会誌-「ZARASU-2002 夏 -ユージュ-」
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■ マヘーシュヴァラの章 【砂の山】 大きな星の周りに小さな光舞う看板が目印のお店でのことである。 「こんな本を見つけちゃった。ソーンが貸してくれたんだ」 例のひとり、ダナスはにこやかな笑みを顔に貼り付けて、両手で胸元に、何かを抱えるような手つきで固まっていた。 「アタシには新手のパントマイムをやっているようにしかみえないんだけど」 例のもうひとり、シフは頬杖をそのままに、両手で顔を挟み、引き延ばされていやに平べったくなった眉と目でもって、固まった芸人をみていた。 「タイトルは”わたしをみつけて”っていうんだ」 「アンタ、アタシをバカにしてるでしょ」 「ちゃんと見てよ。インセインの玻璃でできている表紙だから、透けちゃってるのかな……いや、青っぽくみえるはず」 ダナスが手の角度を変えると、精霊灯の反射で光が本の姿をかたどった。 「あ、ほんとだ。うっすらとみえてきた」 「みえたり、みえなかったり、ふしぎでしょう。猫傘玉<インセイン>って、大陸産の高価な宝石なんだって。”ぜったい割っちゃダメだぞ”って、ソーンがもう、ウルサイのなんの」 「アンタ、もしかして、このためだけに、わざわざ青っぽい服を着てきたの」 「わかる〜?」 「わからいでか!」 「この本には、なんと、本編がないのです」 「……え?」 柔らかい敷き布が広げられた机の上に”わたしをみつけて”が置かれている。 「著者は言うんだよ。ええと、あったあった。ここだ―」 ダナスは長い前置きの部分に、まだ新しい折り目がつけられたページを捲りあげ、文を指で追いかけながら読みあげた。 『言葉では表しきれない私の気持ちをすべて表し切れたと思います』 「いや〜。よく、こういう本をみつけて、しかも”貸し出し禁止”にまでして保管しておくよね、ソーンは」 「中身がないなんて……アイデア的にはおもしろいかと思うんだけど、それを実行する勇気のほうが、アタシはすごいと思うわ。この人、よっぽどの奇人ね」 「中身はあるんだって! なんていうの、ほら……以心伝心?」 「アンタ、まさかこの著者の言うことが聞こえてきたとかいうんじゃないでしょうね」 「いや、ぜんぜん。だって、なんにも書いてないんだもの」 「じゃあなんなのよ」 ダナスは”わたしをみつけて”を綴じた。薄青い玻璃が中身を閉ざすが、斜めからみると中の紙が透けてみえる。 「まれに、お客さんでいない? こんな感じの人。”あー、キミキミ。常連の私が欲しい薬だよ、ほら。昨日今日はじめたわけでもなしに、薬屋長いんだからわかるだろう、ほら。アレだよアレ! わからないかな〜”とかいってる人」 「うん、たまにね。それよりもっと困るのは、ずーっと黙っててアタシのことをみてるわけよ。それでアタシもしかたないからみてると、なにかこう、すごく落ち込んで帰っていくのよね。すみませんでした、みたいな目で」 「あっはっは……って。もしかして、チノじゃない?」 「あ、わかる?」 「わからいでかっ!」 「ねぇ、ダナス。この著者のほんとうにいいたいことって、なんだったんだろうね」 シフは”わたしをみつけて”を爪でリズムを刻みながら軽く弾いている。 「だからぁ、さっき読んであげたじゃん」 「あれはだって、本編じゃないもの」 「う〜ん、でもまぁ、これだけは言えているよね」 「なになに?」 「人とは違ったことをしてみたかった、ただ、それだけ……なんじゃないのかなぁ。だって、他人と同じじゃ、私はみつかりにくいもんね」 「な〜によそれ、つまんないの」 「……この本、あんまり売れなかっただろうな」 |
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あとがき 神王マヘーシュヴァラはネコミミの女の子です。 神王ナラカというネコミミの弟がいたりします。 ドマイナーな神王の中でも、好きなふたりです。 野良犬はキライ、飼い犬はスキ。 野良猫はスキ、飼い猫はキライ。 2002年8月 ヤママヤーは好きな砂の山、でした。 |
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