会誌-「サークル水月会誌 第7回」

■ ナーラダ戦記 リアクション第0回 レスフィーナ=ナーガ神殿

 独立暦402年水の月


登場人物
 ルシャナ・シルキーヌ(ナーラダ/女/21):ナーガ大司祭で元スィスニア邑宰。
 ケトゥ・タスタント(ナーラダ/男/52):ルシャナ家に仕える執事。
 ミスキワ・カフレイ(ナーラダ/男/31):水軍提督。
 ラージャ・サリア(ナーラダ/女/29):レスフィーナ旅人組合長。
 キュアティ・イクシオ(ナーラダ/男/21):ナーガ神殿レスフィーナの書記。
 キュアティ・テス(ナーラダ/女/18):シルキーヌの侍女兼護衛兼影武者。
 ハルナ・コウ(ナーラダ/男/48):商人組合「昇竜会」会長。



 レスフィーナの郊外で、シルキーヌは人々に囲まれていた。といっても、数は多くない。ある者はナーガ神官衣をまとい、ある者は商人の格好をしている。
「では皆さん、行ってまいります」
 シルキーヌはそう宣言した。囲んでいるのは、彼女の旅立ちを見送る人々であった。その中の女性で一番年上であろう人が、前に進み出てシルキーヌの手を取った。
「シルキーヌ様の身を日ごとに案じ、ナーガ様に祈りを捧げます。お気を付けて」
 その人物は、レスフィーナのナーガ神殿の留守を預かる高司祭だ。
「後を頼みます」
 次にシルキーヌの前に立ったのは、壮年の男性だった。
「レスフィーナのことはお任せください。あと、些少ではありますが、皆からの餞別です」
 と言って、手のひら大に膨れた布袋を手渡した。彼は、旧スィスニアの商人組合である昇竜会の会長、ハルナ・コウであった。
「ありがとう。皆にもよろしくお伝えください」
 そのようにして、人々から挨拶を受けるシルキーヌを中心とした輪から少し離れて、一組の男女がその光景を眺めていた。
 男の方は、老いにもかかわらず張りのある素晴らしい肉体を持ち、厳めしい面構えと相まって迫力が感じられる。彼はルシャナ家の執事、ケトゥ・タスタントであった。その背には、彼の体格にふさわしく大量の荷物が収められた背嚢が背負われている。
 女の方は、顔立ちや体つきはまだ子供であった、その豊かに発育した胸を除いて。漆黒の長い髪と黒水晶の耳飾りが、風を受けてさらさらと揺れた。彼女は、シルキーヌの侍女であり、護衛でもある。名をキュアティ・テスといった。暗黙裏ではあるが、周囲からは影武者としての役割を期待されていた。
 二人は、共に今回のシルキーヌの旅の随伴者であった。

 レスフィーナ、伝説にちなんで名付けられた、北セルファニア湖中央の半島にある新興都市である。独立暦400年にはなんの形もなかったが、今は新年を迎えてにぎわいを見せている。そもそもはセルファニア湖の戦いを境に急増した、湖賊を討伐するための拠点としてナーガ神殿が建造されただけであった。それが、戦争を好まない難民や学者が亡命して来るようになり、都市が形成された。湖の中央という立地から、交易の中継地として商業が栄え、また旅人や冒険者が集う地としても知られるようになる。

 レスフィーナから南へ向かうシルキーヌ以下三人の姿があった。道というにはあまりにも細く険しい、一筋の線をたどっている。このもはや作業というべき行為は、慣れないものであれば過酷な道のりといえるであろう。それもそのはず、レスフィーナから、あるいはレスフィーナへの旅は船を使うのが半ば常識と化していた。それほど、陸路は未開のままなのである。
 三人はといえば、誰に合わせるともなくゆっくりと歩いていた。というのも、時おり木簡に描かれた地図を眺めては、道を外れることの繰り返しだからである。なぜそのようなことをしているのかというと、新たな道が開けないかどうか、あるいはどのように道を敷けばよいか調査しているためであった。この調査が終わり次第、馬一頭ほどが何とか通れる道と旅籠が整備される予定である。これが後の世に狭奥街道と呼ばれ、拡張工事がしやすい道筋を選定したシルキーヌの業績が讃えられるのだが、それはまだまだ先の話である。
 ただし、その調査にはかなりの時間が掛かっている。朝早く出てきたにもかかわらず、太陽が天高く昇るまでになってもレスフィーナの街並みをよく臨むことができた。
「いいところですね、レスフィーナは」
 眩しそうに眺めながら、テスは呟いた。語り掛ける口調にも関わらず、他の二人に問い掛ける意志はなかったようだ。だから、返答が返って来たことが意外であった。
「そうね、短い期間で皆よくがんばってくれたわ」
「それもこれも、ひとえにお嬢様の人徳のなせる技」
「もう、タスタントったら冗談が下手ね」
「いや、わたくしめは本気で申し上げておるのですが……」
 彼はシルキーヌが生まれた頃から彼女に仕えてきたのだという。この二人には、こんなやり取りが幾度となく繰り返されてきたのだろうと思うと、テスは微笑ましかった。こわもてのタスタントが、困った表情をしている。
「シルキーヌ様、一つお聞きしたいことがあるのですが」
「ん、テス、どうしたの?」
 シルキーヌは身近な人に対して、公人の際には露ほども見せないくだけた物腰になることを、テスは最近知った。テス自身が、その彼女の身近な人の一人となれたことは、光栄でもあり嬉しかった。
「あの、此度の旅の目的は何でしょうか?」
 それを聞いたシルキーヌとタスタントは、お互いの顔を見合わせた。
「タスタント、話してなかったの?」
「お嬢様が、話されたものとばかり」
 つまりは、この辛い旅に、テスは理由を知らさぬままついてきていた。
「ごめんなさい、訳も分からぬまま連れ出されて、さぞ困惑したでしょうに」
「いえ、どこへでもシルキーヌ様の赴く所へ付き従うのが、私の仕事を心得ていましたので」
「うむ、立派な心がけじゃ」
 タスタントはシルキーヌとテスの関係が主と影であれ、とことある毎に諭すものの、逆にシルキーヌからたしなめられるのが常であった。
「……そうね、改めて聞かれるといろいろとあって困っちゃうけど、まずはナーラダの戦災復興かな。これまでも、そしてこれからも戦乱は続くでしょう。戦いがあれば、それで困る人が出てくるから、わたくし達はその人々にできる限りのことをしてあげなくてはいけない。で、大司祭のわたくしとしては、ナーラダの各邑を巡ってそれを実践していきたいわけ」
「ならば、シルキーヌ様はレスフィーナにあって、各地のナーガ神殿にそれを指示なさればよろしいのではないですか?」
 テスは素朴な、だがもっともな疑問を投げかけた。タスタントもうんうん、と頷く。
「そうね、それも一つの方法ではあるけれど、わたくしはそれをしたくなかったの。ナーガ神殿全体や各地の神殿の運営は、有能な人たちに任せてあるから、わたくしがいなくても円滑に機能する。だけど、人々の声を聞き、それをナーガ神殿あげての活動に反映させることができる立場にあるのは、わたくしだけだから。それで、レスフィーナに留まって、ナーラダ全体が見渡せなくなるのも困るな、と思って」
 その言葉に、テスはなんとなくシルキーヌの考え方を感じ取り、他の為政者とはかなり姿勢が違うな、と思った。そのことを言葉で表そうとしたが、適当な言葉が見つからず舌っ足らずになってしまった。
「私は、えらい人っていうのが自分の理想や欲望のために人々をあごで使う人だ、って思っていました」
「わたくしもある意味、そういう人ではあるのだけど」
 シルキーヌは苦笑してテスを赤面させてから、真顔になった。
「そう思われる人には、なりたくないものね」

 レスフィーナにある「かえで亭」は宿屋兼、大衆食堂である。なぜか旅人組合長のラージャ・サリアが店を仕切っていた。レスフィーナではこういった店がまだ多くなく、客の入りは上々であった。
「あら、珍しい組み合わせじゃない」
 そうサリアが声を掛けたのは、水軍提督ミスキワ・カフレイとナーガ神殿書記キュアティ・イクシオである。彼らは座るテーブルを探していたようだが、サリアを見つけてカウンターに腰を下ろした。
「妹を連れ去られた書記殿を慰めてあげようと思ってね」
 そう、イクシオとテスは兄妹であった。しかし「連れ去られた」とは、いささか不穏当な物言いではある。
「あんたにしては、殊勝な心がけね」
「冗談だよ。実質的なレスフィーナの中心は俺たちだから、今後の方針を話し合おうと思ってご一緒願ったんだ」
「そういうわけです」
 と、いつものとぼけた雰囲気のまま、イクシオが同調した。
「中心って……高司祭は?」
「あんなのはただのお飾りさ。向こうは向こうで好き勝手やるだろうし、実際の仕事は全部こっちに回ってくるしな」
「昇竜会々長は?」
「コウのおっさんは、一を言えば十を悟るから大丈夫。商いについてはあの人に任せておけば間違いないし、こっちのやりたいことも理解してくれるはず」
「実際のところ、レスフィーナはあまり楽観できる状況ではありません。湖賊がうるさいのもありますが、今のうちに湖の制域権を確固たるものにしておきたいのです。湖を押さえられたら、レスフィーナは終わりですから。商人たちも、私たちに湖を任せた方が良いことを理解していますから、協力してくれるとは思いますが」
 そうイクシオは言いながらも、どこか遠くを見る目で思案を巡らせていた。

*レスフィーナ・ナーガ神殿の皆さんの情報
1.お嬢様の護衛がわたくしどもだけでは、あまりにも心許ない。武術に長けた者や、術法、特に精霊術法や医薬術法に通じた者でかつ忠実な衛士がおればよいのだが。それでいてお嬢様の相談相手が務まれば、なお望ましい。(ルシャナ家執事ケトゥ・タスタント)
2.セルファニア湖の主な湖賊は撃退したものの、残党が跳梁跋扈しまだ穏やかとはいえない。諸邑が小競り合いを繰り返して民間船の航行を妨げているのも頭が痛い。艦隊は人材不足の感があるし、一人でも多くの優秀な部下が欲しいものだ。(水軍提督ミスキワ・カフレイ)
3.先日レスフィーナのナーガ神殿内に狂った精霊が出現したことといい、どうもヴェルーダの災い以来精霊の動きがおかしい。旅人組合としても調査しなくては。(旅人組合長ラージャ・サリア)
4.レスフィーナはまだまだ発展途上にあります。駐留する神官戦士の数は多いのですが、それに比べて事務に従事する神官があまりにも少なくて困っています。お祭りを企画・運営したり、戦災復興の具体的内容を提案してくれる神官がいると助かります。(ナーガ神殿レスフィーナ書記キュアティ・イクシオ)
5.……昇竜会加盟商人募集中。(昇竜会々長ハルナ・コウ)

テスによるシルキーヌ様の次回出現予想
「え〜突然ですが、ここでシルキーヌ様が次回、赴かれる邑を私が予想しちゃいます。一番可能性が高いのはスィスニアですね。今の旅は陸路ですので、地理的にも一番近い邑を目指していらっしゃるのではないでしょうか。ただ、宮女を集めたりしていてちょっぴり怖いので、私はあまり行きたくないです。次点としては、山道を探索しているのでシーランあたりの南の方へ出るかもしれませんね。また、昨日から暁の刻まで雨が降り歩きにくくなっています。思うように進めず、未だに山の中だったらどうしましょ」

担当マスターより
 どうも、とむです。レスフィーナ=ナーガ神殿勢力は、初期段階でシルキーヌに仕えることができないこともあり、参加が難しいと思われますが、希望する方はいろいろな形の接触を試みてもらえると嬉しいです。また、レスフィーナ書庫に収められているレスフィーナの小説の方も目を通していただけると、よりキャラの理解が深まります。

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