会誌-「サークル水月会誌 第2回」
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■ 変革──ロア 【作者:おてうちにして】 彼女の意識は混沌としていた。時間、空間といった観念がすっかり消失しており、今がいつで、ここがどこなのか、ということがわからなくなっていた。 意識の中で、彼女は3才の子供だったり、21才の若い母親だったりしていた。 “母さん、いない” どこかで誰かが話している。 “母さん、どこ” 聞き覚えのある声、あれは私だ。 彼女はそう思った。頑丈な体を誇るメール族の彼女の母親は流行病であっさり往った。 誰かが、彼女の額に手をのせる。小さな子供の手。 彼女はその手の主が誰なのか知っていた。 小さな、大切な存在。 彼女の記憶は、さらに、空転する。 青灰色の冬の空と海の色、舞い上がる風花。 “お前達はそれで満足なのか?” “それが、お前達の存在理由か?” 若い女の声、これも私だ。火の山の国メールの兵士だった私。 火炎が暴走し、人々が逃げまどう。 紅く、熱い記憶。体までが熱かった日々。 冷たい何かが彼女の額にのる。大きく優しい手。 手の主は濃い紫の瞳をしている。流れる銀。 「まだ下がらないね、ロア、これに雪を入れてきなさい。」 戸が開き、誰かが外に出ていく気配。 彼女の大切な存在。愛しい宝物。 運命の日と同一の青灰色の瞳をもった大切な子供、ロア。 冬の空と海の色は彼女にとって、聖色だった。 しばらくして、ふたたび戸が開き、彼女の宝物が戻ってくる物音がした。彼女は目を開けて、音の主を見る。トゥー族の子供。しかし、その顔はまぎれもなく彼女自身だった。正確には、流行病で親をうしないかけた3才の自分と同じ顔。 トゥー族の血を引くこの子も、自分と同じ運命を味わっている。 「強く、おなり、ロア……。私の愛しい宝物。 すべてを許し、すべてをあたためる存在になっておくれ…」 彼女は声にならない声で子供に呼びかける。 青灰色の瞳をもつ子供はけんめいに母親の言葉を聞きとろうとする。 しかし、彼女はこれ以上、呼びかけることができなかった。 体力的にも、心情的にも。 彼女は言葉をのみこむ。そして、小さな宝物にそっとほほえみ、ふたたび眠りについた。 カスィール・セフト、享年、21才。メールを震撼させた神殿爆破犯。 窓の向こうで、ディヤウスの聖鳥が低く鳴く。 ── ─END─ 【おてうちにして】 |
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