会誌-「第9回会誌別冊 ナーラダ戦記」
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今回の登場人物 ○クラウ・ハデン(ナーラダ/男/16) ウォウル出身の道士。天井裏から彼女の寝室に忍び込む十六歳。『自主的に』 修業を切り上げ愛するナタケの元へいざ行かん。 ○ライル・ナタケ(ナーラダ/女/15) スウィズ・ライル社社長。おっとり美少女15歳。なにげにハデンより優位に立って いる侮れないお方。 ○プレイブ・シュウ(ナーラダ/男/13) シーラン邑宰の嫡男。部下を思いやる優しい少年だが内気で気弱。 ○プレイブ・アグダ(ナーラダ/男/41) シーラン邑宰。気は優しくて、力持ち。 ○サイク・ルヴァログ(ナーラダ/男/33) ライル社外局長。ライル社最古参でナタケの補佐役。どうしても地味。 ○ハウザー・カッシュ(ナルス/男/22) ライル社商局長。狙っているとしか思えないタイミングで登場。 ○ノーツライン・クラド(ナーラダ/男/29) ライル社兵局長。あまり知られてはいないが、実は有能らしい。 ○ゼオ・マキス(ナーラダ/男/21) ナタケの護衛としてシーランに付いていく。ちょっと出世。熱血バカ。 ○ヴァイクス・ナクラ(ナーラダ/男/27) オカマ策士。 ○ヴァーグ・ナガル(ナーラダ/男/29) 無敵の道士。ヴァーグ流創始者。弟子への愛情は何かベクトルが間違っている。 どーでもいいが、こいつの過去設定は決まってない。 ○カルズ・ラルシ(ナーラダ/男/24) クラドの腹心。戦斧の使い手。 |
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■ 覇伝 独立暦400年以前 『シーラン事件』 【作者:元宵】 〜独立暦398年水の月〜 「……士別レテ三日、即チ当ニ刮目シテ相待ツベシ、という言葉がある。自分は人物を見るに当たって、よくこの言葉を意識していたつもりだった。しかし、かの若者は、いつも自分の予測を上回っていた。若さゆえの飛翔、挫折を知らぬ…………」 ―サイク・ルヴァログ回顧録より― 壱:クラウ・ハデンさん(16)のとある日常 「出でよ炎龍!!」 男の腕に巨大な炎の龍が発現する。服装から道士であることがわかる。 「ヴァーグ流炎術奥義!ハデン、こいつをクリアしてみろぉぉぉッッ!!」 放つ。ハデンは半歩足を引いて構える。右手に炎が発現した。 「炎龍召来!!」 同質、同規模の術が衝突する。炎が弾ける。 「……フウ……!」 相殺することが出来たハデンは一息ついた。その時。 「隙ありぃッッ!!ヴァーグ流水術奥義、水龍召来!!」 地を割り大量の水が吹き出す。そして、龍の形を成しハデンに襲いかかった。 「ちょ、ちょっと待て!」 モロに食らって吹き飛ばされる。 「カッカッカッカッ。油断大敵だぞ?とはいえ、短期間の内にヴァーグ流炎術を修得するとは大した奴だ。流石私が育てただけのことはある」 「師匠、遠回しに自分を誉めてませんか?……へっくし!」 全身ずぶぬれのハデンはぶすっとした表情をしている。 「怒るな怒るな、水も滴るイイ男 」 「…………………………………………………………………(怒)」 この性格の悪い道士、名をヴァーグ・ナガルという。長身、美形の二十九歳、独身男性、ナーラダ族。気功術法の中でもかなり特殊な、地水火風を操るヴァーグ流の創始者であり、セルフィアーでも五指に入る天才道士である。極度の術オタクで世の中の流れにぜんっぜん興味が無く、ずっと山の中に篭もって研究を続けている。だから独身なのだ。 奇妙なのは、世の中のことに興味が無いくせに、何故か兵法にとても詳しいのである。言うまでもなく、ハデンはこの男に術のみならず兵法も習っている。しかしナガルが何処で兵法を修めたか、ハデンが聞いてもニコニコ笑うだけで教えてくれなかった。 尚、余計なお世話だが、ハデンの性格が知られる通りになってしまったのは、この男の影響らしい。幼い頃のハデンは、内向的で心優しい少年だった。しかしナガルの元で修行する内、みるみるねじ曲がってしまったのだ。師匠が伝染つたらしい。尤も、ハデンの妹達やナタケなんぞは「優しいですよ。昔から変わってませんよぉ」なとど宣うが。 「もうすぐ一年か……」 ハデンは、山中の庵の中でぽつりと呟いた。 「そろそろ帰る時期だな」 帰る、というのはウォウルにではなく、ライル・ナタケの待つスウィズにである。 前年の水の月、前ライル社社長のガズカが殺された後、ハデンはナタケに力を貸すことを決心した。しかし、当時の彼には何も力が無く、一年で力を養い再び戻ることを約して一旦別れた。そして、もうすぐその一年になるのである。 「というわけで師匠、お低話になりました。何年かかるかわかりませんが、終ったらまた修業しに来ます」 「…………ホウ…………あっさりしているな…………よし分かった、お前はもう卒業だ!なんて言うと思ったかぁッッ!!!」 「まさか」 さらりと言うハデン。既に荷造りを終えている。 ───ちゅどおおおおおおおおん!!! 山の一角が吹き飛んだ。 「ふざけるな!」 「どっちが!いきなり真波動(ただし出力20%)はないでしょう!」 頭から血を流しているハデン。師匠、容赦してるらしいが愛弟子のダメージ極めて大。 「ハデン、お前は下界に降りて何を成す気なのだ?所詮、お前一人が降りたところで何が出来るわけでもあるまい」 「嫌ですね、二十九の身空でそんな諦めた事言ってて」 「待たんか十六歳。確かに私はお前に術と兵法を教えた。しかし、たかだか十六のガキが何処の物好きに仕官するというのだ?」 「ライル社。そこの社長がオレの古い知り合いでして」 「うわっ、モロ縁故採用!?汚ねーッッ!!つーか、ライル社っていったらあの……」 「いくら世捨て人な貴方でも知ってるようですね」 「極悪非道のガズカが死んでカワイイだけの娘が後を継いだ滅亡寸前の勢力」 ぴき。 「……今なんつった?」 「何怒ってるんだお前?……あーっ、もしかしてお前、『古い知り合い』とかいう社長に惚れてんだろーッッ!?」 ぴきぴき。 「人を好きになって何が悪い!」 ムキになって怒鳴り返す。若い。 「これだから子供は……ハデン、想いだけではどうにもならぬことはある。それよりも、私とここでずっと術の研究を続けようではないか。お前の素質は天才的だ。私には夢がある。お前なら私の夢を叶えることができよう」 「お断わりします!」 「ちっとも考える余地ナシとは……ハデン、聞け。敵の多いライル社についたところで結果は見えている。わざわざ好き好んで心中することもあるまい。大体、ナタケとか言う少女が社長では……」 ぶちっ。 「ナタケをけなす奴はこのオレが許さん!!」 「愚かな、師に楯突く気か。大体お前は去年の馬鹿な術の使い方で左腕を……」 「左腕がどうかしましたか?」 ニヤリと失う。両手を前に突き出した。 「破ぁああああああっっ!!!」 立て続けに気弾を連射(べジータ風に)。白い光の氾濫にナガルの視界が遮られる。 「小癪なっ!」 六つの光弾を放つ。弾幕を迂回して正確にハデンを撃つ。 「何!?」 機敏に身を翻すが二発を食らった。 「手応えはあった。……が」 今度はハデンも六星光弾で反撃してきた。ナガルは気硬盾でそれを防ぐ。 「効いてないか」 一瞬の静寂を置き、二人は間合いを取った。 「師に逆らうとは愚かなり。きつーく灸をすえてやる。くくくくく。それでも行くというのなら、この私を倒してゆけ!!」 ちゅどおおおおおおおおん!!! 「……フゥ!!」 全然、全く、完全に一瞬の躊躇いもなく、容赦なくブチかましたハデン。多分これは効いたろう、彼はそう確信した。 「が、しかぁしッッ!!」 背後から師の声と共に気弾の嵐。 「なっ、何時の間に!?」 身を翻して回避。 「閃!」 ハデンは掌から閃光を発して師の目を眩まそうとした。 「ではご機嫌よう!」 全力ダッシュで離脱を図るハデン。しかし、彼の目の前に、一瞬でナガルが姿を現す。 「え……」 はやい、というより人間離れの動き。 「よく覚えておけ、これがヴァーグ流奥義その壱『神移』だ。気の流れに乗る一瞬だけの高速移動。だがそれを知覚できる者は少ない」 また視界から消え、後ろから声。 「どうだ?やる気を無くしただろう。だがお前ならこんな術はすぐ修得できる。さあ、我が元へ帰ってこい。私と一緒に暮らそうではないか」 (成程……あの動き、辛うじて知覚はできた。しかし知覚できても対応するのは至難の業‥‥‥いや、待て。この場は離脱すればいいのであって師を倒す必要はない。ならばこういうやりかたもあるはずだ……) ハデンは両手を下に向ける。 (五割の力にて……!) 「待てっ!!聞け、私の話を……」 師匠、思いっきり動揺。次の瞬間。 ──真波動ォォォッッ 轟音、閃光、地響き、気の奔流。ナガルの五感、そして第六感までもがハデンを見失う。 やがて彼が知覚を回復した時、弟子の姿はどこにもなかった。 「思い切りよく逃げたか……」 暫らく彼はその場に佇んでいた。弟子の作ったクレーターをやや沈んだ瞳で見遣っている。 静かに独語した。 「ハデン……お前は若い。まだ挫折することを知らぬ。願わくば、同じような目にならぬことを……」 この時ナガルは記憶を遡行していた。 彼が隠者のような生活をするに至った、過去の記憶……。 弐:シーランにて ハデンがスウィズに向かっている時、実はライル・ナタケはシーランに居た。この大邑はライル社にとって数少ない友好的な勢力である。特に、現邑宰であるブレイブ・アグダは創師商会設立の折に何くれと無く助力を惜しまなかった。どうやら前社長であるガズカと妙に波長が合ったらしい。シーラン邑の門閥の中には新興のライル社を毛嫌いする者も多いのだが、アグダは実力のある邑宰であるために表立っての行動がとれないでいる。 そしてこの時、ナタケは少し遅い新年の挨拶をするために、この邑を訪れていた。因に、遅れた原因はスウィズ邑内の、とあるおかまバーの地下から大量の武具が発見されるという事件があったからである。ガズカが殺されて以来、何かと物騒な事件が相次いでいる。 「お久しぶりだ、ナタケ殿。お変わり無かったかな?」 ブレイブ・アグダはにこやかな突顔を、若いというより幼い身で社長となった少女に向けた。 ナタケも笑顔で返し、心のこもった礼儀で返した。ガズカ亡き後、アグダは何かとナタケのことを心配してくれたのだ。 「ナタケ殿、貴女の父上と私は、よき友人だった。私には貴女を護る義務がある。……とまあ、肩肘張ったことはあまり言うまい。ここを自分の家と思ってゆっくりくつろいで下され」 会見は、終始和やかな雰囲気で進んだ。筋骨達しい身体のアグダは、外見とは裏腹に優しい笑顔を向けている。ナタケは心の緊張がとけるのを感じた。アグダは実績と才幹の両方において確固たる声望を獲得している邑宰である。彼は信頼できるのだ。 やがて会見は終り、アグダはナタケと外局長ルヴァログを私室に招いた。そこでアグダの嫡男であるシュウも加わる。 「ナタケ姉さん……」 微かに頬を朱く染め、はにかみながらぺこりと頭を下げた。 まだガズカが生きていた頃、ナタケは父親に付いてシーランに行く機会が何度かあった。初めてブレイブ・シュウと顔を合わせた時、彼はアグダの後ろに隠れておどおどしていた。 「初めまして、ライル・ナタケです。よろしくね」 ナタケがニコッと微笑んで、シュウも初めて笑った。それ以来、彼はこの二つ年上の少女を姉のように慕っている。 「シュウ君、お久しぶり。元気にしてましたか?」 「は、はい」 「こりゃ、シュウ、ハキハキせんか」 息子を叱るアグダ。とはいえ、それ程厳しい声でもない。彼は、自分の息子が優しいが気が弱いことを少々危惧してはいたが、やがて晩成すればいいだろうと思っていた。人は未来を予知することはできない。アグダは自分にあまり余命が残されていないことを、そして数年後のシーランの末路を知らない。これから自分が育てていけばいいと思っていたのだ。 因に、今回シーランに来ているライル社の主立った者は、ナタケとルヴァログの二人である。外局長サイク・ルヴァログは目立つ偉才を持ってはいないが、温厚で公正な人柄と意見調整や対外折衝で見せる人と人との間の処理能力をシーランからも高く評価されている。信頼と信用の両方を得ている人物である。また、彼は公人としてだけでなく私人としても頼られていた、特に亡きガズカに。野心家の前社長は私生活でも大小様々なトラブルを起こし、ルヴァログは笑って事後処理を引き受けていたのだ。流石にライル家の離婚騒動の時は、笑い事では済まなかったようだが。 参:陰謀 ヴァイクス・ナクラという男がいる。スウィズ旧臣で、現スウィズに派閥があるとすれば彼は紛れもなく兵局長ノーツライン・クラドの派閥に属することになろう。 「待っていた。手筈は万全だろうな」 クラドの私室。ナクラは首肯いた。 因に、彼の外見はなかなか妙である。宝石やら何やらで着飾っているのだが、趣味はあまりよくない。いや、悪い。だが、何より奇異なのは服装にあるだろう。どんな服を着ているかは、彼の喋り方を聞けばとてもよくわかる。 「ご心配無く、クラド様。既に手の者をシーランに送り込んでおりますワ」 ……オカマなのだ。後に、スィスニアにメロウリンク(愛称メロンちゃん)というオカマが出現しているが、それと特に異なる点は、ナクラは人目で「男」とわかってしまう所だろう。服装は女物、喋りも女。でも、明らかに男。とにかく、そういう奴なのだ。 「うむ、頼りにしているぞ」 クラドはライル社の中で最強の武力集団を抱えている。彼の父は旧スウィズ邑の兵吏長であり、またクラド自身も武将としては紛れもなく有能な男である。尤も、今のところの彼の評価は武将としてにとどまっており、その枠を超えたときどうなるかはわからないが。そして、ナクラ。彼は(オカマだが一応「彼」と表記しておく)クラドのブレーンである。ある目的の為に彼らは徒党を組んでいるのだ。 「では、ワタクシもシーランに参りますワ」 そう言って辞去したオカマ。残ったクラドに、彼の弟であるラルグが不満そうに言った。 「兄ちゃん、なんだってあんな奴の猿知恵を借りるんだ。俺たちには力があるんだから一気にあの小娘をブッ潰せばいいと思うんだな!」 「ラルグよ、全ての物事は正攻法でカタがつくわけではない。まして、我等の計画は失敗が即破滅に繋がるのだ」 ラルグの気質は多分に陽性である。陰謀を潔しとしないのだ。そんな弟を、クラドは馬鹿だと思いつつ、つい放ってはおけなかった。馬鹿な弟ほど可愛いらしい。 シーランに到着したナクラは早速同志を召集した。 「いいわね、ラルシ殿。アグダはきっとナタケの警備を厳重にするでしょうけどスウィズに居るよりは軽いはずよ。それに、スウィズでナタケを暗殺するより余所で殺したはうが事態を運びやすいってもんよ」 彼のプランはこうである。シーランでナタケを暗殺、ナタケの供回りに潜り込ませた手の者を素早くシーランからスウィズに「社長死す」の報告を持って走らせクラドに、ごく自然に連絡、大きな混乱に発展する前に軍事力を背景に実権を掌握するというものである。ナクラには気掛かりな点が一つある。ナタケが直々に、自己の供に選抜したゼオ・マキスのことである。聞けばかなりの槍術の達人だとか。万が一、ナタケを護り抜かれたら失敗である。 「ご心配無く、ナクラ殿。この俺がマキスを殺します」 マッチョなラルシは力強く首肯いた。 この時彼らは知らなかった。イレギュラーな計算外の男の存在を。 肆:異変、勃発 独立暦398年水の月43日。 「ナタケ様、もうお休みになる時間ですぞ」 ルヴァログに促され、ナタケは寝所に下がった。 ライル社ご一行様はシーランから幾つかの宿舎を借りて分宿している。このナタケが宿泊している所にはナタケやルヴァログ、それとマキス等の選りすぐりの護衛やシーランから付けられた衛兵等が居る。また、塀は高く、篝火で辺りを照らしてもいた。 「これなら安全だろう」 そう思いつつ、ゼオ・マキスは警戒を怠らない。彼はナタケが自分を選んでくれたことに感激していた。万が一の失態があってはならない。ここは、なんとしてもナタケ様の御期待に応えねば。 そして、彼が気合いを入れた瞬間、ふっ……と傍の篝火が消え、他も次々と消えていく。 「俺は気合いで火を消せたのか」 などと思ったりはしない。彼の知覚は彼自身に危険を告げている。他の連中にも声をかけようとした。だが、幾人かが血を流して倒れている。 「──ちっ!」 素早くその場に身を沈める。半瞬遅れて彼の頭があった空間を刃が切り裂いた。 「ぉらぁっっ!」 槍の石突きで背後の敵の鳩尾を突いた。 「曲者だ!出合え出合え!」 宿舎の中から武装兵が駆け付けてくる。たちまち「曲者」と戦闘になった。だが、相手はなかなかの手練れらしい。容易にカタがつきそうにない。 (しかし、ここで防げばナタケ様は安全……) 何気なく宿舎の方を見通る。この瞬間であった。彼の五感を不吉な感覚が走り抜けたのは。 (……………………まさか) マキスは槍を持って宿舎の中へ駆け出した。解は直ぐに出た。安全な筈の中では、衛兵が何人も殺されている。 「しまった!外の連中は陽動だったか!!」 己れの迂闊さを呪いつつ、マキスは必死でナタケの所へ向かう。 「みんな、外の連中は陽動だ!ナタケ様をお守りしろ!」 そう叫びつつ、走った。 伍:遅れてきた男 ナタケの方でも異変に気付いていた。彼女の部屋の内と外に兵を配置して厳戒態勢を取っている。更に、幾人かの使者をシーラン当局に送っているが果たして無事辿り着けるであろうか。 「ハデンさん……」 無意識の内に一番好きな人の名を呼んだ。あの誓約から一年、あのひとは今頃スウィズに来ているのだろうか? 「呼んだか?」 最初、ナタケは何とはなしに「うん」と首肯いていた。続いて数秒置いて、声のした方を見た。 「えっ……」 にこにこしながらクラウ・ハデンが手を振っている。 「久しいな。まさかシーランにいるとは思わなかったぞ。スウィズに行ったらカッシュにナタケ様はシーランに居るといわれてへこみかけた」 「嘘……ハデンさん……」 一年ぶりの再会。感動よりも先に驚き呆れた表情が出た。 (どうせならもっと“しゅちえーしょん”を考えてくれればいいのに) などと思ったとか思わなかったとか。 「ちょっと遊び心を働かせて忍び込んだら、なかなか面白い事になっているじぁあないか、なあ?」 ナタケの命が狙われていることを指しているのだが、それすらも『面白い事』らしい。若者にありがちな、自信に満ちた発言か。 「ナタケ様、ハデン殿。まずはこの状況を切り抜ける事を考えましょう」 ルヴァログが二人を当面の課題に引き戻した。 「ハデン殿、貴殿は先程忍び込んだと言われたな?そのルートを逆進してナタケ様を脱出させることはできないか?」 彼らにとってナタケの安全が最優先されるべきだろう。ルヴァログの提案は当然といえた。 「無理だと思う」 「何故に?」 「だって……」 ハデンは自分が降りてきた天井の穴を指差した。 「このルート、敵も使っているから」 そう言うや否や暗殺者が数人飛び降りて真っすぐナタケに向かう。だが。 「六星光弾!!」 素早くハデンが一掃する。 「ハデン殿……貴殿はもしかして……」 「済まない。敵も連れてきてしまったようだ」 「アホーー!!」 「怒るな。今、なんとかする」 ハデン、いきなり大気弾を天井目掛けてぶっ放つ。 「うわあっっ!」 「きゃああっっ!」 天井及び屋根は思いっきり吹き飛び夜空が直に見えるようになった。 「これでよし」 「そういう問題なのかなぁ…………」 「さて、次だ。戦闘準備を」 ハデンは表情を引き締め周囲を見回し、扉の方に視線を留めた。 「ナタケは後ろに居ろ」 その場に居るもの全員が彼の発言の音図を察した。彼らの意識が唯一の扉に集中する。 その一瞬だった。 護衛の一人が音を立てずにナタケに近づく。剣の柄に手を掛けた、刹那。 「やはりな」 その、護衛の前にハデンが立ちはだかっていた。目を見た瞬間、背中に悪寒が走り、身動き一つとれなくなる。 「お前は巧く潜入したつもりらしいが、瞳の色は隠しきれなかったようだ。気付いていたのは、オレ一人ではないぞ」 他の護衛数人も、凶行に及ぼうとした男に剣の切っ先を突き付けている。 「時間差をつけ外と内とで戦闘し注意を引き付け、ナタケ護衝の数を減らしたところで隙を衝く。この部屋の外で戦っている連中は、あくまで陽動。真打ちはこいつ。あと一人ぐらいは内通者がいるかも知れんな」 その言葉に緊張が走る。しかしハデンは種播いといて軽く笑い飛ばした。 「案ずることはない。こうなってしまっては、動けないか焦って誤謬をやらかすかどっちかだろう。その時オレが処理する。それよりさっさとここを出た方がいい」 いつの間にか主導権を握っている。ナタケやルヴァログが何も言わないからだ。 「火でも放たれたら厄介だからな」 少し間を置き、ハデンはこう付け加えた。 「ところで、早くそいつをふんじばってくれないか。縛の術をかけ続けるのは少し疲れる」 どうやらナタケを殺そうとした男を連れていくつもりらしい。 少し時間を戻す。 マキスはナタケの元へ一直線に進んでいるつもりで道に迷っていた。 元々方向音痴な上に、かつて知ったスウィズではない。急がねばと焦れば焦るほど、ナタケの部屋は遠ざかっていく。 その途上、ふと人影に気付いた彼は、暗闇に目を凝らしてその姿を認めた。 (…………) 彼はその相手が尋常な使い手ではないことを肌で悟っている。その男、カルズ・ラルシ。 「お前がマキスだな」 「そうだ。お前は誰だ?」 「……名は名乗らぬ。ナタケの命を獲りに来た者だ」 次の瞬間、戦斧と槍が交錯した。火花と氷の調べが撒き散らされる。 再びラルシの戦斧がうなりをあげる。マキスは半身から逆の半身へと見事な体捌きを見せつつ紙一重で回避。 「はッッ!!」 石火の突き。ラルシは片足の踵を軸に身体を半回転させこれを回避、同時に横薙ぎの斬撃を叩き込む。 「ちっ!」 マキスは身体を沈めて躱した。そしてその態勢から石突きで相手の顎を下から打ち上げる。 「ぐっ……!」 ラルシの巨体がよろめいた。マキス、渾身の一撃を見舞おうと槍を突き出す。 だが、ラルシはこの態勢から戦斧を縦に振り下ろした。 「おっと!」 あわててマキスは身を仰け反らす。前髪が数本ハラリと落ちた。 「小癪なマネを!」 彼の焦りは加速度的に高まっていく。 「どかんかいっっ!!」 捨身の一撃を繰り出し、一瞬の隙を衝いて彼は強引に突破した。そのままダッシュ。 「ナタケ様ああああっっ!!このマキスがお救けに参りますぞおおおっっ!!」 「……てこずっているようね」 部下からの報告を受けたナクラは渋面を作った。 「しょーがない。静かに終わらせるつもりだったけど…………。火を放つのよ。 こうなったら火で取り囲んで焼き殺すしかないワ!」 陸:脱出 ハデンとルヴァログはナタケを護りつつ宿舎の外へ向かっている。途中でゼオ・マキスとも合流した。 「おい、何を油売っている」 口の悪いハデンは道に迷って一人でウロウロしていたマキスを見るや否やそんなことを言った。勿論マキスは反論したが、やや精彩を欠いたのは、確実に出遅れていたからだ。 「ハデンさん、あれを!」 一行の行く手に炎の壁が見えた。 「本当に火を放ったか。あと少しで外に出れたのにな」 ちっ、と舌打ちした。 「ハデンさん、どうします?」 ナタケ、何かとハデンを頼っている。 因に、ルヴァログは兎も角、ゼオ・マキスはハデンが先に入らない。そもそも、こんな奴はここに来るまでは居なかった。なのに何時の間にか出現して、しかもナタケ様にべったりだ。大体ナタケ様もナタケ様だ。こんな何処の馬の骨ともつかぬ奴を何かと頼るとは……そんな彼の思考が言語化してしまった。 「おいおいおい!さっきから偉そうなことばっかり言ってるアンタは誰なんだ!?護衛でもない部外者が口出しするのは止めにしてくれないか!!」 この言葉に反応したのは、ハデンではなくナタケであった。 「ちょっと、私のハデンさんになんてこと言うんですかっ!!謝りなさい!!」 ……マキスは全てを悟った。二人の事情を。ナタケも感情を持った人間であるということを。この時二人にとって幸いだったのは、ハデンが「どうだ、オレは社長に愛されているんだぞ」などという態度を冗談でも取らなかったことであろう。もしそんなことをすれば、マキスはハデンに対し「社長の威を笠に着る腰巾着ヤロウ」という認識しか持たなかった筈である。 「……ナタケ、ナタケ、いくらなんでも『謝りなさい』はないだろう……」 実際に取った態度は、こう。社長を呼び捨てにするあたりがまだ気に入らないが、今は忘れることにした。情況は切迫しているのだ。 「さて、面倒だな。強行突破するか?」 気軽に言ったハデン。すかさず反論。 「ナタケ様を危険にさらす気か!?」 当のナタケは目を丸くした。この発言はマキスとルヴァログの両者から同時に放たれたのだ。 「……まあ、そう噛み付くな。実際に死線を潜るのはオレとこいつ」 こいつとはマキス君のこと。 「俺!?」 いささか意外そうに言った。だが、そんなマキスにハデンは鋭い視線を送る。 「護衛ならばそれぐらいは当然だ。体を張って主人を守護するのが仕事だろう」 マキスはハデンに対する見方をよい方向に修正した。このスカシ野郎も、率先してナタケの盾になるつもりなのだ。 「衛兵」 「俺の名はマキスだ。ゼオ・マキス」 「……マキス、お前は突っ込んで敵の気を引け。一瞬でも時間を稼げれば、オレの術で一掃できる」 「……信頼できるのか、あんたの力量を」 「信じなければどうしようもないさ。心中するか?」 二人のやりとりを聞いている内、ナタケは妙に明るい気分になってきた。ハデンが毒舌発揮している内は、まだ余裕があるのだ。 「先に行く」 無造作に少年道士は身を通路の真ん中に晒した。たちまち矢玉が降り注ぐ。だが、ハデンは器用に防ぎ、回避していった。彼はそれ程敏捷ではない。しかし、連日続いた師との戦闘訓練の結果、身体が最小の動きで身を護る術を覚えているのだ。 「閃掌弾!」 光弾を投げた。敵の頭上で弾け、眩い光で視覚を無力化する。 「マキス、行け!」 彼も飛び出し、身を低くして槍が届く所まで接近した。その間にハデンは気を練っている。 「うりゃああああっっ!!」 思いっきり暴れまくる。とは言っても、彼の視覚もまだ回復していない。当たるを幸いにと、メチャクチャに突いているのだ。 「援護を!二人に間違いがあってはなりません!!」 「ナタケの指示が飛ぶ。飛び道具を持つ兵が矢を放ち、術で援護射撃を加える。 「マキスッッ!!!」 ハデンが叫んだ。具体的には何をしろと言われたわけではない。が、マキスはすぐさまその場に伏せた。 「来たれ炎龍ッッ!!」 火の気を操る彼の手に大きな炎の塊が発現、龍の形を成し、それが廊下を駆け抜ける。 「あちぃぃぃぃっっ!!」 不運なマキスの背中を焦がし、敵の真っ只中にブチ込んだ。 「すげえ……!」 一撃で敵を全滅させたハデンの術に、マキスは感嘆した。だが……。 「あのー、さらに火が回ってるみたんなんスけど……」 放たれた炎龍は壁にぶつかり炎を撒き散らしていた……。 「ハホーーーーーーッッッ!!!!(←ハデン殿のアホー!の略)」 怒鳴るルヴァログ。どこ吹く風のハデン。 「まあ見ていろ。これからが本番だ」 うそぶいた彼は床に手をつける。 「お前等、オレが合図したら走って駆け抜けろよ。そう長くは保たないからな」 ハデンが床に念を送る。すると、火がみるみるうちに両側に退きナタケの道を確保する。 「行け!」 一行、どよめきながら走る。ナタケは気遣わしげにハデンを振り返った。 「ハデンさん、貴方も早く!」 呼ばれた道士は肩で息をしながら立ち上がった。炎がまた、勢いを取り戻す。 「ハデンさん!」 「やれやれ、流石にあれだけの火の気を操るのは疲れるな」 ぼやきながらゆっくりと前に進んだ。そして。 「破!」 前方に気を放ち一瞬炎を退け、その間に火中を脱した。 「よかった……これで大丈夫ですね」 「そうでもないさ。……来るぞ」 彼の視線の先には十名前後の覆面をした武装集団……その中には先刻マキスと死闘した男と見られるシルエットもある。 ハデンとマキス、そしてルヴァログや護衛達がナタケを庇うように構えた。 一瞬の対峙、そして激発。 「ナタケは下がっていろ……!」 二人の刺客が尋常でない突撃をナタケ目掛けてかけてきた。一人はラルシ、そしてもう一人は……。 「……」 無言で突き出す掌から六つの光弾。 (──六星光弾!!) ハデンは気硬盾を展開して防御、すぐさま気弾で応戦、左腕に命中。しかし。 「なっ!?」 被弾した相手の袖が破れ、下から金属性の盾が出現、ハデンの術をそのまま跳ね返す。 「あれは……霊反鏡……」 ナタケが言った。あれは宝器だというのか。 (厄介だな……あいつはまだ来ないのか?) さてどうしようかとハデンが闘いながら思案している時、門の方から歓声があがった。 「シーラン兵が来たぞッッ!!」 ナタケ側は勢い付いた。一気に押し返す。不利を悟った暗殺者達は早々に引き上げた。 その時、ハデンは闘っていた術師と目が合った。 (……この男とは、また会うことになる…………ような気がする) 漆:戦いは終らない 「どうやら間に合ったようだね」 ハウザー・カッシュがにこにこしながら言った。実は、彼もハデンと一緒にシーランに来ていた。ただならぬ空気を察したハデンの提案で、邑宰にその旨伝えに行っていたのだ。 「結構際どかったぞ」 ハデンが苦失いする。談笑している二人の後ろで、シーラン邑宰プレイプ・アグダがナタケに平謝りに謝っていた。警備に落ち度があったかどうかは別として、大事な客人が危うく死ぬところだったのだ。 「本っっっっ当おおおおおおおに、申し訳ない!!なんとお詫びすればよいのやら……」 「そんな……いいですよ……ああ、そんなに頭を下げないで」 アグダの誠実さを知っているだけに、ナタケとしては、心の中で苦笑するしかない。 さて、その頃ハデンとカッシュは密かにその場を離れ、人目に付かない所に移動していた。先刻の脱出の時に捕縛した捕虜を連れている。 「さて、話してもらおうか。誰の差し金か……」 ナタケに向けていたのとは、打って変わって氷点下の目をしている。だが、暗殺者もさるもの、臆する事無く睨み返した。 「誰が喋るものか」 目でそう語っている。 「……ああ、そうだろうな。じゃあ喋りたくなるようにしてやろう」 ハデンは、男の頭を引っ頼んだ。僅かに力を込める。すると、突然男の視界がメチャクチャに歪み、背中を悪寒が走り抜けた。頭の中がガンガン痛み、たちまち吐き気を催す。 「…ぁ………ぅ……ぉ!!!!!」 声にならない呻き声をあげ、のたうち回る。 「苦しいか?そうだろうな、貴様の体内の気の流れを引っ掻き回してやったのだから。死なない軽度に、もう少しキツくしてやろうか?」 ハデンの目は据わっている 「……喋る気は無いようだな。他に何種類か試してみるか」 「ああ、ハデン君、やめたまえ。やり方が紳士的じやない」 横からカッシュが口をはさんだ。 「カワイソウに、彼はこんなに苦しんでるじゃないか」 「白々しい……」 「ここは私に任せてくれないか。彼をこちらに引き込んで見せよう」 「そんなことが……できるのか?」 「ああ。機能は若干低下するが、犬になる」 カッシュは男の近くに座ると、耳元で何か囁きだした。 「………………」 はじめの数語で怯えた表情を見せ、ややあって急にとろんとした目になる。 「終ったよ」 カッシュがにこにこしながらハデンに言った。 「さて、君の名前は?」 「……にっく」 「姓は?」 「りべろ」 (ふむ?) ハデンが軽く首を傾げる。 「リベロ・ニック。君に命令した人物の名を教えてくれ」 「めいれいとは、なんのめいれいでありますか」 「ライル・ナタケを殺せとの命令だよ」 「わたしのやといぬしです」 「姓名は?」 「ばいくす・なくら」 「……では、ナクラの主人の姓名は?」 「わかりません」 「そうか……もういい。君は牢にでも入ってくれ」 「どこのろうでありますか」 「シーランだよ。その辺の兵隊さんに、自分はナタケを殺そうとしたと言えば連れていってもらえる」 「わかりました。わたしははいります」 男は危なっかしい歩調で去った。 「……成程、確かに犬だ。主に判断力が低下しているな」 「だが、必要な情報は手に入った……」 「ナクラ、という人物か。お前は知っているらしいな」 「まあね。面識もある。ついでに黒幕も大方の予想はついた。その男は……」 「兵局長ノーツライン・クラド。スウィズ邑旧臣の首魁ですよ」 ぎょっとしてハデンが振り返る。そこにはナタケが居た。 「……先程から一部始終見させていただきました」 「一部始終……か」 「貴方がやってた酷たらしい拷問も」 真っすぐにハデンの瞳を見つめ、とらえて放そうとしない。 (──不利だ) 後ろめたさを感じることはなかったが、何となく落ち着かない気分だった。 「そのことを、どうこう言うつもりはありませんが、私の目につかないようにするのはやめてくれませんか」 「だが、君があの場にいたら、止めていただろう」 「ええ」 そらやっぱり、とハデンは言い掛けたがナタケは言葉を続けていた。 「尋問するまでもなくわかっていましたから」 「何!」 心底意外そうな顔。 「だが、クラドだという証拠は」 「人柄です。貴方達が行動を起こすにはその証拠だけで充分でしょうね」 「ふっ、成程ね」 カッシュが言った。ナタケは知っていたのだ。何もかも。 「で、ナタケ様、クラドをどうなさるおつもりで?」 カッシュとハデンの視線がナタケに集まった。彼女は、暫時の間を置き、静かに言った。 「除きます」 「……うむ。だが、奴は軍を持っている。簡単にはいかないぞ」 「時間をかけて、徐々に力を殺いでいきましょう。ゆっくりと、追い詰めて……」 ナタケの顔に感情は無く、声は無機的であった。 「……それは、オレがやる。君には別の仕事があるだろう」 「…………」 「さてと、ナタケ様、ハデン君、私はそろそろスウィズに帰ります。商局の仕事を残していますので」 カッシュは去り、二人だけになる。 「私達も参りますか」 「そうだな」 ナタケは数歩歩き、すぐ立ち止まるとハデンを振り返った。 「ハデンさん、私は……乱世を終らせることができると思いますか?」 「ああ」 と、答えた後で彼はナタケが持つプランを聞いた。 「君はどうやるつもりだ?こればっかりは、まず君が考えることだ」 「連邑制、というのを考えています」 「連邑制?」 「そう。大邑同士が連合して統一国家をつくるのです」 「……統一国家か……これは、大きく出たな。だが、大邑同士の連合というのは危険じゃないか?誰が首班になるかで争いになるぞ」 当然の疑問をぶつけてみる。 「ええ。連合するのは最初だけです。気が付いた時には、いずれかの邑が首班としての地位を揺るぎないものとしており、その邑を中心にナーラダの国を造る……というのを考えています」 一瞬ハデンは目を丸くし、やがて愉快そうに笑いだした。 「フッ……で、君がオレの策をもって実権を握るというのか?」 「いえ、私はその頃には第一線を退いていると思います。私個人の考えでは、 スィスニアかウォウルのような大邑中の大邑がよろしいかと。それに、あそこ の邑宰は聡明だと聞いておりますので」 「そのセリフ、聞かせてやりたい奴が沢山居る。全く、ライル社は強欲な利益団体だの、不気味だの、危険だのほざく低能どもに聞かせてやりたい」 敢えて言うまでもないが、ライル社の評判は悪い。 「しかし、気が付いた時にはなどというやり方、誰に習った?」 「別に。貴方がやりそうな思考の過程を真似しただけです」 「そうか、そうか……」 ハデンは、また笑った。 「まあ、連邑制とやらもいいが、その前にやるべきことは沢山あるな。クラドを除き」 「ライル社を解体する……」 「そう。正気の沙汰とも思えんが、誰かに潰されるよりはマシだろう」 「でも、解体する前に、社員の生活のことも考えないといけません。スウィズの統治機構と企業体を分離し、その上で宝器生産を縮小していくのがよいかと」 「そうだな。そのためにはまず君の権力を強化せねば」 ハデンは、己れの果たすべき役割をはっきり認識した。そして、できるだけ摩擦を回避し社員の生活に配慮した移行の道を模索するナタケの性格を貴重な物と思った。 余談だが、後にウォウルに逃げたナタケはヴィレクと会見した折、宝器生産をやめ、通常の商業活動を行うと言った。彼女は社員に給料を払うには商売しなければならないと思ってこのような発言をしたのだが、ヴィレクは商売人という立場を全面に押し出したあざとい作戦としか見倣さなかった。両者の立場の違いがこの差を生んだと解釈すべきか。 「見事に失敗したわネ……」 ヴァイクス・ナクラはシーランを遠くに眺めながら呟いた。 「ナタラ殿、済まぬ、俺の力が至らなかった」 「ラルシ殿、それは違うワ。まさかハウザー・カッシュが来てるとは計算に入ってなかったし、それにもう一人、計算外の男が居た。……全て、ワタクシの油断。ワタクシの誤謬なのヨ……」 (それにしても……) ナクラは左腕をさすりながら思った。 (あのボーヤが放った気弾、霊反鏡で跳ね返したにも拘らず、ワタクシの左腕の痺れが引かない……それに、あの眼……) 「何者なの……?」 独語した。再びシーランの街並みを眺めた。 「ラルシ殿、帰還するわよ。クラド様に報告しないと」 ―続く― 後書きぃ:うーん、相変わらずの分量。さて、このお話の中に出てきた『連邑 制』について、「なんか総まとめ本と違う」と思った方がいるかも しれません。あっちの方は、なんというか、下手に色々書くとそれ をネタに潰されるんじゃあないかと警戒して、表層しかキャラシー トに書いてなかったわけです。第二回リアクションでいきなり危険 視されてたからね……何だよ、ライル社ってやっぱ初期段階から間 違ってたの?(笑) うーむ、誰が見ても失敗だよなあ……。 謎の置き手紙を残し姿を消した二人。 「駆け落ちか!?」 ライル社、上へ下への大混乱! そして、ここぞとばかりにクラド&ナクラの悪だくみ! ……折角二人きりなんだからさあ、放っといたれよ、クラドさん…… 次回、『二人の休日(仮)』 頼むから期待するな!! |
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