会誌-「第9回会誌別冊 ナーラダ戦記」
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■ ナーラダ戦記外伝 覇伝マキシマム 第弐幕 ハデン先生 【作者:元宵】 〜前回までのあらすじ〜 一身上の都合によりウォウル王佐をクビになったクラウ・ハデン(何時の話だ)。彼は愛するライル・ナタケの居るスウィズに出戻りとなり、彼女の為に、粉骨砕身、尽忠報邑、滅私奉公、草を噛み泥水を啜る思いで尽くすもライル社はバブルが弾けて潰れ、しかも最愛のナタケは死んでしまう。ヤケになったハデンは自殺を図るも死にきれず、精神に若干の変調を来したまま(アレで「若干」か)紆余曲折を経て黒竜旗軍の所に出現した。さて……。 1:黒竜旗軍にて 独立暦402年人の月下旬。 「ついたか………」 ハデンとハクユウは竜爪関の地で黒竜旗軍と合流した。 ハデンと対面した黒竜旗軍の面々は、彼を知る者はその変わり様に、会ったことの無い者は想像していた人となりとのあまりの差異に心中驚いていた。尤も、彼が変わってしまった理由については容易に想像がついていたので、決して口に出そうとはしなかったが。 「クラウ・ハデン殿、貴殿の参入を心から歓迎します」 長官のシリルはハデンの手を取って心からそう言った。黒竜旗軍には肉体派……もとい、一騎当千の勇将は居るが軍事面で頭を使う者は長官ぐらいしか居ない。そうでなくとも、ただでさえ人材が欲しい今日この頃。ハデンの参入が嬉しくないわけがない。 「あはは、よろしくお願いします」 笑顔で返すハデン。彼について「酷薄」「無愛想」等々の評判しか聞いてなかったシーランやスィスニア組は驚きを隠せない。いや、もっと驚いていたのは他ならぬスウィズ組だ。あんな爽やかな突顔はナタケにしか見せなかった筈。 (何か企んでるわよ) 小声で囁きディグ・カイルにたしなめられていたのはライル・カミナであったという。 黒竜旗軍に来てハデンに与えられた初仕事、それは。 「初めまして、クラウ・ハデン。私がヴェリア・ユーリィじゃ。シリルから話は聞いておろう。早速気功術法を教えてくれい」 (……もしかして、子守り……?) ハデンよ、それは余りにも失礼な表現だぞ。相手は真剣なのだ。 「どうしたハデン?」 「あ、いえ……しかし、なんでまた私なんぞに?」 こっちの「ハデン」は親しい者以外の時は、敬語で一人称は「私」である。 「お主の力については私も聞き及んでおる。名うての賞金稼ぎで単独行動でありながら失敗が殆ど無かったそうじゃな」 「昔の話です。それに、術の力量なら長官もかなりのモノのようですよ」 「シリルは忙しいとか言っておった」 (それは嘘だ) ハデンは直感的にそう思ったが言うのも面倒なので黙っておいた。 「私はお主の方が強いと思う。力が欲しいのじゃ。私を鍛えてくれぬか。」 ハデンは困ったという顔をして肩を竦めた。 「……貴女自身が戦闘力を求める必要もないでしょう」 「ハデン……ヴェルーダの件は知っておろう」 彼は首肯した。災いの名を借りた大量殺戮。 「時々思うのじゃ、私に力があればどうにかなったのではないかと。……いや、これは私の思い上がりかもしれぬ。じゃが……」 「姫」 ハデンが言葉を遮った。 「……貴女と同じ事をやろうとした男を私は知っています」 「何。どうなったのじゃ?」 「……彼は、一人の少女を愛していました。その少女は父親を殺され、後に残された遺産と過酷な命運を背負いました」 「ハデン、それはもしや……」 「少年はただ少女の役に立ちたかった。自分の手で護りたかった。少年は長じて強大な力を身に付けはした。しかし、そんなものは何の役にも立たず、少女は死んだ」 「………………」 彼自身のことであることはユーリィにもわかる。感情を見せない淡々とした語りが、却ってもの悲しかった。ユーリィは言葉を見つけられないままうつむいている。 「……教えることは、教えます」 「何?」 驚いて顔を上げる。 「私はいつもここに居るわけじゃないですが、出来る限りのことは、教えます。ただし、一つだけ約束してください」 「何じゃ?」 「私が許可した時以外は、絶対に術を使わないこと。いいですね?」 「うむ、わかったが……何でまた」 「いずれお教えしますよ。……ああ、少し喉が乾いたので何か持ってきてくれませんか?今日の授業料ってことで」 「うむ、わかった。それぐらいはやろう、ハデン師匠」 微笑んで走っていくユーリィを眺めながら、ハデンは軽く苦笑した。 「師匠、か」 (ハデン、お前は何を考えている?) 内なる己が問いかける。 「フ、君はわかってるはずだ」 (ナタケの二の舞を避ける、か……) 「そう。そしてそれはクラウ・ハデンの轍を避けることにもなる」 (成る程。姫の資質は大したモノだが、育て方を誤れば取り返しのつかないことになる) 「……またナタケみたいに誰かが死ぬのは嫌だからね……」 (………………ああ) 2:授業開始 「……で、おめえは子守をやらされてるってわけか……」 とても面白そうな顔をしてハクユウが笑った。 「失礼なことを言うじゃないか、ハクユウ」 「そうじゃっ。我らは真剣なのだからな。のう師匠」 お茶片手に二人揃って噛み付く姿にハクユウは思わず吹き出す。 「で、師匠、何を教えてくれるのじゃ?」 「かくれんぼ」 「……あのー……」 「まあまあ、子供なんだからたまには遊ぶのもいいですよ」 笑い死にしかけているハクユウの隣で、ハデンは渋るユーリィをうながして立ち上がった。 「のう、お主は私をバカにしておるのか。私はもっとまともな修行が……」 「十年、いや、六年早いですよ」 「な、何じゃと!?」 さすがのユーリィもあからさまに子供扱いされては怒る。しかしハデンはニヤリと笑った。 「ではかくれんぼで私を見つけられたら、お望みの稽古を施して差し上げます。あ、隠れる範囲はこの館の中です」 「ゆうたな!受けてやろうぞ!」 「じゃ、目をつぶって百数えて下さい。一刻探して見つからなければ私の勝ちです」 「一刻も要らぬ。半刻で充分じゃ」 「そうですか。じゃ、始めましょう」 ユーリィが目をつぶり、ハデンがそそくさと隠れる。間抜けな光景。 しかしユーリィはマジだ。 「……98、99、100!よし、行くぞ!!」 実のところ、ユーリィには勝算があった。自慢じゃないが、彼女はヴェルーダにいたころ、よく姿をくらませ周囲の者を困らせていたものだ。隠れるポイントは心得ている。 (……考えてみれば、こういうのは久々じゃな) けっこう楽しんでる自分に気付き苦笑した。 ……で、四半刻後。 「……どこじゃ」 一向に見つからない。気配が全く無い。さすがに範囲外に出てはいないとはおもうが。 「姫、一体何をなさっておいでなのですか?」 通りかかった元ヴェルーダ兵吏丞シェル・ラティアが声をかけてきた。 「おお、ラティア!ハデンを見なかったか!?」 「はい?姫と一緒ではなかったのですか?」 「一緒でないから探しておるのじゃ。あと四半刻!」 「?」 ラティアは事情が飲み込めず首を傾げている。 「そのあたりに居たような気がしたのですが」 「ううむ、ハデンめ、あなどれぬ」 「なにかよくわかりませんが、見かけたら姫が呼んでいたと伝えておきましょうか?」 「……いや、それは意味をなすまい。それにしてもどこに隠れておるのか」 そう呟きつつユーリィは探索を続けた。 ……んで、タイムリミット。 「あああ、ハデン、私の負けじゃ。一体どこにおるのじゃあっ」 ギブしたユーリイ。 「ここですよ」 「おおあぅびっくりしたあっっ!!!」 いきなり後ろから声をかけるハデン。驚くユーリィ。 「何時の間に。というか、どこに隠れておった」 「その辺です。ちょくちょく場所は変えてましたけど」 「その辺って……馬鹿な、全然わからなかったぞ!」 ハデンはにっこりと微笑む。 「気を断ってましたから。そうするだけで案外察知されにくくなるものですよ。特に、相手が術師の場合はね」 ユーリィが納得の表情を浮かべた。 「すると、お主がやろうとしたことは……」 「気を操ることに慣れてもらおうと思いまして。基本ですから」 「……まさか、そういう考えがあったとは……」 「どうします?やめますか?」 「いや、続けてくれ。お主が正しい」 ハデンはまた優しく微笑んだ。 「まずは気の流れを感じて下さい。それができたらつぎは流れの中に自分の身を置く。基本だと私は思います」 基礎中の基礎を教えるハデン。 ユーリィを自分流に育て上げる。 かくして、クラウ・ハデンの“光源氏計画”が発動した(違うだろ)。 3:何を見る? 結局、ハデンの授業は夕刻まで続き、その間ユーリィはばっちり「かくれんぼ」で遊んでもらうこととなっていた。 「流石じゃな、結局一度も見つけられなかった」 「まあ、本職ですからね」 「のう、ハデン」 「はい?」 「明日も相手をしてくれるか?」 「喜んで」 「そうか。これからもよろしく頼む、師匠」 ユーリィはペコリと頭を下げると、照れくさそうな顔をして去っていった。 「ハデン殿」 シェル・ラティアが話しかけてきた。 「姫がお世話になっています」 「いえ。……いい子ですね」 「はい」 ユーリィの背中をハデンは眩しそうに見る。 (……既視感、かな) ユーリィの強さは彼にある女性を思い起こさせた。いや、重ねようとしているだけなのかもしれないが……。 (ナタケ……) ハデンは、いつしか虚空を見つめていた。何を見ているつもりなのか、ラティアの声が聞こえていない。 「……ン殿、ハデン殿っ」 「……え、ええ?あ、ハイ。呼びましたか?」 「さっきからずっと……」 「いや、これは失礼……」 ラティアは若干奇異に思ったが、この時は気にもとめなかった。 「で、ハデン殿、相手してみて姫様はどうでしたか?」 「いい子ですよ。飲み込みは早いし、こちらも楽しい。ただ」 「ただ?」 「もう少し年相応の振る舞いを見せてもいいのではないかと思う。本人は、無理してるつもりは無いみたいですけど。……まあ、そういうわけで今日は思う存分遊んでもらったわけです」 「成る程……貴方がそんな考えを持たれていたとは」 「姫様はまだ年少ですから、今は気と体をつくることに専念します」 「すると、長じた後に貴方が使うような術を教授すると」 「……さあ、それはどうだかわかりませんがね……」 遠くを眺めながらハデンは言った。 彼女は言った。貴方を護りたいと。みんなを護りたいと。全ての人を。 俺は答えた。人は神ではない。どこかで取捨選択しなければならない。誰かを救うために誰かを殺す。割り切る思考も必要と。 だが、本当のところ、俺はどう思っていたのだろう。 俺は彼女の反対の思考を提示する。では彼女が冷酷な思考を見せたとき、俺は。 ナタケは俺をうつす鏡ではなかったか……。 人の月8日。俺はダーラの丘にいた。 ここはライル・ナタケの眠る場所なのだ……。そこに俺は一人たたずんでいた。 「久しい……な」 ハクユウは気を利かせてくれて、ここには居ない。 「ナタケ……」 俺は呻くように呟くと地に崩れ落ち、墓石の前で両手をついた。 『ライル・ナタケここに眠る 独立暦384−401』 彼女の白い墓石に刻まれた言葉はこれだけである。散文的なまでに簡潔にして最小限。ナタケが亡くなった時、旧ライル党の間で墓碑銘を何にするかもめたという。美辞麗句が飛び交う中、「故人は余計な賛美を嫌っていた」とのルヴァログの言葉が衆議を決した。それでも、これでは寂しすぎるという意見を強引に退けたのは、ルヴァログがあることを意図していたからだ。 「俺に碑文を刻めと言うのか……」 ルヴァログサンは恐らく、ライル社が滅んだ以上、ナタケは俺に帰するのがよいと考えたのだろう。 「だが、俺にその資格が無い……」 そう、俺はナタケの最期を看取らなかった。 看取れなかったのではない。看取らなかったのだ。 俺はナタケについて行くべきだった。何があってもそばに居るべきだったのだ。 「………………済まない………………」 俺は、いつしか冷たい墓石を抱き、慟哭していた。常軌を逸していると思われてもいい。俺は自分のことなどどうでもいい。 贖罪。 俺の頭の中にはこの言葉しかない。 ナタケの遺志を継ぐ。この身が朽ち果ててでも成し遂げる。 俺の中のナタケは決して微笑んでくれない。 それでも、俺は戦い続ける。 「おーい、ハデン、メシの時間だぜ」 ハクユウがハデンの部屋に入って来たとき、ハデンはベッドに突っ伏していた。 「何だ、寝てやがんのかよ」 そう呟きながら彼はハデンに歩み寄る。 「おーい、起きろや。うぇぃくあっぷ。今こそ目覚めよ、クラウ・ハデン!……ねえ、アホ?オレってアホ?」 一人漫才を寒くブチカマす。だが、ハデンは起きない。 この時ハクユウは奇妙な錯覚を抱いた。 (……死んだよーに寝てやがるな……ホントに死んでたりして。まさか、な) 揺すってみる。 「おい、起きろや!キスするぜ!」 どっかん、ちゅどん。 「寄るなホモ野郎」 「あいたあ!冗談に決まってんだろーが。唐突に起きやがって。それにしてもぐっすり寝てやがったな」 軽く首を傾げるハデン。どうでもいいが、ハクユウ、気弾をくらっておいて出た感想が「あいたあ」だけか。 「寝てた?……ああ、眠ってたのか」 「……おめぇ、むちゃくちゃ寝ぼけてんな。オラ、顔洗ってこい」 「失礼な。ちゃんと頭の中はスッキリしている」 「じゃあ、聞くぜ。8978+125−7591×13はいくつだ」 「19656」 「はええ!っていうかあってんの?」 「……………………あのなあ」 「さ、さあ、メシだ!行こうぜ!」 「はいはい」 二人連れだって部屋を出る。ハクユウは、ふとハデンを顧みた。 (……別に変わったところはねえよな) 一見、そうだろう。だが彼はもっとハデンに注意を注ぐべきだった。それができるのはハデンの親友である彼だけだったのだ。尤も、今の彼にそれを求めるのはやはり酷なのかもしれない。殺されても死なない彼の神経は、繊細とは正反対の所にあるし、なによりハデンの変化はごく微少のものだったのだ。 ハクユウが事態に気付き後悔するのはもっと後のことになる。 ──続── 後書き:ども、お目汚ししてすみませんの元宵です。これ書いてるのが6月12日。何 か間違ってますね。すみません、玉英さん及びサークル水月の皆様。 さて、これからハデン君の不幸路線の再開です。いやね、望んでらっしやる方 が結構いるようでして(笑)。物理的な不幸(どういう表現だ)ではなく精神 面がガンガン壊れていく私好みな不幸にしようかなっと。 ところでTSNさん、以前申し上げた通りハデンがユーリィちゃんの先生にな るという話を書いてみましたがどうでしたか?工夫のない話ですみません。こ ちらでは派手な術とか技術的なものは避けるつもりでいます。ユーリィはまだ 9歳ですから。もっと別なことを教える……予定。
【元宵】 |
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