会誌-「第9回会誌別冊 ナーラダ戦記」
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■ クラウ・ハデンのアピールシーン 【元宵】 独立暦401年 人の月:ライル・ナタケ死去。 ライル社解散令。クラウ・ハデン、ハウザー・カッシュそれぞれ消息を断つ。 尚、解散令を受けてウォウルの商人・創師系の旧ライル社員は殆どが ウォウルを去りウォウル王国がつくろうとしていたヴィシュヴァカルマン神殿 の出先機関としてのライル社はいきなり潰れた。 ミュール近辺の旧ライル社隠し物資集積所、相次いで謎の武装集団の襲撃 を受け管理者・警備兵等全員死亡。物資を略奪される。 火の月:セルファニア湖の戦い。ライル・カミナ、文官達を率い後方支援に活躍、 ディグ・カイルは旧スウィズ軍を率い無双の働きを示す。 戦いの終結後、彼等は丁重にヴィレクに別れの言葉を述べ、整然と ウォウルを去った。 風の月:ミュール川北方ワウル平原にて「ワウルの大決闘」(注)。 クラウ・ハデンは二百数十名の賞金稼ぎ、或いは彼が昔潰した賊の残党と 死闘、全滅させるも自爆同様の術── 「真波動」を発動させ周囲全てを薙ぎ払う。 以後、再び消息不明。世間では死んだことになっているがこの決闘では 一人の死体も残っていないため一部で生存説が囁かれている。 (注:歴史書「諸英伝」中の一巻、列伝「覇伝」中には「DEATH DUEL」 と記されている) 空の月:ナグモ・リューン、スィスニア勢力圏とヴェルーダ地方の境に関所の建設を 開始する。この関所を「南蛮関」と呼ぶ。 地の月:スウィズ難民軍、東邑同盟へ合流する。「南蛮関」完成する。この頃より、 ヴェルーダ北方に“落人邑”の存在が確認されるようになる。 独立暦402年 水の月:黒竜旗軍、誕生する。ナーズ・ハクユウ、ヴェルーダ落人邑へ赴く。 ■「『諸英伝』ライル社関係年表」より抜粋■ |
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■ 覇伝マキシマム 【元宵】 第壱幕 立て、クラウ・ハデンよ! 独立暦402年水の月──ライル・ナタケの死より約5節後…… 壱:ガリクソンさん(47)一家のとある日常 ミュ−ル付近の農場。 「間抜けなくらい平和だなァ……」 ガリクソンさん(47)は青空を見上げてそう呟いた。 弐:シュミットという男 ヴェル−ダという邑は地図の上には無い。「ヴェル−ダの大いなる災い」と称される事件──実際は狂った力の大量殺人なのだが──により廃墟と化してしまったのだ。それもただ廃墟となっただけでなく地気が乱れ、気候が寒冷化してしまった。 独立暦402年初頭、ヴェル−ダ北方に落人邑なるものが形成されていたのがこの頃である。世を捨てた、或いは表の世界に居られなくなった、そういう者達の棲む邑である。 「オルァ!ななななめんじゃね−ぞ、こんガキャア!」 落人邑の一角で怒声が響いていた。蛮刀を手にした男が一人の青年を前に構えている。青年の方は冷ややかな目でスカしている。 要は単なる喧嘩である。男は蛮刀を上段に構え、ありったけの声を張り上げた。 「威圧してるつもりか」 青年は静かに言った。一歩前に出る。男が一歩後に下がる。 その時。 「シュミット、何やってるん!」 不意に女の子の声がした。 「……嬢さんか」 シュミットと呼ばれた青年が振り返った。 「別に何でもない。向こうが言い掛りをつけてきただけだ」 「とか何とか言って、あんたそれだけで済ます気なんてないやろ!いつもいつも喧嘩する度に気弾で相手に大怪我させとるんやから!」 「殺さないだけマシだ……さて」 シュミットはさっきの男を振り返った。だが、その男は忽然と姿を消していた。 「逃げたか。賢明だな」 「何つぶやいとん!帰るよ!」 シュミットと呼ばれる青年がここに棲み着いて3節程経つ。漆黒の髪は短く、左腕が無いこの青年が、ここに来る前何をやっていたかは誰も知らなかった。 彼には、それ以前の記憶がすっぽり抜け落ちているのだ。 「ただいま―」 「嬢さん、お帰りなさいませ!」 嬢さんと呼ばれた少女──ラル・ティ−トとシュミットは落人邑の中でもひときわ大きな邸宅の門をくぐった。左右には見るからに人相の悪い男が見張りをしている。何を隠そう、ティ−トの父親のラル・ランヴァはちょっとした顔役なのだ。無法地帯と化している落人邑だが、人が集まれば「ル−ル」というものができる。そして、ここでの最も基本的な正義とは力であった。 「パパ、入るよ」 ティ−トはシュミットを残し奥の部屋へと入っていった。部屋の中の組長さん、がっちりした体格に角刈りの頭、罪人の証などというレベルを超越している。モミアゲと髭が連結され頬の傷跡がいかにもという感じでドスが効きまくっている。だが、口元は綻んでいた。娘が可愛くて可愛くてしょうがないパパさん。 「ティ−トや、どこに行っていたのだ」 「ん、ちょいとね、シュミットの姿が見えんかったけん外におったんよ」 「ティ−トはシュミットがお気にいりのようだね」 「ほ−やね。パパの子分ってあれみたいに線が細いんおらんけん珍しいんよ。違う生きもん見とるみたいやし」 「……パパもごついからねぇ。ところでティ−ト、パパとシュミットどっちが好き?」 「シュミット」 次の瞬間、親父はドスを抜き卓に斬り付けた。 「はっはっは、照れ屋さんだね。パパ思わず暴れちゃったよ」 息が荒い。 「娘の前でおとなげないで……」 「ようシュミット」 縁側で片膝を立てて座り物思いにふけっている青年に声をかける男がいる。 「キドか……」 「ちょっと隣、いいか?」 キドと呼ばれた男はシュミットの隣に座った。 「お前さん、嬢さんに気に入られてるみてぇだな」 「……」 「オレもあんたが気に入っているんだぜ。あんたは頭が切れる。ラル家がサグ家を圧倒し始めたのはあんたが来てからだしな」 「……」 「ク−ルだねぇ。それにあんたの気功術法、なかなか強力だ。こないだもサグ家の連中の殴り込みを退けた」 「……」 「オレは忘れられないぜ、次々と敵を気弾の早撃ちで吹っ飛ばしていったあの光景。その力で一儲けしようとは思わねぇか?」 「興味が無い」 「そうか。無茶苦茶金になる話があるんだがな。そうだな……五千粒は下らねぇ。誰だって金は欲しい。そうだろ?」 シュミットは少しキドの目を見て、すぐ視線を元に戻した。 「興味が無い……」 「ちっ、金になるんだがな……」 参:ハクユウ登場!! 「ホントにハデンはここにいやがるのか?」 ナ−ズ・ハクユウは落人邑に来ていた。彼は昔の賊仲間の情報網を活用し、クラウ・ハデンの消息を探している。そうして、今回、ナグモ・リュ−ンの造ったヴェル−ダ北方の関所を別ル−トで巧く抜け、何とか落人邑に辿り着いた。確実な情報があったわけではない。しかし他に手掛りが無い以上、行動あるのみと判断したのだ。 「ちょっと待ちなニ−チャン」 ハクユウは人気の無い通りで道に迷っていた。そこに、無謀にも彼をカモろうと画策するチンピラ達が出現。 「……やれやれ、無法地帯とは聞いてたがな−」 チンピラ達を振り返るメ−ルの大男。本人にその自覚があるのかどうか不明だが、彼はなかなかにコワイ外見をしている。身の丈190糎、鬼が振り回すようなデカイ刀を腰に帯び、胸元はブ厚い胸板をチラリとのぞかせる。ボサボサの朱い髪は無造作に束ねられ、アゴには漢のワイルドさを引き立たせる(?)不精ヒゲ。誰が見ても賊の類にしか見えないが、実際昔やってたからシャレになってない。 「……お、お……」 ビビるチンピラ。しかし舐められてはいけないと思ったのか、抜剣して威嚇する。 「か、金を出せ!」 「……腰が引いてるぜ」 さらりと流すハクユウ。しかし、その余裕ある態度が逆に相手を引っ込みつかなくさせた。 「う、うおおおおおおおお!!」 暴発した一人が掛かってくる。連鎖的にあとの全員も来た。 「しょうがねぇな」 ハクユウは東雲に手を掛ける。右手が一閃する。すると、チンピラ全員が一瞬で次々倒れていった。 「古尽流刀術『乱間合(みだれまあい)』……攻撃範囲が広いのが特徴だって誰も聞いてねぇけどな。 ハクユウは何事も無かったかのようにその場を立ち去ろうとした。その時である。 「待ちなせえ、そこのお人」 ハクユウを呼び止める人がいた。 「何でい」 「その刀術……おめえさんもしや……『赤斬』のハクユウじゃねぇかい?」 「そうだが……オレに何か?」 「あんたがハクユウさん……ご高名はかねがね伺っております」 「高名?」 「何でも無敵の剣豪だとか……」 「へえ、わかってるじゃねぇか」 「どうです先生、今夜はウチで草鞋を脱ぎなさっては?」 ハクユウは相手の目を見た。何らかの意図を持っていることはわかる。 「……実は、先生に頼みたいことがありやして」 「すまねぇがオレは用があるんで受けることはできねぇ」 「用?」 「ああ、人探しでな……」 「一日二日で済む用事でもないでしょう。どうです、こちらへ来なすっては。あっしの頼みは気が向いたらでいいですから」 「……ま、いいか。あんた、名は?」 「サグ・シャグル。ちょっとした顔役でして」 ハクユウはシャグルに連れられて屋敷に向かった。門をくぐる。あからさまに雰囲気が違う。 (何でい、この殺気立った雰囲気は。どっかへ殴り込むのかよ?) 「先生、こちらです」 奥へ案内される。途中、廊下沿いの部屋の奥に座り込む不気味な男が居た。暗くてよく見えないが、襟元からのぞく胸元が金属のような光を発している様に見える。 (何だあいつは?) と思ったぐらいでハクユウは大して気にもとめなかった。 「先生、どうぞ」 シャグルはハクユウに上座を勧めた。 「その先生ってのはやめてくんねぇかな」 照れながら言う。 「まあまあ、どうぞ。……それで、頼みの件ですが」 「殴り込みに加勢しろってか」 「お察しの通り。実はあっしはもう一つの有力な顔役、ラル家と対立しております。つきましては、是非是非先生のお力をお貸し下せぇ」 「……言ったろ、オレは用があるって」 「人探しでしたね。それでしたらあっしどもに言ってくだせぇ。組の者に捜させます。どんなお人で?」 ハクユウは考え込んだ。確かに自分一人で捜すよりこちらの方が効率がいい。シャグルはそんなハクユウの機微を読み取った。 「先生があっしどもに助太刀くだされば組を挙げて捜し人を捜します。もちろん報酬も支払いやしょう。いかがです?」 「……べつにいいか」 「決まりですね。実はラル家に内応者を作ってあります。早速連絡してきます」 ハクユウは深く考えてなかった。ハデンを捜すことで頭が一杯で他の事を考える余裕が無いのだ。しかし、何の因果かこれが目的への近道となるのである……。 肆:斬り込み 「シュミット、何やっとるん?」 庭に出て夜空を見るシュミットにティ−トが声を掛けた。見事な満月が出ている。 「嬢さん……」 振り返った彼を見てティ−トははっとした。その瞳は、普段の氷ではなく、多分に温厚さ、そして不安さを内包していたのだ。 「どうかしたん?」 「いや……」 彼はまた天を見上げた。 「ほ−いえばあんたがここに来て3節になるんやね」 ティ−トの意識は過去へと遡る。その日、まだ関所ができる前、「災い」の後リュシ−の伯母の元に疎開していた彼女はヴェル−ダ北方に残って残留民をまとめていた父親の所への帰路についていた。その途中、傷だらけで倒れていたシュミットを助けたのだ。 シュミットは助けたとき廃人同様だった。しかしティ−トの必死の看病により何とか立ち直ったように見えた。ただし、記憶は未だ戻ってはいない。 「今日はずっと頭痛がする……何か、大事なことを忘れているような……」 「無理せんほうがええよ。ゆっくり思い出せばええんやし」 ティ−トの笑顔に僅かに翳がある。シュミットの記憶が戻った時、彼が居なくなってしまうのではないか、そんな気がするのだ。 「……俺は、嬢さんや頭、他の連中には感謝している。どこの誰かも判らない俺を今まで面倒見てくれたのだから……」 「シュミット……」 二人が微笑んだ。その時。 「────!!??」 南門の方から爆音がした。続いて怒声、悲鳴、剣戟を打ち合う音。 「これは──まさか」 ティ−トの顔色がさっと変わる。 「パパ!!」 弾かれたように駆け出した。 「嬢さん!」 シュミットも後を追おうとする。瞬間。 (──これと似たようなこと、どこかで……) 頭に激痛が走る。 (何……だ……この感じは……君は…誰だ………) 現実が歪む……。 「諸君、サグ家の者らしい」 ラル・ランヴァはドスを手に立ち上がった。今彼の周りには数人の子分しか居ない。 「うぐおぉぉッ!」 外の子分が、血の霧をあげながら倒れこんできた。そして血塗られたドスを持ったシャグルが入ってくる。 「久しいな、シャグル……」 「ああ、ランヴァ」 ランヴァは鞘からドスを抜いた。 「シャグル、こうするしかなかったのか」 「聞くまでもないこと」 「あの『災い』の後……我らは力を合わせ残った者達と共に再建に尽力した」 「だがヴェル−ダの環境は変わりすぎた。皆再建を諦め散っていった。そして、北方に無法地帯、敗残者の集まる落人邑ができた……」 「何故我々は殺し合わねばならぬ」 「……力が欲しいからよ。ここでは勝った奴がこそが掟だ!!」 斬り掛かる。ランヴァもドスを振った。金属音が響き、氷の調べを奏でる。そして、一振りのドスが床に突き刺さった。 「つっ……かかれっ!」 シャグルの手下が一斉にランヴァに掛かっていった。だが。 「舐めるなッ!」 ランヴァは強かった。次々と斬り伏せ、突き伏せていく。 「吾の技量はサグとは違うのだよ、サグとは。勝てない勝負を挑むな」 「……先生……出番です」 シャグルが横に退く。その後から、メ−ル族の大男が出現した。 「気が進まねぇが……一宿一飯の恩義がある」 「知っているか、先生と呼ばれる人種は番組終了の五分前に死ぬ運命にあるのだぞ」 「番組ってなんだよ」 ランヴァは身構えた。 (この男……恐ろしく腕が立つ) 肌でそう感じ取っている。 二人が対峙した。 ハクユウは腰の東雲に右手を掛けている。そのままじりじりと間合いを詰める。 互いの視線が相手を射抜く。双方共かなりの技量を持っているため容易には動けない。 その時。 「パパ!」 呼びながらティ−トが走ってくる音が聞こえた。ランヴァの瞳が揺れる。 そして、刹那。 ハクユウが一瞬で前に踏み込んだ。右手が僅かに一閃する。 すれ違う。 剣閃は見えなかった。パチンと東雲を納める音がした時ランヴァは倒れていた。 「パパ……」 ティ−トは茫然と立ち尽くした。視界に映っているのは血だらけの部屋に倒れている父親の姿……。 「おのれ!!」 瞳の中に憎悪の炎。ティ−トは腰の短刀を抜き一直線にハクユウ目掛けて突進しする。「ウッ……」 ティ−トの刃がハクユウに届くことはなかった。ティ−トはハクユウの当て身をくらってその場に折り崩れた。 伍:激する男 少し時間を戻す。 暫らく頭を抱えて蹲っていたシュミットは、やがて痛みがおさまると立ち上がって奥の部屋へ歩きだした。 「フゥ……ハァ……フゥゥ……」 額に汗が浮かんでいる。痛みは完全に引いたわけではないのだ。 「頼む……無事でいてくれ……」 徐々に足取りが早くなる。無事を祈りながら真っすぐに向かった。 だが。 「……………………!!!」 辿り着いたシュミットの前には、倒れているランヴァとティ−トの二人。 「……」 握り締めたシュミットの拳が震えだした。ゆっくりと前に出る。 また頭痛がする。一瞬、脳裏に自分がある傷ついた少女を抱き抱える映像がフラッシュバックした。 (……また……何だ……) 激しく頭を振ったシュミットは前を睨み付けた。 「貴様等……」 この時、一人驚きの余り声が出なくなっている者がいた。 「…………おめぇ…………」 誰であろう、ナ−ズ・ハクユウ。 「ハデン!!ハデンじゃねぇか!ようやく会えたぜ!何やってたんだよ!その髪……左腕……どうしたんだ!?」 「貴様がやったのか……」 ハデンと呼ばれたシュミットの目には抜き身の東雲が映っている。 「貴様がやったのか!!」 「ハデン、オレだよ、ハクユウだよ!わかんねぇのか!?……オレの言ってる意味が!」「俺はシュミットだ、貴様など知らぬ!」 シュミットが、一歩前に出る。それに反応してシャグルの子分達が彼を取り囲む。シュミットは周囲をねめまわし、そして大きく踏み出した。 「かああああああッッ!!!」 気合いと共に床に突きささったドスを抜く。 (──!?) その場に居る者全員が動けなくなった。ハクユウも例外ではない。 (こいつは……ドスを抜く瞬間、全員がハデンを見る一瞬に金縛りをかけやがった!) 「貴様を……殺す!」 (や、やべぇ!声が出ねぇ!ハデンに殺される!おい、待てよ、待てって!やめんかバッキャロウ!!こ、こっちくんなああああああッッ!!) シュミットは怒りに我を忘れて突撃してくる。今までの人生が走馬灯のようにハクユウの頭をぐるぐるぐるぐる駆け巡る。こんな死に方は嫌だ、彼が心の中で叫んだ瞬間。 「グオオオオオオオッッ!!」 突然壁を突き破り何者かが出現した。 「──解けた!」 ハクユウはシュミットの持つドスを叩き落とした。 「目を覚ませバカヤロウ!」 「放せ!二人の仇を!」 「二人は殺してねぇ」 周りに聞こえないようにと小さく囁いた。 「……何っ?」 「峰打ちと当て身で気絶させただけだ。それより、おめぇ、オレのこと……」 「危ない!」 シュミットがハクユウを突き飛ばして自分は後に飛び退く。二人が居た空間を光条が貫いた。 「何だ!?」 二人が振り返る。そこに居るのは……。 「な、な、な、何だこの気味の悪いヤロ−は!?」 男の右目の辺りは金属で覆われ鈍い光を放っている。いや、右目だけではない。襟や袖の端から見える中の体は金属製に見えるのだ。 「キド……」 シュミットがその男の隣に居る見知った者に声を掛けた。 「シュミット、オレが折角誘ってやったのにな」 「金になる事と言うのは敵を引き入れることだったのか」 「おい、シャグルのダンナ!ラル家のダンナをブッ殺したらもういいじゃねぇか!」 ハクユウが声を張り上げる。 「裏切り者が何を言うか」 「裏切り者?」 「峰打ちで殺してないとさっき言ってたろう」 「ゲッ、聞こえてたのかよ!」 「ラルグ、ランヴァと娘の二人を殺せ!」 「グオオオオオオオオン!」 雄叫びをあげて倒れている二人に殴りかかる『ラルグ』。 「いかん!」 シュミットが飛び出す。『ラルグ』の腕がうなりをあげる。鈍い音がする。 「ぐはっ……」 シュミットは殴り飛ばされ、壁に叩きつけられた。そのまま動かない。 「てめぇ!」 ハクユウが東雲をかざす。しかしその瞬間『ラルグ』は両腕を上に向け、巨大な光弾をブッ放した。 「やばい!暴走してる!」 シャグル達が逃げ出す。だが、それより早く『ラルグ』は目から怪光線を放ち彼等を射殺した。そして、破壊された天井が崩れ落ちてきた。 陸:「君は……」 「いててて……」 ハクユウが瓦礫を押し退け立ち上がった。見事に破壊されている。『ラルグ』は満ちた月を見上げて何故かじっとしている。 「……おい、大丈夫か!?」 ハクユウはランヴァとティ−トを瓦礫の下から助け出した。二人とも返事はなかったが死んではいない。 「ハデンの奴は……!?」 辺りを見回す。見つからない。その時、また『ラルグ』の雄叫びが聞こえた。 「今度はなんなんだよ!」 見てギョッとした。なんと『ラルグ』は動かないシュミットを掴み上げているのだ。 「──やべぇ!!!!」 ハクユウが走る。『ラルグ』がシュミットを地に叩きつけようとする。シュミットはピクリとも動かない。 …………?………… (誰かが俺に語り掛ける……女……?) ──生きて……貴方だけでも…… (誰だ……俺は……知っている?) ──私はただ……貴方に幸せになって欲しかった…… (哀しそうな声……そんな顔をするな……) ──力は欲しかった。早く終わらせたかったから。天下が欲しいとは思わなかった。自分がライル社の社長に相応しいとも思わなかった…… (ライル社……?) 彼の前に一人の少女が現われた。 はっとするような美しい少女。清楚で可憐、落ち着いた雰囲気と優しさを瞳にたたえている。 しかし、その表情は憂いにみちていた。 (……君は……ナ…タ………) ──まだ死にたくなかった。貴方が壊れてしまうことが分かっていたから。貴方の愛が、そこまで深いことを知っていたから……でもそうさせたのは……貴方が傷ついたのは私の罪…… 少女の体が眩い輝きを放ち、彼を包む。 純粋な光、しかしその中に小さな、高密度の深い闇の存在。 (あの子の中に押し篭められた、あの子自身の闇……俺がそうさせた……それが俺の罪)──そして貴方は自分の光を抑えた……でも、もうやめて。もっと自分の事を考えて。 (君もそうだったろう。自分のことを軽視して、ムリをして……) ──私はもうやり直せない。でも貴方は生きている。 (俺は……死に損ねた) ──私は……貴方と居て幸せだった。貴方を愛していました。 (俺も君を愛していた。だが……君は死んだ!) ──そう……私は死んでしまった……もっと貴方と生きていきたかった………でも……… 少女の頬に一筋の涙…… ──ありがとうございました……貴方が好きです……だから、私は貴方に生きて欲しい。 少女が離れていく…… (待て……行くな……俺は……僕はあの日の約束を果たしていない!) ──いいえ、貴方は代わりにかけがえのない物を私にくれた……私は幸せでした………………………さようなら…………ハデンさん……………… (行くな……僕を置いて行くな……ナタケ……) ────ナタケエエエエェェェェェッッッッ!!!!!──── 「ハデェェェェェンッッ!!!」 ハクユウの絶叫。間に合わない。ハデンの頭が地に叩きつけられ砕かれるか。ハクユウが目をそむける。 瞬間。 「僕は死なないッッ!!」 ハデンが目を見開く。地に気弾を放つ。風圧で一瞬彼の体と『ラルグ』の腕が浮く。 「破!」 自分を掴む腕に気弾をぶつける。『ラルグ』が彼を解き放った。 「ハデン!」 ハクユウが駆け寄り、ハデンを抱き締めて(うげ)号泣した。「汗臭い」「痛い」「気持ち悪い」「吐きそう」様々な罵声がハデンの口を出かかったが、彼はハクユウを気遣いとりあえず黙っておいた。 「心配したんだぜ……バッキャロウ……」 「……ごめん」 すぐにハデンはそっとハクユウを離した。 「……ハクユウ、さっさと片付けよう。二人を頼むよ」 「任せとけ。それにしてもおめぇ、キャラ変わってねぇか?」 「……ま、イロイロあってね」 ハデンは敵を見据えた。 漆:月下の決闘 「彼は……ノ−ツライン・ラルグの成れの果てだね」 ハデンはラルグと対峙していた。夜風が二人の間を抜ける。ハデンの左袖が翻る。 ラルグは月を見上げている。 「彼が没落したのは僕が元兵局長のクラドを殺したからだ。そして、その後彼はある創師に改造された……『宝魔獣』に……さしずめ、『宝魔人』といったところか」 ラルグは動かない。呼吸に合わせて肩が若干上下している。 「クラドを倒した者として、そしてナタケに全権を委譲された者として、彼を止めるのは僕でなくてはならない」 ラルグがハデンの方を向いた。 「グオオオオオオオオン!!」 再び雄叫び。次の瞬間、ラルグの左袖が内側から裂けて左腕の『外甲』が外れ、その下にびっしりと並んだ赤く光る小さな石が姿を見せた。 「ファランクス!?すると改造したのはやはりべルリックか!」 閃光が視界を浸食する。無数の光条がハデンを狙う。 (狙点は僕の顔面か。被弾まであと0、03秒──) ハデンが深く身を沈める。光条の束が髪をかすめた。 刹那。 ハデンの掌は気弾を連射していた。三つの発射音が一つに聞こえた。 初弾は左腕を弾き、二弾目は上体を崩し、三弾目を眉間に叩き込む。 「グオオッッ!!」 後に吹っ飛ぶラルグ。仰向けに倒れ、そのまま動かなくなった。 「白い閃光の氾濫と苛烈な攻撃は僕の専売特許なんだけどね。僕の前でマネすると痛い目に遭うよ」 「すげぇなオイ。なんつ−精密射撃だ」 ハクユウがランヴァとティ−トの傍に居たまま言った。二人をほったらかして駆け寄ることはしない。「頼む」と言われた以上、それをキチンと果たす漢なのだ。 「まあね」 「グガアアアアアアッッ!!」 二人の後でいきなりラルグが立ち上がった。素早くハデンが振り返る。 「オイ、ハデン、全然だめぢゃん!!」 「……殺さないように手加減したのがまずかったか。暴走の原因は満月なんだけど……まさかお月様をブチ壊すわけにもいかないしね……」 とはいえ、暴走中の宝器人間はかなり足にきているらしい。フラフラである。しかし、理性は無いがまるで彼を憎んでいるかのようにハデンを睨んでいる。 「……もうやめといたら?」 ラルグの右目が光る。 「おっと」 右目から怪光線。しかし難なくハデンは躱す。 「君と僕との実力差は分かったはずだ。もう一度やればケガでは済まさせない。…………それでもやるかい?」 突き出したハデンの右掌が薄い輝きを放っている。 「ウウ……くらう……ハデン……」 呻いたのち、ラルグは突然くるりと踵を返し、その場を走り去った。 「……あいつ……何だったんだ」 「改造された宝魔人……気の毒だけど長くはないと思う。ムリな改造をさせられたんだ」 ハデンは暫らく佇んだのちティ−トの傍に歩み寄った。 「よかった……ケガは大したことないみたいだね」 捌:そして、再び歩き出す 「ん、ん……」 目を覚ました時、ティ−トはベッドの上に居た。 「ここは……痛っ」 体中が痛い。そういえば、あの殴り込みで自分は当て身を食らい気絶したのだ。……殺されたと思っていたが生きているとは……? 彼女は痛みがある程度治まるのを待って半身を起こした。その時、初めてベッドの隣の椅子にシュミット=ハデンが居るのに気付いた。 「シュミット……ずっと看病して……?」 彼は静かに寝息を立てている。 暫らくして、部屋の扉を空けてランヴァとハクユウが入ってきた。 「この男は!!……あれ、でもパパは殺されたんじゃ……?」 「実はどうも峰打ちだったらしくてね。パパは生きてるよ」 「そ。嬢ちゃん、先刻は済まなかったな、当て身食らわして」 ハクユウはハデンの前にきた。そして。 「いつまで寝てんだ、オラ」 素早く椅子をどける。眠りこけているハデンはそのまま尻餅をつくかと思われたが。 「お見通し」 左足を後ろに引いて態勢を整える。 「なんだよハデン、起きてたのか」 「ついさっきね」 「ハデ……ン?」 ティ−トがハデンの顔を見た。普段見ていた顔つきとは少し違う。穏やかで、優しい表情。 「そう……それが僕の名。でも、シュミットも僕なんです」 「え……?」 少しハデンが俯いた。そして、再び顔を上げた時、ティ−トの知っている怜悧な顔つきになっていた。 「俺がシュミット。まあ、こういうことだ」 「え……?はぁ……?」 「つまり、俺は人格が二つあるらしい」 「何ィ───ッ!!」 「いや−、オレも最初驚いたぜ。ハデンがまさかこんな面白れぇことになってるたぁな」 「面白いとは他人事のような事を言うな、ハクユウ」 「他人事じゃねぇか、『シュミット』」 喧嘩を始めた二人をほったらかしてランヴァはティ−トの隣に腰を下ろした。 「すまんなティ−ト、怖い目に遭わせて……」 「ええんよ、無事やったんやし」 視線を、気弾でハクユウを吹っ飛ばしている『シュミット』に向ける。 「ねえ、やっぱシュミットはここを……」 「多分な……」 人格を交替したハデンはラル家別邸の一室でハクユウと語り合っていた。 「……そうか、僕がいない間にそんなことが……」 「みんなおめぇの帰りを待っている。オレと一緒に黒竜旗軍に来てくれ」 「……」 ハデンは考え込んだ。 「……僕が行ったって何の力にもなれないかもしれない。僕は、ヴィレクやリュ−ンに対抗できなかった低能な男だ」 「低能、無能じゃねぇとオレは思うぜ。何より、黒竜旗軍にはおめぇの様な人材が不足してるんだ。おめぇの力が必要なんだよ」 「……僕が行くとツキが落ちるかもよ」 「ついてねぇ時は何やってもついてねぇ。カンケ−ねぇよ」 「……」 「まぁ、ここでの生活を絶対に手放したくないなら無理は言わねぇ。気に入ってるみてぇだしな」 「そうだね……」 ハデンはため息をついた。 「僕……本当にここでの生活気に入ってたんだよ」 過去形になっている。それは彼にここを離れる決心がついていることを表していた。 「じゃあ、おめぇは黒竜旗軍に来るんだな?」 「一応ね」 「何だよ、その『一応』って」 「黒竜旗軍と密接な連携を保ちながら在野にて動く、というスタンスにしようかなと思うんだ。何が言いたいか、わかるよね?」 ポン、とハクユウが手を叩く。 「そりゃ、おめぇがウォウル王佐になる前、つまりライル社にいた頃の状態か!」 「ご名答。この方が動きやすい。勿論、まず黒竜旗軍の方に顔を出しに行く。幹部連中に会っといた方がいいだろうしね」 ここで息をついて、彼は茶を少しすすった。 「ハクユウ」 「何だよ」 「僕が死ねなかったのは多分ナタケのお陰だと思う」 「?」 「自爆同様の術を起動させた僕は……全ての力を使い果し死ぬつもりだった。でも、真波動の出力が全開になる前に覇杖が先に壊れてしまったんだ。本来なら耐えられたはずなのにね」 「……そっか。だったらおめぇは何があっても死ぬなよ」 「……ああ」 やがてハデンとハクユウは立ち上がり部屋を出ようと扉を開けた。そこに。 「嬢さん……」 ティ−トが思い詰めた瞳をしてハデンを見上げる。 「ご、ごめん、立ち聞きするつもりはなかったんやけど……」 慌ててその場を立ち去ろうとする少女の腕をハデンが掴んだ。 「別に、ええんよ、気ぃつかわんで」 「嬢さん」 「……わかっとった。あんたがいつかここを出て行くってこと。早よ行きや!」 ハデンの手を振りはらい走り去ってしまった。 「……おい、ど−すんだよ」 「……って言われても」 彼は本気で困惑していた。 二日後、ハデンとハクユウはラル家の手荒い送別を受けた。 「ホントに行っちまうんだな……シュ、もとい、ハデンよぉ!」 背中をバンバン叩く。 「痛っ……ボビ−、力入れすぎ」 「オレたちのこと忘れんなよ!」 「ああ、エリック」 「元気でな!」 「トラキチ、君もね」 「ハデン、向こうへ行っても頑張りたまえ」 「はい、頭。お世話になりました」 ハデンはハクユウを振り返った。 「……こねぇな、嬢ちゃん」 「……行こうか」 心残りはあった。それも仕方ないと思い、歩き出そうとする。その時。 「待ちなさ──いッッ!!」 ハデンは驚いた顔をして見る。ティ−トが白い布を抱えて走ってくるのだ。 「これ、持って行き!」 「これは……」 広げると、それは真っ白な外套になっていた。 「最初はあんたが着てた白いロングコ−トにしようと思ったんやけど、力及ばず……」 「クス」 「笑うな、ボケェッ!」 ハデンをしばくティ−ト。 「でも、有難う」 身に纏った。以前は、白いコ−トを身に纏う男。『白烈』の異名の由来の一つ。そして彼は今、また同じ色を纏う。 「やっぱりこの色が僕は好きだな」 そういえば昔ナタケにも同じセリフを言ったことを思い出し、彼はクスリと笑った。 「では……もう行くよ」 「うん。じゃあね」 「元気で」 「そっちも」 ハデンとハクユウは歩き出す。ティ−トは二人が見えなくなるまで手を振り続けた。 そして、見えなくなった時。 「……えぐ、えぐ……」 ティ−トは泣いていた。ずっと堪えていたのだ。 「パパ……あたし、あたし…………シュミットのこと……………」 「ティ−ト……今は思いっきり泣きなさい……」 「ハデンよぉ」 「ん?」 「今なら戻ってもいいんだぜ」 「何を急に」 「あの嬢ちゃん、おめぇに気があるみてぇだしな」 「言われなくてもわかってる。でも僕にはやるべきことがあるんだ。だから旅立つことにした。そうだろ?」 「違いねぇ」 「……というかね、君、そういう話をしていたんじゃないだろう」 「かてぇこと言うなよ。あ、そうだハデン」 「今度は何?」 「向こうに行ったらおめぇに会わせたい奴がいるんだ。ティファっていう女なんだが、気立てがよくていい奴だぜ。ここに来るのは危険なので安全な所に残してきたがな」 「なるほど、その人が君の思い人だね」 「今はそういう話をしてるんじゃねぇ!!」 「自分だって怒ってるじゃないか……ところで、どうやって関所を抜けるんだ?」 「あれ?おめぇが考えてくれるんじゃなかったのかよ」 「……お前、もしかして俺をアテにして何も考えてなかったのか?」 「出たかシュミット!なんの前フリもなく変わるとは、なかなかのサイコぶりだぜ!」 「……そんなことはどうでもいい。一つ聞くが、どうやってここに来た」 「エイゲンに関所破りの方法を聞いてきた」 「帰りは?」 「オレが考えたのでもイケるって言ってたが……」 「エイゲンめ……なんてアバウトなことを……」 「なぁシュミット、オレの考えなんて強行突破ぐらいしかねぇんだが……」 「それでいいってことだろう。あいつ、俺とハクユウが組めば向かうところ敵無しと思ってるらしい。まあ、否定はせんが……」 「成程、どうせ相手は敵、突破して逃げ切れば後腐れも無いってことか。頭いいな」 「そうか?それにしてもエイゲンの奴、発想が嫌味なくらい俺に似てきたぞ……」 「じゃ、行くぜシュミット!!!」 「阿呆、正面から突っ込む気か。もう少し頭を使え」 「誰がアホウだてめぇ!」 「赤猿、君のことだよ」 「今度はハデンか!コロコロ人格変えるな!それと、赤猿って言うな!」 「じゃ、山猿」 「許さん!お前なんか嫌いだ!お前なんか友達じゃねぇ!」 「子供かい……」 「ハデンッッ!!これでも食らいがれぇぇぇッッ!!!」 「ぎゃぁぁぁぁぁぁッッ!!!」 ナーズ・ハクユウのジャーマンスープレックスが炸裂した。 あとがき:お、終わった……3Pを思いっきり突破……疲れたぁ。 |
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■ 【ハウザー・カッシュ】 【元宵】 死神達の集い 「のどかだなぁ……」 穏やかな春の昼下がり。 柔らかい日差しが心地よい。ナルスの青年はついまどろみかけた己に気付き、少し笑った。 季節の移り変りは、生きとし生けるもの全てに分け隔て無くやってくる。この穏やかな春も全ての生き物が享受できるのだろう。 たとえ、闇の世界で生きる者でも、生きている限り。 そう、生きている限りは……。 「……人はいずれ死ぬ……簡単な言葉だね。誰が言い出したんだろう。あの方の死はこんな安っぽいセリフひとつでは到底片付かないというのに……」 今度は自嘲気味に笑った。軽く首を振る。 「まあいいさ……ボーッとしてる時間も無くなったことだし……」 その直後、扉の向こうから、感情の無い若い女性の声がした。 「カッシュ様」 「ああ、わかっている。今行くよ」 そう言うと彼は椅子から立ち上がり執務室に向かった。 『ハウザー・カッシュ、元ライル社商局長』 殆どの人間は彼の肩書きをこう表現するだろう。しかし、これだけで彼を捉えることは大きな誤りであるのだ。ナタケが生きていた頃は、彼は有能で如才無く失敗しない男として大きな評価を得ていた。その評価はライル社の一応忠実な幹部としてのものであった。この時、旧ライル党でさえ、彼の本質を見抜いていた者が果たしてどれ程いたか。 今、彼の前に四人の者達がいる。彼等の殆どはライル社とは関係の無いカッシュ個人の腹心である。 怪力無双で知勇兼備のメールの戦士『紅蓮』のジエフオ。 光り輝け己の美学、輝けるツァン族の道士『黄光』のガルローム。 蒼い鎧と疾風の剣技、トゥー族の剣士『蒼風』のリチャード。 知的で冷たい美貌を持つナルスの策士『冥晰』のヌゥーリ。 「……『ドクター』が来ていないようだが……まあいいか」 彼は自分の前に居並ぶ連中を見回すと言った。 「よく来てくれた、『五色の衆』の諸君。君達を召集したのは他でもない、各人の才幹を使う時が来たんだ。存分に働いて欲しい……」 はっ、とジエフオが礼をした。彼はカッシュ配下の筆頭であり忠誠心も一番高い。 「ここに各人の『仕事』が書いてある。目を通しておいてくれ」 書簡を配った。それぞれ黙って目を通す。 ハウザー・カッシュ率いる『五色の衆』は極めて異彩を放つ集団である。五人全てが違う種族であり、またそれぞれが特筆すべき才幹を持っている。そして彼等の多くは堅い絆で結ばれているわけではないのだ。 彼に忠誠を誓う者。 己の名を上げたい者。 野望を持つ者。 そして、彼の命を狙う者……。 一同は程無くして散会した。必要な用件だけを伝え、余計なことは特にしない。この集団の特質を表している。 執務室に下がったカッシュの後にジエフオとヌゥーリが続いた。ジエフオは最もカッシュの信頼が篤く、ヌゥーリはカッシュの副官的な存在である。 「ハウザー様、邑宰のことですが」 ジエフオが口を開いた。 「邑宰にはお気を付け下さい。某が思うに、あれはかなりの策謀家ですぞ。あまり小物と見做さぬ方が良いかも知れませぬ」 「お前は心配性だね」 「ハウザー様」 「わかっている。私も既に手は打った。リチャードを邑宰の護衛隊長に推挙したよ」 「と、申しますと、それが彼の『仕事』……」 「その通り。まあ、実際、今邑宰にもしもの事があっては困るからね。リチャードの技量と軍事の才幹を以てすれば私の期待に応えてくれるだろう」 「しかしハウザー様、彼の者は『護衛』という任務には最適でしょうが、邑宰の『監視』や、或いは邑宰が万が一我々を排除しようとした時、その謀略に対抗できるでしょうか」「ジエフオ、策で最上の物は敵を喜ばせながら罠にかけるというものだよ。見破ったと思わせておいてもう一段仕掛けておく……」 「と、申しますと、リチャード殿は」 「いや、捨て石にはしない。捨ててしまうには惜しい人材だからね。それに、彼はそれ程馬鹿じゃないから、易々と邑宰にはめられるとも思えない。ま、彼では勝てるとも思ってないけどね」 ジエフオは低く唸った。ちゃんとカッシュは先のこと、各人に対する洞察をやっていたのだ。自分が余計な心配をする必要もなさそうである。 「まあ、私は今暫く邑宰殿に従っておくつもりだから、こういった話を今する必要はないだろう。それはそうと、ヌゥーリ、君は何か私に面白い報告を持ってきたそうだが」 軽く頭を下げて冷たい女性が応じた。 「クラウ・ハデンが落人邑にて試作型『ラルグ』と接触、交戦した模様です」 「すると、ハデン君が動いたか!」 カッシュが嬉しそうな声をあげた。ジエフオが少し以外そうな表情を見せた。 「で、ラルグはどこまでやって負けたんだ」 (成程、ハウザー様は初めからラルグが勝てるとはお思いになっておらんかったか。『ドクター』がこの場にいたら気を悪くしたろうな) ジエフオがちらりとカッシュの横顔を窺う。 「間の報告によりますとラルグは『ファランクス』迄は発動できたそうですが、それ以上の上位宝器、例えば『レギオン』等は使えなかったそうです」 「まだ覚醒しきってないということだね。まあ、これで『ドクター』は有益な戦闘データを得たわけだから彼等の研究はかなり進むのだろうけど」 そう言うと、彼は俄に口元に手を当て楽しそうに、しかし不気味に笑いだした。 「……しかし……ハデン君がとうとう動きだしたか……これは楽しめるかもしれない……いや、彼ならば私を楽しませてくれるだろう…………ククククク……………」 彼の笑いに底はない。まともではないのだ。深い闇、底無しの……。 「ヌゥーリ、君にも存分に働いてもらうことになりそうだ。君は私の参謀だからね」 そして、彼はまた笑った。ジエフオは辞去した。彼には彼の仕事があるのだ。その場にはヌゥーリが残った。彼女は、ある感情を押し隠した視線をカッシュに送っていた。 (……ジルド・カッシュ……!) 彼女の瞳に隠された色は……。 ―続く(?)― あとがき:なんかようわからん話になってしまいました。ワザとぼかした部分もある し。カッシュの仕える『邑宰』とは誰か?五人目の『五色の衆』の『ドク ター』とは誰なのか?ヌゥーリの感情とは?……どれもこれもバレバレや けどな。 ナーラダ戦記について元宵は、ハデンとカッシュの戦いを軸に暴れさせて もらおうかと思っています。そう、この二人を戦わせるつもりでして。こ いつらに絡んで「元宵ワールド」をさらにややこしくしてくれるPCさん がいたらとてもとても嬉しいなーっと。大概は在野、或いは水面下の暗闘 になると思いますがマッド創師、賊、大勢力の抗争も絡んでくるハズなの で面白くはなると思います。……誰も来んかったらこっちから巻き込むか も……フフ。 |
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