会誌-「ザラスMCPG マニュアルvol.1」

■ §3.5  メール族  [リアクションNO.5−0]

祖神:厨房神マハーカーラ
髪:丹朱/瞳:黒曜石/肌:明褐色
属性=地:17/水:12/風:10/火:16/天:8/空:23/人:14
人口:12%
平均寿命:60歳
性格:剛胆、朴訥、頑固
剣勢:強剣

能力値へのボーナス
 武力(FI)+10
 器用(SK)+5

姓の例
メール(Mel) メール大司祭
ファエーイ(Faei)
ズィレ(Zile)
ラート(Rat)
イン(In)
グード(Gud)
など 

メール族居住地域

 船は静かに島に近づいてゆく。青いおだやかな海面、いくすじか雲のかかった、しかし総じて晴れた空、それを背景にどっしりとした山容をみせる孤島が一つ。
「いやー、やっぱり山はメール山に限るねぇ」
「何を当たり前のことを言ってるんだ」
 メールという名のこの山は、彼らの宗神であるマハーカーラが姿を変えたものといわれている。もとより彼らメール族にとって、これ以上の重みを持つ山などあるわけもない。
 孤峰、というが、それはメール山が山脈を形成せず、たった一つ海の上に浮いていることからの呼称で、メール山そのものには峰は三つある。北岳、中岳、南岳といい、今現在活発に煙を噴き出しているのは南岳である。
 青い空、緑の山、白い噴煙。この頼もしい姿が彼らの守護神であり、また彼らが守っていかねばならぬものだ。甲板からそれを見上げて、青年はあらためてその誇らしさを思った。


 メール族は「神人」とは言うが、その発生起源は他の五種の民とは異なっており、対応して統治形態も異なっている。いわゆる「祭政一致」の形態であり、為政者は同時に神官であった。各邑の邑宰に当たる者は司祭であり、司祭を束ねる大司祭がメール山のふもとの大神殿にいる。たぶんに形式的なものではあったが、それでも一節(ひとつき)に一度は司祭達は大神殿に集まって祭儀をとりおこなう。
 今日はちょうど、その祭儀の日であった。そして、いかにもメール族らしい逞しい肢体を誇るその青年は、城邑イリスからやってきた新任の司祭であった。
 一歩、足を踏み下ろせば、そこはすでに聖地である。大きく息を吸い込み、吐き出す。ただそれだけで、身体の隅々までがみずみずしい生気に満たされる。
 大神殿はどちらだろう、と見わたす。迷いようもないくらいに大きな建物が一つ。道はまっすぐで、その両脇には店やら宿やらが所狭しと並んでいる。それをきょろきょろと見回しながら、大神殿へと向かう。まだ刻限には間があるようだった。そのままの速度で大神殿までたどりつく。
 司祭衣を着ているので、照会の必要はない。入口の、神官衣を着た男が、無言で議室まで案内した。
 扉を開けたとたん、いきなり怒鳴りつけられた。
「イリス司祭、ファエーイ・ウルゴスだな!」
「はあ、そうですが、名乗ってもいないのに何故お分かりに?」
 突然の怒号に驚きはしても、怯みはしない。
「馬鹿者! 貴様が一番遅いのだ!」
 といわれても、刻限には間に合ったはずだが。
「はあ」
 なおもその男は怒鳴ろうとしたが、その時上座からおだやかな声がかかった。
「止めなさい、リューナ司祭。イリス司祭は新任ゆえ、この議のことを何も知らないのです。イリス司祭」
「はい」
 ウルゴスは襟を正した。この少壮の男性が、大司祭であるのに相違ない。
「この議の時には、できるだけ早く……二、三刻ほどは余裕を見ていらっしゃい。そしてその間大神殿に奉仕してもらう、それが慣習となっています。よほど緊急の用がない限りは、これを守ってください」
「分かりました」
 ウルゴスは頭を下げたので分からなかったが、その時、幾人かの司祭が意味ありげにリューナ司祭を見た。リューナ司祭は憮然としている。
「では、全員揃ったことですし、始めましょうか」
 大司祭はそれにも気づかなかったようににこやかに言った。


 祭儀自体は、自分が神官時代にやっていたものと大差ない。麦と肉と酒とを捧げ、その恵みに感謝する旨の詞を捧げる。その供物が上等になっているだけである。それをつつがなく終えて、またあの議室に戻ると、今度は邑宰としての議をもたねばならない。もっともこれについては、特に何も提案や要請がなければすぐにお開きになる。
「大司祭!」
 リューナ司祭が不必要に大声を上げた。
「はい、何でしょう」
 大司祭は相変わらずにこやかに言う。その前で、リューナ司祭はいきなりとんでもない発言をした。
「もし、この中の誰かが王を称したらどうなさる」
 一同、騒然とする。
「リューナ司祭!」
 一人の女性司祭が叫んだ。
「今の発言の趣旨を聞かせていただこうか」
 そうだ、と何人かが唱和する。リューナ司祭は憎々しげに笑った。
「趣旨、というと?」
「我らに何の含みがあってそのようなことを言うのか、ということだ!」
「含み?」
 リューナ司祭は、ふふん、と鼻で笑った。
「では貴公らは、絶対にそれはありえない、と保障できるかね?」
「一番可能性が高いのは、リューナ司祭、卿だろうが!」
 と、思わずウルゴスは言ってしまった。この人物とは今日が初対面であったが、そうとしか思えなかった。
 リューナ司祭はじろりとこちらを睨みつけた。
(嫌な目をしてやがる)
 ウルゴスは唾を吐いてやりたい衝動に駆られたが、さすがに大神殿の中である。思いとどまった。
「まあまあお静かに」
 大司祭は笑みを絶やさずに制した。ウルゴスもリューナ司祭の視線は無視して大司祭の方へ瞳を向けた。
「リューナ司祭からお尋ねのあった件ですが」
 実に平静に言う。
「大神殿としましては、何と名乗られようと、祭儀に参加さえしていただければ何ら掣肘を加えようとは思いません。もちろん、あなた方の邑でそれを許容せず、何らかの手段を講じようというのであれば、それを留め立てするものでもありません」
「……分かりました」
 リューナ司祭は頷いた。
「他には何か?」
 大司祭が訊いたが、誰も発言する者はなかった。


「イリス司祭」
 後背から声をかけられた。振り向く。そこに立っていたのは、先刻リューナ司祭を猛然と責めた、あの女性司祭だった。
「何でしょう……ええと」
「私、リィズ司祭のラート・ウシャスと申します」
 と名乗り、にっこりと笑う。ウルゴスを促して歩き出す。
「最初っからあれじゃ、大変だったわねえ」
「いやいや俺が悪いんですよ。遅く来たのは事実ですから」
「違うわね」
 ウシャスは明快に否定した。ウルゴスは首を傾げた。
「何故です?」
「先月の議では、リューナ司祭が一番遅れて来たのよ。しかも刻限よりも後にね。で皆から袋叩きに遭ったの。それで、今日あなたに当たってたわけよ」
「……そうなんですか」
 ウルゴスは呆れた。まるで子供ではないか。
「そうなの」
 ウシャスはため息をついた。
「リューナ司祭はね、多分神官としては大司祭にも勝る使い手よ。でもあの通り、性格にだいぶ問題があるのよね……」
「そうですねえ」
「でも、頭は切れるわ」
 ウシャスは足を止めた。そして肩を掴み、ウルゴスの顔を覗き込む。
「忠告しておくわ。今日、あなたは絶対あの人の怨みを買った。どんな形でかは分からないけれど、必ず(わざわい)がふりかかる。注意することね」
「ええ、分かりました」
 ウシャスの表情は、笑って済ませるにはあまりにも深刻だった。ウルゴスは神妙に頷いた。そしてウシャスの予言は、全く的中していたのである。


 イリスへ帰ったウルゴスを出迎えたのは、不安げな邑民と、困惑げな神官たちだった。
(な、何なんだこの空気は)
 たじろいだウルゴスに、内神官長は言った。
「司祭、王などを名乗るのは……それだけはおやめください!」
「……何のことだ?」
「おとぼけにならなくとも結構」
 外神官長が一枚の木の高札をさしだした。
「これは何なんです?」
 ウルゴスはそれを覗き込んだ。
 イリス司祭ファエーイ・ウルゴス、本日よりイリス王を名乗ることとする。なお、大司祭様より許可はうけているので、皆安心するよう。とあり、最後に司祭印が押してある。
「何なんです、って……」
「大司祭様がお認めになったのならよろしいのですが、リューナ神殿が、そんなことは認められないと兵をこちらへ向けているそうですよ」
 兵神官長の言に、ようやく納得がいった。
 そうか、俺はまんまとリューナ司祭にはめられたわけか。
 しかし、何と打つ手の早い奴だ。リューナはイリスよりずっと遠いのに。
 あるいは、……とウルゴスは別の可能性に思い至った。リューナ司祭は、初めからそのつもりで、祭儀に出発する前に手を打っていたのではないか。
 面白い。ウルゴスは腹を据えた。そちらがそのつもりなら、こっちはそれを逆手にとってやろうではないか。
 イリス王を名乗り、リューナ軍を撃退し……リューナを手に入れてやる。
 そして、セルフィアー全土を揺るがす……
(首を洗って待っていろよ……リューナ司祭!)
 心中に呟き、ウルゴスは拳を高々とさしあげた。

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