会誌-「サークル水月会誌 第5回」
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■ ライル社奇人列伝・ゼオ・マキス・ 【筆執り人:元宵/スポンサー:ライル社】 バルス、芸術の都。 そんな響きに魅せられた男がここスウィズ・ライル社に居た。 「さあ来い!」 一人のナーラダ族の隻眼の男がスウィズ第2練兵場で練習用の槍を構えていた。彼を取り囲むようにして5人の兵士も槍や剣を構える。 「やあああっ!」 気合いとともに撃ちかかってくる5人。しかし長身の男は見事な槍さばきを見せた。 伸縮自在に柔軟に扱う。繰り出したかと思うともう引いている。 5人は文字どおり槍先に踊らされていた。 「残影八破!!」 怒濤の八連撃。瞬く間に5人を突き伏せる。 次、と再び構えた。が、誰もかかって来ない。 「マキス殿……もう全員やられましたよ……」 「あ……」 云われて気が付いた。彼以外全員大地に沈んでいる。 「よし、今日はこれまで!」 ゼオ・マキス、スウィズ兵局壱軍エース。今日の練兵を終えた彼は自分の部屋に帰り茶をすすりながら『スウィズ日報』を手に取った。 「何々……自称予言者グーラ氏のぞき未遂で怒りの激白、近日中に名誉毀損でライル社側を提訴……バカが、逆恨みか。しかも濡れ衣だぞ。我らが社長に対して何たる無礼、ズタズタに引き裂いて街角に晒してやろうか」 さらに読み進めようとしたその時、彼の目にある小さな広告がとび込んだ。 『芸術の都 バルス精鋭部隊募集中』 「バルス……芸術の都……おお……」 甘美な響きが彼の頭を支配する。 「小鳥がさえずり静かな湖、そして詩を口ずさみ歌を歌う美しい女性達……」 只今イメージ暴走中。 (歌はいいよな……行ってみたい……) そう考えるといても立ってもいられない。 (しかし上官は俺の退職を許してくれるだろうか……イヤ、考えていても始まらん。全力で目的にぶつかるのが男ってもんだぜなあマキス) 安直である。しかしこの思い込みの激しい男にとって理由などその程度で充分だった。思い立つ日が吉日と云わんばかりに彼は勇んで辞表を提出しに上官の所へ向かった。 「バカモン!貴様軍隊をなめちょるな!」 叱られた。 「スウィズが今どーゆー状況かわかっとんのか!そんなことで勝ち抜けるかバカ者!」 怒鳴られてマキスは少しカチンときた。 「お言葉ですがグッタ殿、 そう、強い調子でブチ上げた。 「うーむ……ではこれからもガンバッてくれたまえ!」 (聞けよ人の話!!) マキスはしょんぼりとした顔で上官の部屋から出てきた。彼は途方に暮れていた。上官に拒否された以上、どうしようもない。 「マキス殿、どうかしたんですか?」 彼の顔を見て心優しい部下が心配して聞いてきた。理由を知ったら笑うだろう。 「ああ……君か……いや、気にしないでくれたまえ……」 力なく云う。 「失恋でもしたんですか?まあいいや、それより聞きましたか? 明日社長が我が隊の練兵の視察に来られるそうですよ」 その言葉を聞いてマキスの顔に活気が戻った。 (社長……あのお優しいナタケ様なら……) にわかに力がこみ上げる。 (ナタケ様ならきっと俺の話をわかってくれる!) 翌日の彼の隊の訓練は凄かった。 「マキス殿……もうちょい手加減して下さい……貴方鬼より強いんですから……」 「甘い甘い!そんなことでは勝ち抜けんぞ!」 マキス、言ってることとやろうとすることが違う。容赦なくしごいている。本人はもう浮ついているらしい。 彼はりゅうりゅうと槍をしごきながら少しナタケの方を見た。彼女の側の一人の男が目に入る。 (あれは、クラウ・ハデン殿。やはりスウィズに戻っているという話は本当だったのか) ふと、彼の頭に悪いイメージが浮かんだ。 (彼は勝つ為には手段を選ばぬ男と聞く……自慢じゃないがオレはスウィズのエースだ。もし彼が俺を引き止めたら……ナタケ様はハデン殿が好きらしい……となるとナタケ様も……) 止まらない妄想。 (おのれハデンめ許せぬ!ナタケ様をたぶらかし、その上俺の夢を壊そうとするとは!!) その時。 「スキありっ!」 自分の世界に閉じこもったマキスを槍が襲った。 ばす。 にぶい音がする。 「あ、あたった……」 仕掛けた兵士もまさか当たるとは思わなかったようだ。マキスは突いてきた男を恐ろしい目でにらんだ。 「貴様……」 もう完全にキレていた。 その夜のことである。 「天誅!!」 人通りのない路上でマキスはハデンを襲った。 刹那。 余裕でかわすハデンの腕からいきなり大出力の波動が火を吹いた。不意を衝かれたマキスに直撃、轟沈する。この間2秒。 (こ、これまでか……) 「……どこの馬鹿だコイツ……」 ハデンは暗闇に目を凝らし、凶徒の姿を認めようとした。 「お、お前はゼオ・マキス……!」 見て驚く。 一方マキスは最後の力を振り絞り立ち上がった。 「先刻の恨み、覚えたかっ!」 ハデン、覚えがあろうハズがない。 すかさずマキスは体力回復をはかる為、薬草を自らの口にねじ込み丸飲みにする。 「ゲフ!ハデン、貴様に一つ聞きたい!こんな深夜までどこに居た!」 「ナタケの部屋だ。それがどうかしたか」 それを聞いてマキスはわなわなと震え出した。額に青筋立てている。 「きっ貴様……とうとうナタケ様の体を……このくされ外道おおおおっ!!」 泣きながらかかってきた。 実は2人で策を考えていただけだった。ハデンは何が何だかわからない。 この時マキスは怒りのパワーでその戦闘力を倍加させ……ていたわけではなかった。不運にも足がもつれてスッ転び顔面強打。 ハデンは一気に叩こうとしたが今度はマキスは反転、機敏に後ろに跳んで間合いを取り鼻血を拭いた。 対峙する二人。 その時。 「んっ!?アレは何だ!?」 「えっ!?なになに!?」 「かかったな馬鹿め!」 この機を逃さずハデンは容赦ない追い撃ちをかける。 気弾、六星光弾、調子に乗ってケリを入れ上段まわし蹴りを浴びせ波動・改。 (お、お、お、鬼ぃ……) マキスは施術宝器で武装していたがこんな外道ラッシュをくらって無事で済むワケがない。 「永劫の闇に眠るがいい……」 ハデンはフィニッシュを決めようとする。 「ま、待ってくれ!」 「聞こえんな」 「私が悪うございました!お許しを!」 「……足を舐めろ、有り金全部よこせ……と、いうのは冗談だ。今日は機嫌がいいから許してやろうか」 「……にしては非道な仕打ち……」 「勝てると踏んだら圧倒的な力で粉砕するのが戦術の基本だ。それに最初に仕掛けたお前が悪い。オレに挑むからには死を覚悟してもらわんとな」 ハデンはマキスのそばに歩いて来た。 「それにしてもわからんのはお前がオレを襲った理由だ。遺恨か?」 「俺、バルスに行きたいんです!それで、ハデン殿はきっと反対すると思って……」 「話が見えてこんぞ。わかるように話せ」 「……阿呆か……」 話を聞いてハデンはあきれ返った。 「まあいい、バルスでもどこへでも行け。お前一人の力が勝敗を左右することも無い」 「えっ?」 その言葉を聞いてマキスは急に元気を取り戻した。目が輝いている。 「何度も言わせるな。スウィズの軍師がお前の退職を許可してやろうと云っているのだ。これも権限の内だろう」 本当は思いっきり越権行為である。 「あ、ありがとうございます!」 満身創痍のマキスはとびあがった。単純な男だ。 (こいつ……決して頭は悪くないのだが……) そしてマキスは何度も礼を云い、小踊りしながら闇に消えていったという…… 数日後、マキスは旅支度を整え馬上の人となっていた。愛用の武具に愛読書の『ザル岩石日記』を携える。水路でカノールまで行きそこから陸路でジュシーに向かう予定だ。 彼は馬首をめぐらせた。 (さらばスウィズ、そしてナタケ様……) 軽く一礼する。 (ハデン殿、この御恩は一生忘れません!) 再び、馬首をめぐらせた。もう、振り返ることはない。 ゼオ・マキス、24歳の新たなる旅立ちであった。 ・END・ ![]() 【元宵】 |
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