会誌-「サークル水月会誌 第4回」

■ 野望の火種  【作者:孔謀大師】


「 私に仕えると言うのかね。良かろう、存分に能力を発揮するがよい」
 イリスの軍師グード・ライザーは、特設軍師控所に集まった仕官希望者全員に対し、全ての者を登用する事を明言した。希望者の中には、様々な裏事情が隠されている事を知りながらである。
「 イリスの為に十分に能力を発揮出来れば、公正な評価で報いるであろう。 しかし、イリスの為にならん行為を行うのが目的ならば、存分に達成せよ。 だが、イリスが黙って達成させると思わぬ事だ。目的が達成出来ない様な者 は、イリスも真の主も必要とは思わないからな。げへへへへ」
 ライザーがいつもの笑いで去ろうとした時、仕官希望者の中の一人、トゥー族クレン・エシリルなる者を呼び寄せた。

「 ふむ、私に似ている野望を秘めている様だな。軍師執務室に参れ。面白い事を聞かせてやろう。心配するな、私の小言を聞くだけだ」

 強引にエシリルを執務室に呼び込み、一息ついたところでライザーの話が始まった。エシリルにしてみれば、迷惑のなにものでもないが“これも仕事”と諦めて聞く事にした。

「 私は幼き頃、両親を自邑といさかいが絶えなかった隣邑の募兵に殺害され、イリスの神兵謀であった伯父に育てられた。伯父は、私に兵法という兵法を教え込み、歴史という歴史の史料を読むように教育した。それが、伯父の教育方針だったのであろう、私を神兵謀になる様に育てたのだ。しかし、私は伯父に反発する様に法吏への道に進んだ。なぜ反発したのかは、自分でも分からん」

 エシリルは、目の前に座る軍師が何を言わんとしているのか、測りかねた。なぜ、軍師の過去を話すのだろうか、聞かれたくもない過去のはずなのに。
 相槌を打つ訳でもなく、続けられる話をエシリルは聞き続けた。

「 その私がだ、伯父の死の間際に言った言葉に影響されてしまった。“ライザー、そなたが就くべき職業は法吏ではない、法吏ではないぞ。自分の中にある野望を果たせ。果たすべきだ”と・・・。自分の職は法吏ではない、もっと上にある職だと理解したのだ。野望の為、自分の為、今では軍師などに成りおおせた。しかし・・・」

 突然、話を打ち切ったライザーに、エシリルは正直驚いた。ライザーは悩む男ではなく、話を最後まで語らぬ男でもない、と話では聞いていたからである。
 黙って座るライザーに、自分の役目は終わったと感じたエシリルは、静々と執務室を退室しようと歩きだした時、背後から続きの話が聞こえ出した。

「 私は軍師の職を返上する事になった。した、という方が正確かもしれん。部下の責任は、上司の責任でもある。軍規は軍にある者、全てが守る為にあるからには、私も例外ではない。法が定める謹慎期日後、一法神官丞に戻る事になるであろうな。あぁ大丈夫だ、そなたらの仕官はイリス王国が責任をもって認めてくれる事になっている」

 一度ではなく二度も軍師には驚かされる。エシリルは目の前の男は何者なのか、もっと知りたくなった。この者に付いていけば、自分の野望を果たせるかもしれない。希望ではなく、予測である事をエシリルは自覚した。

「私の野望の火種は消えてはいない。法神官丞で一生を終えるつもりは一切ないぞ。どの様な事をしてでも、私の野望は果たす!! 勿論、イリス王国だけで野望を果たすなどと考えてはおらん。他にも仕える邑は沢山あるからな。何処ぞの邑から登用の話でも来て仕えたら、イリスと対抗する邑にでもして見せようではないか。フフフ、そなたの野望も果たせると良いな。存分に能力を発揮し、イリス王国での地位を確かなものとするのだ。さすれば、必ず野望を果たす機会は巡って来る。機会を逃すな、機会は十分に利用せよ」

 説教をされた形で話は終わったが、エシリルは気にならなかった。それよりも、軍師グード・ライザーなる者の興味で一杯であった。魅力ではない、人徳でもない、何か人の本質が浮き出ている為に、興味、という感情が表れたのであろう。そう、エシリルは自己解釈した。
 次の日、ライザーは集会の場で、軍師の職を返上する事を発言した。

・作者より・ほなサイババ様。エシリル殿をお借りしました、すみません。

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