会誌-「サークル水月会誌 第3回」

■ 去る者、追う者

【作者:但馬 晴/協力:ほなサイババ 】

 「納得できないっ!」
 もう何度も言っている。
 初仕事はバッチリだった。
 少々ミスってしまったが、それを差し引いても2000粒という大金が手に入ったのだ。
 大成功といっていい。
 それなのに、なぜか納得できないものがある。
 「こっちの言い値で買うって言ったんだから、もっとふっかけてやれぱよかった・・」
 そう思っても、できなかった。
 依頼主は、右腕が無かった。
 商人に売られ、そこから逃げ出すときに失ったと言っていた。
 その時に、人を何人か殺したとも言っていた。
 だからといって、同情したわけじゃない。
 ならば、なぜ?
 「恐かったから・・」
 刃の下を何度もくぐったことのある者だけが、持ち得るもの。
 殺気。
 それを感じた。
 理屈ではない。
 本能が、直感が訴えたのだ。
 逆らわなかった。
 もし、それに従っていなかったら・・。
 ぶるんと頭を振り、想像したことをはねのける。
 一度だけ、振り返る。
 依頼主がいる邑を見た。
 そして歩き出す。
 もう振り返ることはなかった。

 敵は、7人いた。
 皆同じように薄汚れた姿をしていた。手には錆び付いた剣や槍が握られている。
 エシリルの右腕に装着された宝魔腕が、カタカタと音を立てた。
 「わかってるわ・・」
 間合いに入るまで、剣は抜かない。
 なだめるように、新たな右腕を撫でる。
 にらみ合いはすぐに終わった。
 ひとりが剣を振り上げて、突進してきた。
 そして、行き違う。
 右腕が勝手に動いた。
 それに続いて体も動いた。
 相手の剣が振り下ろされるより速く、抜き打ちの横薙ぎを浴びせた。
 敵が倒れた。
 他の6人も同じだった。
 右腕が斬って捨てた。
 「ふう・・」
 剣に付着した血糊と油をきれいに拭き取り、鞘に収める。
 「これなら、やっていける」
 有名になること。
 それが、エシリルの願いだ。
 離ればなれになった家族を探すために。
 また一緒に暮らしたい、とは思わない。
 いや、思ってはいけない。
 あの頃の自分とは違うのだ。
 もう戻ることはできない。
 「父さん・・。母さん・・。そして、エルリーク・・」
 無事な姿を見ることができればいい。
 それ以上、何の望みもない。
 “イリス・特設軍師控所”
 そこへ行き、クレン=エシリルという名を全土に知らしめてみせる。
 必ず・・。

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