会誌-「サークル水月会誌 第6回」
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■ ハクユウの最期 【文章:ダンディ中年/演出:TSN】 ──────CAST─────― ハクユウ :関俊彦 ティファ :水谷優子 シュラ :折笠愛 リューン :置鮎龍太郎 シルキーヌ:島本須美 雑兵 :千葉繁 語り :森本レオ 1.ガリクソンさん(46)一家のとある日常 ミュール付近の農場。 「とっちゃ、明日の天気は晴れだべかあ?」 羊の乳を搾りながら、少年は言った。 少年の父は目深にかぶっていた藁帽子を少し上げながら西の空を見上げた。 目に映ったのは赤い雲。 「んだなぁ、夕焼けなら明日は快晴だべえ」 2.西方は赤く燃えている 独立暦401年水の月。スウィズの空は赤く燃えている。 彼の刀は赤く染まっていた。何人斬ったかは、覚えていない。 107人目以降は忘れた。 血の臭いと人が焼け焦げていく臭い、それらが混ざって形容し難い臭気を漂わせている。 受けた傷口が酷く痛む。 ハクユウは満身創痍の身体に鞭を打ち、スィスニア軍の司令官を探していた。 追っているのは3人のスィスニア兵。 戦に巻き込まれた女性はいつの世も悲惨だ。 どんなに厳しい軍律で縛っても、この手のつまらない男はどこにでもいるものである。 理性の欠片もない、動物的本能だけで行動する輩。 「生きる価値もねえ・・・」 言うや否やハクユウは3匹の獣達の方へと駆け出していた。 女はハクユウの姿を見つけると、彼の背後へと身を隠した。 「おい小僧、そいつを黙ってこっちへ渡しな」 3人の中で一番体格のいい男が言う。 ・・・俺は「三下」じゃない。こういう雑魚なセリフを吐く奴にこそ「三下」の称号は相応しい。 俺は少なくとも、もうちょっと・・・たぶん・・・いや絶対、上に決まっている。 「・・・そうに決まっている、否、そうであるべきだ!」 「はあ?」 その疑問のセリフが男達の最期の言葉になる。 ハクユウの横一振りで3人とも上半身が宙を飛んだ。 残った下半身は血の噴水をつくっていた。 「有り難うございますハクユウ様」 女は安心したのか、地面に座り込む。 「いや、礼には及ばない、それよりスィスニア軍の大将旗をもった連中を見なかったか」 「残念ながら・・・」 「そうか・・・・・」 3.憲兵隊 「憲兵隊、私に続け!」 ナグモ・リューンには直属の「八武衆」と呼ぱれる私兵達がいる。 いずれも一騎当千の強者達で構成されているが、そのリーダー格は女性である。 側近中の側近であり、憲兵隊の隊長を務めているその女の名は「シュラ」といった。 どうして男という生き物はこう口で言ってわからないのだろう。 シュラは白馬に飛び乗り、長い黒髪をなぴかせて報告のあった地域へと向かった。 戦いが終局になるに連れて、兵達の中には略奪を働く者が出てくる。 厳しい軍律のため、相対的にはほんの僅かな数であるが、そういった部分を放っておくと肥大化していくことをリューンは知っていた。それ故、憲兵隊を組織し軍内部の統制をさせたのだった。 望まれぬ子供。 残念ながら世の中にはそういう生を受ける者がいる。 男の一方的な欲望のために、生を受けた者。 シュラもそういう者の中の一人だった。 リューンはそういう経緯を知っていて彼女に憲兵隊を任せた。 4.仕きてこそ・・・ 「やばいな・・・」 ハクユウはぽつりと呟いた。 隣に座っている女が心配そうに顔をのぞき込む。 「・・・刀が折れちまった。斬りすぎたんだ・・・それに・・・」 ハクユウは指をさす。その先からはスィスニア兵の一群が向かってきていた。折れた刀を地に突き刺し、ハクユウは女に向かって云った。 「女、あんたは逃げろ。その間俺がくい止めておいてやる・・・・北門が手薄のようだ、それを抜けたらまっすぐ川へ飛び込むんだ・・・いいな!」 ハクユウは先程倒した男達が持っていた槍を手に取り、ゆっくりと立ち上がった。傷口という傷口から、どっと血が溢れ出してくる。 「よっこらせっと。ふぅ、流石にしんどいね。一体奴らで何人目だ・・・・って、おい何やってんだよ」 見ると、女は折れた刀を持ち、ハクユウの前に出ていた。 「私も・・・戦います!」 「何をわけわかんねぇ事を言ってんだ、どけ!」 「嫌!・・・私、お父さんとお母さんの仇を討つ!・・・そして私も死ぬの!」 「莫迦やろう!」 ハクユウは女の両肩を掴んで怒鳴る。 「そんな簡単に死ぬだなんて言うんじゃねえ!おめーは死ぬために戦うのかよっ?!」 「・・・・お父さん・・・お母さん・・・・・私をかばって・・・・・殺された・・・」 「だったら!・・・だったらなおさら生きなきゃ駄目だろーが!・・・・親父さんやお袋さんの想いを無駄にする気かよ!・・・生きてりゃ・・・いや、生きてこそ、想いに応えることができんじゃねーか!」 「・・・う・・うっ・・・・うう・・・・・・お父さん・・・お母さん・・・」 女は、刀を取り落とすと泣き崩れる。 「・・・・・・・・・・」 ハクユウは落ちた刀を拾い上げ、空を見上げる。 西の地平にまさに沈まんとする落日に、燃えさかる火の粉が重なり、ハクユウの顔を真っ赤に照らす。無数の傷、流れ続ける赤い血・・・。 「・・・おめー、名は何という」 「・・・・・ティ・・ファ・・・」 「ティファか・・・・・よーし、ティファ、おめーの両親の仇、この俺が討ってやるよ。だから、おめーは逃げるんだ、生きるためにな。・・・・・脱出したらナタケ様を探せ。そして伝えてくれ、俺は必ず帰ってくるから待っていてくれ、とな。・・・いいか!」 ティファは頷く。 「それと、この刀、『東雲』という名だが、こりゃもう使いものにならねえな。勝手に元に戻る機能がついてるんだが・・・おそらく完全に再生するのに十年はかかるだろう。・・・こいつをハデンのヤローに渡してくれ。ついでにこうも言っとけ・・・おまえの判断ミスに文句を言うために必ず帰るからせいぜい反省して待ってろ!・・・とな。・・・・じゃ、頼んだぜ」 ティファが再ぴ頷くのを確認すると、ハクユウは駆け出そうとする。 「ハクユウ様!」 足を止める。 「必ず・・・必ず帰ってきて下さいね・・・」 「ああ・・・必ずな!」 ハクユウは力強く大地を蹴って一群の中へ消えていった。 へっ・・・俺も威勢のいいことを言ってやがるぜ・・・・・ この身体・・・いつまで保つか・・・・・ 5.口のへらない女だ 憲兵隊は、文武共に優れている者が選ばれるエリート集団である。 その一群を左右に掻き分け、突進してくる常識外れな奴をシュラは馬上で確認した。 「残敵・・・ほう、しかもかなりの大物がまだ残っていたのか。雑兵が軍規を乱していると聞いてやって釆たが・・・」 姿を見てシュラは少し驚いた。 一体、何人斬ったらこのような姿になるのだろう。 「手出しは無用よ」 シュラは兵達を手で制し、ハクユウのところまで馬を進めた。 二人を囲むように兵達は後方へ下がり、一斉に篝火を灯す。 陽は既に溶ち、闇の刻が訪れようとしていた。 無数の篝火が二人の周囲をぼんやりと照らし出し、幻想的とも思える空間を創出する。 「この隊の指揮官はお前か、女のくせに戦争ごっことは関心しないぜ。さっさと総司令官を連れてきな」 「あら、もう忘れたの、自分にふさわしい相手を探せって言われたことを」 ハクユウが突いてきた槍をシュラは剣で払う。 「ほざけ、今は少なくとも宝器の威は借りてはいない!」 「そうね・・・ほら!」 シュラの繰り出す俊速の剣を今度はハクユウがかわす。 「ところで貴方、北天に輝く七つの星、そのすぐ横にある星を見たことがある?」 「そんな星、見たことも聞いたこともねぇよ」 この男・・・死兆星がまだ見えないのか・・・・ならば、天はまだこの男を見捨ててはいない・・・。 ハクユウの一撃が白馬を傷つける。 「エリオン! 大丈夫?・・・やはり馬上では分が悪いというの」 シュラはそう言うとマントを脱ぎ、馬を降りる。 兵達のざわめきが聞こえてくる。 「シュラ様が馬を降りられたぞ」 「俺は初めてみたぜ」 彼女は戦場では馬から降りたことはなかった。 馬が不利な乱戦になっても決して降りたことはない。 その彼女が愛馬エリオンから自ら降りる。 スィスニア兵達にとって、これはきわめて異例なことであった。 「駄馬の上じゃあ不利だって、やっと気がついたかい」 「エリオンは名馬よ、貴方の馬と一緒にしてもらっては困るわね。でも少ーし不利だって事は認めてあげる。貴方、私の知っている男達の中では上の下くらい、なかなかやる方ね」 「口のへらない女だ」 「フフフ・・・それはお互い様・・・行けっ、六星光弾!」 シュラの背後から円柱形の光が6つ、ハクユウの周りへと飛んでゆく。 そして円柱の中心から強力な気弾が発射される。 「ちっ、この女・・・道士か!」 間一髪でそれをかわすハクユウ。 「だが、ハデンには及ばねえな!」 次々と発射される気弾を余裕でかわし、一撃を見舞う。難なくかわすシュラ。 「なるほど・・・・では、これならどうかしら?」 「なに?!」 「六・星・光・波!」 今度は6つの光線が乱反射してハクユウに襲いかかる! 「おい女、それは何か反則臭くないか!」 そう言いながらも器用に光線をかわしていくハクユウ。 ・・・まったく厄介な・・・このままでは防戦一方だぜ・・・・・。 六星光波と呼ぱれた光線に気を取られている間に、シュラは一気に間合いを詰めてきていた。 やばい・・・気を取られすぎた! 「しまっ・・・」 「遅いっ!!」 水平に切り裂くシュラの剣! 反射的に後方へ眺躍する! 真っ二つに切断される槍! 「くっ・・・」 光線の一つが踝を貫通する! バランスを失い、地に膝をつくハクユウ! トドメとばかりにシュラは大きく振りかぶる! 「このタイミング!その命・・・もらったあ!!」 ──ちっ、ハデンよぉ・・・今度ばかりは本気でやべえぜ・・・ 満身創痍の身体。既に痛みの感覚すら失われている。 ──俺が殺られたら・・・皆なんて思うかなぁ・・・ 全身から滝のように血が流れ落ちるのがわかる。 ──あのティファって女・・・うまく逃げられただろーか・・・ 剣を大きく振りかぶるシュラの姿が見える。 ──かー、あの女の剣で頭をカチ割られたら・・・やっぱ痛ぇよなあ・・・ すべての動きがハクユウの目にはスローに映る。 ──身体が重い・・・重力が増してゆくようだ・・・ 手足が痺れて何も感じなくなってゆく。指一本動かない。 ──くっ・・・目が・・・かすみやがる・・・ 焦点が定まらない。 視界が狭くなってゆく。 すべての感覚が薄れてゆく。 ──俺は・・・・死ぬ・・・・・のか・・・・ 心臓の鼓動がやけに大きく聞こえた。 ──ええい・・・どうにでも・・・なれ・・・・俺は・・もう・・・・疲れた・・・ 目の前が真っ暗になった。 6.人はきっと分かり合えるのです ハデンが悲しそうな顔で、自分を見ている よお、何そんな浮かない顔しているんだよ・・・ おや・・・? するとハデンの隣に、結婚衣装に身を包み、手に花束を持ったナタケが現れた なぁんだ、やっぱお前ら結婚するんじゃないか・・・・・・おめでとう・・・・でも、もう少し嬉しそうな顔をしたらどうだよ、まるで誰かが死んだみてぇな顔をして・・・ 二人はハクユウの後ろを指さす そこには鏡が備え付けてあった 映ったのは・・・・・・ミイラ! しかも次第に目や鼻、耳など、穴という穴からウジ虫が涌いて出てくる ・・・・・!? しばらく後、自分の動作とミイラの動作が同じであるということに気がつく ・・・お・・・・・・俺が・・・・・・・腐って・・・・・・ゆく・・・・ 呆然と凝視し続けるハクユウ・・・・・ 瞳をあけたまま・・・ 腐食してゆく身体・・・・ 鮮やかに失われてゆく・・・・ ただ意識だけを残して・・・・・・ ・・・・・違う!! 俺じゃない!・・・こんなのは・・・・・俺じゃあないっ!! 叫びながら鏡を叩き割る すると、そこにいたはずのハデンとナタケもいつの間にか消えていた 割れた鏡の破片は忽ち紅い花びらとなり、ばらばらにちらばる・・・・・・ そして再び暗闇・・・ ハクユウは暗闇の中を飛んでいた。 飛び続けると先に小さな光が見え、それは次第に巨大なものになっていった。 眩しいため目を閉じるハクユウ。 徐々に光の度合いが弱まっていく。 目を開けると、どこか大きな屋敷の中であった。 そこには美しい貴婦人が男達数人に組み敷かれて陵辱されている光景があった。 てめぇら!! そう言ってハクユウは男達に剣で斬りかかっていった。 しかし剣は男達をすり抜けるばかりであった。 そればかりではない。 そこには一切、音が存在しなかった。 よく見ると、老夫婦が斬り殺されているのがわかる。 貴婦人に関わっていない男達は屋敷の中の物を物色しているようである。 しばらくたつとハクユウは別の場所に立っていることに気が付いた。 今度は先程の貴婦人と赤ん坊が一緒にいた。 次の場面ではその貴婦人が産後、快復しないまま息をひきとった。 その子供は親戚に引き取られたようだった。 次第に子供は育っていった。 女の子のようだった。 かつての屋敷には親戚が移り住んだようであった。 女の子の扱いは酷かった。 年が経つにつれてその激しさは増していった。 ある日、少女は屋敷を飛び出した。 そのまま船に乗ったが、その船が湖賊に襲われた。 母親のように、日に日に美しくなる少女に目をつけたその湖賊達に、連れていかれそうになる。 そこに二人の男が現れる。 一人は大きなアクションで湖賊達に何か宣っている。 もう一人の男は呆れた顔で「駄目だこりゃ」というポーズをとっている。 ハクユウはこのもう一人の男のことを知っていた。 スィスニアの総司令官ナグモ・リューンだった。 青臭い少年という感じはするが、このすかして他者を見下しているような態度に格好のつけ方は、まぎれもなくリューンであった。 二人の男に翻弄される湖賊、数刻後、彼らは全員湖に蹴り落とされていた。 それから彼女は男達と共に各地を旅していた。 月日が経つに連れて彼女が何者かわかった。 スィスニアの憲兵隊長、シュラといったか・・・ しかし・・・なぜ、俺にこんなことがわかる・・・一体この感覚は何なんだ・・・ 漂う意識に流れ込む記憶の洪水・・・・・ 気が付くと三度、暗闇・・・ ・・・どこからか声が聞こえてくる ───どうして・・・争わなくてはならないのですか・・・・・ 誰だ・・・この声・・・女・・・ナタケ?・・・いやこの感覚は違うな・・・ ──―戦いは人を不幸にします・・・ そんなことはわかっている。しかしこんな時代だ・・・ わかっているのなら何故戦い続けるのです・・・ 何が言いたいんだ、ルシャナ・シルキーヌ!!・・・・・シルキーヌだと?! 無意識のうちにその名をロずさんだ自分に驚く。 ハクユウはシルキーヌとは面識など一度もなかったが、その声の主が彼女だと何故か確信できた。 ──―人は・・・きっと分かり合えるのです・・・・・ すうっと、宙に浮くようにシルキーヌが現れる。 まだあどけなさが残る女性だったが、巫女としての風格を兼ね備えていた。 そして、彼女の周りを取り巻く白いオーラ、それが彼女の力と神秘性を強烈にアピールしている。 シルキーヌのオーラがハクユウを包み込んでくる。 暖かく、それでいて何か安心できる。 そんな気持ちに戸惑いを覚えながらも、身を委ねていった。 ──―私たちはきっと分かり合える・・・きっと・・・・・ ・・・俺達は・・・・・俺達は・・・・・ ハクユウの目がクワッと見開き、シルキーヌに一刀を浴びせかける。 ウソだ!!お前は敵だ!!戯れ言で俺を惑わすな! シルキーヌは少し悲しそうな顔をすると、またすうっと消えていった。 ───今はまだ分からなくても、きっと近いうちに貴方にも分かる日が来るでしょう・・・・だから今は生きることだけを考えなさい・・・・・・・・貴方を待っている・・・人たちのために・・・・・ 眩しい光がハクユウを包む・・・・・ いろいろな人物達の表情がハクユウの頭の中をよぎっていく ハデン、ナタケ、カイル、カミナ、カッシュ、ルヴァログのおっさん・・・ そして・・・リューンとシュラ・・・・それにシルキーヌ・・・・・ 最後に・・・悪漢から助けてやったティファ・・・・・ そうだったな・・・必ず帰ってくるから待ってろ、なんて言ったんだったな・・・・・ 7.死兆星 「このタイミング! その命・・・もらったあ!!」 シュラの剣がうなりを上げて振り下ろされる! ─―─俺は生きる!・・・・生きて・・・生きて帰るんだっ!! その瞬間、ハクユウの中で何かがはじけた! 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」 ────ガシィィィィィィィ─────────ンンン!!!―─── 「なにぃ?!」 信じられない光景! シュラの放った必殺の一撃は、なんと素手で受け止められていた。 「白刃取り?!・・・莫迦な!!」 「うおおおりゃあああああああああっ!!」 「うっ・・・くっ・・・・・」 押し返されるシュラ! ―──いったい、どこにこんな力が?!・・・この男の身体はボロボロだったはず・・・・・信じられん! 「おりゃああっ!!!」 剣とともにシュラは後方へ弾き飛ばされ、地面に強く背中を打ちつける。 「ぐっ・・・」 咳き込みながらも、すぐさま体勢を立て直し、敵の次の攻撃に備える。 ───? ──―どうしたのだ? 予想されたハクユウの攻撃は無かった。 頭を垂れ、肩を落とし、大地に仁王立ちしたままだった。 ───力尽きたか? 「・・・いや!違うっ!」 ハクユウの周囲に異変が生じていた。 ──―空間が・・・湾曲してゆく?! ──―いや、これは・・・・・陽炎! ハクユウから発せられる猛烈な熱気。 シューシューと音をたてて地中・気中の水分が瞬間的に蒸発してゆく。 発生した上昇気流はハクユウを包み込み、やがてその姿を変えてゆく。 「あれは・・・炎!・・・・・・・なんという闘気だ・・・」 炎の闘気を身にまとうハクユウ。 そのハクユウに向かって、思い出したかのように、六星の光線が束になって一挙に襲いかかる! 「邪魔すんじゃねえっ!!」 一束の光線に相対するとハクユウは正拳突きを放つ! 燃え上がる炎! 瞬く間に光線は消滅する。 「そんな・・・かき消された・・・」 ハクユウはゆっくりと顔を上げ、まっすぐシュラを見据える。 「俺はおまえを倒す・・・そして、ここから出て行かせてもらう・・・」 奇妙に落ち着いた声。鋭い眼光。シュラの背筋を戦慄が走る。 「くっ・・・だが、丸腰で何ができる!・・・今度こそ終わりだっ!」 恐怖を断ち切るかのようにシュラは剣を水平に鋭く払うと上段に構える。 「ゆくぞ!」 気合一閃、大地を強く蹴りつけて空中高く跳躍する。 ──―奴は無防備! この一撃で・・・仕留めるっ! 空中で一瞬静止し、狙いを定める・・・そして、 「てやあああああああああああああっっっ!!」 虚空を蹴って急降下するシュラ! 残像を描いて襲いかかる白刃! 見上げるハクユウ! なすすべもなく殺られてしまうかに見えた、その時! 「ハクユウ様!・・・これを!」 ──―ティファ?! 振り返ると何かが飛んでくる! ───刀?!・・・『東雲』か!! 「ありがたいっ!」 吸い込まれるようにハクユウの手に収まる『東雲』! 素早く鞘を払う! ・・・キィィィ―──ン・・・キィィィ―──ン・・・ 超高温のうなり! 激しく明滅する刀身! 「莫迦な!・・・共鳴しているというのか?!」 折れた刀身にハクユウの炎の闘気が凝集してゆく! ──―受け取れっ、『東雲』よ! この俺の・・・・・ 「魂の炎をっ!!」 眩いばかりの閃光! 「なんだとっ?!」 次の瞬間、『東雲』の刀身は完全に再生していた。 「はあああああああああああああああああああああああああ!!」 気合とともにハクユウの全身から炎が舞い上がる! 「くっ、まずい!」 空中で防御姿勢をとるシュラ! 「いけえええええええええええええええええええええっっっ!!」 ────闘・心・炎・舞──── 弧を描く炎の残像! ハクユウは揮身の力を込めて垂直に斬り上げた。 「ぐはあああああああぁぁぁっ」 全身炎に包まれ撃墜されるシュラ! 放物線を描いて地面に叩きつけられる! 「はあ・・・はあ・・・はあ・・・・・やった・・・ぜ」 刀にもたれながらガクッと膝をつくハクユウ。 見ると、シュラも剣にもたれながら膝をついている。 「・・・しぶとい女だ」 「・・・フフフ・・・それはお互い様・・・ね・・・」 確実に入ったと思われた一撃だったが、どうやら寸前で軸をずらされたようだ。 とはいえ、重傷を与えたことには間違いない。鎧も既に砕け散っている。 ハクユウとシュラ、双方共にボロボロの状態ながらも、ゆっくりと立ち上がる。 次の一撃が勝負を決めることは明白だった・・・・・ 「・・・悪いけど貴方に負けるわけにはいかない・・・・・私は必ず勝つ!・・・あの人のために!」 「・・・ふん、それもお互い様だな」 刀と剣を構える二人。その二人の間を縫って一陣の風が吹き抜ける。 涼気を含んだ風は奇妙に心地よく二人を撫でてゆく・・・・・ 「いくぜっ!」 「ゆくぞっ!」 「これでとどめだっ!!」 異口同音に声を発する二人。 走り出す影と影! 二つの影は同時に飛び上がり交差する・・・・・はずであった。 それはハクユウの脇腹を貫通していた。 雑兵が放った一本の矢。 「一対一・・・じゃ・・・なかったのか・・・・・よ・・・」 どすんという音と共にハクユウは地に倒れた。 段々と意識が遠のいてゆく。 やがて閉じる瞳・・・。 ハクユウに駆け寄ってくるティファ。 必死に名前を呼んでいるようだったが、それすら聞こえなくなっていった・・・。 「今、矢を放った者は!」 シュラはマントをつけながらその者を呼んだ。 「わたしであります!!」 意気揚々と駆け足でシュラの前にやってくる兵士。 「褒美を取らす」 「はっ」 「その前に聞く。北天に輝く七つの星、お前にはその横にある死兆星が見えるか」 「はい、よく見えます」 その言葉を聞いたシュラは兵の首を薙ぎ払った。 「皆の者、よく聞け。私は手出し無用といったはずだ。この男は功を焦り、待機命令を破った。故に処罰した。よい兵士は手柄を立てる者ではない、命令を忠実に守る兵士こそがよい兵士なのだ。そのことをくれぐれも忘れるな。よいな!」 「はっ!」 スィスニア兵は一斉に声を揃えて返事をした。 |
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