| ナッシュ: | ここからは、アシュラ様の独壇場ですね。 |
| アシュラ: | 本当にいいのか、我が神殿で教えているとおりに言って? |
| ナッシュ: | いいんじゃないんですか? どうせセルフィアーだったら、天帝の派閥弱いですし。 |
| アシュラ: | では、私の思っている通りに言うぞ。本当に。 我々神王が生まれてくるずっと前、ザラスには光と闇だけが満ちていた。その前はどうだったかと聞かれても、私も知らん。 光と闇は、決して互いの領分を侵すことのないまま、長い長い時を佇んでいた。ちょうど水と油とが、決して混じりあうことがないように。 だが、たとえ水と油でも長く放置すれば腐って混じりあう。同様に、悠久の時を経過してきた光と闇の境界に、いつしか光でもなく闇でもないものがにじみ出た。それが混沌であり、我々すべての原型なのだ。 はじめ、光と闇は、双方がこの異物を排除しようと押し合って、その圧力が頂点に達したとき、光と闇に亀裂が生じた。亀裂は、一点を中心に放射状に伸びた。そしてその亀裂に、凝縮された混沌が満ちた。 混沌の外側は硬くなり、内側には水に似たものがめぐった。頭上に光を浴び、足下の闇を吸って、自らの周囲にさらに混沌をつくりだす。その混沌が広がり、光と闇とを完全に分かつ頃には、混沌は木の形をなしていた。 これが、世界樹と呼ばれるものの正体なのだ。我々の母であり、生命すべての母。 そして、世界樹はやがて実をつけた。 枝には果実、つまり我々神王を。 根には根茎、つまり妖人を。 それがおよそ三五〇〇年前。その一〇〇〇年ほどのちに、我々は熟し、生まれた。
みのった実の数はそれぞれ五十五だ。それをなぜ五六神王と呼ぶのかというと、それには深〜い訳があるのだ。 神王と妖人たちは、永遠を象徴する存在であり、成長することはなく、年老いることもない。死なないし、死ぬことはできない。その彼らは力を合わせ、世界樹の中を満たしている液体「甘露」を用いて混沌を分化していった。そして分化した混沌をさらに純化し、自分たちの手足として精霊という存在をつくりだした。さらに精霊の力を制御する媒体として、精霊王という存在をつくりだした。精霊は意思と肉体を持たないが、精霊王は違う。我々と同じように肉体と意志を持つ生命は、精霊王たちが初めてだった。
ところが、だ。すべての精霊王をつくりおわった頃、大事件が起こった。というか、この辺がマンジュスーリーなどの智恵の浅はかさなのだが、甘露を無制限に使いすぎたために、母たる世界樹が枯れかかっていたのだ。我らは無論手を早くしたが、ついに枯死を免れることはできなかった。 そして、マンジュスーリーが「創世案」を提出する。 その内容は、次元の異なる世界を設けてそこに別個多数の知的生命体を創り住まわせ、彼らの思念を媒体として光と闇を動力源物質に変換するというものだった。ディヤウスはこれを採用し、世界樹の遺骸を中核として人界を創造した。そして人界より高い次元に、精霊たちを七種に分類して配した。これが、現在我々の住んでいる天界や地界の起源なのだ。 神王は各精霊王に命じて、人界に各種の気を送った。地の精霊王の長サイラが地表を土で覆えば、水の精霊王の長アンディーナが雲を呼び雨を降らし、風の精霊王の長シルフィードが空気を満たし風を起こし、炎の精霊王の長フェニックスが地上に寒暖を与える。天の精霊王の長ブローネがそれを秩序だて、空の精霊王の長クリュートが力の均等化をふせいで変化を与える。光の精霊王セレネと闇の精霊王ルナがそれを上空から監視して、力の過及のないようにした。それぞれの属性を持つ気がいきわたった頃、まずは世界樹の性質をまねてつくられた「植物」が送り込まれ、次いで精霊の性質をまねてつくられた「動物」が派遣された。 そして、神王を原型とした知的生命体、人間がつくられた。 はじめ、地上には今のような人間たちが生きていけるだけの環境が整っていなかった。そこで神王たちは、人の精霊王の長リィルに命じて「気」から直接力を取り込むことのできる種族をつくった。これが言霊人だ。 言霊人の使う言葉、つまり言霊は、精霊を介さずに気に直接働きかけるものであった。言霊人は初めは生きる力を獲得するために言葉を使ったのだが、だんだんと環境が安定していくにつれ、互いの交流の手段として言葉を使うようになった。それを見て、このころから神々や妖人の間でもそれぞれの言語が発達してゆく。現在、人間と神々との意志の疎通に使われる神語も、言霊の影響を受けたものだ。我がアシュラ語も例外ではない。私がナッシュを部下にしたのも、これと無関係ではないのだ。
環境が完全に安定すると、いわゆる普通の人間、人間がつくられた。これは各神王の力、精霊王の力をほぼ均一に備えた存在だ。 人間を創造するとき、各神王がどのように力を配するかで非常にもめた。ここでの力の配分が、自分のところへ流入する思念の力=動力源物質の量を決定してしまうためだ。すベての不和はここから始まった、と言われるほどの紛糾のすえ、均等に配することで論議は一応の決着をみたが、これ以来我々神王は二つの派閥に分かれて抗争をくりかえすようになった。それをみた妖人は、争いに嫌気がさしたのか、自分たちの世界を別につくって暮らすといいはじめ、星界なる世界を創造してひきこもってしまった。
まず、至高天神ディヤウス(天帝)を長とする光を奉ずる神々が天界を創造して住まうと、闇黒雷神インダラ(地帝)を長とする闇を奉ずる神々は地界を創造しそこに住むようになった。どちらにも属さぬ神々は、単独で異界を創造する、あるいは人界に化身して降り、住まうようになった。これを棲み分けと呼ぶ。私は闇側の閻羅王ヤマと仲が悪かったので自動的に天界に来たが、それが良かったのか悪かったのか、いまだにわからない。
そして、人界を舞台とした神王たちの「陣取り合戦」が始まった。神王たちは、あるいは配下の神将に命じ、あるいは自ら、自分と似た属性を持つ生物、霊獣・神人などをつくりあげていった。かくいう私もセルフィアーのツァン族などをつくらせた。そして彼らを率いて凄絶な戦争がおこなわれた。 戦線は一進一退だったが、人界そのものの破壊を恐れた光の神々の提案で、神王暦(神王・妖人誕生の年を神王暦元年とする)二〇〇〇年、「永遠の終結」という一つの条約が締結された。これは両界の神々の人界への不可侵をうたったものであり、人界に神々が降らないよう監視するために、人界の周囲には光・闇の二つの月がめぐるようになった。光の月が光側のもの、闇の月が闇側のものだ。 そして人界はレマリス大陸西部・カラヴィン平原を中心とする言霊人の帝国「帝政チェリア朝」にゆだねられた。
さっきから光とか闇とか言っているが、ここで注意しておきたいのは、ザラスの神々は光が正義で闇が悪というわけでは必ずしもない、ということだ。また、各界の中でもそれぞれの神王の意見は必ずしも一致しているわけではない。光にも私のようなのがいるし、闇の洪水神ガンガーは私の大親友だ。
ここから人間の歴史に入ってしまうわけだが……おい、ナッシュ、喋らんのか? |
| ナッシュ: | も少し、喋ってていいですよ。どうせあとちょっとじゃないですか。 |
| アシュラ: | じゃあ喋ろう。 当然セルフィアーもチェリアの属国となったわけだが、セルフィアーにはすでに五種の神人がいた。当時のチェリア朝は、言霊術法の力を用いて人界全土を統治し、その勢いはまさに飛ぶ鳥を落とすものだった。 「永遠の終結」が締結されても、天帝も地帝も人界をあきらめてはいなかった。彼らが地上に降りられなくなっても、地上には彼らの意志を代行する神官や神人がいる。そして神々は虎視眈々とチェリア朝が弱まるのを狙っていたのだ。 光の神々、主にマンジュスーリーの陰謀により、霊力の源たる気=マナが全土で希薄化され、セルフィアーの地に集積されたために、力を得た五種の民は帝国に反旗をひるがえし、帝国暦三〇一年(神王暦二三〇一年)言霊人を完全に排斥し、独立した。……と、少なくともセルフィアーの正史には記されている。これが真実なのかどうかは、これから君らが確かめていくことだな。 と、いうわけなのだよ。 |
| ナッシュ: | アシュラ様、長い説法、お疲れさまでした。 ええと、アシュラ様の語ってこられた世界観は、我が神団としての正式見解でありまして、他の神の神殿では違うことを言われるかも知れませんが、それはご了承を。 |