会誌-「第9回会誌別冊 ナーラダ戦記」

■ ファーカル・ナヴィスのアピールシーン  【剣山 翔】


「ええい、お前がそこまで愚かだとは思わなかった! もう親子の縁もこれまでだ! 出て行け!」
 父が私を怒鳴りつける。
 確かに、私がリビュニアがイレーヌと連合するは無意味だと言いました。
 かの国には目的というものがない、少なくとも私はそう思っています。401年の水の月にウォウルにくっついたと思ったら火の50日間戦争に敗れたウォウルを見限って風の月に離反。空の月に入ってからもウォウルに喧嘩を売って敗れたとのこと。
 そんなときに邑宰がお亡くなりになり、姫君が跡を継がれたとのことを聞いて何かまずいとは思っていたのです。そうしたら案の定、リビュニアがイレーヌと連合すると言い始めました。私がそのことに関して父に止めるようにと申したのですが、この言いよう。もう許せません。
「わかりました、父上、いやバルシール殿、これでお別れです」
 私は身を翻して兄上や妹にこの事を伝えて家を飛び出しました。
 家出すると言ってもあてのない旅、私が心配なのか兄上は私のことをリビュニアのはずれの家に私をかくまってくれました。
 ですが、地の月に両邑は合同演習に踏み切り、このリビュニアも歴史オタクに汚されてしまいました。もうこの邑にいる理由がなくなりました。
 兄上にこの事と自分の望んでいることを打ち明けると兄上は妹と共同出資で私に適当な職が見つかるまでの資金と兄上に教えてもらった脱手鏢(参照:会誌第4回・P.13武器特集…§1.1.6)を数本を受け取りました。
「兄もお前の決断は間違っているとは思っていない。だが、時勢が時勢だ、矛を交えることもあろう。その時は遠慮はいらぬ。だが、いつの日かお前がここに戻ってくることを祈っている」
 世の中が世の中だけに兄上は別れ際にこんな悲しいことを言いました。
 その後、日に日に貧しく成りゆく私の懐、兄からもらった脱手鏢は売却して生活費に充てました。と言っても、物取りを撃退するときに使いました。こう見えても命中率はいいんですよ。暗殺家業も出来そうかな、と思ったりするのですが、それは勘弁してもらいまして…
 そして、ようやく402年の水の月15日にイレーヌとは敵対勢力であるウォウル王国の首都ウォウルにたどり着きました。
 ここもリビュニアと変わることはなく近々戦争だと邑民の間で専ら噂になっていました。
 しかし、今は私にとっては関係のないことである。今は当座の資金を稼がなければなりません。兄上よりもらった資金もここに落ち着くことにすればに底をつくことになるでしょうし…
 ですが、後々必要になると思って情報を聞いておこうと趣味もかねて情報収集を行うことにしました。
 すると、あの目的もへったくれもないイレーヌ軍がこのウォウルに迫っているとか。しかし、全面戦争というわけではないので、やはり関係がなかったようです。
 また、ある人物は東邑は近々荒れそうだと言い、ある人物は南のスィスニアでは建築工事ラッシュであるとか、世の中はますます喧噪なことになっていますなぁ。
 色々あったが、信頼できる情報から占い師の妄言のようなものまでありとあらゆる情報を得ました。少しもの足りませんでしたが、空腹にはかないません。
 ウォウルに来る前まで丸一日、食事をしていないのです。ああ、もう少しお金が欲しいです…
 仕方なしに近くの飲食店「どん兵衛」で、なけなしのお金をはたいて焼肉定食
(15粒)を頼みましたよ。ああ、また懐が……
 店内は閑散としている……ウォウルのことは良く知らないので適当に入ってみたのですが……まさか、ここはウォウル一の不味いものを出してぼったくる非道な店なのかな……
 そうこうしているうちに、一人の女性が焼肉定食を運んできました。
 お腹がすいている私の前に食べ物……もう何も考えることはなくこの焼肉定食を食すことにしました。
 だがこの焼肉定食、その辺の定食とは違ってなかなか美味しゅうございます、と言いたくなるほどの品でありますよ。いや、お世辞じゃなくて。
 今までの中で一番美味しいと感じたのは妹が苦心して作った母親直伝の野菜炒めであったが、それに優るとも劣らない味(貧しいというなかれ)。
 全部たいらげたあと、勘定を払うときにこっそり聞いてみました、趣味もかねて。
「あの、これは誰が調理したのですか?」
 すると、返ってきた言葉に驚きましたよ。
「ボクだけど……美味しくなかった?」
 よく考えれば、彼女が作って彼女が勘定を受け取って……と言うことはここの店員は彼女一人。
 チャンス! ここならば面倒なことをすることなく生活費を稼げる(変なことを考えた人、それは他の所でやってください)。
 しかも、飲食店ならば、趣味の情報収集もできる。
 情報収集できると言うことは世の中の動きがよくわかる、つまりはあの軽薄者を討伐する軍のことやその時もわかる。よって、あの軽薄者を討伐する軍に参加し父に自分が間違っていたことをわからせる絶好のチャンスもつかめる。さらにあわよくば我がリビュニアを独立させてナーラダ勢力の一勢力とならせることも可能かも知れません。
 と言うことは、彼女を同志にしてリビュニアの商業を仕切ってもらうと言うこともありですか。
 すでに兄上と妹は独立計画に賛成していますが、まだまだ独立の力には足りないですから、まずは彼女を説得するのが計画前進の一歩目となりますか。
 とすると、この飲食店を拠点にして軍事力増強(同志募集)を図ることも可能ですから、是が非でも彼女の協力が必要ですね。
 だが、いきなり言うのも何である。また今度にしましょう。
「いえ、美味しかったですよ」
 歴史は動いている、しかし、このような場所で小さな幸せを感じるのも悪くないな、そう思います。
 ですが、リビュニア独立を遂げる事は私の本懐です。彼女には是非とも理解者になって欲しいです。
 ともかく、リビュニアはイレーヌから独立しているのが本来の姿です。あの軽薄者、節操無しの小娘に統治されたリビュニアなど間違っています。
 さて、いつ言おうか……明日にでもしましょうか。

 ダンディ中年様、勝手にロレイ・イシス殿、並びに飲食店「どん兵衛」を使ったことをお許しください。(イシス殿が頑張っている姿を見ていると助けてやりたくなったもので……何を言っているのでしょうか、まったく。ははは)

■ 前のページに戻る