会誌-「第9回会誌別冊 ナーラダ戦記」

■ カルナ・シェルセラヴのアピールシーン  【浅葱 翔】


 北方の邑へ来るのは久しぶりだ。ユディトではまだ雪も残っている季節である。しかしこの邑では昼間のうちは布一枚で歩けるほどに暖かい。
 スィスニア邑。前に訪れたのはいつだっただろうか。邑の雰囲気が変わっていた。
 カルナ・シェルセラヴが、この地を訪れたのは第二号店をここで開くことを考えているからである。ユディトの店が軌道に乗っているのでそろそろ手を伸ばしてもいい時期だ。スィスニアにした理由は単純なものだ。
 ひとつ、ナーラダは美男美女が多い。ゆえにシェルセラヴも楽しい。
 ひとつ、スィスニアで後宮の建設が予定されている。という事は、着飾る女性が増えるということだ。
 安直である。ましかし、これに乗らない手はない。後宮というのは気に入らないものではあるけれど。遊んで暮らす女に金払う必要がどこにあるというのだ。
 あの兄もやりそうな事だわ。一邑の主ってそういうの多いのかしら。嫌な感じ。
 両者が聞いたらいろいろと反論が出そうであるが、シェルセラヴの率直な感想である。ナグモ・リューン自体は嫌いではないのだ。むしろ好みだった。
 いい男なのにねえ。ヴィレク君もかわいいけど、もう少し大きくなってもらわないと眼中外だわ。
 ここが戦乱の中にあることなど最初から念頭にない。それでも、いつでも、どんなときであろうと逃げきる自信はあるのだ。
 でも、まあ、コネは作っておく必要あるかもね。後々便利だし。
 そういえば。
 昔、ウォウルに立ち寄ったときにリレイル・リレイアという女性に会った事を思い出した。当時、宝石店の店主だった彼女は今はウォウルで成功を収めているはずだ。後宮のことがあるし彼女もスィスニアに進出して来るのは間違いない。
 リレイアさんは宝石と化粧品。商売敵じゃないし。男の趣味も違うし、何にも問題ないわ。きっといいお友達になれると思うの。
 ああ、違った。
 コネとしては、邑の最高権力者が最適だ。このスィスニアではナグモ・リューンが最も好ましい。かといって、そうそう会えるものでもないだろう。シェルセラヴが入り込めるようだったら、とっくに暗殺されていてもおかしくない。そういう立場の人物なのだから。
 宮女に応募して…という案は考えてすぐ却下した。
 冗談じゃない。一人の男に縛られるなんて真っ平ごめんだわ。
 ということは、やはり八武衆のシュラあたりに接触するしかない。
 ああ、面倒だわ。やっぱりまた忍び込んでみようかしら。でも、危険は避けたほうが無難よねえ。ま、いっか。逃げればいいんだし。リューン様に会いにゆこう。
 どうしてそういう結論になるのかは、定かではないが、頭の構造が普通の商人…いや、普通の人ではない事は明らかである。
 かくしてシェルセラヴは自分の娯楽の為にのみ行動するのであった。

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