会誌-「第9回会誌別冊 ナーラダ戦記」
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■ ピアザ・ド・ジャッサのアピールシーン 【砂の山】 「押してダメなら、搦め手で」の巻 セルフィアー北部、セルファニア北湖に面する農業大邑、イレーヌ。 湖から流れ出す東西双イレーヌの恵みにより豊かな実りが贈られるイレーヌ平原一帯を版図に抑え、食糧自給率は300%を越える輸出超過の経済バランスで、セルフィアーの胃袋をナーラダ5東邑と共に支える優良米所である。 その平原を抜けるイレーヌ川を下って外海に出る河口に、リビュニアと呼ばれる邑がある。 かの邑宰と、イレーヌ邑宰とは従姉妹の間柄であり、401年には、イレーヌ=リビュニア姉妹王国との名乗りをあげて、このナーラダの戦乱に臨んでいた。 姉妹王国正王、元イレーヌ邑宰イー・リミイは、副王であり、妹分である元リビュニア邑宰ウェス・ユミイとふたりきりで、馬上、今後を占うために話し合っている。 あたりは広がる水田。どうやら周りの農民はみな護衛のようだ。 黒髪を無造作に束ねたリミイは、その勝ち気な性格と唐竹割りの行動から「姫将軍」とあだ名されている。 「王とは、自称でなるものらしいわね。簡単な話だわ」 「税金の二重取りを正当化するだけですわねぇ」 髪を後ろにひとつまとめ上げたポニーテールのユミイは、状況をのんびりつっこむタイプらしい。単なる邑宰としてなら十分の力量を有していたようだが時勢はそれを許さず。どさくさに飲み込まれて気がつけば、 「わたし……なんで副王なんてやってるの?」 との巻き込まれ。 「時期がくれば、すぐに解けるわよ」 「やってることは今までと同じだわよ。副王とやらになったんだから、やっぱ役得がなくっちゃねぇ」 「ないわよ、そんなの」 「わかってる。なんとなーく、いってみただけ」 上に立つものどうし、お互い遊びにうつつを抜かせる性格でなしのマジメをなげく。ため息混じりの満足感に包まれながら。 「この前は見事に負けたわねぇ、まったく」 ユミイが話し出したのは、王国を名乗る前の、イレーヌ対ウォウル戦のこと。 リミイがウォウル王、ヴィレクに開戦早々一騎打ちを挑み、速攻で負けてそのまま戦が終わってしまった、あの「両軍実害ゼロ」の、幻の戦。 退却時の殿軍、赤ヘルのマグワイア将軍〜通称赤マグ〜と、青塗りコンボーのソーサ将軍〜通称ブルーソーサ、略してブルース〜の両将軍の活躍が目立つが、正確には一首すらあげることなく、あげられることなく退却した、あの戦。 あれにより形式的に服従せざるをえなかったのが誤算の始まり。 どうやら今度の戦は茶番で何とかなるものではないらしい。 「今まで……平和だったのにねぇ」 手をかざしながら、遠くに目を細めてぽつりとつぶやくユミイ。 「王たるものが何を目指すのかはしったこっちゃないけど、やってることは各地の自称王を見ていればわかるわね」 「さしずめ、私たちはウルゴス王を目指しましょうか」 「状況だけは似てるんだけど……ただ……負けちゃったのよね、コレが」 だから、今度はマジでやりますか。 歴史オタクとまで言われるほど、史実に通じたリミイは知っている。 “どんな手を使っても、勝てば官軍” 「あーあ、ウォウル王がも少し要領が良ければねぇ……」 ぼやき続けるユミイ。 「だってさ、リミイ姉さんのウルトラクエスト。あれを”引き受ける”って、ただそういうだけで、イレーヌはリクエストした手前、”すいませんねえ”って、協力するしかなかったのに! そうすれば、姉さんに続いて私だって……」 「はいはい、それはもう言わない。やっちまったことなんだから」 笑顔が優しいリミイ。 苦笑混じりに肩をポンとたたき、巻き込まれたユミイをなだめる。 そしてひとりごちる。 (どうもあの少年の周りには熱血というか、クソ正直ばかりというか……なんだかんだで、ジグトも若すぎてブレーキがきかない、か。しょせん、ナーラダの血が濃すぎるんだわね、あそこは) うつむいていた顔があがると、手近の農民たちに扮した部下たちにてきぱきと指示を下す。 ひとり、ふたりと周りでくつろぎまくっていた茶飲み連中は、仕事をしに消えていった。 最後に、ヒゲヅラの似合う壮年の男を呼びだし、用意してあったとある書状を手渡した。 「いいこと、ピアザ。一番ややこしいところはわたしがやるんだから、アンタだったら、その次にめんどくさいところくらいならできるでしょう。命は今朝話したとうり。それじゃ、また今度の学会であいましょ」 「ラソーダ先生には“遅刻するかも”くらい、話しておいて下さいよ?」 「そうね、考えておくわ」 「…………では、行って参ります」 ピアザはのんびりと歩みを進め、ふたりの視界から消える頃、小屋で着替え、騎乗全力で一路、自由都市レスフィーナへと南下していった。 しばらくして、ナーラダ地方の米の流通が変わった。 各邑の輸出分の余剰米は全てナルス商人に相場上乗せで買い占められ、常備軍が急増しているウォウルやスィスニアは軍糧米を自給しきれなくなった結果、いつもどうりの味わいを倍額以上の高級米として輸入せざるをえなかった。 儲かるナルス。 背後で踊る姉妹王国。 セルファニア湖の中立を守る自由都市レスフィーナのナルス商人護衛は、米の値上げにさらに輪をかけていることもあり、ウォウル・スィスニア両陣営をいらだたせていた。 |
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