日〜6日】 【地:ウォウル付近>リオンの森】 【人:ナーラダ・ルーシ、ソーサ、マグワイア】 ナーラダ・ルーシ率いる4千の兵がウォウルを経ったのは人の月2日である。出兵した理由はイレーヌ=リビュニア姉妹王国軍の侵攻を防ぐためだ。 ルーシは馬上で溜息をついた。 「ふうっ……また彼奴らか……懲りもせず、よくもまあ毎度毎度、顔を揃えて出てくるものだな……」 昨年空の月、イレーヌ軍が侵攻してきた時も彼らであった。そして今回も彼らが軍を率いていた。 ここは、ウォウルから3日の距離の所にあるリオンの森。 ソーサとマグワイア(←問題の彼奴ら)は野営テントの中にいる。 「やるぜ相棒、俺達には後がない」 「おうさ相棒、俺達には後がないな」 「ここらで活躍しないとマジでリストラされちまうからな」 「将軍なんて言っても所詮は中間管理職……悲しいな」 「俺達があの国で生き残るには、姫様達に使える男だということを分かってもらわなければならない」 「そうだ、俺達マッチョオヤジが生き残るためにはそれしかないんだ」 「……そんなわけで、いくぜ相棒ッ!!!」 「オーケイッ!!!」 ルーシ率いるウォウル軍がソーサ&マグワイア率いる姉妹王国軍と衝突したのは人の月6日、闇月・風の刻である。 ソーサとマグワイアは確かに強い。しかし彼らの強さは個人レベルのものであって、指揮者としてのものではない。 匹夫の勇――ルーシはそのように彼らのことを表現した。兵法家としての器は小さい。ルーシにとって彼らの相手をすることなど、稚児を撫でるのに等しかった。 「ふう……もう少し頭を使うことを覚えてから出直してくるのだな」 なんとも緊迫感のない戦いであったが、ソーサとマグワイアは真面目だったのである。 だが半刻もしないうちに決着は着き、二人は逃げ帰ることになった。 「また負けちまったよ相棒」 「今度こそ首かも……」 悲しき中間管理職、ソーサとマグワイアに明日はあるのだろうか。 つまらぬ戦だ……いや戦に面白みを見出してはならんか。まあ兵達の訓練には丁度よい相手だったかも知れぬな…… そのように思いながら、ルーシはウォウルへの帰途についた。 ○「父と子」の巻 【天:独立暦402年人の月3日】 【地:リビュニア>邑議>兵吏執務室】 【人:ファーカル・バルシール、サーク・スレイトン】 「……」 「おや、どうかしたのか、バルシール殿。ずいぶんと浮かない顔をしているようだが」 「ああ、これはスレイトン殿。はは、そんな顔をしておりましたか?」 「何か悩みがあるのでは? よければ相談に乗りますよ」 「いやなに、単なる親子喧嘩ですよ。この年にもなって、とお思いになるかもしれませんが……」 バルシールは事情を話した。 「……なるほどねえ、あのナヴィス君もついに己の道を歩み始めた、ということですか」 「まったく、あやつはわかっておらんのだ。今のリビュニアがどれほど危うい状況にあるかということを。青臭い理想論や無謀な情熱だけで事態が解決できるならこれほど苦労はせんっ!……っと失礼、君に当たるのは筋違いでしたな」 「お気遣い無く。しかし私に言わせればやはり親子ですな。噂は耳にしますよ、丞も若い頃は幾度も修羅場をくぐり抜けてきたとか。一度思い立ったら聞かない人であるとも」 「これはお恥ずかしい。ですが、おかげで吹っ切れましたよ。あやつと私の道は分かたれた。この上は離れたところより見守って行こうと思っております。それにしても、あやつ、今頃どうしていることやら……」 「ナヴィス君のことだ、きっとしっかりやってますよ」 ○「リビュニア独立」の巻 【天:独立暦402年人の月3日】 【地:ウォウル>居酒屋どん兵衛】 【人:ファーカル・ナヴィス、ロレイ・イシス、ロレイ・ティム】 ナヴィスはくしゃみをした。 「やれやれ……誰かが私の噂でもしているのでしょうか」 何十枚目かの皿を洗いながらナヴィスは呟いた。 「おいバイト! 皿洗いが終わったら、次は床掃除だからな!」 「もう! ティムったらどうしてそんな言い方するの? 同じ職場で働いてる者同士、もっと仲良くしなきゃ」 「仲良く? 姉貴はコイツのことを知らねぇからそんなことが言えんだよ。俺はまっぴらゴメンだね!」 言い捨てるとティムは厨房へと消えていった。 「ゴメンね、ナヴィス君。ティムも普段はあんな言い方しないのに……一体どうしちゃったんだろ?」 「いえ、私は気にしていませんよ。さあ次は床の掃除をしなければ」 「ありがとう……ボク、まだお店の経営に慣れてなくて、人を雇うのも初めてだから……ナヴィス君のこと、ホント頼りになるなぁって……」 「いえ、私の方こそたいした手伝いもできないのに雇っていただいて、感謝の言葉もありません」 ファーカル・ナヴィスはウォウル城下にある居酒屋「どん兵衛」で働いていた。この店を拠点にしてリビュニア独立のための同志を集めようと計画している……が、まだ一人も集まっていない。手始めとして「どん兵衛」店主ロレイ・イシスを説得しようと考えているが、切り出そうとする度に決まっていつもイシスの弟であるティムに邪魔されるのである。 「ナヴィス君、ボク、今から米商人のガワ・ツロウさんのところへ行ってくるから、店番よろしくね」 イシスが出ていくと、厨房からティムが現れた。 「おいお前、何考えてんだか知らねーが、姉貴に手ぇ出したらただじゃおかねぇからな!」 そう言って、再び厨房に戻るティム。 (これは何とかしなければいけませんね……) ナヴィスは床を掃除しながら目を伏せ、思案するのであった。 >ファーカル・ナヴィスは以下のコネを既に手に入れています。 >【ロレイ・イシス】:居酒屋どん兵衛店主。関係良好。 >【ロレイ・ティム】:居酒屋どん兵衛副店主。関係険悪。 ○「シルキーヌの旅」の巻 【天:独立暦402年人の月3日〜】 【地:ヴェルーダ落人邑→旧ヴェルーダ邑廃墟→ミュール】 【人:ルシャナ・シルキーヌ、キュアティ・テス、ケトゥ・タスタント、ラル・ランヴァ、ラル・ティート、ボビー、エリック、トラキチ、ゼブル・ケルビム】 (あらすじ) ・南蛮関を抜けたシルキーヌ一行はヴェルーダ落人邑へと向かった。 ・落人邑にてラル・ランヴァなる人物と出会う。 ・シルキーヌの話に心打たれたランヴァは協力を申し出る。 ・ランヴァ、昇竜会ヴェルーダ落人邑支部長となる。 ・落人邑を後にしたシルキーヌ一行は旧ヴェルーダ邑廃墟へ。 ・その光景を心に刻み、シルキーヌは決意を新たにするのであった。 ・………… ・その後、ミュールへ向かったシルキーヌ一行は、そこでゼブル・ケルビムなる人物と出会う。 ・ケルビムは元ライル社の商人で、ライル社解散後、ミュールを拠点として事業を展開していた。 ・シルキーヌの話に心打たれたケルビムは協力を申し出る。 ・ケルビム、昇竜会ミュール支部長となる。 ・ミュールを後にしたシルキーヌ一行は、再び戦乱の大地を歩いて行くのだった…… ○「ハデン、エイゲンに策を授ける」の巻 【天:独立暦402年人の月4日】 【地:スィスニア>エルヴァ通り>とある酒場】 【人:クラウ・ハデン、ナーズ・ハクユウ、ファン・エイゲン、ライサ・ユウト】 わざわいなるかな、血をもって市を建て、悪をもって街を築く者よ 見よ、これは版軍の主から来るのではないのか? もろもろの民が火のために労し、諸国民がいたずらに疲れるというのは ■グーラの予言(独立暦402年水の月、ウォウルにて)より■ ……南蛮関を突破したハデンとハクユウはスィスニアへと向かった。黒竜旗軍の間諜ファン・エイゲンと会うためである。日も暮れかかる人の月4日、ハデンたちはスィスニアに到着した。 「久しぶりだな、スィスニアも」 「だいぶ雰囲気が変わっちまっただろ?」 「そうだね、リューン以前のスィスニアと比べるとずいぶん賑やかになった。これは三邑平定によって物や人の流通が活発になったためといえるだろう。ただ……」 「なんだよ?」 「一見、華やかなんだけどね……」 一度“死んだ”この男の目には、何が映って見えたのだろう。 二人は、まもなく待ち合わせの時刻であるため、急いでエルヴァ通りへと向かった。ふと一台の馬車とすれちがう。ハデンは一瞬、馬車の中の人物と目が合った。目の大きい童顔の女性だ。そのまま通り過ぎるとハデンはハクユウに向かって言った。 「今の女の人……気づいたかい?」 「ああ。なんかこう、決意を内に秘めた、って感じだったな」 とある酒場にはエイゲンが既に待っていた。酒場の喧噪に紛れ込みながら3人は今までの経緯を話し合う。エイゲンはハデンが生きていたことを大変喜んだ。 「……いろいろ心配をかけた……すまない」 そしてエイゲンからナーラダ全土の情勢、および黒竜旗軍の報告を受ける。 「成程、いつもながら的確だね。もう僕の代わりも務まるかな」 さらに話は今後の世の動きへと移る。 「リューンは出兵の準備をしているようです。東邑への侵攻を企てているものと思われます」 「わかってる。ここに来る途中、あちこちで馬が動員されるのを目にしたよ。……おそらく戦場となるのは中邑ウルク付近だろうね」 「おいおい、なんだってそんなことがわかるんだよ?」 「リューンにとって、ウルクはリュシー・ターヌ攻略上の重要な足掛かりだ。それに周辺は広大な平原となっている。騎兵を動かすにはもってこいの地形、というわけさ」 その後、一刻ばかり話し合いは続く。ハデンは用意していた「策」をエイゲンに伝えたのだった。 ○「第弐話『怪異』」の巻 【天:独立暦402年人の月4日〜5日】 【地:ウォウル>昇竜会立ウォウル学問所>校舎裏→回想シーン→翌日→???】 【人:カーン・リョウ、アムル・リルル、ナーラダレッド、ナっちゃん、???】 独立暦400年 地の月:スィスニアにてクーデター発生。 独立戦争以来の伝統を誇る「スィスニア使鬼塾」を始め、 「スィスニア学問所」「スィスニア医療所」「昇竜会職業訓練所」閉鎖。 多数の生徒・講師が邑宰とともにウォウルへ亡命。 独立暦401年 空の月:レスフィーナ建設。 同時に「レスフィーナ講学堂」開設(第壱話『転校生』参照)。 地の月:入学者が殺到したため、手狭になった講学堂の移転が決定される。 独立暦402年 水の月:ウォウルにおいて「昇竜会立ウォウル学問所」創立。 人の月:昇竜会立ウォウル学問所冒険科において「冒険実習」が開始される。 ■『諸英伝』昇竜会立ウォウル学問所沿革より■ うららかな昼下がり。ここ昇竜会立ウォウル学問所冒険科では、もう放課後になっている。我らがヒーローのカーン・リョウくんは、校舎裏の木の上でお昼寝タイムみたい。 「ちょっと! あれほど出なさいって言ったのに。あんたって人はぁ〜」 その木の根本には、幼なじみの美少女アムル・リルルちゃんが、木の葉の間からこぼれる日差しをまぶしそうに見上げつつ、リョウに突っかかっている。 「んあ、っるせ〜な。オリエンテーションなんてかったるくて出てられっかよ」 リョウとリルルの属している学科は冒険科というのだけれど、今年度は『冒険実習』といってナーラダ各地を冒険して回るというカリキュラムが組まれている。今日はその事前の説明がされる、オリエンテーションがあったんだね。ちなみにリョウくんは冒険科剣士系専攻で、リルルちゃんは冒険科使鬼系専攻なんだ。 「この、おバカッ!」 ――ドゲシッ! (←SE) リルルはサンドバッグにハイキックをかますムエタイ選手よろしく、木の幹に鋭い蹴りを放つ。すると、人の形をした物体が落ちました。 「っててて、なにも木を蹴飛ばして落とすことあるまいに……恐るべき脚力かな」 リルルはリョウを見下ろしつつ、やれやれ、という仕草をした。 「はぁ……あほなことぬかしてないで、準備しなさいよ。明日から実習で旅立たなくちゃいけないってのに、のんきなんだから。せめて、これ読んどきなさいよ」 リルルはリョウめがけて木簡の束を投げつけました。リョウくん、ナイスキャッチ。 「げっ、オリエンテーションの資料って、こんなにあったのか」 リョウはうんざりといった様子で、木簡を開いて眺めている。 「さすがにその木簡を持っていくわけにはいかないから、ちゃんと頭の中にたたき込むの。それも今日中に。いいわね?」 リルルはそこまで言うと、今度は胸の前で指を組みつつちょっと困った顔をした。わずかな時をおいて、口を開く。 「……で、その……リョウは、パートナー決まったの?」 それに対するリョウの態度は素っ気なかった。 「いんや、まだだけど」 「……だ、だったらさ、えと……私と組まない? その、あんたって木刀の腕だけは頼りになるし……この前の時だって、私たち息ピッタリだったし……」 「ああ、そういやそうだったな」 ……というわけで、この前。いつものようにリョウとリルルはなかよく下校していたんだけど、その日はウォウルの街中で怪しげな男と些細なことで諍いとなったとさ。 「おっさん、バカも休み休み言えよ」 リョウは紫布に包まれた愛用の木刀を、男に突きつけた。 「ふん、貴様のような悪ガキ、このワシが修正してくれる……蒸着ッ!」 すると驚いたことに、どこからともなく十数個の金属片が飛んできて男の身体を包み込んだの。まさにセルフィアーの驚異……というより怪異ね。 「な、なに! 空から真っ赤な施術スーツが降ってきて、おっさんの身体にはまったぞ!!」 さすがのリョウくんも、これにはたまげたみたい。 「ふふ、説明的台詞ありがとう。我こそは、悪しきを憎み正義を愛するスーパーヒーロー、人呼んで『ナーラダレッド』だ!」 自称ナーラダレッドは、そうやって正義の味方のお約束である名乗りを上げ、ポーズを決めました。 (ちょっと、リョウ……この人変態だよ、関わらない方が身のためだよ) リルルはリョウをつついてそう耳打ちをした。うん、誰だってこんな変人相手にしたくないよね。 (アホっ! たとえイッちゃったヘンタイであろうが、喧嘩を売られて引き下がれるかッ!) と、こっちにも変人が一人。 「少年、そこでか弱き美少女となにを密談しておる。我にかなわぬと悟り臆したか?」 リョウたちがお約束な悪人のリアクションを返してこないので、いらだってるみたい。 「うるせえッ、俺は天然道士だッ! いくぜッ!!」 リョウは神速で木刀を居合うと、自称ナーラダレッドの脇腹にヒットさせた。 「ぐあっ!」 その打撃に5米ほど吹っ飛んで倒れる自称ナーラダレッド。なんか情けない正義の味方だね。 「……ふっ、ザコとは違うのだよ、ザコとは」 左右に木刀を大きく払い、紫布にしまうと、そんなセリフを吐くリョウくん。どっかで聞いたことあるような…… 「ねぇ、リョウ……あの人、大丈夫なの? ピクリとも動かないけど……」 心配そうに見ているリルルちゃん。 「安心しろ、必殺の峰打ちだ……」 おいおい、峰打ちなのに必殺じゃ矛盾してない? 危ないことこの上ないし。 「……ていうか、木刀に峰打ちもなにもないんじゃない?」 うん、リルルちゃんの言いたいことも分かるし。 「わっかんないかなぁ。あるんだよ、それが」 ……と、議論している間に、自称ナーラダレッドは復活しておりました。 「HAHAHA、貴様の《力》はそんなものか、失望したぞ!」 と高笑いしつつ悪の秘密結社の幹部みたいな台詞を吐く、自称正義の味方。 「な、なんと! 傷一つつかないとは、なんて堅いスーツだ!!」 「クックック、効かぬ、効かぬなぁ……その程度の技、我がヒーローパワーの前では児戯に等しいわッ!」 「うるせえッ、なにがヒーローだ! 単にスーツが頑丈なだけだろがッ!」 「そうよ、中身はただのヘンタイオヤジじゃない!」 「ぬぬぬ……ガキだと思って手加減しておれば、どこまでもつけ上がりおって。成程……所詮、悪に魅入られし者には我が崇高なる正義の心、理解できぬか。……ならばよかろう、貴様の善戦に敬意を表し、我が最強の奥義をもって成敗してくれる……ゆくぞッ! ナーラダスピリッツ全開ッ!!」 かけ声とともに、施術スーツから真っ赤なオーラが輝きを放ち、自称ナーラダレッドの身体を包み込む。 「げげっ、こりゃマジっぽいぞ……おい、リルル、下がってろッ!」 「うん、わかった。リョウも気をつけて」 「フッ、逃れられると思ってかッ! 受けてみよッ、我が正義の《力》を!!」 自称ナーラダレッドを取り巻く赤いオーラが渦を巻き、やがて竜のかたちとなって浮かび上がる。 「な、なんだあれは……竜?」 「――危ないッ、リョウ!!」 「遅い遅いわ遅すぎるッ!――くらえ必殺ッ!!」 『―――赤竜招来ッ! カモンッ!!』 轟く爆音! 渦巻く爆炎! 四方八方を炎の竜が駆け巡るッ!……一体いつからこんな展開になったんだ? 「うわぁぁぁぁぁッ!!」 リョウくんの断末魔が響き渡る!……て、死ぬわけないけどね、展開からいって。 「クックック、正義は勝つ!……どれどれ悪党の死にヅラでも拝ませてもらうとするかな……ん?」 自称ナーラダレッドは目を凝らす。煙がだんだん晴れていき、哀れ息絶えたリョウくんの姿が見えた……と思ったら、 「うぎゃあッ!!」 煙の中から出てきたのは木刀でした。神速の二段突きが自称ナーラダレッドの両目を直撃。 「め、目がぁ……目がぁぁぁぁぁ〜」 のたうち回る自称ナーラダレッド。そりゃ痛いわな。 「ふぅぃ〜、マジで死ぬかと思ったぜ。サンキュ、リルル!」 「ホント、間に合わないかと思っちゃった。それより礼ならナっちゃんに言ってよね」 「おう、サンキュ、ナっちゃん! 助かったぜッ!」 「キュキュ〜☆」 見ると、リルルちゃんの側には、お魚さん――水の精霊ナーイアドがフワフワと浮いていた。……ところで精霊って喋るのか? 「こ、このビチグソどもがぁ〜! 正義に誓ってゆるさんッ!! ゆるさんぞぉぉぉぉぉッッッ!!!」 両目を押さえて立ち上がる自称ナーラダレッド。 「たく、さっきから正義正義ってうるせーな。俺は正義の名の下に自己を正当化するヤツが一番ムカツクんだッ!」 「同ー感!」 「ク、クソガキがナマイキ言いおって……。ワシはヒーローだッ! 誰にも邪魔はさせんッ!!」 「……やれやれ、何を言っても無駄か。……とゆーわけだ、いくぜッ、リルル!」 「うん、不本意だけど私の力、リョウに預ける!」 『――破邪顕正ッ! 昇竜精霊陣ッ!!』 説明しよう!――「昇竜精霊陣」とは、天然道士たるリョウから立ち昇る竜の闘氣に、リルルが放つナーイアドの力をブレンドした、結構イケてる方陣技なのである!! 「ワ、ワシは……ヒーローでは……な、なかったのか?…………あの男……嘘を……ぐはあっ!!(ガクッ)」 嗚呼、哀れ自称ナーラダレッドは息絶えた…… 「えっ、もしかして……死んじゃった?」 「アホ。だから峰打ちだって言ってるだろ。じきに目を覚ますさ。……ま、これに懲りて、ヒーローごっこからは卒業するこったな」 「なーんだ、よかった。……あら、これは何?」 リルルちゃん、地面に転がってた、赤い色をした謎の宝珠を発見。 「宝器……みたいだな」 「何に使うのかな……あっそうか! これ、この人が着てた施術スーツだよ!……ほら!」 見ると、既に自称ナーラダレッドの変身は解けており、ただのオヤジの姿に戻っている。 「ふーん……じゃ、もらっとくか」 「えっ、それって……泥棒じゃない!」 「構わん。俺様が法であり正義だ」 「……」 リョウくん、さっきと言ってることが違うような……ま、いっか。 >カーン・リョウは以下のアイテムを手に入れた! >【施術スーツ(レッド)】:ナーラダレッドに変身できる。他にも秘密がありそう……。 「……行こうぜ、リルル。まったく余計な時間をくっちまったぜ。急がないとまた親父のヤローにどやされちまう」 「今日も家の手伝い? 感心、感心♪」 リョウくんの家は、父と子の二人暮らし。父親は漁師をしていて、真冬でも褌一丁という漢の中の漢。リョウくんは毎日その手伝いをしてるんだけど、たまにサボったりなんかすると、恐怖の鉄拳制裁が待っているのだ。リョウくんにとって、カーン家の鉄の掟はヴァルナ神殿の法よりも厳格なんだね。 「まったく、いいご身分だよ。おまえもたまには家の手伝いでもしたら?」 「ちゃんとしてるわよ」 「何をだよ?」 「お嬢様らしく振る舞うこと。ヲホホホホ〜」 リルルちゃんの家は、由緒正しい名家かつ大商家で、リルルちゃんはそこの一人娘なんだ。さらに、リルルちゃんの祖父ハルナ・コウは、昇竜会ウォウル本部長でもある。つまりは、昇竜会会長ルシャナ・シルキーヌに次ぐ地位にある人なんだね。……てなわけでリルルちゃんは本物のお嬢様なのだ。 「……リョウ、急ぐんでしょ? じゃ、また明日ね」 「ああ、サンキュ、リルル。そいじゃ、また明日な」 ……回想シーンはここまで。で、日が改まって冒険実習初日となりましたとさ。 「ね、リョウ、なんかワクワクするね」 「そうかぁ〜、かったるいだけだぜ、俺は。……ま、家の手伝いをしなくていいのはラクといやラクだけどな」 「……相変わらずやる気ゼロね、あんた。……ところでさ、レポートって何を書けばいいのかな?」 「さぁね。テキトーにでっち上げて書けばいいんじゃないの。どうせ俺らのレポートなんて参考程度にしか扱われないわけだし」 「……どういうこと?」 「……おまえ気付いてないの? 俺ら、いわば昇竜会の諜報員なんだぜ。冒険実習とか言ってっけど、シルキーヌの姉御もなかなかしたたかなもんだ、いやはや」 「へぇ〜知らなかったぁ……だったらますます頑張んないとねっリョウ!」 「へっ?」 「あんたナーラダ王を目指してるんでしょ? だったら名を挙げる絶好の機会じゃない。さ、行きましょっ!」 こうしてリョウとリルルの旅は始まったとさ……と、思ったらリョウくんが何か言いたいみたい。 「俺はやるぜ! みんな見ててくれよな!」 ちゃんちゃん。 「……あのガキども、ワシの夢ばかりか、命より大切なスーツまで奪いおって……ゆるさん、ゆるさんぞぉぉぉッ!」 「……」 「おお、アンタか! 頼む、もう一度ワシをヒーローにしてくれ! 他にも持ってるんだろう? なあ、頼むよ!」 「……所詮、道化は道化でしかない、か…………フッ……愚かなる神人よ……」 「?」 ――――――ズビュッ!!―――――― 「うぎゃあぁぁぁぁぁッッッ!!!」 「……フフフ…………フハハハハ…………アーハッハッハッハッハッ………………」 (第参話『妖刀』につづく) ○「アヴィーナ」の巻 【天:独立暦402年人の月5日】 【地:アヴィーナ】 【人:カリフ・イーマーン・マラーイカ、ルイセルク・エリシュ、ナジ】 カリフ・イーマーン・マラーイカはサイダバードを出発すると、砂丘を越え、“百楼の街”アヴィーナへとやってきた。大都会アヴィーナは思っていた以上に賑やかで、無軌道に躍動する街といった印象を受ける。 「……スルタン様より話は伺っておりましたが、本当に賑やかなところですね」 何といっても人が多い。通りを歩くだけで人とぶつかりそうになる。そして驚いたのは、行き交う人々が皆、歩くのが速いこと。その「歩調」に慣れるまで、マラーイカは何度か頭を下げるはめになった。 「……あの人、僕ちょっと苦手なんだよねえ……性格の違いかなあ……」 マラーイカの隣を歩いている人物はルイセルク・エリシュ。一応、マラーイカの雇い主、兼、保護者ということになっている。彼は、慣れたように人波をかき分けながら、立ち並ぶ露店を次々と抜け目無く物色して行く。シュナフ産の織物やシュエル産の染物を見る目は真剣そのものだ。 「……へぇー面白いものがあるよ。見てごらん、マアリちゃん。キーサ王国名物『王宰&軍司・夫婦茶碗』だってさ。よくもまあ、考えるもんだねえ……」 一対の茶碗に描かれた下手な似顔絵を見て笑っている。 「本当、いろいろなものが集まるのですね。まるで居ながらにしてその土地が思い浮かぶほどに……」 「……君の織った織物もこうやってセルフィアー全土に運ばれてくんだけどね」 マラーイカは、アヴィーナにて、ナーラダ情勢およびティアレ・ラコルルの所在について情報を集めた。 以下、蜘蛛会より得られた情報である。 ・ナーラダ地域は現在、各勢力の力関係が均衡しており、今後しばらくは大規模な変動は起こりにくいであろう。 ・しかし、小規模な「事変」の多発は大いに予想される。 ・とりわけ水面下での動きは流動性が激しく、一節先の見当もつかない状況である。 ・リューン=スィスニア勢力と東邑同盟の軍事衝突が近々予想される。 ・リューン=スィスニア勢力は王国を名乗るかもしれない。 ・ウォウル王国は、勢力の拡大は見られないものの、着々と国力を充実させている。 ・一つは、ウォウル王の指導力による富国強兵。周辺の中小邑との連携強化などがある。 ・もう一つは、ウォウルに本部を置く民間団体、「昇竜会」の伸長である。 ・現在、ウォウル邑の人口は15万人に達している。当然ながらセルフィアー最大の邑である。 ・昇竜会はナーラダ全土にその勢力を拡大している。ちなみに蜘蛛会とは協力関係にある。 ・昇竜会会長ルシャナ・シルキーヌ(ナーガ大司祭)は、ナーガ神殿の組織力をバックに、様々な施策を進めている。 ・ティアレ・ラコルルはライル社解散後、シルキーヌに協力してライル社の宝器や技術の回収・管理をおこなってきた。 ・そのため、ラコルルはナーラダ全土を飛び回っていたが、ほぼ仕事を完了し、現在ウォウルにいるらしい。 ・ラコルルは、バーミヤ遺跡の管理のため、近々ナーラダ地域を離れるつもりであるらしい。 ・ナーラダ全土における治安の悪化、すなわち「賊」の氾濫には、蜘蛛会としても手を焼いている。 ・既に、蜘蛛会商人・諜報員にも被害が及んでいる。 ・この問題を昇竜会(シルキーヌ)は次のように対処している。 ・昇竜会レスフィーナ駐留艦隊によるセルファニア湖上安全保障、各地ナーガ神殿による護衛活動などである。 ・ナーラダ地域で情報を集めるなら、昇竜会旅人案内所というところへ行ってみるといいだろう。 ○「レスフィーナ」の巻 【天:独立暦402年人の月6日】 【地:レスフィーナ】 【人:ピアザ・ド・ジャッサ、ミスキワ・カフレイ、キュアティ・イクシオ】 ピアザはここレスフィーナに来ていた。姉妹王国正王イー・リミイの命により、密書を届けに来たのである。 レスフィーナの代表者はミスキワ・カフレイという人物である。カフレイは昇竜会レスフィーナ支部長かつレスフィーナのナーガ司祭であり、性格にやや問題はあるものの、熟練の艦隊指揮能力によって北セルファニア湖の中立と安全を確保していた(反面、中立を護るため、各国の政治には干渉せぬよう細心の注意が払われている)。カフレイ率いる「昇竜会レスフィーナ駐留艦隊」(旧名「ナーガ神殿艦隊」)の仕事はそれだけでなく、アヴィーナからやってくるナルス商船の護衛という任務がある。ちなみにそれをカモとする「セルファニア湖湖賊組合」とは天敵とも呼べる間柄で、たびたび戦闘が行われてたりする。 さて今回ピアザが密書を渡すべき相手はこのカフレイ提督である。さっそく昇竜会レスフィーナ支部、すなわちレスフィーナのナーガ神殿へ行ってみると、レスフィーナ書記官キュアティ・イクシオなる人物を介して、カフレイ提督に面会することができた。別に交渉しろとかいうわけではなく、単に密書を渡すだけだったので呆気なく面会は終わった。 外に出てぷらぷら歩いていると、なにやら神殿の動きがあわただしくなっている。どうやら艦隊出動のようだ。ピアザは自分の渡した密書が原因だとわかったが、中に何が書かれていたかまでは知らない。姉妹王国が《米封鎖政策》を仕掛けることは知っているが、おそらくそのための策の一つなのだろう。 ヒマになったのでこれからどうしたものかと考えていると、一つ思い出したことがあった。今月末の学会で論文を発表しなくてはならないのだ。学会とは正式名称を「姉妹王国歴史学会」といい、歴史学者の卵であるピアザも会員となっている。会長はピアザの先生でラソーダという人である。ラソーダの弟子には姉妹王国正王イー・リミイや副王ウェス・ユミイなどもおり、ピアザは彼女たちの御学友だったりする。とはいえ学会においては会員の地位は関係なく、彼女たちも一人の歴史学者として扱われている。リミイは帝国史に関する論文で、ユミイは軍事史に関する論文で、既に学者として認められている。万年「卵」たるピアザとは大違いである。ピアザとしてもここらで一発すごい論文を発表してやろう、などと考えてたりする。そんなわけで論文のネタでも集めるために、ピアザはしばらく旅でもしてみようかと思い立ち、さっそくレスフィーナ港へ向かうことにした。 ――レスフィーナ港 乗船案内―― →:ウォウル行き………水・人・火・風・空・地の刻(闇月の刻のみ) ←:アヴィーナ行き……水・人・火・風・空・地の刻(闇月の刻のみ) ↑:イレーヌ行き………水・・・火・風・・・地の刻(闇月の刻のみ) ↓:スィスニア行き……水・人・火・風・・・地の刻(闇月の刻のみ) ……空の刻の便でピアザはウォウルへと向かった。 >ピアザ・ド・ジャッサは以下のコネを手に入れた! >【ミスキワ・カフレイ】:昇竜会レスフィーナ支部長。昇竜会レスフィーナ駐留艦隊提督。ナーガ司祭。 >【キュアティ・イクシオ】:レスフィーナ書記官。ナーガ神官。 ○「船旅」の巻 【天:独立暦402年人の月5日〜8日】 【地:アヴィーナ→北セルファニア湖→ウォウル】 【人:カリフ・イーマーン・マラーイカ、ルイセルク・エリシュ、ナジ、ドン・ウォーリー、???】 マラーイカ一行は、アヴィーナからウォウル行きの船に乗ることにした。陸路を使うことも考えたが、現在ウォウル王国と姉妹王国が交戦中という話を聞き、戦渦を避けて水路を選んだのだ。 ――交易船乗り場―― ウォウル行きの交易船の前にはたくさんの人がいた。これから船に乗る人、それを見送る人、船の乗組員……辺りを見回すと、マッチョな荷担ぎ水夫たちが次々と船に荷を積んでいる。積み上げられた財物の豊富さと多様さは、まさに交易都市アヴィーナならではの光景である。マラーイカは船に乗る人の列に並んだ。やがて順番がやってくる。 【マラーイカ】 「おいで、ナジ。大丈夫だから」 【ナジ】 「……ぶし」 手をさしのべるマラーイカ。ナジは船の渡し板の前で躊躇している……が、やがて意を決したように船に飛び乗った。 【マラーイカ】 「ほら、恐くない」 【ナジ】 「ぶし、ぶし」 【船員】 「――あっ、キミキミ! ダメじゃないか、馬の置場は一番下の層だよ」 【マラーイカ】 「ナジは馬ではありません。駱馬です」 【船員】 「ラクバ?」 【マラーイカ】 「はい、駱馬」 【船員】 「……駱駝じゃなくて?」 【マラーイカ】 「駱馬です」 【ナジ】 「ぶし!」 【船員】 「……成程。……うーん、でも見たところ馬っぽいから、やっぱ馬置場だねえ。 ……暴れたりなんかしたら困るし」 【マラーイカ】 「ナジはとてもおとなしい子です。暴れたりなんかしません。 ……それにこの子、まだ子供だから付いていてあげないと……」 【船員】 「……子供?」 【マラーイカ】 「はい、子供」 【ナジ】 「ぶし〜」 【船員】 「……成程。……うーん、でも見たところ大人っぽいから、やっぱ馬置場だねえ」 【マラーイカ】 「そうですか……仕方ありませんね。……では、私も馬置場に居てよろしいでしょうか?」 【船員】 「ああ、それなら構いませんよ」 ……というわけで、マラーイカは馬置場にて一夜を過ごした。ナジは大人の馬に囲まれて肩身が狭そうだったが、側にマラーイカがいるので落ち着いているようだった。……で、次の日。 ――交易船内・馬置場―― 【マラーイカ】 「……上の方が騒がしい。……何かあったのかな」 【ナジ】 「ぶし……」 【マラーイカ】 「ちょっと様子を見てくる。待っててね、ナジ」 と言って立ち上がろうとした、その時―― 【マラーイカ】 「――きゃあ!」 【馬たち】 「――ヒヒーン!」 【ナジ】 「――ぶし!」 ドドーンという轟音とともに、船全体を揺るがす大きな衝撃がマラーイカたちを襲った! 【マラーイカ】 「……一体、何が!?」 【上から叫び声】 「――ぞ、賊だ! 湖賊の襲撃だぞーッ!!」 【マラーイカ】 「……賊!?」 【ナジ】 「……ぶし!?」 【マラーイカ】 「ナジはここで待ってて!」 ――交易船・甲板―― 甲板では既に、船員と湖賊の斬り合いが始まっていた。見たところ湖賊側が優勢だ。船員に比べて戦慣れしている。 マラーイカは手に「旋刃・小型3分」を構え、物陰から様子をうかがった。ハゲたオヤジが湖賊を指揮している。 【マラーイカ】 「あれが賊の首領……」 【湖賊の首領】 「やあやあ我こそは、あの泣く子も笑う湖賊団『黒眼怪団』の首領、ドン・ウォーリーであーる! 命が惜しくば、今すぐ無駄な抵抗はやめろいッ! そうすりゃ積み荷だけで勘弁してやるぜッ!!」 【船長】 「……そ、その言葉、本当だな?!」 【ドン首領】 「おう、もちろんだ。オレも湖賊の端くれ、仁義にかけて嘘は言わねーぜ」 【昨日の船員】 「船長! あんなヤツのいいなりになるんですか! 海の漢としての誇りはどうなるんですッ?!」 【船長】 「……ここは湖だ、海ではない」 【昨日の船員】 「見損ないました、船長!……こうなったら私一人でも戦いますよッ! ……おいッ、そこの賊ッ! この私が相手だッ!! とりゃああッ!!」 【ドン首領】 「フン、若造が死に急ぎおるか…………おりゃああッ!!」 【昨日の船員】 「――ぐはあっ!!」 【船長】 「……だから言わんこっちゃない」 【昨日の船員】 「……くっ、まだ……だ」 【ドン首領】 「ほう……しぶとい若造だな。よかろう、トドメを刺してくれる……」 蛮刀を振り上げる! 危ないッ、船員! 【ドン首領】 「死ねッ!!――――――ぬをッ! な、なんだ?!……目が、目が見えぬ!」 【マラーイカ】 「――精霊術法、『暗不見(くらみず)』……間に合った!」 【昨日の船員】 「き、君は……昨日の?!…………ありがとう……助かっ……た(ガクッ)」 【ドン首領】 「フン、こざかしいわッ!」 気合で術を振り払った! 【ドン首領】 「……なめたマネしやがって。もはやゆるさんッ! 野郎ども、殺せッ! 皆殺しにしろッ!」 【野郎ども】 「イィィィィィーーーッッッ!!!」 【ドン首領】 「……小娘ェ、キサマはとっ捕まえてスィスニアの遊郭にでも売り飛ばしてくれるッ! ……見れば、なかなかの上玉、さぞ高く売れるだろうよ、グッヘッヘ」 【マラーイカ】 「貴方なんかには負けない!(インダラ神よ……力を!)」 【ドン首領】 「グヘヘ、へらず口がいつまでたたけるかな?…………おりゃッ!!」 【マラーイカ】 「――くっ!」 振り下ろされた蛮刀を旋刃で受け止めた……が、圧倒的な衝撃! なんと旋刃が粉々に砕け散った!! 【ドン首領】 「非力なんだよ、嬢ちゃんッ!…………おるぁぁぁッ!!」 【マラーイカ】 「――きゃあッ!」 ドン首領の蹴りで5米ほど吹っ飛ばされた。衝撃で身体が動かない。マラーイカは《戦闘不能》状態になった。 【ドン首領】 「……フン、他愛もない。……どれ、先程の若造にトドメでも刺すとするか………… ……死ねいッ!――――――――――――ぬをッ!!……今度はなんだ?!」 虚空より何物かが飛来してドン首領の蛮刀を弾き飛ばした。 【マラーイカ】 「あれは……槍?!」 【ドン首領】 「……だ、だれでいッ!? 姿を見せやがれッ!!」 【男の声】 「――ひとぉーつ、ひとにはハゲがある……」 【ドン首領】 「?」 【男の声】 「――ふたぁーつ、ふらちなハゲがある……」 【ドン首領】 「??」 【男の声】 「――みいぃーつ、みにくいハゲがある…………とは、我が外吏長殿のお言葉さ」 【ドン首領】 「???」 黒いロングコートに身を包み、編み笠を目深に被った謎の男が現れた。甲板に突き刺さった槍を引き抜き、ドン首領に向かって突き付ける。 【謎の男】 「……たく、せっかくの休暇だとゆーのに、のんびり昼寝もできんぜ。……おい、ハゲッ! 一体どーしてくれる?!」 【ドン首領】 「……な、何モンだテメェは?!」 【謎の男】 「ふっふっふ、その言葉、待っていた!――――聞けいッ!!」 謎の男は思いっきりポーズを決めて言い放った。 【謎の男】 「天が呼ぶ、地が呼ぶ、人が呼ぶ! バルス精鋭『銀狼の牙』が一人……」 『――――ゼオ・マキス、ここに見参ッ!!――――』 と同時に、被っていた編み笠を宙に投げ飛ばす。マキスの顔があらわになった。 【ドン首領】 「……ちっ、つまらん演出しやがって! おい野郎ども、殺っちまえッ!!」 【野郎ども】 「イィィィィィーーーッッッ!!!」 【マキス】 「邪魔だザコ共ッ!!」 『――――残影八破ッ!!!』 怒濤の八連撃。瞬く間に8つの人影が放物線を描いて湖に落ちた。 【野郎ども】 「ヒ、ヒィィィィィーーーッッッ!!!」 【ドン首領】 「おいコラッ、逃げるな! このバカチンどもが!!」 【マキス】 「ふっ、アンタも逃げたらどうだ?」 【ドン首領】 「舐めるな若造ッ! オレが相手になってやる!!」 【マキス】 「そうこなくっちゃ。……いくぞッ!」 【ドン首領】 「ちょっと待て。……おい、アレは何だ!?」 【マキス】 「えっ!? なになに!?」 【ドン首領】 「かかったな馬鹿め!」 この機を逃さずドン首領は、倒れているマラーイカを人質にとった。 【マキス】 「くそ〜またこの手にひっかかった」 【ドン首領】 「形勢逆転だ。今すぐ武器を捨てろいッ! さもないとこの娘の命はないぜ。グヘヘ」 【マラーイカ】 「マキスさん、私はどうなっても構いません。ですから……」 【マキス】 「……うーむ、もっと建設的な意見を言ってくれ」 マキスは槍を投げ捨てた。 【ドン首領】 「んん〜、いい判断だ。褒美をやろう。……おい野郎ども、フクロにしちまいなッ!」 【野郎ども】 「イィィィィィーーーッッッ!!!」 【マキス】 「……ウゲッ…………ゴフッ…………ゲホゲホッ…………」 【ドン首領】 「んん〜、いいザマだな、若造。……そろそろ遊びは終わりだ。おい野郎どもッ――」 【野郎ども】 「イィィィィィーーーッッッ!!!」 【ドン首領】 「――殺れッ!!」 と、ドン首領が叫んだ時、一瞬の隙ができた。マラーイカは、ドン首領の腕に思いっきり噛みつき、素早く逃れた。 【ドン首領】 「アウチッ!…………こ、この小娘がぁ……ぶっ殺したるッ!!――――――――ひでぶッ!?」 またもや虚空より何物かが飛来して今度はドン首領の顔面を直撃した。 【男の声】 「やあ、マアリちゃん、大丈夫かい?……ちょっと遅くなったみたいだねえ」 【マラーイカ】 「エリシュさん!」 鎖を手にした男、ルイセルク・エリシュ……カーリヤ神官にして鎖武術の使い手である。 激痛にのたうち回るドン首領。 【ドン首領】 「よ、よくも……よくもオレの顔をぉ〜……」 【マキス】 「今だッ!!」 マキスは素早く落ちていた槍を拾うと、 【マキス】 「……おいザコ共、さっきのお礼をしないとな」 【野郎ども】 「ヒ、ヒィィィィィーーーッッッ!!!」 【マキス】 「派手にいくぜッ!!」 『――――銀狼奥義・牙狼閃ッ!!――――』 ちゅどどどどおおおおおぉぉぉ〜〜〜〜んッ!!! 【ドン首領】 「…………そ、そんな馬鹿な……一撃で……」 【手下A】 「しゅ、首領、大変です! 艦隊が……レスフィーナ艦隊が向かって来ます!!」 【ドン首領】 「なんだと、カフレイの野郎が!? くそ〜っ……退けッ、野郎ども! 退却だッ!!」 【野郎ども】 「ヒ、ヒィィィィィーーーッッッ!!!」 ドン首領を先頭に、湖賊「黒眼怪団」は我先へと逃げて行った。 【エリシュ】 「ただで逃げられると思っているのかな? ……僕のマアリちゃんを可愛がってくれたお礼は、ちゃんとしないとねえ」 ニヤリと素敵な笑みを浮かべると、エリシュは逃げて行く湖賊船3隻を見据え、カーリヤの神語を唱えた。 【エリシュ】 「――地界・龍鎖城にいます我が神王、操竜神カーリヤよ……我に力を貸せ! ……航海の果て、深き海に沈みし死者の魂よ、鉄鎖の呪縛となりて、かの船を引きずり込め!」 『――――海呪龍鎖ッ!!――――』 すると、みるみるうちに湖賊船が2隻、半分くらい沈没して動きを止めた。よくよく目を凝らして見てみると、海の中から何本もの《手》が突き出して船を引きずり込もうとしている。その《手》は龍のような鱗によって覆われていた。 【エリシュ】 「……おっと、1隻外したか。やっぱりナーガの力が強いのかな、セルファニア湖は」 【マラーイカ】 「……湖に投げ出された人たちは大丈夫でしょうか?」 【エリシュ】 「ほっといていいよ。泳げる連中だろうし。それよりも……」 【マキス】 「……どうやら、あの首領は逃げ延びたようだな。ま、後はレスフィーナの艦隊に任せるとするか」 ――その夜―― 【マラーイカ】 「……では、この船には帰省で?」 【マキス】 「ああ、ちょっと休暇をもらってね。1年ぶりの里帰りというわけさ。 ……にしても、しばらく見ないうちに我が故郷もずいぶんと物騒になったもんだなあ ……いや……バルスが平和なだけか……」 【マラーイカ】 「バルス……ですか。噂は耳にします。セルフィアー全土から優れた人材が集まってくるとか……」 【マキス】 「うーん……まあ……いや、単なる変人の集まりかも……」 自らを棚に上げてマキスは言った。 【マキス】 「……外吏長殿はマイペースだし、財政長官殿はクセモノだし、大ボスの邑宰様ときたら、 『つはもの』だしねえ(謎)…………あ、そうそう、我が軍の長官、邑宰丞様は素敵な方ですよ。 強く、そしてお優しい!――そうだ、これを差し上げましょう!!」 >カリフ・イーマーン・マラーイカは以下のアイテムを手に入れた! >【セフィル邑宰丞の生写真】:レア物。マニアの間では高値で取引されている。装備すると対《魅了》のステータス > 防御効果があるらしい。 【マラーイカ】 「……あ、ありがとうございます」 【マキス】 「それと、これもあげるよ」 >カリフ・イーマーン・マラーイカは以下のアイテムを手に入れた! >【バルスモナカ】×8:バルス名物。食べるとHPが少し回復するらしい。お土産にどうぞ。 【マラーイカ】 「えっ? 悪いです!……なんか、いただいてばかりで……」 【マキス】 「ああ、気にしなくていいよ。ついでだから宣伝活動してこい、ってね。邑宰様のご命令なのさ」 マキスの背後にはバルスモナカが大量に詰まった風呂敷包みの姿があった…… >カリフ・イーマーン・マラーイカは以下のコネを手に入れた! >【ドン・ウォーリー】:泣く子も笑う湖賊団「黒眼怪団」の首領。セルファニア湖湖賊組合の実力者。 >【ゼオ・マキス】:バルス精鋭・銀狼4部隊の一つ、「銀狼の牙」所属。独立暦402年人の月、ナーラダに帰省中。 ……その後は何事もなく、人の月8日早朝、船はウォウルに入港した。 ○「昇竜会旅人案内所」の巻 【天:独立暦402年人の月8日朝】 【地:ウォウル>昇竜会旅人案内所】 【人:カリフ・イーマーン・マラーイカ、ルイセルク・エリシュ、ナジ、ゼオ・マキス、ラージャ・サリア】 ウォウルには「昇竜会」という民間団体(経済ネットワーク)の本部がある。もともとはスィスニアの竜眸石を取り扱う団体であったが、独立暦400年地の月、ナグモ・リューンのクーデターによってウォウルへ亡命したのである。以後は、元スィスニア邑宰にしてナーガ大司祭、そして独立暦402年水の月、ついに昇竜会会長となったルシャナ・シルキーヌの指導の下、ナーラダ全土にその勢力を拡大している。例えばリューン統治下のスィスニア勢力圏などにも経済工作員が送り込まれていたりする。スィスニア三大商家(三大兄弟)が失脚したのも、それら工作員が動いたためと言われている。さらに近々、ヴェルーダ落人邑や東邑エリアにも支部開設の動きがあるという。 また、昇竜会は、シルキーヌの持つ高い信用度・強いカリスマ性・広範な人脈・ナーガ神殿の組織力などによって、多くの外部団体と協力関係にある。 以下、列挙すると…… ○星薬会………………………………通商協力、輸送護衛、医療活動 ○蜘蛛会、東精会……………………通商協力、輸送護衛、情報交換、セルファニア湖上安全保障(レスフィーナ承認) ○バルス………………………………通商協力、文化交流、ヴェルーダ難民援助 ○キーサ王国…………………………通商協力、学術交流、セルファニア湖上安全保障(レスフィーナ承認) ○イリス王国…………………………通商協力 ○アシュラ神殿、ガルーダ神殿……護衛活動 ○ヴィシュヴァカルマン神殿………技術開発 ○ソーマ神殿、ディリーパ神殿……医療活動 ……などである。 そして、以上の協力も得て建設されたものに「昇竜会立ウォウル学問所」がある。 シルキーヌは、セルフィアーの新時代は人材の育成にこそかかっていると考えている。そのためスィスニア統治時代から学問・教育を奨励・振興してきた。当時のスィスニアには、独立戦争以来の伝統を誇る「スィスニア使鬼塾」や、先々代邑宰以来、整備が進められてきた「スィスニア学問所」「スィスニア医療所」「昇竜会職業訓練所」が存在していたが、リューンのクーデターが勃発すると、それらの施設もシルキーヌとともにウォウルへ亡命した。そして、独立暦402年水の月、それらの施設を統合し、総合学問所として整備したものが「昇竜会立ウォウル学問所」である。ここでは、学術研究、職業訓練、芸術、武術、術法、他、多種多様な技能を学ぶことが可能となっている。 ちなみに、昇竜会は完全な相互扶助型組織であるため、所属勢力や信仰およびイデオロギーなどとは無関係であり、各人の独立性が尊重されている(「垂直型ヒエラルキー」ではなく「水平型ネットワーク」なのである)。 (ネタばらし:中国人の「華僑ネットワーク」が昇竜会のモデルです。とくに「客家(ハッカ)」系の華僑。「客家」について詳しく知りたい方は、講談社現代新書(1057)「客家」などを一読あれ) その昇竜会の一機関として「昇竜会旅人案内所」が設置されている。その名のとおり、ナーラダ地域を訪れた旅人に対して情報案内サービスをおこなう機関である。戦乱渦巻く混迷のナーラダ地域を少しでも安全に旅できるよう、様々なサービスが受けられるようになっている。 旅人案内所にはナーラダ地域の様々な情報が集まってくる。案内所直属の諜報員からの報告以外にも、各地のナーガ神殿からの情報、昇竜会立ウォウル学問所冒険科の冒険実習生からのレポート、さらに昇竜会による安全保障の見返りに得られる蜘蛛会からの情報がある。 この案内所の所長をラージャ・サリアという。 ウォウルに到着したマラーイカは、ダーラの丘へ向かうというゼオ・マキスと別れると、さっそく昇竜会旅人案内所に行ってみることにした。ティアレ・ラコルルの所在について聞くためである。 「ティアレ・ラコルル氏ならバーミヤ邑に帰ると言ってましたよ」 「既に出発なさったのですか?」 「いえ、確か明日の船で発つと言ってましたから、まだこのウォウル邑のどこかにいるはずですね」 ……サリア所長の話を聞いたマラーイカは、さっそくウォウルの街を探してみることにした。 ○「ハデン、ナタケの墓参りをする」の巻 【天:独立暦402年人の月8日朝】 【地:ウォウル>ダーラの丘>ライル・ナタケの墓】 【人:クラウ・ハデン、ナーズ・ハクユウ、ナーラダ・ヴィレク、レザー・ウェル】 ウォウル近郊、風光明媚と世に名高いダーラの丘。この地にライル・ナタケの墓はあった。そして今日、人の月8日は彼女の命日である。 ハクユウは一人待っていた。ハデンとともに墓前に参った後、先に立ち去ったのである。 丘のふもと、新緑の草原に寝転がりながら、ハクユウは朝靄の煙るセルファニア湖を遠く眺めていた。辺りに誰も人はおらず、ただ波風の音だけが響き渡っている。 「……」 見慣れているはずのセルファニア湖が、この地では一段と冴え渡って見える。ダーラの丘が古今を通して絶景と謳われている理由がハクユウにもよくわかった。 そしてもう一つ、このダーラの丘にまつわる伝説をハクユウは知っていた。 ――ウォウル近郊、ダーラの丘で告白して生まれた恋人同士は、永遠に幸せになれる―― 「……」 ハクユウは心臓を針で刺されるような痛みを覚えた。いまさら伝説を恨むつもりはないし、いまさら現実を嘆くつもりもない。過去を受け止め、現在(いま)を直視し、未来を切り開く――その覚悟は既にできている。しかしそれでも……いや、だからこそなのか、ハクユウはただ痛みを覚えるのであった。 不意に強い風が吹き抜け、砂塵を巻き上げた。草原全体が波打つ。 「……ちっ、目に砂が入っちまったじゃねーか」 そう言うとハクユウは立ち上がり、丘を振り返る。青空と草原の境に映える白い外套。ゆっくりと歩いて来るハデンの姿が見えた。 「……待たせてすまない。それにしても強い風だったね。目に砂が入ってしまったよ」 「おい、セリフが同じだぜ」 「?」 「なんでもねーよ」 「……まあいい、それじゃ行こうか」 二人はウォウル都城へ向かって歩き出そうとした。 その時―― 「待っていたよ、ハデン」 声が響いた。聞き覚えのある声……この声は……? ハデンとハクユウは同時に声のした方向へ振り返った。 「ナーラダ・ヴィレク!」 丘の稜線に立つ馬上の人影。それは紛れもなくヴィレクであった。 「……」 「てめぇ、何しに来やがった!」 ハクユウは怒鳴った。 「……約束を果たしに、ね」 「約束だと?!」 ヴィレクは何かを取り出すと、ハデンに向けて投げてよこした。受け取るハデン。 「これは……?」 それは首飾りであった。 「彼女から頼まれていたものだ。もし君が、本当に立ち直ってここに来ることがあったら渡してほしい、とね」 「……」 「彼女だと?!……おい、まさか!」 ヴィレクは続けた。 「以前、君が来た時はまるで廃人同然だったので無視することにしたが……よもや本当に立ち直るとはね。どうやら私が間違っていたようだ」 「……」 「おい、どういうことだ!?」 「彼女は最期まで君を信じていた。その上で私にそれを託したのだ。無駄だとは思ったが、私は一年間待ってみることにした。結果、彼女の信じた通り、君は来た……」 「……」 「……むしろ私の方が、彼女を理解しようとしなかったのかもしれないな……」 ヴィレクはそう言うと、瞑目し、そして天を仰いだ。 「てめぇ! 何を偉そーに……」 怒鳴ろうとするハクユウをハデンは制した。 「……ヴィレク、君が約束を護ってくれたこと、感謝するよ」 ヴィレクは頷くと、馬首を翻して立ち去ろうとした。しかし何かを思い出したのか、再び振り返って言った。 「……その首飾りだが、彼女曰く、『この丘の伝説を信じてほしい』……だそうだ。何のことか私にはわからないが、とにかく君には伝えたよ。さらばだ。また会うことを楽しみにしている」 そう言うと、今度こそヴィレクは立ち去った。 するとその後からレザー・ウェルが現れた。 「やあ、ハデンさん、元気になったみたいでよかったよ。そうそう、もう罰金は払わなくていいってさ。なんかハデンさんチにあった財産から没収しちゃったみたい。残った分は全部、トゥーの地にいる親戚さんに送ってあるから安心していいよ。んじゃ!」 言うだけ言うとウェルも去って行った…… >クラウ・ハデンは以下のアイテムを手に入れた! >【首飾り】:ナタケの形見。何か秘密がありそう……。 ○「武器屋 其の壱」の巻 【天:独立暦402年人の月8日昼】 【地:ウォウル>ティフォート武具店】 【人:ラファエロ・ティフォート、カリフ・イーマーン・マラーイカ】 独立暦400年 空の月:スィスニアにて「ティフォート武具店」を構えていたところ、ファン・フェイロンなる人物と出会う。 地の月:ナグモ・リューンのクーデターによってウォウルへ亡命。 リューンによる「竜の道破壊事件」の目撃者となる。 ルシャナ・シルキーヌの協力者、および昇竜会幹部となる。 独立暦401年 水の月:フェイロンに鉄の利剣を売る。 スィスニアに潜入し、スィスニア使鬼塾時代の友人と連絡をとる。 リューンの粛正を免れた人物たちの亡命を助ける。 人の月:再びスィスニアに潜入し、情報収集。 ライル社解散後、シルキーヌおよびティアレ・ラコルルが回収した施術宝器の管理担当者となる。 火の月:セルファニア湖の戦いにおいてシルキーヌに協力し、負傷者救助に尽力。 風の月:ウォウルにおいて「ティフォート武具店」を再開する。 ティアレ・シムルルと製作=販売提携を結ぶ。 ヴィシュヴァカルマン神殿と製作=販売提携を結ぶ。 ウリクル邑軍師将軍ヴァル=ヴァロヌと鉄製武具の売買契約を結ぶ。 ■『諸英伝』ラファエロ・ティフォート年表より■ ティアレ・ラコルルを探してウォウルの街を歩いていたマラーイカは、一軒の武器屋を見つけた。興味が惹かれたので寄ってみると、店主と思われる青年が、 「いかがですか、お嬢さん?」 と、人なつっこい笑みを浮かべて声をかけてきた。 見ると、陳列されている武具は、驚くことに鉄製であった。そしてその中にはなんと、鉄製の「旋刃」まであった。それも「小型3分」である。マラーイカは思わず手に取ってみた。 「ああ、それ、珍しい武器でしょう。インダラ神殿などに伝わる武術で使うものなんだそうですよ」 「これは……誰が創った物なのですか?」 マラーイカは不思議に思った。鉄製の武具はヴィシュヴァカルマン神殿の専売特許だと聞く。だが、ヴィシュヴァカルマン神殿がわざわざマイナーな、しかも地界系の武具を創るとは考えにくい。……ということは誰か物好きな創師が創った物か? 「たしか名が刻まれていたと思いますけど……」 マラーイカは確かめてみた……あった。 「……シムルル?!」 「ご存じですか? 私の友人なんですが」 ……マラーイカは事情を話した。ティフォートの話によると、ラコルルは近々バーミヤ邑に戻って遺跡の管理をするつもりだが、その前に一度ライル・ナタケの墓に参るのだという。ちなみにシムルルは現在旅に出ているらしい。 「どうもありがとうございます」 マラーイカは礼を言って立ち去ろうとした。 「ちょっと待って……これを持っていくといいですよ」 「えっ?」 ティフォートが差し出したのは先程の「旋刃」であった。 「このように高価なもの、買うほどのお金は……」 「ああ、お代はいりませんよ。……この武器、扱える人があまりいないのか、ここに置いてても買っていく人がいないんですよ。それに元々趣味で創ったような物ですしね……」 >カリフ・イーマーン・マラーイカは以下のアイテムを手に入れた! >【旋刃・小型3分・S(鉄製)】:天才創師ティアレ・シムルルの創った宝器。何か特殊な効果があるかも。 >カリフ・イーマーン・マラーイカは以下のコネを手に入れた! >【ラファエロ・ティフォート】:ティフォート武具店の店主。ティアレ・シムルルの友人でもある。 ……武器屋を出たマラーイカはさっそくナタケの墓へ向かうことにした。 ○「武器屋 其の弐」の巻 【天:独立暦402年人の月8日昼】 【地:ウォウル>ティフォート武具店】 【人:ラファエロ・ティフォート、ピアザ・ド・ジャッサ】 レスフィーナからウォウルへとやってきたピアザ。 ぷらぷら歩いていると、一軒の武器屋を見つけた。興味が惹かれたので寄ってみると、店主と思われる青年が、 「いかがですか、そこのお兄さん?」 と、人なつっこい笑みを浮かべて声をかけてきた。 「………………!」 見ると、陳列されている武具は、なんと鉄製であった。 さらに周囲を見渡してみると、鉄製の武具以外にも、今となっては懐かしいライル社製品や、《ティアレ》ブランドの武具、ヴィシュヴァカルマン印《両戦斧紋》の施術宝器などが、ズラッと並んでいる。 「医療用小型短刀」「猟刀」「匕首」「剣」「護剣」「長剣」「柳葉刀」「短矛」「鞭杆」「訶梨棒」「板斧」「手戈」「手戟」「大刀」「矛」「ハ」「棍」「竜骨棍」「大斧」「戈」「戟」「錘」「圏」「鉤じょう」「団牌」「方牌」「飛蝗石」「泥弾」「脱手ひょう」「金銭ひょう」「弓」「弾弓」「旋刃(27分・15分・3分・弦刃)」「振り出し剣」「魚骨槍」「刀破盾」「懐剣涎賺」「宝魔腕S」「妖刀浮雲」「妖刀浮舟」「妖刀浦波」「気功剣」「妖刀帰蝶返し」「妖刀雷鳴」「霊功剣」「呪剣」「燧石」「火尖槍」「精霊剣」「結界小石」「焔刃」「気輪」「耐術霊布」「術光石」「烈光石」「宝魔腕」「施行石」「光牙矢」「耐術軽鎧」「耐術鉄鎧」「玄武手甲」………… ……はっきりいって、これは超スゴイ武器屋だ。 いい土産になると考えたピアザは、鉄製の匕首を一本買うことにした。 「まいどどうも」 店主の声を背に、ピアザは店を後にした。 >ピアザ・ド・ジャッサは以下のアイテムを手に入れた! >【匕首(鉄製)】:竜眸石を象眼し防錆の力を施した鉄製の匕首。青銅製のものに比べて切れ味が鋭い。 >ピアザ・ド・ジャッサは以下のコネを手に入れた! >【ラファエロ・ティフォート】:スーパー武器屋「ティフォート武具店」店主。強力な宝器の管理も担当している。 ○「バーミヤ遺跡」の巻 【天:独立暦402年人の月8日昼】 【地:ウォウル>ダーラの丘>ライル・ナタケの墓】 【人:カリフ・イーマーン・マラーイカ、ルイセルク・エリシュ、ナジ、ティアレ・ラコルル】 午後の日差しが強くなり始める頃、ここダーラの丘には再び訪問者の姿があった。 カリフ・イーマーン・マラーイカである。 ウォウル都城から丘にやって来ると、一人の人物の姿が目に入った。案の定、それはティアレ・ラコルルであった。 マラーイカは事情を話した。最初ラコルルは驚いたようであったが、話を聞き終わると真剣な面もちで語り始めた。 ラコルルの話によると、バーミヤ遺跡は、既にその表層部を探索され尽くし、もはや価値ある物も残っていないため、セルフィアー全土から集まっていた創師や遺跡荒らしたちは立ち去り、2年前は賑わいを見せたバーミヤ邑も、今ではゴーストタウンの如く閑散としてしまっているという。ちなみに遺跡には強力な封印が施されているため、その深層部にはティアレ・ソコルルの子孫以外立ち入ることは不可能で、さらに遺跡の最深部には何者も立ち入ることはできないらしい。そんなわけで、ティアレ親子以外の者たちにとって、遺跡はもはや意味の無いものとなっており、たとえ悪用しようにもそのすべが無いため、移住しても何ら問題はないという。むしろ、ある程度信用のおける人々に定住してもらった方が、悪意を持つ者を遠ざけるという意味で好都合とも言える。 「……では、我々サイダバード民のバーミヤ邑への移住を許可して頂けるのですか?」 「よろしいでしょう。ただし、いくつか守っていただきたい約束事があります。もっとも重要なことは遺跡に立ち入らないことです。残りの詳しいことは、私から直接、指導者の方に話しましょう」 マラーイカは、ほっと息を吐いた。使命を達成することができた――これは大変喜ばしいことである。だが…… 「……もう一つ、お訊ねしたいことがあるのですが」 「何かね?」 「私の兄、ナザフという者が師を訪ねては来ませんでしたか?」 ラコルルはしばらく考えて、 「……いや、記憶に無いが。その者がどうかしたのかね?」 マラーイカは事情を話した。 「……なるほど、そういうことですか」 ラコルルは暫く思案した後、 「気を落とさずに聞いてほしい……」 ラコルルの話は、現在のナーラダ地域は大変危険な状態にあるため、ナザフも何らかの事件に巻き込まれた可能性が高い、というものだった。 「どうしますか、マアリ?」 エリシュが聞いた。 マラーイカの使命はラコルルから移住許可を得ることである。そして、それは既に達成した。後はその報告のためにサイダバードへ戻るだけである。だが…… 「……私はこの地に残り兄君を探します」 マラーイカが言うと、 「ま、そう言うと思ってたよ。さて、これからどうしましょうかねえ……」 なんと言っても手がかりが無いのである。二人と一匹が考え込んでいると、 「ふむ、ならば昇竜会に紹介しよう。このナーラダ地域で行動するなら、その方が何かと都合がいいはずだ」 と、ラコルルが言ってきた。確かに昇竜会とコネを持っていた方が、動きやすいし、情報も手に入れやすい。 マラーイカはラコルルの申し出をありがたく受けることにした。 「うむ……その代わりと言ってはなんだが、一つ話を聞いてはもらえないかね?」 >ラコルルの話を聞きますか? >★聞く >☆聞かない マラーイカはラコルルの話を聞くことにした。 ○「ティアレ・ラコルル」の巻 【天:独立暦402年人の月8日昼】 【地:ウォウル>ダーラの丘>ライル・ナタケの墓】 【人:カリフ・イーマーン・マラーイカ、ルイセルク・エリシュ、ナジ、ティアレ・ラコルル】 ……語り終えたラコルルは、一息つくと、再び口を開いた。 「……だが、私は逃げ出したのだ。一族の使命の重さに耐えきれず……遺言の真の意味もわからぬままにな……」 「……」 「そんな時だ、ライル・ガズカと出会ったのは。彼は大変な野心家であったが、その言葉は強く私を惹きつけた……」 ……ラコルルは、自らとライル社との関係について語り始めた。 ガズカとの出会い、ライル社への入社、宝魔獣の開発、様々な葛藤、そしてライル・ナタケの死…… その詳細についてここでは省くが、いずれ語る機会があるかもしれない。 マラーイカはただ黙って聞いていた。何かを答えられるような話ではなかったし、答えを必要としているとも思えなかった。ただ話を聞く――それがこの場においては必要十分なことであった。 「……ナタケ様の死によって私は絶望の淵に突き落とされた。今まで私がしてきたことは一体何だったのか? 私は一人の創師としてただひたすら技術の進歩を追い求めてきた。それが人々の幸福につながると思っていたから。だが実際はどうだ? 人々の幸福どころか一人の少女すら救うことができなかった……いや、私が死に追いやってしまった!」 ……マラーイカは目の前に建つライル・ナタケの墓を見た。 「……技術の《進歩》……その裏には、だが《反動》が存在したのだ。……《光》と…………そして《闇》が…………。……私は《開けてはいけない箱》を開けてしまったのかもしれない…………」 マラーイカはふと思い出した。あの人は何と言っていたか? 「――闇がなければ、光の明るさはわからない」 キシン・スルタンが久しぶりにサイダバードに帰ってきた時、マラーイカはせがんで話を聞きたがった。スルタンの話はマラーイカに世界の遥かな広がりを感じさせた。その話の中、ライル社について語った時の言葉である。その言葉を呟いた時、スルタンは一瞬やりきれなさそうな目をしたが、その意味することを、マラーイカは理解し得なかった。ただ単純に、ライル社に反感を覚えただけだった。 だが、今、こうやって旅に出てみて、見知らぬ土地を目にしてみて、様々な人と出会ってみて、マラーイカは自分を恥ずかしく思った。自分はなんと狭いものの見方をしていたのだろう! 自分の目で実際に《見》たライル社は、想像の世界のライル社とは異なる。そこには現実に人が存在し、生活し、葛藤しているのだ。……マラーイカの内にあった貧弱なイメージは、この現実を前にして、易々と打ち砕かれてしまった。 『……だから、今ならよくわかる……あの言葉が持つ意味を…………』 「……私は思い出した。ソコルルが残したあの言葉を。だから……私はもはや絶望しない。そして《螺旋の道》を歩む」 ラコルルの表情は険しかった。だが、その目は穏やかだった。 独立暦401年火の月、セルファニア湖の戦い後、ライル社員ではなく一人の創師となったラコルルは、活動を開始した。自分自身に決着をつけるために。そして未来のために。 ラコルルは趣旨を理解してくれたナーガ大司祭ルシャナ・シルキーヌの協力も得て、ライル社解散後に流出した宝器や技術の管理を自ら率先して担当し、その回収のためにナーラダ全土を飛び回った。そしてその年の暮れには大部分の仕事を完了させたのだ。 「……だが、回収できなかったものもある…………それが『バーミヤ文書』だ」 「バーミヤ文書?」 「かなり高度な施術宝器の創り方、そして『神器』――神の力にも匹敵するほどの宝器――について記された書物だ」 「……」 マラーイカは言葉を失った。神の力に匹敵するとはどれほどのものだろう?……見当もつかない。 「バーミヤ文書の流出は非常に気がかりだ。あれがもし悪用されれば大変なことになる……」 マラーイカは恐ろしくなった。大変なこと……ただでさえ戦乱の時代だというのに…… 「……だが、私は急いでバーミヤに還らなくてはならない。……実は先日、バーミヤ遺跡の『深層部』に何者かが侵入しようとしたのだ。幸い《自動防衛機能》が発動して事なきを得たが、いつまた同じことが起こるかわからない。……だから、私は遺跡を護るためバーミヤを離れるわけにはいかないのだ」 ……事態は刻一刻と悪化している……なにか……見えない悪意のようなものが、地下で蠢いている…… ……そんな感覚をマラーイカは覚えた。 「バーミヤ文書についてはシルキーヌ殿にもおねがいしてある。そしてラファエロ・ティフォートという人物に任せることにした」 ……ティフォート……あの穏やかそうな人物が……だが、あの目には確かに知恵の輝きがあった…… 「……それと、私の娘、シムルルも独自に動いているようだ。……私はどうやらあの娘に嫌われているみたいでね……まあ、無理もない……父親らしいことは何もしてやれなかった…………だから、というわけではないが、一つお願いがある。君の旅の途中、もし娘と会うようなことがあれば、なんとか協力してやってはくれないか?…………おそらく、娘もバーミヤ文書の行方を追っているはずだ。――――そしてあの男も。いずれ対決する時が来るだろうな…………」 「あの男?」 「――元ライル社創師、通商《ドクター》。その名を『レンツォ・ベルリック』!……あの男は危険だ……己の研究のためならどんなことでもする。奴の手元には、宝器、宝魔獣、宝魔人、そしておそらくバーミヤ文書の一部も既に手に入れているだろう。何処に姿を消したかはわからない……が、どこか《闇》に潜んでいることは間違いないだろう」 ラコルルは険しい表情をしている。 「……わかりました。シムルル師のお手伝いをしようと思います。多分、それが兄君を探す近道だと思うから……」 マラーイカは直感的にそう思った。……おそらく兄は《闇》の渦中にいるのだ。もし《光》の中にいるのなら、生きているにしろ死んでいるにしろ、痕跡が残るはず。それが無いということは―― 「……そうか、ありがとう。本当に感謝するよ。……そうだ、これを持っていくといい」 >カリフ・イーマーン・マラーイカは以下のアイテムを手に入れた! >【結界小石】:首飾り。白く輝く《空》の力の結晶。結構協力な結界を張れる。レア物。 「……このような貴重なもの、いただけません!」 「よいのだ。私にはもはや必要の無いものだ。きっと、君の旅の役に立つだろう。餞別だと思って持っていきたまえ。……それと、今このナーラダの地は混迷を極めている。表舞台――即ち《光》の下では、相次ぐ戦乱、覇者たちがひしめき、裏舞台――即ち《闇》の下では、絶えぬ暗闘、百鬼夜行が蠢く…………そんな状態だ。……くれぐれも気を付けたまえ。そして、君の旅の成就を願っているよ…………」 ……その日、マラーイカ一行は、昇竜会旅人案内所所長ラージャ・サリア氏と話し合い、今後の方針を定めた。 サリア所長は話を聞くと快く協力してくれた。マラーイカをフリーランスの諜報員として契約してくれたのである。これにより、当面の生活費は心配しなくてもよさそうだ。 エリシュは、昇竜会とコネを得たことから、このウォウルに商業活動の拠点をつくることを考えているようだ。確かにウォウルに拠点を置けば、アヴィーナとの連絡も容易だし、スィスニア後宮に販売ルートを確立する上でも便利だ。 「ナーガ神殿のお膝元で商売とは、なかなか乙なものだねえ。会長さんもなんか面白そうな人だし」 ……てなことを言っていた。 そしてナジは、 「ぶし!」 ……マラーイカと一緒に行くらしい。 こうして、カリフ・イーマーン・マラーイカの新たな旅が始まったのである。 >カリフ・イーマーン・マラーイカは以下のコネを手に入れた! >【ラージャ・サリア】:昇竜会旅人案内所所長。マラーイカの協力者。冒険実習生の監督者でもある。昇竜会幹部。 >【ティアレ・ラコルル】:高名な創師。《大天才創師》ティアレ・ソコルルの子孫。バーミヤ遺跡の管理者。 >以下のキャラクターはナーラダから退場しました。 >【ティアレ・ラコルル】:遺跡管理のため、バーミヤへ帰還。 (あとがき:ほなサイババ様。ティアレ・ラコルルについて勝手に話を考えちゃいました。もし都合が悪ければボツにしてやってください☆) ○「久遠の絆」の巻 【天:独立暦402年人の月8日晩】 【地:ウォウル>居酒屋どん兵衛】 【人:クラウ・ハデン、ナーズ・ハクユウ、ファング】 【ハクユウ】 「それにしても、一体この首飾りは何なんだろーな? ヴィレクの野郎は、丘の伝説を信じろ、とか何とか言ってたけどよ……」 ……ハデンとハクユウは、その日の晩、ここ居酒屋どん兵衛で話し込んでいた。話題は例の首飾りである。 すると、近くに座っていた男が声をかけてきた。 【怪しい男】 「よぉ、兄さんたち。それ、ちょっと俺っちに見せてくれねえか?」 突然そんなことを言うような怪しい奴に見せるはずもない。 【怪しい男】 「俺っちは怪しい者じゃないよ」 【ハクユウ】 「なんだ、お前?」 【怪しい男】 「おう、よくぞ聞いてくれたぜ。俺っちの名はファング。 格闘家にして金貸し、だが回収率はゼロの男さ」 【ハクユウ】 「おい……そりゃ《施し》って言わねーか、フツー」 【ファング】 「ノーノー! それは《愛》! それは《LOVE》! オーマイ《GODDESS》!!」 【ハクユウ】 「……店替えようぜ、ハデン」 【ファング】 「ちょっと待ったッ!! ……オホン、ま、よーするに俺っちは《愛と平和の使徒》ディリーパ神官、というわけなのさ」 【ハクユウ】 「……で、そのディリーパ神官が一体なんの用なんだ?」 【ファング】 「だから、その首飾りを見せてくれと……」 【ハクユウ】 「ダメだ。ディリーパだかスリッパだか知らねーが、ほれ、行った行った!」 【ファング】 「あっ! 俺っちの《女神様》を愚弄したな! もはや許さんッ!!」 【ハクユウ】 「へっ、許さなかったら何だってんだよ?」 【ファング】 「フッ、無知なる者よ。ディリーパ様の真の恐ろしさを知らないな? あんたを一生女性にモテないようにしてやるぜッ! ざまーみろッ!!」 【ハクユウ】 「な、なにいッ!? ちょ、ちょっと待て!……そりゃ本当か?」 【ファング】 「ウソに決まってんだろ。真に受けるなよ。 ……で、どうだい兄さん? 多分あんたの役に立てるとは思うんだがな」 【ハクユウ】 「おい、ハデン! こんな奴の言うことなんか信じんじゃねーぞッ!」 【ハデン】 「わかったわかった。……話が進まんから、もうこれくらいにしておこう(笑)」 そう言うと、ハデンはファングに首飾りを手渡した。 ファングはそれをじっと観察する……そして、 「……やっぱりな。おい兄さん、コイツが何だか知ってるかい?」 「大切な人の……形見だ」 「形見?…………そうか…………兄さん、コイツはただの首飾りじゃない。『祝福ノ証』というものさ」 「『祝福ノ証』?」 「ああ。ディリーパの神性術法にそういうものがある。この首飾りはディリーパの護符の一種で、本当に好きな者同士が告白した後、二人で首飾りに向かって術法を唱えると秘められた力が発動するって寸法さ」 「でもよ、この首飾り、何か術がかかっているようには見えないぜ」 「いや、かかってはいる。だが、まだ発動はしていない。……なぁ兄さん、失礼なことを聞くかもしれないが、さっきあんたはこの首飾りを形見だと言った。それはつまり、あんたの愛する者が、既にこの人界(ザラス)にはいない、ということを意味しているのか?」 ファングは真剣な表情で訊ねた。さっきまでとはうってかわっている。 「……」 ハデンは無言で頷いた。 「……そうか」 ファングは瞑目すると、ディリーパ神殿式の祈りを捧げた。 そしてハデンに向かって言う。 「この『祝福ノ証』を発動させることができるかもしれない」 「……」 「ただし、一つだけ条件を満たしてなければならないが」 「……なんだよ、その条件ってのは?」 ハクユウの問いに、ファングは頷き、そして答えた。 「二人が今も愛し合っていること――」 その夜、ダーラの丘にはディリーパの神語を唱えるハデンの声が響き渡った…… >クラウ・ハデンは以下のアイテムを手に入れた! >【祝福ノ証(ナタケ作)】:ディリーパの護符。ナタケ特製施術宝器。MA+15。装備すると呪われる? >クラウ・ハデンは以下のコネを手に入れた! >【ファング】:怪しげなディリーパ神官。 《スィスニアの街並み》 【清竜殿(せいりゅうでん)】 :スィスニア邑宰家であるルシャナ家が代々政務を執ってきた宮殿。現在はナグモ・リューンが王廷として使っている。東西に700米、南北に500米の広大な敷地に黒竜石によって建てられている。「水」を効果的に用いたさりげない演出が見る者の心を和ませる。建築は300年前で、以来、何度かの大規模な改修工事を経て現在に至っている。 【雲徳殿(うんとくでん)】 :ナグモ・リューンがライル社を敗った際に手に入れた莫大な資産の一部を使って建築した後宮。独立暦402年火の月完成。「豪華絢爛」を絵に描いたような離宮で、100万平方米の敷地を使用。宮内に飾られている壁画や彫刻は、すべてこの時代の第一線で活躍している芸術家達の手によるものである。 【エルヴァ通り】 :清竜殿から南へのびている大通り。道幅20米、全長2000米。スィスニアの中心街であり、名だたる商店が看板を出している。カルナ・シェルセラヴの「カルナ・シェルセラヴ・ファンシーショップ(CCF)・スィスニア店」もこの通りにある。また、リレイル商会の支店も近々出店される予定がある。当然デタラメに地価は高い。 【カルナ・シェルセラヴ・ファンシーショップ(CCF)・スィスニア店】 :独立暦402年人の月15日に突如としてオープンした謎の店。400平方米の敷地に豪華な庭まで付いて、建物は造られている。しかし、どこから出た噂か定かではないが、一昼夜で建築されたとか。現在のところ従業員は2名確認されているが、そのうちの一人で、邑内にその美貌を称えられている噂の美人店長は、滅多に客の前に顔を出すことはないらしい。 【ロージア】 :独立暦402年人の月56日に開店したブティック。シャル族のルナ=シーグレインという金髪美人が店長らしい。詳しいことはまだ不明である。 【オダワ遊郭街】 :エルヴァ通りの南の端から西へ抜けると色町がある。遊郭の名が示す通り、郭によってこの地域は囲まれている。郭の外側は水路になっており、唯一橋が架かっている場所というのが、エルヴァ通り南西よりオダワ遊郭街へ進入可能な「大門通り」と呼ばれる道である。オダワ遊郭街北部には女性が通うための、南部には男性が通うための娼館がある。ここに売られてきた者は、如何なる理由があろうとエルヴァ通りへ向かって橋を渡ることは許されない。従って、大門通りは、客にとってはまさに天への道だが売られてきた者にとっては地獄への道なのである。また、ここは政府公認の遊郭街なので、入り口の「大門」前(巨大アディティ&ドゥルガー神王像が目印)には、脱走者を捕らえられるように番兵が常時待機している。 【サタデー・ナイト・フィーバー】 :オダワ遊郭街北部にあるお店。お忍びでエレニス・メロウリンクがよく遊びに行っている。ちなみにメロウリンクがよく指名しているのは「レオ」という金髪美青年である。 【スィスニア中央卸売市場】 :この施設はスィスニア港の中にあり、毎日セルファニア湖で獲れた水産物などが取り引きされている。 【スィスニア王立兵法所】 :リューンがスィスニアに来て一番最初につくった「水月御流兵法所」が前身。この度正式に「王立兵法所」と名付けられた。場所もエルヴァ通り北東に移転している。 ■『諸英伝』ナーラダ族居住地域地理解説(独立暦402年人の月)より■ ○「ウルクの戦い」の巻 【天:独立暦402年人の月20日】 【地:東邑エリア>ターヌ平野南西>中邑ウルク付近>エレンの丘】 【人:スィスニア軍、黒竜旗軍】 願いよ 今この手を導け 偽りの輝き吹き消してみせよう その力が汚れて見えても 黒竜の旗 降りかざせ! ■三文楽師ケ・チャック詩歌集『俺の歌を聴け!』の中の一曲『黒竜咆吼!』より■ スィスニア軍がミュール軍を撃ち破ったのは人の月15日、そして、ナヴァル軍を撃ち破ったのは翌日16日である。 ナグモ・リューンはターヌ平野南西の中邑ウルクを落とそうとしている。ウルクを失うことは、東邑同盟にとって剣を首に突きつけられた事と同じである。何故ならば、東邑同盟の基軸邑であるリュシー、ターヌに攻め込む上で、このウルクはリューンにとっては絶好の足掛かりとなる中継地点となるからだ。 スィスニアとの主戦場は、ターヌ平野南西ウルク付近エレンの丘――ヴァシュナ・シリル、クラウ・ハデンらは以前からそのように考えていた。戦乱の世は皮肉にも技術を革新させることが多い。それは一概に産業技術のみを指すわけではなく、もっと広範囲なものだ。戦術や軍編成なども変わってくる。 ハデンとシリルは皆騎兵による編成を考えた。将のみならず、行動単位すべてが騎兵となる。そうすればもっと戦闘能率は上がるはずだ。 ディグ・カイル率いる黒竜旗軍がシュラ率いるスィスニア軍と対峙したのは人の月20日、空の刻である。 「……スィスニア軍は兵数で勝る。軍編成は皆騎兵。戦場は広大な平原。そして総大将はシュラ。……となれば十中八九、中央突破を仕掛けてくるだろう。こいつに正面からぶつかるのはアホ以外の何者でもない。むしろ後手に回るべきだ。そのためには……」 ……ディグ・カイルはクラウ・ハデンの策について思い出していた。 シュラ率いるスィスニア軍が突撃してくる。 「打ち合わせ通り、しっかりやれよ」 カイルは手を挙げ合図をする。黒竜旗軍の陣は中央から左右に一本の道を作るように割れていった。それと同時にスィスニア軍はなだれ込んでくる。スィスニア軍は黒竜旗軍の陣が割れて出来上がった一本の道を通り過ぎるような形になった。スィスニア軍の突撃によって黒竜旗軍の陣が分断されたのではなく、黒竜旗軍が自ら割れ、それによってできた一本の道をスィスニア軍は通り過ぎていっただけなのだ。 「全軍反転、追うぞッ!! 敵の後背を突けッ!!」 カイルは全騎兵を反転させ、通り過ぎていったスィスニア兵の追撃を開始した…… (中略) そして…… どのくらい経っただろうか。 エレンの丘が兵達の流す血で真っ赤に染まりつつあった頃。 「……敵は退却するようです」 ディグ・カイルの横に馬を並べてきた左翼の将、シェル・ラティアが言った。 「……そのようだな」 「追撃しますか?」 全身返り血を浴びた右翼の将、アークライト・アーヴィングが問う。 「……やめておこう、我が軍にもそのような余力は残されていない……それよりも長官からの伝令だ。直ちにミュール軍とナヴァル軍、それにスィスニア軍の負傷者を収容せよ――と。既に後方には医療部隊が到着しているそうだ」 医療部隊は、回復系術法の使える術師(とくにナーイアドの使鬼)で構成された部隊である。もともとスィスニアは使鬼のメッカであり、使鬼のための私塾が存在していたが(とくにナーイアドの使鬼にとっては最適な環境にある)、独立暦400年地の月のリューン=クーデターによって、私塾ごとウォウルへ亡命した。その使鬼たちが加わっている。 ……既に日が沈んだ頃、ようやくスィスニア軍の退却という形で、この戦いは終焉を迎えた。 黒竜旗軍は、ミュール軍、ナヴァル軍、そしてスィスニア軍からも兵を吸収し、戦闘前よりもその数を増やした。 だが、この戦いも次なる戦いの前哨戦に過ぎなかった。 (C)L'arc~en~Ciel「Shout at the Devil」 ○「また戦場(ここ)で会おう」の巻 【天:独立暦402年人の月20日】 【地:東邑エリア>ターヌ平野南西>中邑ウルク付近>エレンの丘】 【人:カルブネース・ルドルフ、カーリー】 ……カルブネース・ルドルフとカーリーの一騎打ちは一刻もの間続いていた。 もう何十合、いや百合以上は打ち合っただろうか。周囲の部下たちは戦うのも忘れて固唾をのんで見守っている。 互角の勝負。 だが戦っている二人だけは気付いていた。僅かな、紙一重の差でルドルフの力量が上回っていた。 それを知ったルドルフはカーリーに向かって叫ぶ。 「勇士、殺すは惜しい。武器を捨て降伏せよ。君では私に勝てない」 「ふふ、勝つか負けるかは最後までわからぬものさ。情けを掛ける余裕などあるのかい?――とりゃああッ!」 カーリーの鋭い突き! ルドルフは落ち着いてそれを受ける…… 「なにっ!?」 一瞬の出来事であった。カーリーの突きはルドルフの手前で垂直に変化し、馬の手綱を切断したのだ。 バランスを崩すルドルフ! 「言ったろ、最後までわからぬと!――とどめだッ!!」 落馬しかけるルドルフに、カーリーは必殺の一撃をたたき込みに行く! しかし――カーリーは信じられない光景を見た。 ルドルフは両足で馬の腹を挟み込むと、驚異的な腹筋力で上体を起こし、カーリーの一撃をかわしたのだ。 そして逆にうなるようなカウンターを放つ! 「くっ!」 必殺の一撃をかわされ今度はカーリーがバランスを崩す。 そこへルドルフのカウンター。 次の瞬間、乾いた音を立ててカーリーの手から剣が飛んだ。 ……そのまま互いの馬がすれ違い、両者大きく間合いをとる。するとそこへ大きな銅鑼の音が鳴り響いてきた。 「どうやらあたしもウチの軍も負けのようだね。だがあんたに降伏するわけにはいかない。今の銅鑼は退却の合図さ。連中が退くまで、あたしはあんたの足を止める!」 カーリーがそう言うと、ルドルフは、 「……我が軍も追撃する余裕は無さそうだ」 負傷者の収容(ミュール軍、ナヴァル軍、そしてスィスニア軍の)を最優先にしなければならない。 「また戦場(ここ)で会おう」 カーリーに向かってそう言い放つと、ルドルフは馬首を翻して駆けていった…… >カルブネース・ルドルフは以下のコネを手に入れた! >【カーリー】:カルブネース・ルドルフの好敵手。ハヤ・カシータの戦友。ウルクの戦い後、消息不明。 ○「居酒屋どん兵衛」の巻 【天:独立暦402年人の月24日】 【地:ウォウル>居酒屋どん兵衛】 【人:ファーカル・ナヴィス、ロレイ・イシス、ロレイ・ティム、ガワ・ツロウ、リレイル・リレイア、ファング、リーン、レザー・ウェル、ウィーラ=アプシーズ、カリフ・イーマーン・マラーイカ、ピアザ・ド・ジャッサ】 「いらっしゃいませー! 居酒屋どん兵衛へようこそ☆」(←BGMスタート♪) ……居酒屋どん兵衛は今日も繁盛していた。 イシス、ティム、ナヴィスの三人は、さっきから息つく暇もないほど動き回っている。 店内には、米商人ガワ・ツロウ、リレイア商会代表リレイル・リレイアといった昇竜会のお偉方や、格闘家にして金貸しにして怪しいディリーパ神官のファング、占い師にしてイシャーナ神官のリーンといった神官系、ウォウル衛兵レザー・ウェル、その友人で星薬会ウォウル支部所属医薬師ウィーラ=アプシーズ、他にも、浅黒い肌の14歳くらいの少女、ヒゲを生やした壮年の男、など多くの常連客で賑わっている。 ……さて店内の一角、上座敷にて何やら密談しているのは、昇竜会のお偉方、ツロウとリレイアである。ずいぶんと深刻そうな顔をして話し込んでいる。喧噪で聞き取りにくいが、ちょっと立ち聞きしてみよう。 【ツロウ】 「……ええ、深刻ですね…………イレーヌ平原産の米……全くと言っていいほど…………」 【リレイア】 「……旅人案内所の情報では…………セルファニア湖湖賊組合の……レスフィーナ駐留艦隊が…… ……ナルス交易船…………護送費用がかさんで…………」 【ツロウ】 「……やはり…………姉妹王国が…………仕掛けている、と?」 【リレイア】 「……そう考えるのが…………スィスニアでは……でしたから……来月あたり影響が出始めて…… …………でしょうね」 【ツロウ】 「……そうですか…………そうなれば……東邑同盟…………ですな」 【リレイア】 「……もう一度スィスニアへ…………そのついでに…………しましょう」 【ツロウ】 「よろしくおねがいします…………私も会長がお戻りになり次第…………それでは急ぎますので……」 >ファーカル・ナヴィスは以下のコネを既に手に入れています。 >【ガワ・ツロウ】:昇竜会幹部。米商人。 >【リレイル・リレイア】:昇竜会幹部。リレイア商会代表。 ……さて店内の一角では、イシャーナ神官リーンによる占いコーナーに人が集まっていた。 【ファング】 「うぉぉぉッッ納得いかぁーんッ!! なんで俺っちが《凶》なんだぁぁぁッッ!! もっぺん占ってくれーッ!!」 ファングの魂の叫びを無視すると、リーンは再び水晶球を覗き込み、イシャーナの神語を唱えた。そのまま暫く注視すると、リーンは何事か思案した。そして、ちょうど仕事に一段落着いて手を休めていた、ナヴィスを呼び寄せた。 【ナヴィス】 「何かご用ですか? リーンさん」 【リーン】 「……今、イシャーナ神に祈りを捧げたところ、啓示が降りました。 ……この水晶球をご覧ください。貴方の背後に影が見えます」 言われたとおりナヴィスは水晶球を覗いてみた。……たしかに何やら人影のようなものが映って見える。 【リーン】 「これだけでは何のことかよくわかりませんので、直接貴方を占わせていただきたいのです」 【ファング】 「おっ面白そーだな。ここは恋愛運だろやっぱ。もしかして想い人が現れる兆しかも……な〜んてな」 【ナヴィス】 「はは、だといいですね。なにしろ私、彼女いない歴18年ですから……」 そう言ってナヴィスはリーンの前に座った。リーンは両目を閉ざし、イシャーナの神語を唱える…… 【リーン】 「――鏡色城にまします我が神王……千里眼神イシャーナよ…… ……三期を見通すその《目》をもって、この者の未来を映したまえ……」 ……水晶球が紫色の光を放ち始めた。 ナヴィスと、ついでにファングは、興味深げにその光景を見つめる……そして、 【リーン】 「見えました……『想い人、現る――』……」 【ファング】 「おおっ〜、マジか! やったじゃねーか、これで無カノ歴18年ともオサラバだッ!! ……やっぱ《愛》だな、《愛》。うんうん」 ファングは一人頷き、勝手にディリーパへ祈りを捧げた。 【リーン】 「ちょっと待ってください…… ……『しかし、それは互いに相容れぬ道……そして、長く険しい受難の道――』……」 【ファング】 「……な、なんか雲行きが妖しくなってきたぞ」 【リーン】 「……『貴方は四面体の頂点の一つに立っています…… ……そして四つの頂点を結ぶ六つの辺……そのうち二つは禁断の道――』……」 【ファング】 「うお〜、俺っちは数学、とくに図形が苦手なんだ。わけわかんね〜!」 【リーン】 「ファングさん、ちょっと静かにしてください! ……見えてきました……先程の『影』の人物……それは――」 【ナヴィス&ファング】 「それは――!?」 ぱりーん! 【ナヴィス&ファング】 「わ、割れた!?」 【リーン】 「……どうやらこれ以上は力になれないようですね…… ……くれぐれもお気をつけください……何やら嫌な予感がしますので……」 【ナヴィス】 「……大丈夫ですよ、リーンさん。占いなんて気にしなければ、どうということもないですから」 【リーン】 「しかし……」 【ナヴィス】 「大丈夫、大丈夫ですよ」 半ば自分に言い聞かせるように繰り返すナヴィス。だが、そんな保証はどこにもなく、後日、現実主義者のナヴィスに、占いも馬鹿にできないと思わせる事件が起こるのである。 >ファーカル・ナヴィスは以下のコネを既に手に入れています。 >【ファング】:怪しいディリーパ神官。 >【リーン】:占い師。イシャーナ神官。 ……さて店内の一角では、レザー・ウェルとウィーラ=アプシーズの二人が、カノール産の茶などを喫しながら、何やら話し込んでいる。ちょっと立ち聞きしてみよう。 【ウィーラ】 「……ところでウェル、先日はいったい何の本を買ったんです?」 【ウェル】 「ふっふっふ――見よ! ついに出た、カレリア・ロアンの最新作『《軍師》〜野望の火種〜』! いやーこの日が来るのをどんなに待ったことか」 【ウィーラ】 「なるほど、相変わらずの《ロアン》ファンですね。……で、どんなものですか、内容の方は? ……ま、タイトルでだいたい想像はつきますが……」 『《軍師》〜野望の火種〜』は、セルフィアー史上初めて《軍師》という称を用いた、稀代の策士グード・ライザーを主役とし、その視点からイリス建国の一年を描いた本格歴史小説である。 【ウェル】 「……で、何と言っても《上流作戦》が見どころだね。 ウルゴス王、ライザー、ルドルフ、リーの4人のやりとりがさぁ……」 ……ウェルの語りモードは四半刻ほども続く。 【ウェル】 「……いいなぁ、俺もこんな風に小説に描かれるようになってみたいなぁ」 【ウィーラ】 「……(自分の立場わかってるんですかねえ)。 ……それはそうとウェル、近々東邑へ向かうのでしょう、準備はもう済みましたか?」 【ウェル】 「そういやそんなのもあったっけ……いやーすっかり忘れてたよ。最近ずっとこの本を読んでてさ」 【ウィーラ】 「まったく……たしか出立は明後日でしょう? 急いだ方がいいのでは」 【ウェル】 「べつに準備するものなんて無いよ。ただの護衛だし。 ……あっそうだ、この本持ってこっと。これで退屈しないですむよね」 【ウィーラ】 「……やれやれ」 ……さて店内の一角では、浅黒い肌の14歳くらいの少女が、ミルク片手に何やら瓦版を読んでいる。 ちょっとのぞいてみよう。 ――『昇竜会日報』 独立暦402年 ○東邑同盟・黒竜旗軍、中邑ウルク付近エレンの丘にてスィスニア軍を撃破!!(1面) ○不幸の代名詞クラウ・ハデン、実は生きていた!?(1面) ○元イリス神兵尉カルブネース・ルドルフ、黒竜旗軍の客将として活躍!(1面) ○スィスニア軍大将シュラ、謹慎か!?(1面) ○戦場跡、死体をあさる謎の黒い影(1面) ○ウォウル王国と東邑同盟、不可侵条約締結の見込み(2面) ○潜入! スィスニア後宮裏事情 「宮女もラクじゃない!? 胃薬必須!!」(2面) ○ソーサ&マグワイア、年俸大幅ダウンか!?(2面) ○ゼス・ガルボア演説 「われわれ東邑同盟は運命共同体であります!」(2面) ○旧ヴェルーダ跡地に「氷花」咲く(2面) ○セルファニア湖湖賊組合の動き、活発化(3面) ○不気味な胎動、『七星賊』活動再開か!?(3面) ○創師ティアレ・ラコルル師、バーミヤへ帰邑(3面) ○冒険実習生、第1回レポート提出間近(3面) ○『クラウ・ハデンこのままでえーのか!?後援会(KKK)』発足!(3面) ○米価高騰、家計を直撃!(4面) ○スィスニアに、あの『CCF』進出!(4面) ○カレリア・ロアン最新作『《軍師》〜野望の火種〜』好評発売中!(4面) ○『ティフォート武具店』、新型宝器を入荷!(4面) ○『昇竜会立ウォウル学問所』、新規入学者常時受付中!(4面) ○コラム《ガリクソンさん、かく語りき》 「今年の苗の発育は順調」(5面) ○etc. ……さて店内の一角では、ヒゲを生やした壮年の男が、ぱくぱく寿司を食べながら、何やら瓦版を読んでいる。 ちょっとのぞいてみよう。 ――――軍事月報『激進』 独立暦402年人の月 昇竜会報道局編―――― ☆総力特集《ヴィレク様突撃インタビュー》☆ 1.生年月日、身長、体重、スリーサイズを教えてください 「独立暦387年地の月44日の生まれだ。身長は174センチ、体重は58キロ(ナーラダ戦記開始時点)。スリーサイズは測ったことがない。肩幅は男にしては狭いとよく言われる。なで肩だな」 (男性のスリーサイズなんて分からんのでてきとーにどうにかしてくだせえ:玉英) 2.得意・不得意能力値、得意・不得意技能を教えてください 「一番得意なのは剣だな(FI68、疾剣の剣士)。不得意なものはとくにない。あえて言えば、あまり手先は器用ではないかな。あとは術法は使ったことがない」 (いわゆる万能タイプ。能力値はFI68、IN54、AG54、SK49、MA52、GR48、AT71、LU53、HP24、MP24) 3.現在に至るまでの経歴を教えてください 「父上がウォウル邑宰で、一人っ子だったので、ジグトのもとでずっと邑宰になるための勉強をしていた。父上が亡くなったのでその後を継ぎ、そしてウォウル王になったのだ」 4.王になろうと思ったきっかけは? 「父上のご遺志を継ごうと思ったから。あとは……キーサのことがあったからかな」 5.理想の国はどのようなものですか? 「適度の緊張をもった、腐敗と内紛のない国」 6.好きな言葉、好き・嫌いなもの、大切なものについてお聞かせください 「好きな言葉は『史』。好きなものは、純朴な人間。嫌いなものは、裏表のある人間。まあ、これはきっと自分が策謀家の性だからだろうな。大切なものは部下と父上のかたみの剣とキルア。ウォウル王国ももちろん大切だ」 7.ご趣味は? 「鳥を飼うこと。キルアは三羽目なんだ。怪我をした鳥がいると聞くとつい行ってしまう。たぶんウォウルには私以上に鳥の世話の上手い者はいないだろうな」 8.これまでで一番印象に残っていることは? 「……父上が亡くなったときのことだ」 9.どのような子供時代を過ごしてきましたか? 「学問をして、剣術をして、馬術を学んでいたな。おとなしい子供だったと思う。一族の族兄たちのわるだくみなどにはほとんど乗らなかった。おかげで大人受けは良かったと思う」 10.今、一番やりたいことはなんですか? 「リューンを倒すこと。まあ、言って倒せるものなら苦労はないが」 11.理想の女性、好みの女性のタイプは? 「母みたいな人……といっても記憶にないのだ。優しくて、口うるさくなくて、明るい人が好感が持てると思うが、好みというのとはちょっと違うような気がするな」 12.ジグト、ルーシ、ウェル、エルナットたちをどう思いますか? 「ジグトはかけがえのない部下だ。私の師でもある。彼がいなかったら絶対に今の私はなかったと思う。父の次ぐらいに尊敬しているし、頼りにしている」 「ルーシ叔母は、まあいろいろあったが、あの人には悪意というものはないから、信用できると思っている」 「ウェルとエルナットには苦労をかけてすまないと思っている。何か報いてやりたいがまだ年も若いし、衛兵から引き上げてやれないのが残念だ。ゆくゆくは軍を担う人材になってもらいたい」 13.リューン、シルキーヌ、ハデンたちをどう思いますか? 「リューンは底の知れない男だ。いずれまた会ったときに、どう切り出そうかといつも考えている。興味深い人物ではある」 「シルキーヌ姫は、穏やかな外見をしているがそうとう芯の強い人柄のようだ。ナーガ神の司祭としてはあれ以上の人は当分出ないだろう。ナーガ神殿が勢力を強めるとしたら今しかないだろうな」 「ハデン? あいかわらず頑張っているのかな。気にはなるが、まあ、頑張ってくれとしか言いようがないな」 14.キーサ王宰ヌーグさんをどう思いますか? 「すごい人だと思う。一度お会いしたい」 15.ふだんの生活を教えてください。 「朝はだいたいキルアに起こされる。キルアに挨拶をして、一緒に朝食をとったら朝議をもつ。それからは日によって違うが、軍をととのえたり、吏を視察したり、ウェルとエルナットがいるときには話を聞いたりするな。夜はキルアにおやすみを言って寝る」 16.尊敬する人は誰ですか? どんな人ですか? 「父上。明晰なお考えと、実行力とを兼ね備えておられながら、時を待つことを知っている人だった。私の理想の人だ」 17.自分が他の職に就くとしたら何になると思いますか? 「さあ…たぶん吏じゃないかな」 18.子供の頃の夢はなんでしたか? 「父上のお役に立つこと。あとはたぶん、父上を越えること」 19.世界情勢・ナーラダ情勢をどう見ますか? 「これからセルフィアーはますます混迷の時代を迎える。その中でナーラダをまとめていくのは、我がウォウル王国をおいて他にない。……いや、ひょっとしたらリューンかもしれないが、彼のやり方はたぶん長続きしないだろうな。あとはシルキーヌ姫がどれだけナーガ神殿を実用的な組織に変革させていくか、これが今後の情勢の鍵を握っている」 20.今後の政策についてお聞かせください 「とりあえずリューンのスィスニアを倒す……と言いたいところだが、焦ってもしょうがないので、機を見てやれそうならやる。それまでに、ウォウルの周辺に位置する諸邑をとりこみ、スィスニアに対抗していくつもりだ。たぶんスィスニアが陥ちるときがナーラダが統一するときだ」 21.将来の夢はなんですか? 「ナーラダ統一。あとはキルアの子供や孫を育てること」 23.イー・リミイ氏は何歳だと思いますか? 「さあ。女の人の歳はよくわからない。私より二つ三つ上じゃないかな」 24.セルフィアーの人々に一言お願いします 「ウォウルは今のセルフィアー最大の邑ですが、これまでだけでなくこれからも、たゆみなく成長し続けていきます。そのうちまた、必ず、みなさんの耳目を驚かせると思いますが、どうぞよろしく」 25.最後に、スーパーブラフマー玉英氏に対して一言お願いします 「……私のことをコラージュ・キャラと呼んでいると言う噂が噂で済んで良かったですね」 インタビュー:昇竜会報道局記者ラハム・マハル 編集:昇竜会報道局局長ティエス・エーヌ 企画:軍事月報『激進』 出版:昇竜会報道局出版部 ……さて、今日の仕事を終えたナヴィスは何やら考えているようだ。ちょっとのぞいてみよう。 《居酒屋どん兵衛 追加メニュー一覧》 『新メニュー、始めました!』 ☆【野菜炒め】 :7粒 普通の野菜炒め。油が少ないのでご婦人にどうぞ。 ☆【白粥】 :6粒 病人から朝食まで、幅広い御支持を受けるお粥です。 ☆【卵雑炊】 :7粒 取れたての卵を使った卵雑炊。白粥は物足りない人にどうぞ。 ☆【白飯(リビュニア産の竜光)】 :5粒 イレーヌ平原のリビュニアの農家の人たちが汗水流して作った、 粘りのある「竜光(たつひかり)」です。 ☆【焼き鳥(2串)】 :7粒 焼いた鶏肉にたれをかけたものです。おつまみに最適。 『セルフィアー各地から直輸入した銘菓です。数に限りがございますので、お早めにお申し付け下さい』 ☆【バルスモナカ】 :芸術の都バルスの名物です(ゼオ・マキス氏より譲っていただきました)。 ☆【ガンガー饅頭】 :水郷の街ユディトの名物です(CCFスィスニア店より譲っていただきました)。 ☆【インダラおこし】 :砂丘の邑サイダバードの名物(ルイセルク・エリシュ氏より譲っていただきました)。 インダラ印《裂閃紋》の形をした「おこし」です。 『店員一同、居酒屋どん兵衛へのお越しをお待ちしております』 ……さて、今日の仕事を終えたイシスは何やら悩み事があるようだ。 【イシス】 「ああ、何度計算しても赤字だわ。……どうしてこんなにお米の値段が高くなっちゃったんだろう?」 実は姉妹王国が仕掛けた《米封鎖政策》の影響なのだが、イシスが知る由もない。 【ナヴィス】 「それなら、私に名案がありますよ」 ○「ナヴィス、襲われる」の巻 【天:独立暦402年人の月31日】 【地:ウォウル付近>街道】 【人:ファーカル・ナヴィス、ディーノ、ファン・フェイロン】 ナヴィスの名案とは、米の生産農家と直接契約を結ぶというものだった。幸いナヴィスの故郷リビュニアには、米の無農薬・有機栽培をおこなっている農家の友人がいる。 ナヴィスは意気揚々とリビュニアへ向かい、順調に契約を結ぶことができた。 (これがうまくいけばイシスさんにリビュニア独立計画を話そう) ナヴィスの心は躍った。 だが、その躍る心に終止符が打たれたのは、その帰り道でのことだった。あともう少しでウォウルという所で、とんでもない奴に出会うことになる。 「そこの素敵なお兄さん☆」 ナヴィスは、後ろから呼びかけられたそのセリフに、とてつもなく嫌なものを感じた。なぜならその声は、可愛らしい女の子の声ではなく、野太い漢(おとこ)の声だったからである。 恐る恐る振り返ってみると、そこにはなんと、シルクハットをかぶりマントを身にまとった、チョビ髭マッチョな漢が立っていた。(←BGMが変わる) 周りを見渡してみたが、辺りにはナヴィスとその漢以外の人影は見えない。なにやら妖しげな霧のようなものが周囲に立ちこめている。 「貴方は非常に私(わたくし)の好みにピッタリ。前々から目をつけていたのですよ、ファーカル・ナヴィスくん☆」 「あ、貴方は誰ですか!……私は男ですよ!」 いきなり漢からの愛の告白に戸惑うナヴィス。漢は指でチョビ髭をいじりながら答えた。 「私の名は男色ディーノ。セルフィアー『七星賊』の一人。またの名を『健康手品師(ヘルスマジシャン)』……」 「……だ、男色ディーノ!」 ナヴィスも噂だけは聞いたことがある。 伝説の賊、不敗帝王『裸王(ラオウ)』の親衛隊にして、さまざまな格闘技を身につけた漢達――『七星賊』 そしてその中の一人、セルファニアン・ホモマジックを使いこなす、同性愛者、『男色ディーノ』の噂を。 しかし、それは何処の地方にでもあるカビの生えた七不思議のようなものだと思っていた。だが、その伝説はいま、ナヴィスの目の前に存在している。 「貴方の価値観、変えて差し上げましょう」 (じょ、冗談じゃありません!) 多少は戦闘能力に自信はあるものの、こんな化け物のような奴と戦って勝てるわけがない。 (私にいま必要なのは退く勇気です!) ナヴィスは三十六計逃げるが勝ちとばかりにディーノがいる方向とは反対側に駆け出した―― ――だがそれは甘い考えだった。 「フフフ、我がホモマジックの味、とくと味わいなさい!――――五十六(いそろく)神王カード!!」 あっという間の出来事だった。ディーノの手から放たれた56枚のカードが、ナヴィスの衣服を切り刻み、あっという間にナヴィスは上半身裸になってしまった。 「五十六神王カード……ブラフマー神話に存在するという伝説のカード。それを擬したものに剃刀を仕込み、自由自在に操る、セルファニアン・ホモマジックの基本中の基本。フフフ……」 いつの間にまわりこんだのか、ディーノはナヴィスの目の前で得意そうに自分の技の説明をしている。 「さぁ、マイ・ダーリン。この世の天国を見せてあげますよ」 「だ、誰か、助けてくれ〜!」 あらん限りの声を振り絞ってナヴィスは助けを求めた。 「そこまでにしとくんだな、この変態ホモ野郎!」 「変態ホモですと!」 ナヴィスの叫びを聞きつけたのか、はたまた偶然通りかかったのか、一人のオヤジが現れた。年齢はナヴィスの父よりやや下くらいだろうか。革の青い上着を身に付けており、アゴには不精ヒゲが目立つ、いかにもなオヤジ。 「今朝はあいにくと虫の居所が悪い。手加減はできねーから覚悟するんだな」 マッチョなシルクハット漢VSマッチョなオヤジ……誰もが目を背けるような光景ではある。だが…… 「げげっ、貴様はファン・フェイロン!」 ディーノは、そのオヤジに向かって怪しげな拳法の構えをしたまま、凍りつく。脂汗さえたらしている。 「……し、しかし、マイ・ダーリンを譲るわけにはいきませんな! セルファニアン・ホモマジック奥義! ウルトラミラクル――――あひぃ〜!」 何やら奇妙な技をくりだしたディーノだったが、カウンターで放たれたオヤジの回し蹴り一閃で、10米ほど吹っ飛ばされた。 「どうした。それしきの技ではこのオレにかすりもせんぞ」 「うぐぐ……。ここはひとまず退却した方がよさそうですね。しかし、私は諦めませんよ。……ナヴィスくん、貴方の貞操はいずれ私がもらい受けます。フフフ……ハァーッハッハッハッハッ…………」 笑い声とともに、ディーノはマントを翻し去っていった。 「……お前も厄介な奴に目をつけられたな」 「あ、あの、危ないところをどうもありがとうございます」 「気にしなくてもいいぜ。たまたまオレの気が向いただけだ」 オヤジはなんでもない事のようにさらりと言ってのけた。 「お節介ついでに一言いわせてもらうが、奴の手にかかり貞操を奪われし男子は両手の指に余ると聞く。……お前も気をつける事だな」 「気をつけろといっても、あんな化け物相手に一体どうしろと……」 とてもじゃないが、ナヴィスがあのマッチョに勝つなんて無理だ。 しかし、オヤジは、自分で考えろとでも言わんばかりに軽く首を左右に振ると、立ち去ろうとした。 「お願いします! 教えてください!」 必死に頼むナヴィスに、 「奴はコブ付きには手を出さないと聞く」 と、オヤジは振り返りこう言った。 「コブ付き?」 「お前は今、独身(ひとりみ)。恋人がいない。そういうことだ」 「……!」 そう言い残すとオヤジは地平の彼方へ消えていった。 (……彼女を……急いで…………) オヤジの後ろ姿を見送りつつ、ナヴィスは心のなかで何度も何度もくり返した…… >ファーカル・ナヴィスは以下のコネを手に入れた! >【ディーノ】:七星賊。セルファニアン・ホモマジックの使い手。彼には信仰の対象となる神王が存在しないらしい。 >【ファン・フェイロン】:謎のオヤジ。 ○「条約締結」の巻 【天:独立暦402年人の月32日】 【地:ターヌ付近>街道】 【人:ナーラダ・エルマク、レザー・ウェル、セルビオ・パズー】 ウォウル外吏丞ナーラダ・エルマクが、兵吏丞セルビオ・パズーの率いる護衛とともにウォウルを出立してから数日が過ぎた。 彼らはターヌへと向かっていた。そこに東邑同盟の盟主、ゼス・ガルボアがいる。エルマクの仕事はガルボアに会い、ウォウルと東邑同盟との間で不可侵条約を締結させることにある。スィスニア(ナグモ・リューン)および姉妹王国と対立しているウォウル王国にとって、東邑同盟までを敵に回してしまうことだけは避けねばならなかった。 エルマク一行が、謎の覆面部隊による襲撃を受けたのは、ターヌより1日程の距離のところにてである。これを迎え撃とうとしたパズーが兵を展開するより疾く、ウォウル衛兵レザー・ウェルの素敵に無敵な速攻によって賊はいきなり全滅した。賊は全員覆面をしており、パズーが尋問しようとした捕虜たちも一人残らず舌を噛み切って自害した。 「エルマク殿、お怪我は御座いませぬか」 「大丈夫、それよりも東邑との同盟締結を快く思わない者達の仕業でしょうか……」 「そんな連中、ゴマンといるよね〜」 「……たしかに」 しかし、気になりますね…… スィスニアか姉妹王国あたりの手の者でしょうか……あるいは………… ……その後、エルマクはターヌに無事到着し、交渉の末、条約を締結することに成功した。 人の月34日、ウォウル王国と東邑同盟との間で不可侵条約が締結された。 ○「戦の跡」の巻 【天:独立暦402年人の月40日】 【地:東邑エリア>ターヌ平野南西>中邑ウルク付近>エレンの丘】 【人:ランギヴァラーハ・ライラ、カガト・デュオ】 ターヌ平野南西。ウルクより西に4kmの所にこのエレンの丘はある。 20日前、この辺りでスィスニア軍と黒竜旗軍との武力衝突があった。結果は黒竜旗軍が辛くもスィスニア軍を退け、一応の決着はついた。 血のような色をした夕焼けを背景とし、鴉の群が戦士達の亡骸を喰らい散らかしていた。おぞましい程の腐臭と、最早原形を留めていない、嘗てナーラダ族の勇敢な戦士であっただろうと思われる者の亡骸…… 「……これが戦争か」 ライラはふと呟いた。 果たしてここで死んだ者達にとって、リューンや黒竜の旗など、どれほどの意味があるのだろうか……。将達ならばともかく、一兵卒にとって、主がどう思っていようがそれ程問題ではないのではないか……。彼らにとって重要なのは日々の生活……兵になった理由も、百姓よりも格好いいから、女にもてるから……。多くの者はきっとそのようなものであろう。 「行こうぜ……ライラ、ここにいると気分が悪くなってくる」 デュオがライラを促す。 「……いや、もう少しだけここにいよう」 リューンはスィスニアに来る前に、何年もの間、流浪の日々を続けたという。その生活の中で奴なりに感じるものがあったのであろう。だからシルキーヌを追放し、兵を挙げた。しかし、強大な権力を誇示するかのような現在の振る舞いを、私は見過ごすことはできない……。兄様はシルキーヌを指導者として選び、私はリューンを選んだ。私はあの男ならば世界を変えてくれると思った……。しかしそれは間違いだった。所詮それはあの男の望む世界であって、私の目指したものではない。ならば、私は仕えるべき主を間違えたのであろうか…… ルシャナ・シルキーヌ。兄様は最期の最期まであの女のために戦った。あの女の中に兄様は一体何を見ていたのだ? 風が舞い、ライラの紅い髪が揺れる。少し先に見える砂塵に埋もれた、アシュラ神語で《修》と記された旗も、風に靡いていた。スィスニア軍の大将旗であろう。この度の戦の指揮を執ったのは八武衆のシュラと聞く。 シュラ殿……貴公がリューンという男を知らず、私もまたスィスニアで生を受けていなければ、もしかしたら別の出会いがあったかも知れないな。 「なあライラ……」 辺りを見渡せば、血の色をした夕日も既に沈みかけている。 暗くなる前に宿を探さねばな。 「わかった……行こう」 ○「ラブコメ路線?」の巻 【天:独立暦402年人の月46日昼】 【地:ウォウル>街中】 【人:ファーカル・ナヴィス、ロレイ・イシス】 ファーカル・ナヴィスは彼女いない歴18年の男である。だが、もてないわけではない。彼の物腰の低さは紳士的であり、容姿もなかなかのものだ。そんな彼にモーションをかけてくる女性も少なからずいたことはいた。ナヴィス自身もそのことには気が付いていたが、いつもなかなか決心がつかなかった。妙な雰囲気になると、自分からそれを惚けたようにかわし続けた。そんなことをしているうちに女性の方が愛想を尽かし、ナヴィスから離れていくのだ。 ……詰まり、甲斐性なしの男なのだ。 そんなわけで……彼女いない歴18年。 ナヴィスは今、ウォウルの街中を歩いている。だがいつもと違う。では、どこが違うのか……それは………… 「ねえ大丈夫……重そうだけど、ボク少し持とうか?」 「……大丈夫ですよ、このくらい……次は……何処に行きましょうか?」 「うーんとね、八百屋さんでしょ、それからお肉を買って……あとは……」 ……まだ……まだそんなにあるんですか、イシスサン。 二日に一度、居酒屋どん兵衛の女将、ロレイ・イシスは買い出しに出かける。ナヴィスはイシスの買い出しに付き合うことが日課になっていた。 しかし……買い出しの時はいつも、彼女は一人でどうやってこんなに荷物をもっていたんでしょうか……男性の私がこんなに大変なのに…… 「でもナヴィス君がいてくれて、ホントに助かるわ。買い出しの間は店を開けるわけにいかないから、ティムに店番を頼むしかないし、あの子に買い出しをさせると何を買ってくるか分からないから……結局ボクが買い出しに行かなきゃならないのよね……」 「で、いつもこんなに荷物を持って帰るわけですか……」 「まさかー、頼んで配達してもらうのよ。だ・か・ら、助かるって言ったじゃない。ナヴィス君がいるおかげで配送費を毎回払わなくて済むの」 はは……なるほど……流石は経営者……私の労働力を無駄なく使っていらっしゃる。 「期待しているわよ、男の子!!」 そう言ってナヴィスの背中を叩く。 二日に一度の買い出し。それが私と彼女が二人になる唯一の時間。周りの人達には私達二人はどのように映っているのだろうか…… 男色ディーノ……あの漢の魔の手から逃れるためには恋人を作らなくてはならない。私を助けてくれたあのフェイロンという人の話が真実ならば、私は…… ロレイ・イシス……私はこの女性に惹かれているのだろうか…… 「ん……どうしたの、ボクの顔に何かついている?」 「い、いえ、別に何も……ははは」 ホモ野郎に目をつけられたナヴィス。奴の魔の手から逃れるためには《彼女》をGETしなくてはならない。 ナヴィスの《リビュニア独立》という夢は、こんなことで達成できるのであろうか…… ラブコメしている場合じゃないぞ、ナヴィス。本編の誰かさんみたいになっちまうぞ。オーイ、聞こえているか…… ○「SISTER COMPLEX」の巻 【天:独立暦402年人の月46日昼】 【地:ウォウル>居酒屋どん兵衛】 【人:ロレイ・ティム】 (……ねえティム、おっきくなったら、あたしのお婿さんになってね……絶対絶対ぜーったい約束だよ……) (また料理失敗しちゃったよ〜) (こら起きろティム、いつまで寝ているんだ、もうお昼だぞ……) (ははは……僕、振られちゃったみたい……) (ハッピーバースデー、ティム、15歳の誕生日おめでとう。じゃーん、これはボクからのプレゼントだよ……) (もう戦争なんて嫌だよ……どうして罪もない人達まで死ななきゃいけないの) そして…… (あっ、ティム、こちらは今日から住み込みで働いてもらうことになったファーカル・ナヴィス君よ。仲良くしてあげてね) どうしてだよ。姉貴…… 俺、絶対嫌だよ……姉貴を他の男に取られたくない…… 俺は姉貴のためだったら何でもやるよ。だからお願いだ……他の男を好きにならないでくれ。 昔、約束しただろう……姉貴は俺のお嫁さんになるって……忘れたのかよ…… お願いだ……姉貴……俺を苦しめないでくれ…… 姉貴に近寄る男を俺は許さない。 見るんじゃない。話すんじゃない。姉貴が汚れる…… ファーカル・ナヴィス……俺はお前が嫌いだ………… ○「もてなしの心」の巻 【天:独立暦402年人の月46日夜】 【地:ウォウル>居酒屋どん兵衛】 【人:ファーカル・ナヴィス、ロレイ・イシス】 さて、その日の仕事が終わり…… 「今日はどうもご苦労様、ナヴィス君」 「いえ、お安いご用ですよ」 「うん、ありがとう……というわけでね、ナヴィス君……」 「はい?」 「ハッピーバースデー! 18歳の誕生日おめでとう。じゃーん、これはボクからのプレゼントだよ」 「えっ?……あっそういえば今日でしたね。ありがとうございます。自分でもすっかり忘れてましたよ。ここ最近……」 「ん? 何かあったの?」 「い、いえ……何でもありませんよ……えーと、開けてもよろしいでしょうか?」 「うん、早く開けてみて」 「(がさごそがさごそ)……こ、これは――!」 幾重にも重なる包装を解いた、その中には! 「………………白い飯?」 なんと、ほかほか湯気をたてている山盛りドンブリ飯の姿があった。 「うん、気に入ってくれた? この前、好きなものを聞いた時、『白い飯』って言ってたから……」 「……あ、ありがとう、さっそくいただいてみます」 「はい、お箸」 イシスから箸を受け取り、ナヴィスは白米を一口とって口に入れてみた。 「――こ、この飯は!」 うまいッ! いままで食べたことのないくらいうまい! 米の一粒一粒がふっくらしていて、舌ざわりはなめらか、歯ごたえも心地よい。そして飯をかんだ時に、口の中に広がるふくよかな甘さと香りはどうだ…… ナヴィスは感動の嵐に見舞われていた。ただの白い飯……この全くごまかしようの無い料理において、ここまで素材の持つうまみを引き出すとは…… 「ど、どうしたの、ナヴィス君?」 「い、いえ、なんでもありません……素晴らしい、とても見事な料理です……」 そして続ける。 「……これはリビュニア産の『竜光』、無農薬・有機栽培の米。それを天日で自然乾燥したものを、ついさっき精米し、かまどを用いて薪で炊いて、最後にワラを一掴みくべて蒸らす……。そして使った水は、セルフィアー最高級の名水の一つ、マンドルード地下水脈産『アプサラス・アンディーナ』!!」 「すごーい! 全部当たってる!」 「――いや、待て……それだけではない……それだけでは、ここまでムラのない飯には炊き上がらない…………何か、……何か秘密があるはずだ!」 「そ、そんなたいしたことじゃないけど……」 「ま、待て! 言わないでくれ! これは俺が料理人として越えなくてはならない壁なんだッ!!」 ナヴィスは必死になって考えた。既に口調も変わっている。 「材料の違い?……いや、さっき言ったので間違いない……では何だ?……炊き上がりにムラがない?……そうかッ!……米かッ!……米の一粒一粒の大きさが全てそろっているんだッ!!」 そう、なんとイシスは、米粒一つ一つを丹念に吟味した上で飯を炊いていたのだ。米の一粒一粒の様子は、黒い盆の上に広げるとよくわかる。欠けていたり、濁っていたり、粒が大きすぎたり、小さすぎたり……そのような米粒を一つ一つ取り出しては省いていく。気の遠くなるような、大変な手間と根気の必要な作業である。 「ボクは……ただナヴィス君に喜んでもらいたかっただけなんだけど…………」 「――!」 ナヴィスの身体を衝撃が走った。 ……そうか……そうだった…………俺に欠けていたのはその心…………『人を心からもてなしたい』と思う……その心を忘れていたんだ! ……『食』を芸術の域にまで高める条件、それすなわち人の心を感動させること。そして人の心を感動させるのは、唯一、人の心をもってのみ出来ること…………材料や技術だけでは駄目なんだ! ……そんな基本的なことすら忘れていただなんて…………俺は……俺は……料理人失格だッ!! ……ナヴィスは涙を流しながら白飯を平らげた。そして一人の料理人として決意を新たにするのだった。 「――オヤジ!……俺はあんたを越えてみせる。この腕で……料理人としての誇りをかけてッ!!」 >ファーカル・ナヴィスは以下のアビリティを修得した! >【真・飯炊きの術(1LV)】:人の心を感動させる飯を炊くことができる。 >【もてなしの心(1LV)】:《食》の極意。対象の精神力を回復することができる。 (注:この話の後半はちょっとフィクションです。実際の人物像とは異なる部分が結構あります) ○「温泉宿屋」の巻 【天:独立暦402年人の月47日】 【地:ウォウル>ファン・サラムの温泉宿屋】 【人:カルブネース・ルドルフ、ファン・サラム、ルシャナ・エレミア】 カルブネース・ルドルフは黒竜旗軍に別れを告げると、いよいよ念願のウォウルへとやって来た。 ウォウル王に面会するため、すぐに王廷へ向かったが、今日の面会時間はもう過ぎているという。仕方なくルドルフは一夜の宿を探すことにした。 ほどなく一軒の宿屋が見つかった。ルドルフは寂しい懐と相談して一番安い部屋に泊まることにした。それでも宿屋の主人は嫌な顔一つせずに案内してくれた。 主人の名はファン・サラムといった。話によると、サラムは以前ヴェルーダに住んでおり温泉宿屋を経営していたが、例の《大いなる災い》によって全財産を失った。一度は絶望しかけたが、命までは失ってないじゃないかと思い直し、再起を懸けて一家でウォウルにやってきて、見事に再び温泉を掘り当てたのだという。 話を聞いたルドルフはさっそくその温泉につかってみることにした。ウォウル王に面会する前に旅の垢を流しておくのも悪くなかろう。 石造りの露天風呂。辺り一面、湯気が立ち、ルドルフの眼鏡を白く曇らせる。 「うむ、いい湯だ……」 ルドルフは長旅の疲れがすぅっと消えていくのを感じた。サラムの話によると、ここの温泉は《水》と《火》の要素のバランスが最適で、さらに温泉の成分として《ナーイアドプラス》が含まれているため疲労回復の効能があるという。 ……異郷に一人、温泉につかるルドルフ。見上げると夜空には満天、星々が煌々と瞬いている。ふと、故郷メールの地を思い出した。いまごろ皆はどうしているだろうか………… 温泉を上がったルドルフは食事をとることにした。ナーラダ族の少女が座敷に膳を運んでくる。年若いのに感心なものだ、とルドルフは思った……いや、自分も若いのだが。 サラムの話では、少女は《セルフィア》という名で、有名な画家であるらしい。なんでも、昇竜会立ウォウル学問所芸術科という所で勉強しており、その学費を稼ぐために時々この宿屋で働いているという。あいにく芸術にはそれほど詳しくないので、名に聞き覚えはなかったが、己の夢に向かって懸命な若者を見るにつけ、我が身の所在無さをあらためて思うのだった。 ……ルドルフはチップを数粒置いておくことにした。 「お客人、一杯いかがだっぺか?」 食事を終えたルドルフに、サラムが徳利とつまみの乗った盆を手に声をかけてきた。 「いや、あいにく手持ちが少ないのでな」 「わがっとるよ。こいつはオラの奢りだべ。……んだなぁ、代わりに旅の話でも聞かせてけろや」 ……二人は銘酒『神殺し』を酌み交わしながら、ルドルフの旅の話やナーラダの情勢を肴に、一晩語り明かしたのだった………… >カルブネース・ルドルフは以下のコネを手に入れた! >【ファン・サラム】:ウォウル温泉宿屋主人。酒を酌み交わした仲。 >【ルシャナ・エレミア】:ルシャナ・シルキーヌの妹。天才画家。通称、絵師《セルフィア》。 翌日、ルドルフはヴィレクに仕官を願い出て、喜んで迎えられた。 ウォウル特務募兵尉カルブネース・ルドルフの誕生である。 ○「歴史の闇」の巻 【天:独立暦402年人の月51日】 【地:シーラン>監禁部屋】 【人:ブレイブ・シュウ、エレニス・メロウリンク、???、???、???、???、???】 「い、いやだ……ぼ、僕はまだ死にたくないッ!」 「……やれやれ、大邑の邑宰たる者が見苦しいですよ。せめて最期の時くらい大人しくしたらどうです?」 「な、なぜ僕が死ななくちゃならないんだ?!」 「貴方自身に罪はありません。貴方の存在が我々にとって都合が悪いだけです。よって死んでもらう必要があります。……おわかりいただけましたか?」 「そ、そんな!」 「さあ、これをどうぞ。苦しむことなく楽に死ぬことができますよ。あたかも永久の眠りにつくように……」 エレニス・メロウリンクは優雅に毒杯を手に取ると、ブレイブ・シュウに手渡した。 受け取った杯を恐る恐るのぞき込むシュウ。 「い、い……いやだぁーッ!!」 シュウはメロウリンクに向かって毒杯を投げつけた。 首を傾け、難なく避ける。メロウリンクはあくまで冷静な声で言い放った。 「最期の最期まで世話を焼かせてくれますね、貴方は。……よろしいでしょう、せっかく用意した酒杯ですが、それがお気に召さないというならば……」 メロウリンクは剣を抜き放った。 「……恐れ多いことながら、この私自ら引導役を務めさせていただきましょう」 シュウに向かってゆっくりと歩み寄る。 「く、来るな!……うわぁぁぁぁぁッッ!!!」 ――――水平に振り払う剣一閃!―――― 次の瞬間、ぽとり、という音をたてて首が落ちた。 「……哀れな最期ですね。これが歴史の闇というものですか……」 呟くと、側に控えていた衛兵二人に命令した。 「貴方たち、部屋を片づけておきなさい」 言うと、メロウリンクは部屋を出ていった。 「……」 「……」 「……何とか間に合ったみてぇだな」 「……ああ」 「でもよ、あのメロウリンクって奴も道士なんだろ? よく見破られなかったな」 「いまの俺は格段に霊力が上がっているからな」 男はそう言うと、胸に下げた首飾りを握りしめた。 「……幻術『虚(うつろ)』ねえ」 もう一人の男は感心したように部屋を見渡す。さっきまであったはずのブレイブ・シュウの死体が無い。反対側を見ると、首のつながっているシュウが、気を失ったまま倒れている。 「ところでよぉ、コイツと、ルヴァログのおっさんの姪っ子と、これからどうするつもりなんだ? 黒竜旗軍へ連れていくのかよ?」 その問いに、男は手で口元を隠しながら考える。そして、 「……この者たちにとって今の戦乱は荷が重すぎる。むしろこのまま死んだことにして、安全な場所で新しい人生を送った方がよいだろう……」 「なるほどな。……けどよ、安全な場所つってもそんな都合良く…………って、そうか!」 「そう、バルスだ」 「そうだな、ちょうどマキスの奴も来てるこったし。アイツに任せりゃ大丈夫だな」 男は頷く。そして、 「急ごう。エイゲンを待たせてある」 「おう、そうと決まりゃとっととずらかろうぜッ!」 もう一人の男はブレイブ・シュウを担ぎ、部屋を出た。 「歴史の闇、か……」 男は呟くと、足早に後を追った。 深い闇の中…… 「――詰めが甘いね、ハデン君」 声だけが響き…… 「――っと、さっきのはシュミット君だっけ?……ま、どっちでもいいね……ククク…………」 愉快そうに笑う…… 「――ここに《死体》が残らなきゃ、バレるに決まってるじゃないか」 部屋に転がる肉の塊…… 「――まったくよくできてるよ。人形屋にでもなった方がいいね、あの『ドクター』は……クックック…………」 乾いた笑いが響く…… 「――歴史の闇……それは人の心の闇より生まれ出づる…………」 闇は一段とその濃さを増し…… 「――そして歴史は……光と闇が織りなす螺旋…………」 やがて真の闇が訪れる…… 「――私は『闇師』……闇を操り……心の闇のままに…………」 声は闇へと消えていった………… >以下のキャラクターはナーラダから退場しました。 >【ブレイブ・シュウ】:元シーラン邑宰。密かにバルスへ亡命。 >【サイク・ミナ】:元スウィズ邑宰。密かにバルスへ亡命。 >【ゼオ・マキス】:休暇終了。上の2人を護衛して、バルスに帰還。 「……やれやれ、結局オレさまの出番はなかったなー」 「なんといってもキャラが多いですからねえ。ま、これも歴史の闇ですな」 「ふん、まあいい。……さて、夜も更けたこったし、とっとと帰って寝るとするか。ふぁ〜あ……」 ○「一方そのころ、ウォウル王国は……」の巻 【天:独立暦402年人の月52日】 【地:ウォウル>王廷】 【人:ナーラダ・ヴィレク、ナーラダ・ルーシ】 リューンのスィスニアが王国を称したことは、ここウォウルへも伝わっていた。当初は驚きもしたが、前々から予想していたことでもある。ヴィレクも含め、ウォウルの人々は皆、既に平静を取り戻している。 中庭。 ヴィレクの剣がルーシの肩に直撃するかと思われたその時、彼女はとっさに手首をひねり鍔でそれを受け止めていた。 「流石だな、ヴィレク……二年前に私を敗ったときよりもその太刀筋が鋭くなっておる」 そう言ってルーシはヴィレクの剣を押し返し、直ぐさま間合いを取る。 「叔母上こそ腕を上げたではないか…………歳なのに」 「言うたなヴィレク……」 そして、二人の剣は再び交錯する。 ナーラダ・ヴィレクが王号を称してから早二年が過ぎ去ろうとしている。その間、ウォウルでは実に様々なことがあった。ウォウルの内乱、イレーヌとの戦い、そしてセルファニア湖の戦い……数えればきりがないほど、たくさんのことがあった。王号を称したのはヴィレクが14歳の時、2年経った今、当然ヴィレクの容貌にも変化が見られる。 まず、何よりも身長が伸びた。2年前はルーシの方が背が高かったが、現在はヴィレクの方が若干高い。174糎ある。声も以前に比べれば太くなった。 この月のはじめ、姉妹王国軍の侵攻があったが兵吏長ナーラダ・ルーシが撃退している。イレーヌ・リビュニア地域には豊かな田園地帯が広がっている。ウォウルなどはイレーヌ方面からの米の輸入の比率が高い。かの国は現在、米の封鎖を仕掛け、ウォウルに経済圧力をかけていた。そして今回の武力侵攻である。日に日に両国間の関係は悪くなってきている。 南に「スィスニア王国」、西に「イレーヌ=リビュニア姉妹王国」を敵とする「ウォウル王国」は、「東邑同盟」との不可侵条約を結ぶことにした。そして米も東邑同盟から輸入することにしている。 ○「独裁者とオヤジ」の巻 【天:独立暦402年人の月52日】 【地:???→スィスニア>雲徳殿】 【人:ナグモ・リューン、カレリア・ロアン、???、???】 (男に生まれたからには、てっぺんに駆け上がるか、地に這い蹲ってくたばるかの二つに一つだ……) (また何を言い出すかと思えば……おめえ何考えてやがるんだ……) (……女はいい。女は子を産めばそれを生き甲斐にすることができる。だが、子を産めない男は自分で何かを見つけなきゃ、生きていく意味が分からないままだ) (……男だろうと女だろうと、日々の生活の中から幸せの欠片くらいは自然に見つけられるもんだと思うがな) (……それは理屈だ、多くの者はきっとそのようには考えられない。そして……俺もその一人だ) (ふん、ならそれでもいいがね。だが、少なくとも一つだけ言えんのは、過ぎた野心は自身を滅ぼす、てこった……) (それでもかまわないさ……俺が一番恐いのは、自分が何のために生まれてきたのか分からないまま死んでいくことだよ……) (けっ…………おめえ、今から死んだ時のこと考えてどうすんだよ……ガキのうちはガキらしいことを考えてろ。特におめえの場合はな!) (まったく……夢のないオヤジだな……) (何か言ったか雇われ航海士?) (いーや、何も言ってないぜ……それよりもほら、王手だ) (げ、その一手、ちょーっと待った!!) (駄目だな。これで3勝2敗で今日は俺の勝ち越しだ。ここのところはずっと負け続きで奢らされっぱなしだったからな……今日くらいはお前の奢りで高い店に飲みに行こうぜ……) 「……ょう!……」 ……ん?………… 「……ん長ってば!……」 ……おや?…… 「……船長! 起きる時間ですよ!」 ……ふむ……夢か…………何やら懐かしい夢だったなー…………オレさまが20代のピチピチナイスガイだった頃の記憶だな…………まあ、今でもたいして変わってないが………… 「……頼む、あと5分だけ……」 そう言って再び布団の中に潜り込んでいくのだった。 スィスニア、雲徳殿。 「どうなさいました、陛下……」 「夢を見た……」 「……夢……それはどのようなものですか……」 「昔、俺がまだ旅をしていた頃に知り合った……《友》と呼べる男との戯れだ」 「まあ、それはどのような方なのですか」 「強く、そして何者からも束縛されない自由な男だ。豪快で無邪気、また、人の上に立つ器量を持ちながらもそれを利用しない男……つくづく俺には理解できない男だったよ」 「まあ……」 ロアンは目を細める。 「……会いたいものだな……」 それを聞いたロアンは態とふてくされたような姿形(しな)を作ってみせた。そして、リューンに背中を向ける。 それを見た彼はすかさずフォローを入れた。 「…………だが今はいい、お前が俺の腕の中にいてさえくれれば……」 そう言ってカレリア・ロアンを再び抱き寄せた。 ロアンは心の中で舌を出していた。 ○「火の序章」の巻 【天:独立暦402年人の月54日】 【地:東邑エリア>ターヌ平野南部>竜爪関】 【人:黒竜旗軍の人々】 (あらすじ) ・ウルクの戦いにおいて辛くも勝利を収めた黒竜旗軍。 ・勝利の美酒に酔う暇もなく、次なる命令が下される。 ・スィスニア王国方面最前線の砦『竜爪関』に駐留し、スィスニア軍の侵攻を阻止せよ。 ・竜爪関は、ミュール川・ヤーダカ川・ターヌ川の結節点の北岸に位置する砦である。 ・独立戦争期にナーラダ族が建造した砦の一つである。 ・戦後、竜老会にその管理が委ねられたが、その形骸化とともに放置されていた。 ・ちなみに名の由来は、川の分岐がちょうど《竜の爪》のように見えることから、であるそうだ。 ・城壁はところどころ崩れ、廃城も同然であった(三国志における新野に相当すると思ってください)。 ・悪条件ばかりのようにも思えたが、これによって一応の勢力領域を確保したことになる黒竜旗軍。 ・スィスニア軍最前線の双塔の砦『竜角関』と対峙したまま、人の月は過ぎようとしている。 ・火の月の激突は必至であった…… ○「姉妹王国歴史学会」の巻 【天:独立暦402年人の月55日】 【地:イレーヌ>姉妹王国歴史学会】 【人:ピアザ・ド・ジャッサ、イー・リミイ、ウェス・ユミイ、ラソーダ、ソーサ、マグワイア、ノモッち号】 「…………以上で発表を終わります」 ピアザは話し終えると席に着いた。 ここは姉妹王国歴史学会。毎月、月末頃に開会され、歴史に関する論文や研究の成果を発表している。今月のテーマは「現在のナーラダ地域の戦乱状況に関する歴史学的考察」である。ピアザは、この一節の間にナーラダ全土を回って見聞してきたことをレポートにして発表した。お偉い学者先生たちにもなかなかウケがいいようだ。 「ピアザ君のレポートは大変興味深いものであった。マクロな動きが如何にしてミクロな部分にまで影響を及ぼすか。また、逆に、個人の行動が如何にして大勢にまで影響を与えるか。……なるほど、これは今までの歴史学には無かった観点と言えるのう」 ピアザの先生でもあるラソーダがそう言うと、会場からはどよめきが起こった。 「いやー、ウォウル・スィスニアへの嫌がらせで仕掛けた《米封鎖》だけど、その裏でそんな人間ドラマが起こってるとはねー」 答えたはイー・リミイ。姉妹王国正王にして《米封鎖政策》の張本人である。もっとも、王といえどもここでは一人の歴史学者にすぎない。 「ふふ、歴史はいつだって人間ドラマですわ、お姉様」 この発言はウェス・ユミイ。姉妹王国副王だが、ここではやはり一人の歴史学者である。 「うん、そうだな。……にしてもこのアイディアは面白いよ。こりゃ一つ、現在のナーラダの戦乱をネタにして歴史書の編纂でもやってみるかね。どうだ、みんな?」 「賛ー成!」 「決まりですね。ではタイトルは何にしましょうか?」 「やっぱ、主人公ということで『ヴィレクの野望 全国版』なんてどうですか」 学者の一人がそう言うと、 「却下! 個人名を使うのは歴史学的客観性に欠ける」 「じゃあ『リューンの野望 天翔記』とか『それゆけシルキーヌ!』とかもダメかぁ……僕、ファンなんだけど」 「君、いかんね。歴史学者と歴史ファンとは違うのだよ。もっと自覚をもってくれなきゃ」 「『諸英伝第二部 ナーラダの章』なんてどうかしら?」 「うーん、いいんだけどね。いまいちインパクトに欠ける」 「君はどう思うかね? ピアザ君」 「そうですね…………『ナーラダ戦記』とか」 ピアザの出したタイトルは特に反対意見もなく、そのシンプルさを買われて採用となった。 「……では次の議題に移ります。先節イレーヌ郊外で発見されたチェリア朝時代の遺跡についてですが……」 ……さて、閉会後、ピアザはラソーダ会長の研究室に呼び出された。 「そういうわけでピアザ君、君にはウォウルへ行ってもらうことになる」 「…………?」 ラソーダの言葉が意味するところをピアザは量りかねた。 「ウォウルにはナーラダ地域のあらゆる情報が集まってくる。資料集めには困らぬだろう」 「…………つまり、私に『ナーラダ戦記』の編纂をしろ、とおっしゃるのですか?」 「そうだ」 「可能だとお考えですか?」 「君にできなければ、他の誰にも不可能だろうと考えておるよ」 君にならできる……古い伝統を持つ殺し文句だな、とピアザは考えた。この甘いささやきにプライドをくすぐられて不可能事に挑み、身を誤った人々の何と多いことか。そして甘言を弄した側が責任をとることは決してないのだ。 「…………」 ピアザは沈黙していた。 「自信がないかね?」 ラソーダがそう問うたとき、ピアザはなおも答えなかった。自信が無いならその旨を即答したであろう。だがピアザには自信も成算もあった。彼が歴史書編纂の指揮をとっていれば、過去8年間にわたってこれほど時間を浪費することはなかったはずだ。独立暦394年、当時20歳のピアザは歴史に転換期が訪れていることを明敏に察知していたが、彼の歴史学的観点が周囲に理解されることはなかった。多くの者は、頻発する事件の表層的な部分にのみ目を奪われ、その歴史的意義にまで思考を巡らすこともなく、後世、歴史学的に大きな価値を持ったであろう同時代性資料(第一次資料)をみすみすドブに捨ててきてしまったのである。歴史というものを考えるとき、その観点の一つとして、現時点以降との想定比較によって歴史を価値づける(逆にいえば歴史を教訓として活かす)というものがある。歴史学者たちはいま、この観点から、懸命にこの激動する時代を読み解き、解法を模索し、道標を打ち立てようとしている。だが、それは物事の一面だけを都合良く切り取ったものになりはしないか? 短期的に見れば成果は挙がるだろう。ピアザもそれを否定する気はない。しかし、長期的に見た場合、時が経てば経つほど切り捨てられた部分のサルベージは困難となり、その損失は増大していく。これは、少なくともピアザにとっては無念なことであった。歴史をありのままの歴史として――時代のうねりを、大地の鳴動を、人々の息吹を――再現し、後世の人々に手渡すこと。それが一人の歴史家としてやってみたい仕事であるとピアザは考えていた。 「…………微力をつくします」 かなりの時間をおいてピアザは答えた。 「そうか、やってくれるか」 ラソーダ会長は満足の態でうなずくと、 「では、これを持って行きたまえ」 一通の手紙を取り出し、ピアザに手渡した。 「…………?」 「昇竜会ウォウル本部長、ハルナ・コウは知っておろう? その手紙を彼に渡すのだ。話は既についているから心配はしなくてよい」 「…………どういうことですか?」 「ハルナ・コウは昇竜会立ウォウル学問所の所長も務めている。そして、君はそこの歴史学講師として赴任する。そういうことじゃよ」 「…………」 なるほど……くえない老人だ。 「…………わかりました。さっそく準備にとりかかります」 「うむ。期待しておるよ」 ……そして出発の日。ピアザが愛馬《ノモッち号》とともに準備を整えていると―― 【リミイ】 「おーい、ピアザぁ! コイツら好きなように使っていいからな」 【ピアザ】 「…………?」 【マグワイア】 「……とうとう左遷されちまったよ、相棒……(泣)」 【ソーサ】 「……リストラされなかっただけマシさ……(泣)」 【ユミイ】 「ふふっ、がんばってくださいね、ピアザさん」 【ピアザ】 「………………」 |
| ■ 前のページに戻る |