会誌-「第9回会誌別冊 ナーラダ戦記」

■ ライサ・ユウトのアピールシーン  【緋紗 璃子】


「ちょ─────っとンだよこれっ」
スィスニアの空に、気持ちいいほど響き渡る大声。
「見ての通りだが。何か悪かったか?」
それとは対照的に、淡々とした声が続く。
大声に驚いた人々がちらちらと遠目に二人を見るが、都会人だからかなんかだろうか、立ち止まったり、近づくなどはしない。
先ほどの大声はまだ少年と言って支障のない年頃の男である。黒髪を無造作に束ね、良く日に焼けたその姿は、どう見ても田舎の親孝行少年といった風であった。
それに対しているのは背の低い少女。同じ黒髪をただ後ろに流れるがままに、こちらは綺麗な竜の卵色の肌の童顔の子。大きい目のその顔には笑顔が似合いそうなのだが、今は無表情がどこまでも続いていた…なにも今に限ったことではないが。
「悪いってさ…オマエ、これ仕官の志願書じゃねーか」
「そうだ。ハヤはこれで仕官になれ」
あくまで淡々と、無表情ながらもハヤの目を見て少女。その顔は一寸たりとも崩れることはない。
「有名になりたいと言っていただろう? だから仕官しろ」
「べ、別に有名になるんだったら他にも色々あるだろーがっ」
「ハヤは私の幼なじみだからな、いつでも私の手の届く場所に置いておきたい」

「………」
どこまで本気なんだよコイツは。何故か冷や汗かきつつハヤは内心つぶやいた。

幼なじみというのは確かである。大して大きくもない街で、数少ない同い年。ライサは顔だけ見れば決して悪くなかったし…多少性格の方の問題に目をつぶれば、友達として付き合っていくのには十分な条件だった。
「…なあライサ」
「なんだ?」
「おめぇはどーすんだよ」
顔をそらしつつも、チラチラとライサの顔を伺ってしまうあたりまだ可愛い。
「私か? 決まっている、宮女になろうと考えているに決まっているだろう? 何のためにここに立っていると思っている」
「?」
ふと周囲に視線を流すと、すぐに気が付いた。最近出回っている、あの名高いナグモ・リューンの発布した宮女募集の立て札が立っている。
「…いつのまに…」
「ということだ」
「…ておめぇが宮女って…はは、やめた方がいいと思うけどな」
驚いていたかと思うと、瞬く間に笑いはじめたハヤを見て、ライサは、
「…ふむ、やはり思った通りだ。ハヤ」
「ん、なんだ」
「お前は楽しい奴だな」
「よけーなお世話だっ」
顔を真っ赤にしてハヤ。
「…まあそういうことだ。で、二人して上を目指せばいい。残念ながらそう会えなくなるとは思うが」
「…本気かよライサ?」
「ああ、十分本気だ。…面白そうだろ? 男には味わえないスリルだよ」
「あーそうですかそうですか」
半分呆れ顔ながらあいづちだけは打ち、ハヤはもう一度ライサを見た。先ほどと微塵も変わらぬ顔で、彼を見つめる彼女の姿があった。自然と真顔になる。
「…じゃあお別れだな、ここで」
「そうだな」
「…また会えるよな」
「ま、会えないということはないだろう。…互い、無事でいられればの話だが」

「シャレになんねーってそれ」
軽く笑い、肩にしょった荷物を掛け直し…ハヤは最後にこう言った。
「分かった。俺は俺で上目指すよ。だからおめぇも絶対に上行け。約束だからなっ」
言い捨てると、逃げるように去っていった。
残ったのは一陣の風と、それに吹かれるがままにしているライサ。
かすかに目をしばばたかせる。
「…やはり逃すには惜しい人材だな。上手くいくことを願おうか」
そして少女は、何時の間にか消えていた。

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