会誌-「サークル水月会誌 第3回」

■ リアクション3−7  (独立暦400年空の月)


 ティーク・ギエンは、今三つ目の扉の前にいた。
 ここに来るまでに折り返してくる人々を見たが、皆どうやらこの扉に諦めてのことらしかった。そしてその理由が彼の前にある。
「……テレポート、か」
 彼もその方に関しては腕も立つ。扉の前に立つだけで感じられるその雰囲気にそう呟いた。
 見たところ扉には鍵穴はない。蝶つがいもなく、地面には引きずった跡もない。左右どちらから開くのか、押すのか引くのかそれすら分からない。しかしそれはギエンの腕前のせいでなく、遺跡にかかる封印の成せる技だった。
(しかし、この封印は……)
「どうした。そんなに難しい仕掛けなのか?」
 後ろで辺りを見ていたルーイ・ローカスがギエンのとなりに並んだ。彼の持つ精霊灯によって扉にあったギエンのあった影が大きくぼやけ消え、明かりを直に受けた扉は淡く輝いている。
「そうだな……」
 その言葉にローカスは耳を疑った。
 ギエンはそんな彼の様子を気にする事なく、扉を念入りに調べていく。
「随分ときれいにしていってくれたもんだ」
 ギエンが触っている扉は、どう見ても遺跡で発見されたばかりのものではない。前に来た人々が自分たちが調べるため、おそらく磨いていったのだろうが。
「けど、こうでもしないと分からないもんかね」
「どういうことだい」
「この仕掛け、ある意味単純なのさ」
 しゃがんでいたギエンは指で扉をトントンと叩いて、意地悪い笑みを浮かべた。

 数分後、ギエンの前にある扉は開いていた。
「言った通りだろ」
「まあ……な」
 ギエンの腕前は見事だった。こういったことには素人のローカスが、この技量の差が扉を開く鍵だろうと見間違うほどに。けれ実際は、経験を積んだ盗賊なら簡単に分かるものだった。技術の高度な応用を必要とするものだが、それだけのことだ。
 扉は開き、次なる道を示していた。……地下へと続く階段への道を。
「どうしたギエン、行かないのか?」
 扉のところで立ち止まるギエンは、いまだ開いた扉を見つめていた。彼が感じた雰囲気はまだ消えていない。テレポートの仕掛けを発動しないよう外したのだから、当然と言えば当然だが。ギエンはもう一度にやりと笑った。
「なら行こうか。ローカスが行きたいなら付き合うさ」
「?」
 ギエンは軽い足取りで、地下への階段を下りていく。階段を下りればそこはまさしく闇。そしてどうやら、先はまるで迷路のように道が幾重にも入り組んでいるようだ。精霊灯をもったローカスがギエンに追い付くと、ギエンはしゃがみ込んで言った。
「やっぱりだ。俺等が来る前に、何人もこの階段を下りていったようだな」
「ギエンは何だかもうお見通しか」
 確かにギエンの指さした先を見ると足跡が見える。それもこれはつい最近付けられたものだ。
 そしてギエンはそれだけを確認すると、また急いで階段を上っていく。ローカスがまた遅れて上へ戻ると、ギエンは腰から奇妙なナイフを取り出していた。刃の部分が妙に反り返ったナイフ。各地を見て回っているローカスも見たことのない代物だ。そしてそれを扉に切りつけようとしている。
「ギエン! 何をしてる」
「ローカス。俺がさっきこの扉を『ある意味簡単な』仕掛けだと言った理由は」
 ギエンは持ったナイフを逆手に持ち替える。
「文字通り仕掛け自体が『外すのに』簡単だったからさ。けれどそれがこの仕掛けに仕組まれたもう一つの罠、仕掛けだったとしたら?」
「どういうことだ」
「この仕組みは、素人には高度で手が出せない。逆にちょっとでも腕に自信がある者には簡単に外されちまう。ならそんな変な仕掛けなのはなぜか。……さっきから感じてたんだが、この雰囲気、遺跡全体を包んでるもんじゃない。この扉そのものから感じる」
 ギエンが振りかざし、そしてナイフは加速を付けて扉に突き刺さった。僅かな切れ目だけを残して、吸い込まれるようにナイフの刀身が扉へと消えている。
 そして、次の瞬間。
 その切れ目から溢れるばかりの『気』が光となって飛び出してきた。片手で目を覆いながら、同じような仕種をしているローカスに向かってギエンは話し続けた。
「この扉の本当の仕掛けはテレポートじゃない。このテレポートを発動させないようにしていたことこそが本当の仕掛け……」
 しかしギエンの声は、テレポートで共に転移したローカスには最後まで聞こえなかった。
                          [今週のリアクション/Fool氏]

「ヒアー。」そう叫び、若い男は店の中に飛び込んだ。「レック、どうしたんだい。怪物でも現れたのかい?」と、レックより10才も若い店主が、いつもの事かといつも通りの声をかける。「相変わらず、オレ様は、怪物か。」女性としか思えない姿かっこうの若い男が店先に立っていた。「兄さんだと思ったよ。レックは兄さんのことが苦手だからね、すぐわかるよ。所で今日は、何用だい。兄さんの言葉でいう資金援助?」
「いや、ちょっとな。実は……」
 暗い通路を3人の男が歩いていた。「レイナート、道はこれでいいのか。さっきから20分以上も真すぐあるいているぞ」と、長身の若い戦士は、少しいらだったようにたずねた。「大丈夫だよ、兄さん。こいつは、気が弱いが腕は確かだから、なぁレック。」「は、はぁー。」レックはレイナートには、逆えなかった。なぜかレイナートは自分の過去を知っている。チクられれば、牢ごく行きは、決定であるし、やっとつかんだ人としての生活を逃がすわけもいかなかった。そんな思いを知らぬかのごとく、レイナートは遺跡の奥に進んでいった。
               [今回の行動小説/遠山ざくら氏のキャラクターシートより]

「……ナルス?」
 シーナ・アガノは、現れた人影をつくづくと眺めた。およそ年齢は二十ほどか。女性に見えなくもないが、胸がないので男性だと断定することにする。その男の後ろから、二人ばかり、さらに男が現れる。
「あんたたちも夜に来たわけね。まあ、他の連中よりまともな頭を持ってることは確かだね。あんたたちも、トラップマスター協会『フェンリル』に入らない?」
 いきなり勧誘を始められて、三人の男は目を白黒させたが、気を取り直して銀髪の少女を見返す。可愛らしい顔立ちだが、なかなか食えない性格のようである。手に持った木札にはびっしりと図と字が書き込まれている。今までずっと、ここの様子を調べていたのであろう。
「何のことを言っているのか分からないが、私はこの遺跡に眠る力を調査するために来た。どうやらあなたがたも同じ目的のようだな」
「そうね。でも協力し合おうっていうんなら受けないよ。この書簡には私が書いたここの図面とデータが入ってる。この情報が欲しいなら金を払うことだね。そしたら少しは協力するかも」
「……」
 レイナートは、その少女の手元をつくづくと眺めた。ちょっと見ではあるが、その印象では、なかなか正確そうである。このメモだけで、蜘蛛会に売ればいくらになるだろう。だが、実用性はどうだろうか。
「ありがたい申し出だが、遠慮しておく」
「あっそう」
 返事を聞くや、アガノはとたんに興味を無くしたらしく、扉の方を振り返った。と思うと、連れの男と共にその姿がかき消えた。
「……どうしたんだ?」
 レイナートとその兄は扉に駆け寄った。
 ──3つ目の扉。この扉より先に進んだ者はいないと言われているはずの。
「……やられたか」
 扉は開いていた。だがその先は漆黒の闇。そして迷路になっている。さっきの少女は、こちらへ行ってはいない。どこか別の場所へ行ったのだ。そのためには何が必要なのだろう。
 ……分からない。
「仕方ない、この迷路を少し調べよう。何かの手がかりはあるかもしれない」

「ここは、どこだ」
 ローカスは目をこすった。妙に明るい。……精霊灯なしでも充分にようすがわかる。
「あの遺跡でないことだけは確かだな」
 ギエンがすぐ脇に立っていた。大きな広間のような空間の中心、円が描かれたその中に転移してきたらしい。
「建物か」
 呟き、見上げて、ギエンは唖然とした。水晶のような透明な材質の天井、その上にゆらめいているのは、水底ではないのか。暗くてよく分からないが。
「まさかここは……セルファニア湖の底?」
 と呟き、そんなことはないだろう、と首を横に振る。水が見えたからといって、すぐに伝説の遺跡と結びつけるのは誤りのもとだ。水なら、セルフィアーのどこにでもある。セルフィアーは水の島。川や湖や沼や泉は掃いて捨てるほどある。
「水中の建造物か。チェリア朝時代の遺跡であることは疑いないな」
 ローカスも天井を見上げた。そしてふと目に入ったものに驚き、もう一度そちらを見直してみる。間違いない。向こう側に、この建物とは別の建造物がある。
「何なんだ、ここは?」
「セルファニア湖湖底遺跡……別名ティイセニラ。チェリア朝時代の、セルフィアー邦都。海よりも深いセルファニア湖の湖底に作られた、支配者の官庁街……この島の気脈のすべてを制するための都」
 ギエンとローカスが出たばかりの円の中に現れた少女が、歌うように言った。
「まさか、本当にあったとはね。しかも、あの遺跡に続いてたなんて」
 懐に匕首(ダガー)をおさめ、ギエンとローカスの二人の方を見る。
「先を越されてたみたいね。ま、問題ないでしょ」
 一緒に来たイゲニィアン=ハーットは、アガノに続いて円を出ようとしたが、アガノはそれをおしとどめた。
「あんたはここで待ってて。これ以上人が来ると厄介だから。あんたがそこにいりゃ、後から来ようとしても転移できないからね」
 ハーットは反論しようとしたが、アガノはすでに聞く耳をもたない。仕方なくそこに座っている。そんなハーットはまったく無視し、ギエンとローカスに声をかける。
「どのくらい調べた?」
 まるで仲間あるいは部下のような扱いである。ギエンは一瞬カチンときたが、一見可愛らしいアガノの顔をみたとたん怒気が消えてしまった。何より遺跡には詳しそうだし、と自分を納得させる。
「君は?」
「シーナ・アガノ。トラップマスター協会『フェンリル』の者よ。あんたは?」
「俺はティーク・ギエンだ。こいつは友人のルーイ・ローカス」
 アガノはその返答を聞いているのかいないのか、すでにあちこち走り回って調べては木札に記入を始めている。六角形の建物、その角に各々台があり、何かの金属の板に文字が彫りつけてある。
「何だ、これは?」
 素人のローカスが後ろからのぞき込んで息をのんだ。
「これは、純金じゃないのか?」
 セルフィアーには金はほとんど産しない。チェリア朝の遺跡でわずかに発見されるのみである。セルフィアーで産出する貴金属といえば、銀と白金、それに銅くらいのもので、金色を出したいときには黄銅を用いるのが常である。だがこの金属の輝きはそれとは違う。
「あんた、ばかぁ?」
 しかしアガノは一言の元に切り捨てた。
「いくら何でも、そんなことするわけないでしょ。こんな大きな塊を、器材に使っちゃうなんて。それに、金っていうのは霊力伝導率がいちばん低い金属なの。お役所に、そんながらくたを置くわけないわ」
「じゃあ、何なんだ?」
 ローカスはギエンに訊ねた。ギエンはその板にそっと触れて断言した。
「これは、琥珀金だな」
「琥珀金?」
「金と銀の合金の一種だ。なるほど、それで納得した」
 同じような板が6枚……いや、天井の中央に1枚あるから、それもあわせて7枚になる。7とは霊数。霊数分だけの碑板。しかも材質は琥珀金。
「この遺跡は、間違いなくティイセニラだ。琥珀金の器材はチェリア朝時代の遺跡に特有のものなんだ。言霊人(イシス)の術は、どちらかというと有り余る力を制御するって方に重きが置かれているから。……しかし、驚いた。ティイセニラが実在するとは」
「でも、あんまりそれっぽくないわ」
 アガノは建物の中を見回す。広い割にはがらんとして、碑板以外にはお宝は見あたらない。
「封印するときに、どこか別の場所に中身を持ち去ったんだろう。気を制するなんていう強力な器材を、ディヤウス神官やらが放っておくはずがない」
「向こうの建物じゃないか」
 ローカスは先刻より二歩ほど退いた位置に立った。指さす。
「どこどこ?」
 アガノもそちらを見る。なるほど建物がある。
「でも、どうやって移動するんだ」
「テレポートじゃない?」
「またか」
 扉が見え、たしかにそれらしい雰囲気を放ってはいる。
「ええい、行くしかないか」
 アガノは思いきってその扉を開けた。白い光に包まれる。そこで、ハーットを忘れていることに気がつく。
「もういいわよ、こっちに来なさい」
 ハーットが、ギエンが、ローカスが、扉に走り込む。そしてたどり着いた先は
 ──シュエル郊外遺跡の外であった。

 キシン・スルタンは、商隊の護衛を無事に終え、キーサ王国の王都カノールで報酬を受け取り、商人達とはそこで別れた。このままついていくこともできたのだが、蜘蛛会の諜報員としての義務感が、このままこの地を去ることをためらわせた。
 カノール、苔むして緑色をした城壁に囲まれたこの美しい街こそ、今の戦乱の発端となった地である。この地の情報が、まさかアヴィーナに届いていないはずもないが、少しでも多くの情報を欲しがっているはずであった。
 昼は安宿にこもり、薄暗くなってから外を出歩いてみる。肌の色が目立つので、その用心のためなのだが、大通りには真夜中でも煌々とかがり火が焚かれており、人通りの絶えることがない。
 現在の状況はどうなっているのか。軍事機密、政治的な機密に関することはわからないが、大体のところは分かる。噂で伝わってくる。それによると、シェーナ邑宰家が中心となって、対キーサの大同盟を組織しようと動いたが、それがまだ着手しかけの時に軍司が派遣され、あっと言う間に動きを封じられてしまったということであった。
「さすがはヌーグ様」
 という声が聞こえる一方、
「手ぬるい」
 という声もあり、この街の人々はなかなかに議論好きで、その議論によって罰せられることもないことが何となくわかった。
「シェーナが落ちたら、宰はどうなさるおつもりなのだろう」
 という声に、スルタンは思わず引き寄せられる。シェーナは、シャル族居住地域の中では最もナルス居住地域に近い大邑だ。そこが落とされたら、ナルスにも戦乱の火の粉がふりかかってくるのだろうか。
「どうもしないだろうさ」
 呑気な声で言う女傭兵風があり、そのグループにいた者たちはいっせいにそちらを向いた。
「どうもしないとは、どういうことだ」
 怪訝そうに問う。
「簡単なこと。そちらを背にして、南へ南へと攻める」
「なるほど」
 問うた男が膝を打った。
「他族の地には侵攻しないと言えば他族の者も攻めてはこない。すると、背に山を持っていると同じで、安心して戦える。なるほど、それがヌーグ様の狙いかもしれねえ」
 もしそうだとすると、キーサがシェーナを侵攻しようがしまいが、ナルスには影響ないということか。そうならばいいが、と思いつつ、スルタンはそこをそっと去った。

 カノールの中央部、官庁街の組織されたあたりを見る。兵吏=火官、外吏=風官、庫吏=地官、といったところを中心に、回吏=雑官は周辺部に、というように建物が並んでいる。その中でもスルタンは特に雑官を中心に眺めていた。雑用を見れば、機構の変化がよくわかるのではないかと期待してのことだが、残念ながら夜の調査では良く分からなかった。
 大通りに戻ると、道行く人をつかまえて「真っ黒な女つれた白い男みなかったか」と訊ねて回る。こちらも芳しい答えは得られない。まあこんなものか、と自分を納得させ、再びねぐらにしている安宿へと帰っていく。

 フェルノ家機密文書より
  我々は表は商人であるが 立派なナルスの情報収集員でもある。
  国情を探るのを第一とし 利益は第二に考えよ。……
                           以上 機密文書第三号より抜粋

 フェルノ店は、アヴィーナに本店を置く営利団体である。主に酒の交易と染料の販売を行っている。後者は大口のみで、優秀な店主代行のおかげで最近は羽振りがよいようだと、アヴィーナの中でも有名な店の一つになりつつある。
 だが、ナルスの営利団体の3つに1つがそうであるように、フェルノ店は蜘蛛会の下部組織という側面も持つ。各地の邑に酒を売り、染料を売りつつ、各国の国情を探るのである。
 現在、フェルノ家の店の本店には店員が20名いる。その他に行商人が15人所属しており、各邑をめぐって商売をするわけであるが、彼らに渡された機密文書には、上記のようなことが書いてあったりする。
 フェルノ家の店主であるフェルノ・クーレーンはそんな彼らからもたらされた情報に目を通していた。なかなかに興味深い。
「どれどれ……」

 ウォウル・スィスニア方面からの報告
  ウォウルはほぼ国内の統一は果たされたといって良いでしょう。これから爆発的に周囲への侵略を開始する可能性もないとはいえません。その場合、糧食及び武器鎧甲が必要となりますが、ナタ・エイラ姫が個人的に援助させておりますので、財政的には困窮することはないと思われます。
  一方スィスニアですが、この度兵吏長になった男が非常に好戦的でありますので、これまでの穏健派の大邑という印象を改めざるを得なくなりました。今の所どこと敵対しているということはありませんが、現兵吏長がウォウルを敵視するような発言をしていることは確認されています。また、スウィズとは相変わらず「敬して遠ざける」という態度を保っているようです。
                                        以上

 トゥルニア方面からの報告
  音楽祭は事件なども起こらず穏当に終了致しました。この祭の中で非常に興味深いことが起こったのでご報告いたします。
  昼休み時間後のことでした。おもむろに金髪と銀髪の鮮やかな美しい娘二人が舞台に上がると、その一方が美しい声で詩を吟じ始めたのであります。その内容をつまびらかに致しますと、かつてチェリア朝の時代栄華を誇った芸術の邑があったが、独立戦争時その邑は他邑との別なく滅ぼされた、という内容でございました。とてもすばらしい詩であったのですが、その詩が終わると、金髪の方が演説を始めました。何と、その邑を現代に復活させようというのです! そのために今資金などを募っているということでした。すでにトゥルニア円卓会議やガンダルヴァ神殿、カラヴィンカ神殿などは援助を決めたようです。
                                        以上

 レダ邑には「越後屋」という変わった名前の名物店がある。店主のフリード=アイセンが愛する妻ショウエイの死のまぎわに「死を越えて 向こうに彼岸あるならば 再び会わん 時尽きし後」とうたい誓い合ったことからのネーミングであるという。彼はもともと工芸職人であり、その地方で五本の指に入るといわれた名工であった。ある時彼はとある名家から邑宰に献上するための逸品を製作してくれと依頼を受けたが、その名家の政敵に目をつけられ、さまざまな妨害を受けたあげく、夫婦で刺客にあい、妻は殺され彼自身も重傷を負った。それ以来、彼は職人をやめ商人として立つことになったのである。
 さて、フリードの息子であるサティスは、幼時に母に死別、父親に男手一つで育てられたわけだが、どこをどう間違ったのか、彼はいつからか政商になりたいという望みをいだくようになった。商才は父譲りであり、「一発あてて大儲け」よりは「地道にコツコツ信用取引」の精神も父から受け継いだものであるから、フリードは彼を深く信頼し、番頭として店の殆どの決済をまかされているほどなのであるが、しかし唯一の難点が、政治などに興味をもっているということなのであった。
 上記の理由から、フリードは権力者は大嫌いである。当然権力者にすり寄る政商などに、息子をさせたくはない。サティスとしては、父が反対するのも分かるのである。彼が政商になろうとするのも、同じ動機からであるのだから。
 すべての人、すべての邑、すべての国の和合一。それが彼の理想である。
 その理想を実現するために、何としても政商になりたい。
 和合一がなれば、母の死のようなことはおこらないのではないか?

 そう思って、サティスは父親の反対をふりきり、活動を開始した。
 レダ邑の商人達を集め、「商人が“経済”活動について邑宰様に意見を述べる」ことの重要性について説くことにする。彼の考えでは、重要性というのは以下の4点である。
 ・邑宰殿と邑に対する商人の地位上昇&発言力の拡大
 ・邑内+邑との友好関係にある土地での取引のより確実な安全
 ・商人どうしの結束の強化
 ・邑内の経済の安定
 だが、反応はあまり芳しくなかった。それもそのはずで、どの点をとっても、「蜘蛛会に入れば済むことじゃないか」というのが商人達の大半の考えを占めていた。
 そう言えばそうなのである。蜘蛛会、という組織ができたのは元々そのためだったはずだ。それがいつの間にか諜報機関だけが異常に発達して商人のサポートという点はおざなりにされてきた。アヴィーナに限定すれば蜘蛛会のサポートはかなりのものがあるというが、その恩恵はレダにまでは及んでいない。
「これは、蜘蛛会の方に掛け合った方がいいんだろうか」
 サティスは、作戦の変更の必要性を感じていた。

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